- Amazon.co.jp ・本 (500ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560095102
作品紹介・あらすじ
壮大詳細な《翻訳の世界史》
文化や学術が栄える時と場所には必ずその直前に旺盛な翻訳活動が行われている。本書は〈知の転移〉とも言われるこの営みをテーマとして古代ギリシアから古代ローマ、中世アラビア・ラテン世界、そして江戸明治期に至る知の継承の実際とその全世界的な伝播の系譜に迫り、現代の学術翻訳の問題にも切り込む意欲的な作品である。
古代ギリシアの叡智の多くは直接西欧近代に伝わったのではない。まずはシリア語・ペルシア語に、ついでアラビア語・ラテン語に翻訳されていった過程を主に科学作品を軸に追ってゆく。外来知を、専門用語をどう訳しどう現地化するのか。ジュンディーシャープールやバグダード、トレド、江戸の地で、史上随一の翻訳家とされるフナインばかりか、多くの学者やネストリウス派の人々、遍歴知識人等の苦闘が知的ノンフィクションのごとく描かれ、翻訳とは時に原典内容を変形し新たな文化を創出することでもあると強調される。その営為の計り知れない意義とダイナミズムを活写して絶賛された本書は、西洋文明の成立史に一撃を加え、かつ我々の現在をも照射する。叡知の継承を壮大詳細に描く未踏の《翻訳の世界史》。
感想・レビュー・書評
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ヨーロッパからアラビア、そして日本において、書物の翻訳を通して知恵が伝搬する流れを、古代から現代に渡って、一人の著者の案内もとに俯瞰できる本。特に明治期に成立した、科学技術を論述するのに耐えうる日本語の成立過程が、80ページ以上にかけて書かれており、興味をひいた。
古代ギリシャの知恵が中世のラテン世界に戻ったという、私にとっては世界史的な事実の記憶でしかなかった事の「なぜ」や「どのように」を、この本によって納得できる知識とすることができた。
今日では英語が世界的な共通言語化したことにより、翻訳を通して自国語が言語的にバージョンアップする機会が少なくなっている。このことが、様々な文化から生み出される英知を減少させ、この時代の閉塞感を招いているのかもしれないと、勝手に考えた。詳細をみるコメント0件をすべて表示