- Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560090718
作品紹介・あらすじ
イラン・イスラム革命に翻弄される一家の姿を、13歳の少女バハールの語りで描く。亡命イラン人作家による魔術的リアリズムの傑作長篇。
感想・レビュー・書評
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十三歳の末娘バハールの目を通して、イスラーム革命に翻弄される一家の姿が、時に生々しく、時に幻想的に描かれる。『千一夜物語』的な挿話、死者や幽鬼との交わり、SNSなどの現代世界が融合した、亡命イラン人作家による、魔術的リアリズムの傑作長篇。
感想を書くのが難しい。魅力的な語り。物理的な時間の揺れ。人間の残酷さと崇高さ。村の土着文化から現代のSNSまでが融合されている不思議な世界。
作風は幻想的だが、現実の痛みについて、真摯なおもいが伝わってくる作品だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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『スモモの木の啓示』(白水社) - 著者:ショクーフェ・アーザル 翻訳:堤 幸 - 堤 幸による後書き | 好きな書評家、読ませる書評。AL...『スモモの木の啓示』(白水社) - 著者:ショクーフェ・アーザル 翻訳:堤 幸 - 堤 幸による後書き | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
https://allreviews.jp/review/57762022/02/27
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今現在、反政府デモが続き、参加者が死亡し、さらに死刑にされているイラン。原因はヒジャブのかぶり方が悪いとして女性が逮捕・死亡。圧政と奪われた自由。
イランでは発刊できず英訳の翻訳者が「安全性の理由」で匿名。本書はイラン・イスラーム革命によるまさに悲劇が題材になっている。死が多く悲劇が激烈なことに対抗するかのように、語りはこれまた強烈なマジックリアリズム。最後の方で父が語る「リアルバージョン」(それが真実という種明かしではないものの)では救いがなさすぎるから、といっていいだろう。
幻想とリアルのさじ加減でいえば、幻想がやや過剰とは感じた。よそ者としてイランの現実をもっと知りたかったという甘えかもしれないけど。 -
内容が辛くてなかなか読み進まなかった。
現実が過酷すぎると女の子が空に飛んで行ってしまうのが魔術的リアリズムだと思っているのだけれど、本書の世界の現実は魔術的に描写してあるとしてもわたしには過酷すぎた。年を取るほど、直で知っている史実がベースの悲しい小説を読むのがつらくなってくる。主人公たちが辛い目にあっている原因が自分にあるような気分になる。無責任な地球人の自覚がある。自覚があるだけに辛い。
80年代に日本に出稼ぎにきていたイランの人たちは、いまどうしているだろう。 -
西加奈子さんの生活していた場所ということで勝手に涙もろいがあったかいみたいなイメージのテヘラン出身の作者。ところがどっこいしょ。かなーりぶっとんだキレキレな作品。基本的に家族五人にそれぞれ起こった出来事の羅列ではある。時に政治的でリアル、時にアニマニズムで幻想的。ポストモダンしかりマジックリアリズムしかり、もう理解しなくともそういうもんとハナから諦めているが、この作品は結構ハードル低いというよりも、バリアフリーで安心してどんびきしないで楽しめた
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イラン革命で弾圧を受けた、元インテリ・ブルジョワ階級のある一家族の物語が、当地の言い伝えやおとぎ話と絡まりあって幻想的に描かれる。後半、その幻想譚が悲劇のメタファーだったことが分かると、幻想的に描かれていた分余計に痛ましく、そのまま受け止めるにはあまりに重い現実に打ちのめされる。
狂信的で暴力的で、自分たちとは異なる考えを排除しようとする動き・抑圧は、今や日本人にとっても遠い対岸の火事とは考えられないような気がして、心に刺さった。 -
1979年のイラン・イスラム革命により天地がさかさまになった如き価値転換に見舞われたテヘランを舞台にして、革命政府に睨まれる運命に見舞われた一家の悲劇を描く。
悲劇ではありつつも、13歳の語り部は無残に殺されながらも自身が殺される様子を実況中継的に伝え、以後、霊体のとぼけた味の”語り部”として物語を彩る。
両親も兄弟も、それぞれにイラン現代史の暗部にからめとられながら追い込まれていく。この小説が一筋縄ではいかないのは、いわゆるマジックリアリズム”増し増し”の手法。イラン革命防衛隊の圧政が、地霊や死人の登場によって混ぜ返され、悲劇が悲劇として伝わらない。どこかしら無意味化され、苦笑いさせられる「異化作用」が見事だ。
しかし物語の終盤に、主人公の父によって、そこだけマジックリアリズムの手法をやめた記述が為されるのだが、ここで描かれる家族の悲劇は冷酷きわまりない運命。それまで散々マジカルに異化されていたストーリーと、急に現実に引き戻す無残な現代史との対照が、言葉を失わさせるには十分。
次作が発表されたらぜひ日本語訳も出版してほしい。 -
イラン・イスラム革命で、テヘランから逃げ延びた一家がたどり着いたのは中東の辺境ラザーン。
そこはまるで「100年の孤独」のマコンドか。
「精霊たちの家」ならぬ「幽鬼たちの家」か。
ゾロアスターの旧跡に、黒い雪が降り続き、幽霊やジンがさまよう世界は、アラビアン・マジックリアリズム。
しかしそんな僻地にも革命と時代の波は押し寄せる。
圧政下の中、それでも自由に羽ばたける人間の精神・想像力。
伸び縮みするような物語の果て、15章で父親が書き記した世界に心が締め付けられるとともに、物語の力は私たちを奮い立たせる。 -
マジックリアリズムということ。
あまり難しく考えてはいけないのかも……。
まじない師が登場し、幽鬼や死者が生者の回りにたむろす。
旅人が要所に出てきては、幻想と現実、生者と死者のさかい目を諭す。
イラン・イスラーム革命から現代と思われる時代まで、シャー時代の文化を残す一家を襲う出来事が、ゾロアスター教の痕跡の残るラーザーンの村と森、古くから居る人々の不思議な生活と共に、虚ろい彷徨い読者を幻惑する。
イランでは禁書で作者はオーストラリアへ政治難民として移住した。この本の英訳者は「身の安全」の為の為が明かされていない。(訳者あとがき)
歴史的背景を知った上で、もう一度読むべきかも……。