- Amazon.co.jp ・本 (353ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560090688
作品紹介・あらすじ
引退した大学教授リヒャルトはドイツに辿り着いたアフリカ難民たちに関心を抱く。東ドイツ時代の記憶と現代の交錯を描き出す傑作長編
感想・レビュー・書評
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退職後のリヒャルトが送るおひとりさま生活(諸事情あり)に妙な憧れを抱きつつも、それを取り巻く不穏な空気にいつしか意識が傾いていた。
恐らく現役時代から活動的な人ではなくて、使う言葉もあまりアップデートされていないのかな。差別用語と分かっていてもいつまでも記憶に残る「ネーガー」のワードに、東ドイツ時代に培われたと見られるロシア語。
名誉教授リヒャルトの専門は古典文献学であるから途中ゲーテやらの(全く守備範囲外の)言い回しが矢継ぎ早に飛び出してくる。ある程度本題に関わりはするものの気を取られさえしなければ、やがて霧が晴れるように核心が"visible"になっていく。
色んな意味でクラシカルな彼が(本当に沸いて出たような)好奇心からアフリカ難民達と交流、時にはドイツ語も教える。(普段は彼らが理解できる英語かイタリア語、時々ドイツ語で意思疎通を図っている) この活動が報道されてもボランティアかと流すだろうけど、物語にしてしまうと奇妙なコントラストに映るから不思議だ。
「天国に行く権利さえもが労働するかどうかにかかっているようなこの国で、あの男達はなぜ、働く権利を拒否されるのだろう?」
アフリカから文字通り海を渡ってヨーロッパに逃げ場を求める難民の話は聞いたことがある、だけだった。ここで目の当たりにするのは追い立てられるように国を出る前後の、もっと詳しい話。無事に流れ着いても遂には自分が何者なのか分からなくなるという、想像を絶する体験談。「戦争中には戦争が見え、戦争以外はなにも見えない」
何か劇的な展開が待っているのかと思いきやそうでもない。それどころか、僅かな晴れ間さえ拝むことができないストーリーラインに若干イラつくことも…政治色も濃厚めで、現に政府がどのような支援や対策を進めているのか知らないのもあって読み辛さはあったが、理想通りに運んでいないであろうことはよく伝わってきた。
読後、意識は近所に向いていた。遠くない将来、迎えるに留まらず彼らの人生・未来は"visible"なのだと思ってもらえるのだろうか。
「楽じゃないよ(イッツ・ノット・イージー)」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大学を定年退官したばかりの古典文献学教授のリヒャルトは、アフリカ難民たちに関心を持ち彼らの話を聞く。さまざまな経緯でドイツにたどりついた彼ら。ひとりひとりの生き様。失われたもの。小説という形で難民問題が描かれる。
難民たちが掲げる「我々は目に見える存在になる」という言葉が印象的だ。最初は、リヒャルトの言動が少し奇妙というか、あやういように思えたが、だんだん彼らと関係を結んでいく。
リヒャルト個人の抱える問題とどう交差していくのだろうと思っていたが、最後のシーンでの彼の告白は、静かに、余韻が残るものだった。
“…アフリカ人たちはきっと、ヒトラーが誰かは知らないだろうが、そうだとしてもー彼らがいまドイツで生き延びることができて初めて、ヒトラーは本当に戦争に負けたことになるのだ。”
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久しぶりに翻訳小説を読みました。「行く、行った、行ってしまった」という、この作品の題名に、なんだこれ?思って読み始めたのですが、エルペンベックという作家が1967年に東ベルリンで生まれた人だということが、作品の内容とその不思議な題名とに 強く結びついていたことに納得して読み終えました。
題名は動詞の時勢変化ですが、時間とともに空間もまた変化せざるを得ない「行く」という動詞を使った結果、当然、浮かんでくる「来る」というイメージが引き起こす現実を描いたところが卓抜だと思いました。
個人的な好みの問題に過ぎないのかもしれませんが、国家であるとか宗教であるとかいう、共同的な大きなものに疑いの眼差しを持つことを促す作品が好きですが、現代のヨーロッパ社会が政治的、宗教的な理由を抱えた難民や移民の問題を「真面目に」考えざるを得ないのでしょうね、小説でも映画でも作品のテーマとしてよく出てきますが、この作品も、そこを一つの主題として描かれていることに強く惹かれました。
ブログにもあれこれ書きました。覗いてやってくださいね(笑)。
https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202209230000/ -
文学ラジオ空飛び猫たち第64回紹介本。 社会派なテーマを扱う小説ですが、ユーモアある魅力的な登場人物がいて、物語の展開もよく、おもしろく読めました。難民に対する予備知識がなくても読んでいけると思います。難民の人たちとの交流を通じて、国や境界について、また自分自身についてなど、多くのことに考えを巡らせます。この小説を読むと、難民について、自分が知らなかったことについて考えてしまいます。 ラジオはこちらから→https://anchor.fm/lajv6cf1ikg/episodes/64-e1at3tl
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浅井晶子訳は今のところハズレなし、なのだけれど、これも例に漏れず。退職した教授がアフリカ難民に興味を持ち、だんだん近づいていくのが、ちょっと滑稽で軽妙で笑ってしまったりもするのだが、読んでいくうちに、難民の1人1人に苦しくつらい過去や重たい人生やかなえられるのか心もとない希望があることがわかってくる。この教授も単なる軽妙ないい人ではなくて、なんだか訳ありな過去があることも。どんな人も、いいだけじゃないし、わるいだけでもない。湖がいつまでも心に残る。
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静かな波が押し寄せて引いていった、そんな読後感。難民の境遇に目をつぶってしまいたくなるが、淡々と物語が進むせいか、ノンフィクションにはない小説だからこその説得力があった。ラストに教授の独白をもってくるところがすばらしい。海外文学、ドイツが一番肌に合っている気がする。
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摩擦、文化、宗教、生活様式、価値観、搾取、善意、偽善、傲慢、援助、制度、法律、極右、人権、命。
難民という問題を考えたとき、たくさんの言葉が浮かんでくる中、読者は主人公の元老教授とともに、彼らが、「難民」という大きな言葉ではない様々な背景を持つ一人の人間であることを知り、その姿に私たちはいっそう考えざる得ない。
難民認定がほぼゼロの世界の片隅、日本から。 -
gehen ging gegangen
ドイツ語は分かっても、難民が沢山いる事をニュースなどで見知っても、アフリカから命がけでやってくる人々についてはあまりに知らなすぎました。
物語の初めは、この調子で最後まで続くのかな、っとちょっと退屈を予感してしまったのですが、もちろんそんな事は無くて、しっかり後半揺すぶってきます。
翻訳の本は、どうしても世界観に浸りにくいものですが、(と言うか、何故英語に訳す?)
何だかんだと結局結末が知りたくて読み切りました。
それどころか、派生したお話もあったらいいのにとか思っちゃいました。