忘却についての一般論 (エクス・リブリス)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090633

作品紹介・あらすじ

二十七年間にわたる泥沼の内戦下を孤高に生きた女性ルドの人生。稀代のストーリーテラーとして知られるアンゴラの作家による傑作長篇

感想・レビュー・書評

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  • 以前「『その他の外国文学』の翻訳者」(白水社編集部 編)を読んだ時、そのうち読んでみたいと思う本を沢山チェックしておいた。

    それらは古い作品であったり、『その他の外国文学』というだけあって地味目だったりするので、図書館に他の方の予約は全く入っていない(需要がない)ので、いつでもすぐに借りられる。
    図書館がシステム変更に伴い長期休館期間に入る前に、ごっそりまとめて借りてきたうちの1冊。


    本書は閉塞感どっぷりのアンゴラの話をポルトガル語で書かれたものの翻訳本。

    本書はどなたかの図書館への寄贈本である。
    私も何冊か、いつもお世話になっている図書館へ寄贈している。

    4分の1強、なんとか読んだ。
    その後飛ばし読みをし、3分の2くらいまで行って、ギブアップ。
    アンゴラについては、並行して1年以上読んでいる購入本とすり合わせて確認した。

    最後まで読めていない本も、「読み終わった」扱いにしている。
    タグは「読み続けられなかった本」行き。

    翻訳は悪くない。
    原作がたぶん私にとって、わけのわからない世界だったのだと思う。

  • 【新文化】 - 連載 第20回 - 失われた屋号を求めて(2020年11月5日)
    https://www.shinbunka.co.jp/rensai/lostyago/lostyago20.htm

    『忘却についての一般論』(白水社) - 著者:ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 翻訳:木下 眞穂 - 岡嵜 郁奈による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS(2021/02/03)
    https://allreviews.jp/review/5335

    忘却についての一般論 - 白水社
    https://www.hakusuisha.co.jp/smp/book/b517265.html

  • <目覚めると私は一人だった。眠りながら眠っている夢を見るのであれば、目覚めたまま、さらに鮮明な現実のなかで覚醒するということも、できるのだろうか。P45>

    著者はポルトガル・ブラジル系の両親のもとアンゴラで生まれた。
    ポルトガルの植民地であったアンゴラは、1975年に独立を宣言した。だがアンゴラでは30年近く内戦が続く。

    まずは、本書に関わるアンゴラ独立前後の年表
    ❐1974年
    アンゴラの宗主国ポルトガルで、「カーネーション革命」と呼ばれる独裁政権に対して軍事クーデターが起きる。これを機にポルトガルの植民地だったアフリカ諸国が独立に進む。
    ❐1975年
    ポルトガルからの独立を宣言する。初代大統領としてアゴスティニョ・ネトが就任する。
    しかしアンゴラ国内は内乱に荒れる。アンゴラの各団体を諸外国が支援し、内戦、和平、武力闘争再開を繰り返す。
    ❐1977年
    ネト大統領に対するクーデター未遂事件が起こり、反ネト派が粛清される。


    ===

    ポルトガル人女性のルドヴィカは子供の頃から空が苦手だった。両親に死なれてからは姉のオデッテの家で籠もるように暮らしていた。
    1973年に姉オデッテが結婚することになり、ルドヴィカも姉と一緒に義兄オルランド(白系アンゴラ人)の暮らすアンゴラの首都ルアンダの豪奢なマンションの最上階に移住する。
    だがルアンダはちょうど独立運動の真っ最中だった。1975年のある日オルランドとオデッテ夫妻は帰ってこず、ルドヴィカは愛犬のファンタズマ(白いので幽霊という意味の名前)と共に取り残された。
    マンションを訪ねてくる怪しい男たちや暴漢たちから逃れるため、ルドヴィカはマンションの部屋を煉瓦で塗り固めて部屋に籠もることにした。
    電気や水道は流れたり止まったり。雨の日には水をため、義兄が遺したベランダの菜園で野菜を作り、罠を張って鳩を捕まえて食べた。孤独なルドヴィカは言葉を綴り続ける。最初はノートに、なくなったら壁に炭を削って。彼女は生きた。たとえ生きる意味を与えてくれるものが何もなくても。彼女を生きさせたものは、理性でも想像力でもなく狂気のようなものだった。
    ルドヴィカが部屋に籠もった28年間は、ポルトガルから独立したルアンダの激動の時代だった。

    ポルトガル兵のジェレミアス・カラスコ(ポルトガル人だが色々混血)は、1975年のある日、オルランドに分け前をもらうためにマンションを訪ねたが、その直前にルアンダ開放兵士に捉えられる。
    死を免れた彼は、修道女で看護婦のマダレナ(アイデンティティが黒人の白人?)に助けられ、砂漠のムクバル族の村に匿われる。
    <人生とは誰にとっても一度きりなものだが、そのなかでさまざまな人生を送ることはできる。P61>
    <俺は一度死んだ。二度目はそこまで苦しくはなかろう。P203>
    いつかはポルトガルに帰る気持ちを持っていたが、ついにその時は訪れなかった。ジェレミアスはその村に根を下ろし、妻子を持つ。
    28年後、ムクバル族の村が政府により取り上げられそうになる。ジェレミアスは、自分が受け取るはずだったダイヤモンドを受け取るためにルドヴィカが住むマンションに向かう。

    裕福な祖母のもとで育ったペケーノ・ソバ(白人)は、成長して政治活動に関わり、投獄脱獄逃亡再逮捕を繰り返す。そして1975年のある日にパピー・ボリンゴ(本名ビエンヴェニュー・アンブロジオ・フォルトゥナト)に助けられる。のちに大金を得たペケーノ・ソバは、パピー・ボリンゴのマンションを購入する。
    このマンションの奥の部分は煉瓦で固められ、存在しない犬の声がしたり、庭で飼っている鶏が消えたりしていた。
    そして2004年のある日、突如隣の煉瓦が崩壊する。驚愕するペケーノ・ソバの目の前に老婆と少年とが姿を表す。

    巨体の修道女マグレナは、匿っていたペケーノ・ソバとともに逮捕される。容疑は重症を追ったジェレミアス・カラスコを砂漠の村に逃したことだった。
    だが彼女は釈放され、飢えたり殺し合ったりする人々を助けるための活動を続けている。

    輝く微笑みを持つ大柄な男であるパピー・ボリンゴは音楽家として生活していたが、アンゴラ独立のときに秘密警察から逃げたペケーノ・ソバを自分のマンションに匿う。
    <こんなことのために独立したんじゃない。怒り猛った犬の群れのようにアンゴラ人同士で殺し合うためなんかじゃない。P82>
    かれはカバを飼って一緒に芸をしていたが、ベランダで飼うことに苦情が出たのでペケーノ・ソバにマンションを売って田舎の農園に引っ越した。

    ジャーナリストで行方不明事件を調査しているダニエル・ベンシモル(フランス系ムラート?)のもとに、ポルトガル女性マリア・ダ・ピエターデ・ロウレンソ・ディアスから依頼が来る。依頼の内容は、ポルトガルからアンゴラに移住して行方不明になっている実の母を探してほしいというものだった。
    <集落が消えたって?この国ではなんでも消えやがる。こりゃきっと、国全体がそのうち消えるんだな、この村が消え、あっちの村が消え、とやってるうちにさ。あれっと気づけば全部なくなってるんだ。P122>

    アンゴラ人のモンテは、1974年のカーネーション革命のときにアンゴラ独立運動に加わり秘密警察として尋問や暗殺に関わってきていた。
    2003年に秘密警察を辞めて私立探偵になり、捜索の依頼を受けていた。
    2004年のある日、彼はかつて殺したフランス人の遺品を持つムラートを見かける。そのムラートに見覚えのあったモンテは彼を追い、ルドヴィカのマンションに辿り着く。
    <忘れられることを恐れてやまない人たちがいる。(…)彼の場合はそれとは反対だった。彼は、誰からも忘れてもらえないという恐怖とともに生きてきた。あそこでは、自分の存在を忘れてもらえたような気がしたのだ、彼は幸せだったのだ」P213>


    母を殺された少年サバルは、名前しか知らない父親を探しにルアンダに来た。ルアンダの浮浪児たちのグループに入ったサバルは、強盗を覚える。
    2004年のある日、工事の足場を使ってマンションに入り込んだサバルは、裏汚れた部屋に一人で暮らす老婆の姿を見る。サバルと老婆は心を通わせるようになる。
    <(※死んだ人にとって)もっと悲しいのは、生きている人たちに忘れられちゃうことなんだって。おばあちゃんはその人のことを毎日、毎日、思い出すんでしょう。だったらいいんだよ。笑ったり踊ったりしているその人のことを思い出してあげるといいんだって。その人と話してあげなよ。話してあげると、死んじゃった人は安心するんだよ。P183>
    <「子供でいられないんだよ。母さんの手から遠く離れて、子供でいることなんてできないよ」P184>

    そして2004年のある日、それぞれの日々を過ごした彼らは、28年分の物語を持ってルドヴィカの部屋の扉に集まるのだった。

    <「これ以上ご自分を苦しめないでください。過ちが私達を正すのです。忘れることが必要なのかも入れません。忘れることを私達は練習しなければ」
    「父は忘れたくないのです。忘却は死と同じだと父は言っています。忘れることは降伏することだと」P251>

    ===
    印象的な題名と表紙の絵です。
    題名は「忘却についての一般論」でため、人々から忘れ去られたような人生を送るルドヴィカを連想するのですが、本書では忘れることより忘れられないことが書かれています。
    子供の頃から家を出ずに、アンゴラに渡ったあとは閉じこもりきりの日々でしたが、実は彼女は人を助けていたり、ずっと彼女を探し求めていた人たちがいます。
    独立のあと第二の人生を送っている人たちも、過去に犯したこと、殺してしまった人のことを忘れません。
    部屋を出たルドヴィカは、誰とも関わらずに28年間も閉じこもっていたというのに、このアンゴラこそ自分の国だと言って家族友人を持つことになります。

    上記の私のレビューではあらすじには一人ひとりの話として記載していますが、
    小説では彼らの人生はモザイクのように断片的に語られてゆき、そこにルドヴィカが28年間壁に書いた詩が差し込まれてそれらが混じり合うという構成になっています。
    出てくるアイテムが印象的で、ダイヤモンドを飲んだ鳩、ベランダのカバ、パラボラアンテナ、カラフルな帽子、燃やされた本、幽霊のような白い犬のファンタズマ、いたずらな猿のチェ・ゲバラ…。
    これらが登場人物たちのエピソードをつなげてゆきます。

    さらに作中では西暦年が割と細かく書かれています。そこから実際の歴史上の独立やクーデーター未遂を背景に、行方位不明事件や拷問などのこの物語の社会的背景が読み取れるのですが、
    不思議なアイテムや、結局誰も悪い人はいないという人物描写と、彼らが全員集合するラスト場面とで、なんともおとぎ話のような様相も見られるのです。

    せっかく西暦が載っているので、ルドヴィカに関しての年表をメモ。
     1925年 生まれる。
     1955年 30歳。”事故”に合う。P127、P258。
     1973年 48歳。姉オデッテと義兄オルランドとともにルアンダに渡る。(←姉がすごい晩婚だ!)
     1976年 51歳。部屋に閉じこもることになる。部屋から出るのは28年後。
     2004年 79歳。ルドヴィカが部屋から出る。
     2010年 85歳で死去する。

    ※翻訳者さんと、表紙絵画家さんも参加されたオンライン読書会に参加

  • アンゴラ、1975年の独立後27年もの内戦。その中、壁の内側で1人、犬と暮らし続けた女性ルド。

    壁の中と周囲の不思議な繋がりが、小さな物語と詩で巧みに紡がれて最後に、、という物語なのだけど、深い哲学とこのタイトルに忘れられない一冊になったかな。

  • 凄いな、これ。ただし、2度読み必須。あるいは、各エピソードについてメモを残しながら読むか。

  • ルドは30年もアンゴラの元姉の家で過ごす。

    現実から遠いようで、荒れているようで、なんだか美しいのはなぜなんだろう。

    3回目のチャレンジでやっと読めた。装丁も絵画のよう。

  • 素晴らしい本。訳者が翻訳の賞を取ったとかで、あれも良かったが、この方とは相性良い。アンゴラって国は全然わからなく、南米なのかアフリカなのか、アフリカだった。読んでる感じ、貧富の差がでかそう。植民地下にあり、ポルトガルからの独立戦争で、ひきこもりでいた女性に転記?が起きるが、ひきこもりは続ける。あまりにリッチな敷地内で自活できちゃう。無理に国の悲惨さなどを攻撃的に描かれてなく、静かに生きたいんだ、という平民の心情が書かれている。もっと読みたいなこういうの。

  • 再読記録
    2020年11月4日
    アンゴラに詳しくないままに読了したので
    もう一回トライしました。人名に慣れがなく
    少し読むのに苦労しました。

    ポルトガル生まれの女性ルドヴィカは
    姉夫婦とアンゴラで同居することになるが
    アンゴラはポルトガルの革命の余波で不安定に
    なる中、ある夜、姉夫婦は出かけたまま行方不明に
    なりルドヴィカは自分を守るために部屋の入口を
    セメントで封鎖、27年間犬とともに一人で暮らす。

    ルドヴィカが「静」であり外の世界は「動」。
    元秘密警察の捜査官、ポルトガルの元傭兵、
    政治犯、記者、ストリートチルドレン、
    それぞれが自らの世界で動いて人生を切り開き
    最後にルドヴィカと出会う。

    解説文だけで「女性が数十年も一人で引きこもって
    いた話」とばかり思い込んでしまっていて
    この「動」の部分を読みこなすのが難しくて
    大変でした(^^;)キーアイテム、次々と起こる事件、
    それぞれに絡んだ糸が解かれて最後に形になる
    感じが映画のようでとても読み応えがありました。

  • 「神を信じるには
    人間への信頼が不可欠なのだ。
    人間なくして神は存在しない。」

    なんだか、ウェス・アンダーソンに映画化してもらいたい。そんな、ポエティックでチャーミングでユーモラスでペーソスに満ちたドタバタ感動劇。なんてそんなチープな言葉じゃあとてもまにあわない。
    どんな人間でも、この世界からいなくなったときに涙を流してくれるひとがいる、そして天国への道を歩みはじめることができる、そんな願いと愛が、やさしくなだめてくれる。他者がいなくては自分は存在しえないのだという、わたしたちはすべての一部なのだという、責任と、赦し。そして魂の解放。アモール(愛)という名の真っ白の鳩が、この広い空にさまざまな幸福をもたらしてくれますように。アグアルーザの作品をもっと日本で読むことができますように。






    「真実とは、嘘をつけないだれかの底のとれた靴だ」

    「これ以上、ご自分を苦しめないでください。過ちがわたしたちを正すのです。忘れることが必要なのかもしれません。忘れることを、わたしたちは練習しなければ」
    「父は忘れたくないのです。忘却は死と同じだと、父は言っています。忘れることは降伏することだと」

    「だから、わたしは自分のためには書かない。だれのために書くのだろう。
    わたしであった人のために書くのだ。ある日わたしが置き去りにしたものはまだ残っていて、立ち尽くしたまま、哀れな様子で、時の片隅にいるんだろう 」

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1404619

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著者プロフィール

José Eduardo Agualusa
1960年、アンゴラのノヴァ・リスボア(現ウアンボ)でポルトガル・ブラジル系の両親のもとに生まれる。大学はリスボンに渡り、農学を専攻するが、文学に目覚め、ジャーナリストを経て作家となる。1989年にConjura(『まじない』)でデビューして以来、精力的に作品を発表。2004年に刊行された本書は、英訳The Book of Chameleonsが2007年度インディペンデント紙外国文学賞を受賞。2012年に刊行された『忘却についての一般論』(白水社刊)は、ポルトガル国内で翌2013年のフェルナンド・ナモーラ文芸賞を受賞。英訳A General Theory of Oblivionは2016年度国際ブッカー賞の最終候補作に選ばれ、2017年度国際ダブリン文学賞を受賞した。現代アンゴラのみならず、ポルトガル語圏諸国を代表する作家と目されている。作品はこれまで25の言語に翻訳されている。最新作はA Vida no Céu(2021)。

「2023年 『過去を売る男』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザの作品

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