民のいない神 (エクス・リブリス)

  • 白水社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090381

作品紹介・あらすじ

砂漠にそびえる巨岩「ピナクル・ロック」。そこで起きた幼児失踪事件を中心に、先住民の伝承からUFOカルト、イラク戦争、金融危機まで、予測不能の展開を見せる「超越文学」の登場!

感想・レビュー・書評

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  • またしても木原善彦さん訳。
    訳文もさることながら、作品紹介のコンシェルジュとしても信頼しているところがあり、なんとなく選んでしまう。
    で、今回も例外なく楽しい読書でした。

    『民のいない神』というタイトルの真意は、「神から生じたものは全て、神を見つめ返すときにのみ生を得る」という一文に集約されていると考えてみる。
    神々はそこにいる。が、多くの人間は神を見つめることもない。すなわち「生を得る」こともないままだ。

    本物の宗教体験に突き動かされて、というより、親族や歴史のしがらみから受動的に信仰を選択し、他を排除する人々。

    在米イラク人たちの複雑で奇妙な信仰のあり方。神の介入する隙もない、人間たちのグロテスクな社会。

    現代はいまだ生を得ていない者たちで溢れる「民のいない」砂漠だ。そこで思いもよらない奇跡を体験した人間は、神を見つめ返せるのか?
    というようなことを考えながら読んだ。

    不可解なことも多く、いろいろ考察とか読んでみたいけど、日本語のものはあまりネットとかには無さそうだった。
    とはいえ、本書は謎解きを楽しむ作品とも違うような気がする。むしろ“不合理ゆえに吾信ず”っていう心構え、神話的想像力みたいなものを必要とする小説だと思った。

    個人的には、イラク派遣の模擬演習のために作られた虚構の村ワジ・アルハマムの章が忘れがたい。中東の少女がナイトビジョンで米軍人たちのゲームのような視界を追体験するシーンに言葉を失う。

  • パワフルでイマジネーションに富んで、突拍子もないようでリアル。非常に力のある小説として印象に残る。舞台となっている砂漠の乾燥した砂に心のひだをざらざらと擦られる感覚。
    200年以上の時間を自在に渡り歩くなか、拠り所として語られる「伝説」は古くは民族の神話であり現在のオカルトであり神でもある…更にはビッグデータとAIによる操作によって方向付けられる経済に人が従う未来像も見える。
    異様なUFOカルトがどうも受け入れづらかったが、もっともボリュームの多い現代のパートの異文化間の結婚、自閉症の子供を抱えた夫婦の苦しみ、母親の負担、犯罪被害者へのマスコミや世間の攻撃、リーマンショックなど現代的なテーマが丁寧に描かれており、ジャズとリサをたよりに読み進められた。

  • 評価が高かったので期待していた。読んでみると先住民とか宗教とかマイノリティとかよくある話を詰め込んでみました本。
    出てくる人の誰にも共感できないのだが、女性の登場人物が全員貞操観念低めで短絡的な行動しがちなのは疑問。

  • 白水社エクスリブリス「民のいない神」読んだ https://hakusuisha.co.jp/book/b206384.html 面白かった!前半はどういう話なのか全く判らずもやもや読んでたのが中盤から俄然おもしろくなり猛スピードで読み終わり、最初に戻って読み直したほど。これだから読書ってわからない。訳は最近気になっている木原善彦さん(おわり

  • 文学

  • 高評価の書評が多いので気になっていた本。

    とても楽しく読めた。
    カリフォルニアの砂漠にある巨大な三本の岩山。ここをめぐって複数の時代の物語が進行する。ベースの時代が2008-9年の現代にあり分量も多いので、構成の割には読みやすい。
    印象に残ったのは、音楽の使い方が上手いのと10代の女の子のキャラが魅力的なこと。
    この作家の他の作品も読みたくなった。

  • オカルトに対する忌避の感情は、どこから生まれるのか。本書を読んで唯一といってもいい脳の反応は、その問いに対する答えを求めようとする時だけであるように思う。オカルトという言葉を実は宗教に置き換えても同じことであるとも思うのだが、そこに歴然とした差を認識する人もまた多いことも理解している。その説明出来るような出来ないような差について本書は描いているとも言えるし、何も語っていないとも言える。要するに、ここには解りやすいプロットやテーマのようなものはなく、深く感動するような物語があるわけでもないのだが、妙に気持ちがざらつく感じが残るのである。

    オカルト的なものの手強さは、思考停止状態の人間に思考を強要する時の手強さということ。あるいは、存在の証明が出来ないことが、非存在の証明ではないとする、二律背反から抜け落ちた論理の手強さと言ってもよい。この考えることを止めさせ、やたら、感じなさいとか、信じなさいとか、言い寄って来るの者の放つもの、それが忌避を呼ぶものの本質だと自分は思う。その対象が神と呼ばれるものてあろうと高い文明を持つとされる宇宙人であろうと違いはない。

    神は自らを助くる者を助く。その言葉の中の神の役割を、触媒のようなものだと考えるか、救済者として捉えるか。そのことばかりが頭の中をぐるぐると巡って止まない。

  • カリフォルニアの砂漠地帯に聳える三本の奇岩を場所的な焦点とし、その周辺で生じたとされる神秘的なできごと(天使の出現、子供の神隠し)、先住民の伝承、白人による先住民の迫害、UFOカルトの盛衰、ヤク中のロックスターの災難やイラク出身の少女のエピソード、シク教徒の出自を持ちウォール街で働く夫とユダヤ系の妻、自閉症と診断されたその子供の人生などなどが、時系列ばらばらのまま語られていき、やがて何となく撚り合わさってゆく。アメリカにおける現代の諸問題をこれでもかと織り込み、あらゆる「トンデモ」言説の位相に絶妙に縫い留めてゆく手腕はみごと。

  • 新聞の書評で興味を持って読んでみた。最初は短編集かと思うほど章(?)ごとに話がバラバラでよく理解できなかったが、我慢して読み進むうちに、同じ場所をめぐる色々な時代の話で、それぞれも関連していることが見えてくる。
    それはそれで面白い気もするが、正直言って難しい小説だった。純文学のようでもあり、風俗小説のようでもあり、戦争、テロ、人種差別、人権、スキャンダルジャーナリズムなど、世の中の問題や世相をこれでもかと盛り込んでいる。アメリカ文学っぽいなあという気はするが(著者はインド系英国人らしいが)、十分消化できなかった。

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記はこちらに書きました。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=4741

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