- Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560090107
作品紹介・あらすじ
46歳、無職、つい最近、彼女に捨てられた。どこにも居場所がない…。頭に浮かぶのは、「人生の面妖さ」をめぐる妄想ばかり。重いけれど軽やかな、「靴男」の果てしないモノローグ!"ビューヒナー賞"受賞作品。
感想・レビュー・書評
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“人生は、長い長い雨―”
ドイツのとある街に暮らす、自分の「存在許可」に自信が持てない男。新しい靴の試し履きという価値の見い出せない仕事をしながら、今日もひたすら歩いて思案する。過ぎ去っていった女たち、綿ぼこり的な生活、人生の面妖さ・・・。すり減っていく靴の底と引き換えに、彼は一体何を得る?
「誰かが、きみはここにいたいかい、と訊いてくれるのを待ち続けている」
ある日突然、消えて無くなる。初めは気になるけども、少し経てば忘れられてしまう―。所詮は、そんな存在。ならば、その日が今日ではいけない理由がどこにある。
「現実はやっぱりそのままですもの」
真実じゃなくたって、そんな風に見えることがある。逃避とは違う、滑稽で片付けるには惜しい、そんな幻想を脳の中で弄ぶことは必ずしも無碍ではない。そういった仮初めを愉しむ心だけが、休息となることだってある。
「人は誰でも、生きているほかの人を咎めてしまう」
生きていれば、知らず知らずのうちに重なっていく罪。苦しみのない人生があるなどという絵空事に騙されている間に、ある時は裁判官、またある時は被告人となり得る。それを認めるのは、容易くはないこと。
フランクフルト在住の作家、ゲナツィーノによる傑作ドイツ文学。居心地が悪く逃げ出したいと思いつつも、やむなく生きるこの世界。終わりの見えない道を行く彼の行く末に、救済はあるのか。04年ビューヒナー賞、フォンターネ賞、クライスト賞受賞作。
そんなお話。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
おっさん、無職のわりにリア充じゃん。
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些細なことにイラついちゃうことって、あるよね…
万国共通、どうしようもない感情なのかもしれない… -
靴の試し履きという仕事も変わっているがこの主人公はなるべく物事や人にかかわらず,観察し通り過ぎ立ち止まりまた観察する.鬱で自殺でもするのかと思いきや,案外女性と出会いたくないのに出会ったりまたよろしくやったり,思いがけず仕事ができたりする.始めから終わりまでぐるぐる考え半ば妄想や過去のトラウマかというふうなのに,なんかちょっとしてやられたような気もした.ちょっとしたエピソード(例えば落ち葉を拾って部屋にまくとこ)なども面白かった..
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何故彼がこんな生き方を選んだのか、きっかけがわからない。母の思い出はあるが、父のはない。知り合いの職の斡旋に行って、自分がオファーされるくらいだから、それなりに周囲からは受け入れられていると思えるのに。自分に酔っているのかなあ。ドイツで男で白人で、虐げられる側ではないのに。しかもそこそこ女にモテるのにもムカつく。自殺願望がある訳でも、他者に無関心なわけでもない。今まで読んだ小説の中で、最高に訳の分からない人だ。大庭葉蔵がまともに見える。何だかんだ言って、ギリギリでも職をつないで、生きていけそうだな、この人。
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寂しくもあり、気楽でもあり、微量の喪失感と共にゆったりと訪れる衰えといった感じ。本編も良いが、アンリ・カルティエ=ブレッソンを彷彿とさせる表紙写真も秀逸。
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靴好きなので、新しい革靴を試しレポートをする仕事?に興味を持って読みました。女性に逃げられ、仕事を失いかける中年男性の妄想とも現実ともつかない饒舌すぎる思考の嵐。狂気の一歩手前のようにも見えるが、絶対に一線は超えない。おもしろいです。
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自分の人生の存在許可がなされていないと思うダメ男。
孤独な自我ってやつはしょうもない妄想を生み出し、それはムクムクと育っていく。
それでいて孤独だから町をウロウロ。
靴の試し履きなんてきっと口実、そんな仕事がなくたってこの男は歩き回るに違いない。
そうしてさらに消えてなくなりたくなるのだ。
昔自分も夜中に街中を歩き回ったなあ・・・。 -
雨がテーマで紹介できる小説を探していたのだけど、これは紹介できない小説でした。狂気の淵を覗き見ながらふらふらと歩く主人公が、ひどく冴えない駄目な感じなのだけれど、どこか滑稽で放っておけない感じで、最後までテンポ良く読んでしまいました。暗くて個性的なミニシアター系の映画が好きな人なら面白く読めるかもしれない。「沈黙時間表」や「いまにも泣きそう限界」など独特な発想には感嘆しました。