日本語とにらめっこ:見えないぼくの学習奮闘記

  • 白水社
3.85
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560088982

作品紹介・あらすじ

スーダンから来た全盲の青年はどうやって日本語を身につけたのか。来日からエッセイストとしての活躍まで、悪戦苦闘の日々を語る。

感想・レビュー・書評

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  • アブディン氏のことは前作『わが盲想』やお馴染み(!?)高野秀行氏の著作で見地を得ていたが、本書の刊行はakikobbさんのご紹介があるまで知らなかった。(有り難うございます^ ^!!)

    スーダンご出身。(現在内戦が報道されているがご家族の安否が心配…)
    12歳で視力を失い、19歳の時に留学制度を利用して来日。鍼灸を学ぶため福井県の盲学校へ、のちに東京外大に進学という少し変わった、そしてズバ抜けたご経歴。彼の紡ぎ出す文章はユーモアに富んでおり、前作では笑いをこらえ切れなかった。

    これらを踏まえて本書に踏み出してみると、2つの変化に気がつく。
    一つは、彼の経歴がえらくアップデートされていたこと。
    前作を読んだのは一昨年(!)で、今レビューを読み返してもエッセイストのイメージしか浮かんでこない。しかし本書のプロフィールを確認すると、大学の客員教授や参天製薬の会社員、ブラインドサッカーの選手etc.と幅広く活躍されているではないか…!しかも日本に帰化されていたとは…!(ちなみにエッセイストの仕事を始めたきっかけは高野氏のひと押しだったことが本書で判明する笑)

    もう一つは、アブディンさんが少し大人しく映ったこと。
    前作のレビューにはお調子者の日本人学生みたいだと書いていた。今回は初対面である河路氏(日本語教育学の教授)との対談形式だからか、徐行運転という第一印象。
    それには理由があって、『わが盲想』の内容について読者から指摘があり、以来最新の注意を払うようになったからとの事。対談形式だけど、心の中で慎重に言葉選びをされている感じがした。
    あのユーモアを存分に味わっていただけに口寂しい想いはしたものの、一から彼の半生を辿ることができたのはプラスになった。

    本書には、アブディン氏が日本でお世話になった方々へのインタビューも掲載。同じ日本人目線でアブディン氏のお人柄に触れ、また異文化との遭遇を疑似体験できて、結構好きなコーナーだった。

    「人は、生まれた時に待ち構えている言語(母語)には無防備だ。しかし、すでに確された自己が、新しく獲得した言語(外国語)は、[中略]自分でコントロールすることができる」

    さすが、河路氏の分析には説得力がある。
    ラジオや友人の読み聞かせによって聞く力や記憶力が発展したというが、大学進学まで点字の存在すら知らなかったアブディン氏。そこから更に「日本語の点字」を自力で覚えていった。「自分だけが出来ない」という悔しさを抱えながら猛勉強しつつ、来日して好きになった親父ギャグや落語etc.をも学習教材にしてしまう。
    スーダン時代の乏しい学習経験を埋めようと、アグレッシブに吸収される姿が輝かしい。

    アップデートされたプロフィールを見て「キャパオーバーって概念がないのかな」と思っていたけど、キャパの容量を自らアップデートされている気がしてきた。

    • ahddamsさん
      akikobbさん、こんばんは。
      改めて本書をご紹介くださり有り難うございます!
      『わが盲想』よりも若干トーンダウンした感じでしたが、アブデ...
      akikobbさん、こんばんは。
      改めて本書をご紹介くださり有り難うございます!
      『わが盲想』よりも若干トーンダウンした感じでしたが、アブディンさんの胸の内をより深く知ることができましたし、akikobbさんのおっしゃる通り日本に根を下ろす覚悟も見て取れました。

      スーダンのニュースも見ていましたが、恥ずかしながらアブディンさんの祖国であることを本書で思い出しました…
      また先ほど高野秀行さんのTwitterを確認していたら、NHKの取材にアブディンさんが応じていたと4/23(日)の投稿にありました。ご家族とは連絡が取れているようですが、やはり不安な気持ちになります。

      高野さんの著書は網羅できていませんが汗、今夏に新刊が出る予定だと同じくTwitterで知り、更に「読まねばリスト」の本が増えてしまいました笑
      可能な限り追って行きます…!
      2023/05/15
    • akikobbさん
      ahddamsさん、お返事ありがとうございます。
      本当だ、私も確認できました(フォローしてるんですけど、Twitter自体を開く頻度が低いの...
      ahddamsさん、お返事ありがとうございます。
      本当だ、私も確認できました(フォローしてるんですけど、Twitter自体を開く頻度が低いのであまり追えてないという^^;)。教えて下さってありがとうございます。
      高野さんが「これ読んだ」とおっしゃっている本も面白そうですし、読みたいリストは増える一方ですな…
      2023/05/15
    • ahddamsさん
      akikobbさん
      いえいえ!高野さんは何かご存知ないかなと思い、最近フォローし出した(汗)Twitterの投稿を遡っていました。
      既読本よ...
      akikobbさん
      いえいえ!高野さんは何かご存知ないかなと思い、最近フォローし出した(汗)Twitterの投稿を遡っていました。
      既読本よりも読みたい本が圧倒的に多いですが、少しずつ消化していけたらと思います笑 これからもakikobbさんの読まれた本やレビューを楽しみにしております(^ ^)♪
      2023/05/15
  •  『わが盲想』の著者アブディンさん(一九九八年に十九歳でスーダンから来日した盲人男性)の、日本語学習奮闘記。『わが盲想』を読むと、どうしてこの人はこんなに面白い日本語の文章が書けるんだろう?!と誰しも驚愕するだろう。この本では、日本語教育の専門家である河路由佳さんが行ったアブディンさんへのインタビューがまとめられている。子ども時代のアラビア語の読み書きの話から始まって、点字・日本語/福井弁・英語の学習、パソコンとの出会い、そして文章を書くことについて。

     「おわりに」にある河路さんの文章を一部抜粋する。
     「外国語学習に奇跡はない。まして、巧みな文章は、努力なしには書けない。アブディンさんのこの軽妙な文章の背後には気の遠くなるはずの努力があるはずだった。一歩ずつ踏みしめながら歩いてきた道が、必ずある。」
     “努力”というと、夢や目標に向かって計画的・意識的に積み重ねてきた鍛錬・修練という未来志向な感じがするが、“一歩ずつ踏みしめながら歩いてきた道”という表現には、必ずしも意図した未来に辿り着く人生ではないかもしれないが、瞬間瞬間を確かな足取りで歩いていれば(というと歩行が困難である人を排除する言い方になってしまうがその意図はないのです、お許しください)何かしら身に付くものだという、良い意味での刹那主義があってなんとも軽やかな気持ちになる。“ダンスするように生きる”と言ったアドラーをやはり私は思い出す。『ハチミツとクローバー』の竹本君のことも思い出す(宗谷岬まで自転車で行った旅を振り返ったあたりのセリフを)。

     アブディンさんの場合、元々日本が好きでとか興味があったからとか、そういうパターンの来日ではない。詳細は省くが、とにかく、地球の果てとも思えるような日本行きのチャンスがたまたま目の前に舞い降りてきたときに、自分で決めてそれをつかみ、一人はるばる言葉もわからない日本へやってきて、日本人に囲まれて生活していかなければならなくなった。しかも目が見えない。なかなか、「この学習法を真似しよう」といったふうに直接的に役立てるような読み方はできないかもしれない。または、日本語がどんなに特殊かとか素晴らしいかとか美しいかとか、そういう言説を期待して読むのもちょっと違うと思う。だから、今述べたような目的を持って読むと期待はずれに感じて、お互い残念な結果になるかもしれない。
     だが、目的や利益など関係なく友達の話を聞くときのような気持ちで臨むと、「そうかあ、あなたも大変だったねえ、でもいい人に恵まれて良かったよねえ、あなたのそういうところ好きだなあ、私もがんばろう」みたいな、友達の話を聞いたときと同じような効果が得られると思う。

     アブディンさんがこの本で話していた、研究者として欠かせないインプット作業(つまり他の人の論文を読むこと)においてどうしても目の見える人よりも遅れをとってしまうという話が、つらかった。エッセイのような文章を書く仕事についても、『わが盲想』で受けた反響や、日本社会の状況などを鑑みても色々思うところがあるとのこと、悩める胸の内も包み隠さず語られていたのも印象的だった。
     

    • akikobbさん
      111108さん、こんばんは。

      そうですね、どちらからでも問題はないですが、私は『わが盲想』でアブディンさん自身が語る言葉とその内容にノッ...
      111108さん、こんばんは。

      そうですね、どちらからでも問題はないですが、私は『わが盲想』でアブディンさん自身が語る言葉とその内容にノックアウトされたので、まずはそちらがおすすめです!『日本語とにらめっこ』は、そこからさらに言語習得にフォーカスをあてた感じです。
      2023/03/16
    • 111108さん
      akikobbさん
      なるほど『我が盲想』でアブディンさんの生の体験→『日本語とにらめっこ』で言語習得を知る、の順番ですね!ありがとうございま...
      akikobbさん
      なるほど『我が盲想』でアブディンさんの生の体験→『日本語とにらめっこ』で言語習得を知る、の順番ですね!ありがとうございます!図書館予約します♪
      2023/03/16
    • 111108さん
      『わが盲想』でした!
      『わが盲想』でした!
      2023/03/16
  • 「がんばったら報われる、という実感がもてるのはいいものです。これは日本のいいところですね。」私は優しい口調で芯食った説教を受けた気分です。がんばったら報われる環境にいられるうちはがんばらなくちゃ、と思わされました。

    この本はスーダンから来た盲目の青年、アブディンさんが来日して、日本語を習得するための約20年間の話です。日本語能力検定1級(英検1級みたいなもの)を来日3年でパスし、日本語の点字の読み書きも覚え、按摩の資格も取得しました。

    元々スーダンでも一番の大学に行っていたほどだし、才能が素晴らしすぎるので、周りの人は喜んでサポートしたくなるようです。加えてユーモアもあって、自分のダメなところをさらけ出す余裕もあり、上手に助けを求めることができる。本当の意味で自立している人だと思いました。

    印象に残ったのは、アブディンさんが、日本人からどう見られているかを意識して行動しているところです。外国人がいきなりうまいジョークを言うと、フリが効いているのですごくウケます。巧みな技を使って心理的距離を壁を縮めようとする姿勢にスマートさを感じました。

    あと、昨今の日本社会の排外的な空気に対して「自分の発信について慎重にならなければならない」とも書いています。コミュニケーションに関する感度が高すぎて疲れはしないかと思いました。

    アブディンさんは視覚のハンデを負っている上にスーダンでは戦争を経験し、身近な人を亡くすというとてもハードな青春時代を送っている人なので、私たちの想像を超えて、社会のこと、人間のことを深く考えているのだと思います。

    こんなすごすぎる人の足元にも及ばないけれど、私も「つべこべ言わず、できることをがんばろう」と思いました。

  • 目が見えない人が、どのように外国語を学んでいったのか。
    その過程は初めて知るものだった。読んでいくほどに、すごい、、そんな言葉が溢れてしまいそうになる。どれほどの努力と才能と諦めない気持ちがあったんだろう、と感じた。
    私にはできない、って言いたくなってしまいそうにもなったが、作者がそれを何でもないように話しているから、自分も何か頑張れるような気持ちになる。言語を学ぶ者として勇気と新たな発見を見つけられる本であった。

  • 外国人、盲目、頭が良い、努力家、自分とは違う立場の著者が言語をどうやって習得するか、とても興味深かったが、マネできない…

  • 全盲のスーダン人モハメッドさんが日本語を学んできた記録が書き上げてある。

  • 著者は1978年スーダンの首都ハルツーム生まれ。子どもの時は弱視ながら自転車にも乗ったりしていたが、12歳で全盲に。1997年に来日し福井県の盲学校で鍼灸を学ぶ。その後東京外大に進学し博士号取得。この本は、全盲の外国人である彼がどのようにして日本語を習得しただけでなく「書く」ということができるようになっていったかを、盲学校の先生など、彼が20年の間にお世話になった恩人たちへのインタビューと合わせて構成。粘土を使って漢字を覚えて行く話など、彼の頭脳の性能の良さには驚くばかり。同音異義の単語群をまとめて記憶タグをつけているためにオヤジギャグへの応用が可能という話も面白かった。

    そして彼に「書け」とけしかけたのが高野秀行さんだというのも面白いし、その高野さんのことを「面白い生き物だな」と評する著者も最高だ。

  • 2021.12.5市立図書館 読了すぐ購入
    図書館でちょっと予約の順番待ってようやく手元に来た。異邦人かつ視覚障害者というWマイノリティの立場から日本と日本語を観察した「わが盲想」(ポプラ文庫)で感銘を受けたスーダン出身の著者による新たな著作。
    日本語教育の専門家によるインタビューの形で、母国での学校体験から始まって、語学や専門分野における盲者の学習プロセス・メソッドを詳しく語るものになっている。日本語(言語)教育関係者や視覚障害支援者にとって得るものが多いのは言うまでもないが(現在、研究者となっての困り事などの指摘も大事)、一般読者にとってもひじょうにおもしろく読めて、学ぶこと多くかつ励みになる内容になっている。

    私自身、学生時代にサークルや日本語の実習の際に、視覚障害のある仲間や学習者にであった経験があるものの、その当時は特別なニーズへの理解が乏しく、今思えば十分な配慮をすることができなかったちょっと苦い思い出になっている(かれらはやさしかったが、そのやさしさにただ甘えっぱなしだったという反省が何より大きい)。
    いまは、たとえば聴覚障害者の手話が日本語やその他の音声言語とは独立のひとつの言語だと理解するようになり、音のない世界や視覚のない世界での言語活動や精神活動について知ることは言語教育や言語政策、言葉の習熟などを考える上で欠かせないことだと思っているので、視覚を失い始めた子ども時代の勉強や読書の話からぐっと引き込まれた。アブディンさんに教えたり世話をしたりした人たちへのインタビューがあるのもよかった。

    学習記としてだけでなく、来し方・経験から語られる言葉に聞くべきものが多い。インタビュー記事を書き起こして整えているのだといっても、母語話者顔負けの表現力・説得力にはおどろかされる。耳で聴く読書を通じての夏目漱石、村上春樹についてのコメント、三浦綾子『銃口』を読んだ感想として戦争について語っている部分など読み応えあり。

  • 視覚障がい者のスーダンから来た青年が日本語を身につけた、と聞けば、え、どうやって??と疑問に思う。すごいなぁ、と思う。この作品はそのアブディンさんが日本語を身に付けていく過程について詳しくインタビューしてまとめたもので、読めばすごいとかそういうことを超えている、と思う。目が見えないために耳から入ってくる情報をより精密に聞き取り、そして記憶にとどめるという能力に加えて、負けん気や勉強が好きな気持ちや、アブディンさんのいろいろな面と、周りの人の優しさが作用した結果なのだと思える。並大抵の人ができるこっちゃない。前例がなく、学習手段がなく、それをも乗り越えていくのだから。
    アブディンさんが、「自分は四字熟語と複合動詞が弱い」と書いているのには、頭を抱えてしまった。わたし、自分の表現で何が弱いなんて全然考えたことないよ……。
    点字で読める書籍は少ないのだとか、スーダンについて自分がほとんど知らないのだということも考えさせられた。
    ぜひ、アブディンさんが書いたエッセイ『我が盲想』も読みたい。

  • 【請求記号:378 ア】

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著者プロフィール

1978 年、スーダンの首都ハルツーム出身。生まれた時から弱視で、12歳の時に視力を失う。19 歳で来日し、福井県立盲学校で鍼灸を学んだのち、東京外国語大学へ進学。スーダンの南北紛争について考察するため、アフリカ地域研究の道へ。同大学大学院に進み、2014 年に博士号を取得。東京外国語大学世界言語社会教育センター特任助教、学習院大学法学部特別客員教授を経て、現在、参天製薬株式会社に勤務する傍ら、東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員として研究を続ける。また、エッセイスト、特定非営利活動法人スーダン障害者教育支援の会(CAPEDS)代表理事、ブラインドサッカーの選手としても活躍している。著書:『わが盲想』(ポプラ社)

「2021年 『日本語とにらめっこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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