ナポレオンに背いた「黒い将軍」:忘れられた英雄アレックス・デュマ

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560084267

作品紹介・あらすじ

文豪デュマ・ペールの父にして、「黒人」で初めて将軍になったアレックスは、牢獄に囚われてしまう…。『モンテ・クリスト伯』のモデルとなった風雲児が生きた、革命と戦争の時代を活写する。

感想・レビュー・書評

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  • 現在、世界でも最貧国の一つであるハイチは、かつてフランス植民地で、砂糖の大産地だった。
    そこに渡った貧乏侯爵のドラ息子が、黒人奴隷の女と子供を作り、連れて帰って教育を受けさせ伯爵にする。
    黒人ハーフの伯爵は、フランス革命期に軍隊に入って頭角を現し、将軍となり、ナポレオンのエジプト遠征にも参加する。
    「ナポレオンのエジプト」にも、兵隊に人気のある将軍として登場する、アレクサンドル・デュマ将軍。
    三銃士を書いた、あのアレクサンドル・デュマの父である。
    デュマ将軍は、ナポレオンと対立し、晩年は不遇であった。
    子デュマは、敬愛する父の伝記を書き、モンテクリスト伯には、デュマ将軍の人生が反映されている。
    フランス革命期に、奴隷解放が行われていて、黒人でも議員になれたり、普通に軍隊で出世もできた時期があったというのは、知らなかった。
    その時代は長くは続かず、ナポレオンが権力を握ると、黒人に対する差別も復活する。
    フランス革命の「自由・平等・博愛」という理念は、決してよい結果ばかりもたらしたわけでは無いが、その理念によって達成されたこともあったわけだ。
    ナポレオンの支配は、フランス革命の理念の終わりでもあった。
    デュマ将軍の生涯は、短い黒人解放期を象徴するものであり、彼はフランス革命とともに上昇し、その理念の衰えとともに歴史から去った。
    アレクサンドル・デュマが黒人のクォーターだったなんて知らなかった。
    しかし、エドモンダンテスは、ナポレオン派として投獄されるし、モンテクリスト伯の中で、悪役は王党派、善玉はナポレオン派という感じなのだが、実際は、デュマ将軍はナポレオンにはかなり恨みを持っていたと思われる。
    子デュマもナポレオンへの恨みは共有していたと思うのだが、王党派よりはましだと思ったのか、自分の個人的な感情は抜きにして、ナポレオンは当時のフランスで人気があったからそのように書いたのか、父親のこととは別に自分もナポレオンのファンだったのか、どうなんだろう。
    作家としての理性的な判断でナポレオン派は善玉なんだとしたら、すごく世間を分かってる人だよね。
    デュマ将軍は、背が高く、「ハンサム」だったと書かれているが、子供のひいき目ということは無く、世間でもハンサムだと思われていたらしい。
    それもびっくり。黒人=毛嫌いされる、というのは思い込みなんだ。
    しかし、その評価自体も、革命期の一時的なものなんだろう。
    宝塚で、「カリスタの海に抱かれて」(大石静)という演目を見た。地中海のフランス植民地カリスタ島出身の青年が本国に渡り、ナポレオン配下の将校になって、支配階層として島に帰ってくるが、独立運動側に肩入れするというような話で、いくらなんでもご都合主義では、と思ったんだが、現実はもっとドラマチックだった。

  • 佐藤賢一の三部作を長いこと積ん読しており、予習までにと手に取った。
    何かとっかかりを作りたかったのだが、それには成功した。むしろ彼の息子と孫の物語が読みたくなった。というのも本書は資料的な検証が中心で、いわゆる「見てきたような」血沸き肉躍る豪傑譚(こちらは佐藤賢一に期待)や、複雑な出生にまつわる苦悩(ここを息子や孫に期待)などにはあまり触れられないからだ。
    イタリアやエジプトへの遠征時代を読みながら、「もう半分来てるのに、なかなか盛り上がってこないよなー」などと思っていたのだが、後から思えばそれこそ随一の盛り上がりどころだろう。つまり、盛り上がりを企図した書きかたではないのである。
    そしてそこからは、あれよの転落。というか、エドモン・ダンテスもびっくりの悲惨オブ悲惨。本人も言っているが、「35歳で大軍を指揮していた人間が、40の歳には貧窮の中で死病に侵されているとは!」って…悲惨すぎる。そして彼個人の不幸もさりながら、急激にしぼんでいくフランス革命の人種平等の理想には、本当に暗澹とさせられた。
    とりあえず、コンプこじらせたチビ男はろくなもんじゃない、というかねてからの自論の補強となった。

    2019/5/16~5/20読了

  • モンテクリスト伯、三銃士の著者アレクサンドルデュマの父(椿姫の作者の祖父)の知られざる人生。
    フランス貴族と黒人奴隷の父母のもとに生まれたアレックスはフランス革命の自由主義の波に一瞬乗り、そのたぐいまれなる身体能力を生かし、圧倒的な功績を挙げ、若くして将軍になる。しかしナポレオンの独裁の前に革命の理想主義は巻き戻され、外国の捕虜になった挙句体を壊し、逝去する。

  • 2015/06/20
    自宅

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著者プロフィール

1964年ニューヨーク生まれ。歴史学者・伝記作家。これまでの著作に、東独のネオナチに取材した『Führer-Ex: Memoirs of a Former Neo-Nazi』(共著)、ユダヤ人でムスリムに改宗しナチスドイツでベストセラー作家になった男Lev Nussimbaumの伝記『The Orientalist』がある。

「2015年 『ナポレオンに背いた「黒い将軍」(仮題)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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