- Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560084052
作品紹介・あらすじ
16~19世紀、血眼になって胡椒を求め、アジアに進出したポルトガル、オランダ、イギリスのなりふり構わぬ行状を、現地の人びと、海賊、商人らのエピソードで描いた傑作歴史読みもの。
感想・レビュー・書評
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うーん…。
旧世界人を虜にした魅惑のスパイスの物語——ではない、ということはないのだが、比重としては近代東南アジアの「ヨーロッパ人による開拓」、すなわち掠奪と侵略の経緯についての叙述が多い。それはそれでつまらないわけではないのだが、何と言うか…こんなタイトルなのに、胡椒は主役ではないのである。そこが、激しく肩すかし。
筆致もやや散漫というか、オランダ人と英国人の闘争を延々と描いたあげく、巻末の2章で取ってつけたように、西洋人がおこなったもうひとつの虐殺=野生生物の絶滅と、胡椒をはじめとするスパイスに含まれる成分の先端医療への応用について書いている。だが、この短い2章がめっぽう面白かったりするのだから、何と言うかやっぱり「うーん」なのである。
2018/12/26〜12/29読了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
それまでは中東を通って陸路でヨーロッパに運ばれていたアジアのスパイスを、海路で直接ヨーロッパに輸入しようとした歴史を知れる本。
世界史で習ったバスコ・ダ・ガマの喜望峰到達やマゼランの世界一周が、その当時はただ探検、冒険のためだと思っていたが、実は交易をするため、富を得るために航路を開拓していたのだと知れた。
スパイスはヨーロッパでは自生せず熱帯のアジアでしか獲れない。地理的条件によって地域ごとに特産品が異なり、それらを交換することによって交易が行われてきたというのを歴史の実例として知れたのがよかった。現代ではお金が中心にあるように思えるが、根底は実物の資源、商品を交換することこそが商売、経済なのだと思えた。 -
オランダ東インド会社、イギリス東インド会社を中心とした、西欧からの胡椒の取引と帝国主義、植民地など。『ダンピアのおいしい冒険』と時期や登場人物が一致する部分も多い。世界史は苦手な上に、年代、地名、人物など登場人物が多い。歴史書的な語り口で、物語的な盛り上がりは少なかった。
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胡椒が人を翻弄してきた歴史を紐解いていく。
帝国主義的な脈絡の中で話せば、海洋大国の東方世界への進出と征服ということではあるが
そもそも東インド会社などの設立を考えると、単なる国家事業とは趣が違う。
まず第一に利潤を生むからこその進出であり、そのために国を巻き込んでいく。
利害関係は主従がどちらにあるか分かりにくいし、
現地においては本国のコントロールが効くはずもない。
また、現地の人々もなすがままだったということもなく
それぞれに結びつく相手を見極めながらより優位な状況を作ろうとしている。
本書は正直なところ統一的な視点というものが乏しく見える。
けれども、それはこのように複雑な状況の中で蠢いている力学の観察のためには
誠実な態度であったかもしれない。
(それにしても最終章にスパイスの薬効の話は本当に必要だったろうか?)
どのようにしても一筋縄ではいかない出し抜き合いの中で確かなことは
征服者も被征服者も互いにここではよく死んでしまったということだ。
配当を当てにして待っていた富裕層だけが安全であった。
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一五八八年にイギリス海軍がスペインの無敵艦隊を破ったニュースは、スマトラに届いていたようである。アチェを訪れる商人たちのネットワークはそれほど広く張り巡らされていたのだ(p.91-92)
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このスマトラのアチェという街の権力者、スルタンはイギリス人が来たことを聞きつけると話を聞こうとして宴席を設ける。宴はスルタンを満足させたようだが、1ヶ月後にスルタンはそのイギリス人を罠にかけたらしい。なんという戦国時代。
なお、そのイギリス人は1600年頃にスマトラにたどり着いたらしい。ポルトガルもオランダもまだ互いに競い合っていてアチェ自体は独立していた。このあたりが簡単に征服されていたら、そこを拠点に日本はもっと高圧的な外交を受けていたかもしれない。
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オランダ東インド会社に雇われた男たちは命を賭して熱帯をめざした。熱帯で大金が得られるかもしれないからだ。日払いの賃金は雀の涙ほどだが、自分で勝手に胡椒取引をすることもできたし、会社の積み荷からスパイスを盗んで一財産築くこともできた。何千キロも離れた本社に、彼らを止める手立てはなかった。(p.185)
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無法地帯とフロンティアは紙一重のようだ。
輝かしい光の差すところには混沌としたリスクがあるものだ。 -
胡椒という食物から見た世界史。胡椒とは何か、胡椒をめぐる争いを中心に世界史を俯瞰する。世界史の中で胡椒が果たした役割は非常に大きい。大航海時代と言われ、ヨーロッパ人がアジアを目指したのも胡椒が目的だった。これは歴史の授業で学んだことであるが、実際はどうだったのか。様々な資料をもとにアジア、特にインドネシアを中心に、当時の様子が紹介されており、知らなかったことも多くて大変勉強になった。 アジアを巡るヨーロッパ各国の争いも想像以上で、残虐なことが頻繁に起きていたらしい。 その中で、著者の思い入れがある人物がトマス・ラッフルズ。 彼については、約20ページ弱を割いて詳細に紹介している。
因みに昔、シンガポールに旅行した際、観光でラッフルズホテルに行ったことがあり、また彼の像を見たこともあるが、どのような人物なのかよく知らなかった。昔の知り合いに出会ったような感じで、その業績を改めて知って驚いた。東南アジアの国々、この本の取り上げられているジャカルタ、シンガポール、ジョホールバルに行ったことがあり、その町が胡椒貿易で栄えたことを知った。 旅行で観光しても、町の歴史まで考えることがなかったが、この本を読むとかつて訪れた都市が身近に感じる。 大変面白かったけれど、素人でもわかるような数字の間違いが所々にあり、変だなと思うことがあった。良い本だけに、それが少し残念だった。 -
西洋における胡椒の歴史の本。ラーメン屋で無料の胡椒を好きなだけかけるのが当然の現代からすると、「なんでそこまで」と言いたくなる。西洋の人々にとって胡椒とは「力づくでも奪い取る」対象だった。
帯には「ひと粒の香辛料に惑わされた人類の歴史」とあるが、本書を読む限りでは主語が大きい。惑わされ、暴虐の限りを尽くしていたのは西洋の人々ではないか。アジア・中東の人間が貿易をしていたところに、ヨーロッパ人が暴力で奪いに来る。もちろん最初から戦闘というわけではなく、最初は貿易からなのだが、商館を足がかりに要塞を建築し、支配区域を広げていく。同じヨーロッパでも国が違えば敵なので、商船への海賊行為もいとわない。まさしく暴虐である。
とはいえ当時のヨーロッパが、あらゆる点でアジアより優れていたわけではない。少なくとも大航海時代と呼ばれる頃など、文化の点ではアジアの方が進んでいたと言ってもいいだろう。しかし、結局は武力で勝負が決まった。現代は違うといいが、と思ってしまう。 -
[評価]
★★★★★ 星5つ
[感想]
大航海時代のキッカケだということは知っていたが、初めは調味料ではなく、薬として珍重されていたのは意外だった。茶も最初は薬として扱われていたと聞くし、インド洋周辺の特産物はそういったものが多いのかな?
一方でインド洋への航海が想像以上に困難だったこと、ヨーロッパが東南アジアで行ったいくつもの所業が驚くほどに酷いものだった事には驚いた。 -
胡椒をはじめとする香辛料貿易の歴史。オランダとイギリスの両東インド会社の争闘と、その植民地支配と貿易の暴虐も含めて、大航海時代とその結果を描く。
出航すると半数が死ぬような航海に出るような連中でマトモな人間はそりゃいないわな。 -
産業革命以前の世界の豊かさよ