北朝鮮 14号管理所からの脱出

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560082409

作品紹介・あらすじ

収容所で生まれ育った脱北青年の凄絶な半生。過酷な労働と飢え、拷問、処刑、密告が日常の「完全統制区域」-。その内情を知る、世界でただ一人の脱北者シン・ドンヒョクの証言をもとに、収容所の驚くべき実態と奇跡的な脱出、そして脱北後の苦悩を、『ワシントン・ポスト』の元支局長が迫真の筆致で描く。

感想・レビュー・書評

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  • 人に勧められて読みました。でなかったら手に取る本の類ではなかった。
    でも読むべき本だった。自分たちの世界観や常識と思っている概念がひっくり返るような内容です。恐ろしい。

    生まれながらに囚人、だなんて考えられません。そもそも囚人になる
    「犯罪」が「そんなことで」というような、あるいは「そんな立場の人まで」
    というような類まで及んでいくとは。
    根本から持たされる感情も常識も違いすぎます。途中で囚人になった
    人とは全く違う生き方、考え方。こんな世界があるなんて。

    シンのお父さんという人のことを考えます。
    そんな環境の中で、シンに米粉を届けようと様々なやりくりをした思い、届けた思いというのは私たちの想像をはるかに超えてると思います。
    これほど壮絶な環境に置かれても、子供を思う心が失われなかったということに、人が本来持つ感情の深さを思います。

    シンのお父さんが処刑される時(きっとされたでしょう)最期にどんな思いを持ったのか知りたい、と思いました。

  • 1982年に北朝鮮の政治犯収容所で生まれ育ち、そこで生まれた者として初めて脱出に成功した人物シン・ドンヒョク。著者がシンに2年間に渡り取材をし、凄まじい描写で収容所の実情を暴いていく。ただでさえ外界から遮断された北朝鮮の、さらにおぞましい収容所で生まれたシンは2005年に脱出する。彼の心理描写に著者の脚色を感じてしまうが、ページをめくるのをためらうほど不条理で、常に人の死と隣り合わせの世界がそこにある。今でも20万人が収容され、老若男女が過酷な労働を強いられている。たった5粒のトウモロコシを盗んだだけで殴り殺された6歳の少女。密告することで自分を護ることを生まれながらに身につけたシンは、母親と兄の脱走を密告する。その処刑の姿が後に彼を悩ますことになるが、当時は罪の意識など全くなかったのだという。収容所で「純粋培養」されたシンは金正日の存在すら知らなかったというから驚く。様々な偶然にも助けられ、奇跡的に地獄から脱出した男の物語。

  • 北朝鮮のドキュメントは、酷すぎて無力感しか覚えず何の行動も起こす気にならない。そこが最大の問題なのだろうと思う。
    収容所の状況は言うに及ばず、命懸けの奇跡の脱北後の人生も何ともならず、人生自体を破壊されている北朝鮮の人々。
    北朝鮮の指導層は当然に揃って滅ぶべきであるが、
    長らく利己的な理由で、こうした北朝鮮の体制維持に協力してきた中国共産党は本当に人類の恥辱なのでともに地上から消滅して欲しいと願う。

  • サラッと読もうと思ったのに全部読んでしまった。

    この物語となる収容所を発案した人物は、ジョージ・オーウェルの1984年を再現したに違いない。

    半世紀以上の時を経て、改良(囚人から言えば改悪)をされたのだろう。より一層、到底思いつかないレベルのおぞましいドキュメンタリーとなっている。

    つまり、読んでいてとても苦しい内容。
    現在もまだ続いているかもしれない施設の、信じがたい事。

  • 東2法経図・6F指定:302.21A/H32k/Muranushi

  • 北朝鮮の政治犯を収容する14号管理所で生まれ育ち、脱北したシン・ドンヒョク氏とのインタビューを通じて書かれたもの。
    収容所から脱出した後、脱北した人はこれまでも数人いるが、収容所の中で生まれ育った脱北者はいまのところ、彼一人だという。

    これまで脱北者の本を何冊か読んできた。ロイヤルファミリーの1員だった人、特権階級にいた人、普通の学生だった人、ある日突然収容所に入れられた人・・・。シンがこれらの誰とも違うのは、生まれながらにして囚人であり、その身の上を受け入れて生きているというところだ。
    自分が犯したわけでもない「罪」を雪ぐために、まだ小さい子供らも何かにつけて友達や親を密告する。先生の機嫌が悪かっただけで殴り殺された級友についてなんとも感じない。ご飯を少し多くもらうために、労働中に死亡した友人の死体を競って埋葬する作業を行う・・・。

    家族や友人に対する愛情や友情を持たず、少しでも多く食べることだけを考え、外の世界を知らないゆえに希望を持たない。
    シンは13歳のとき、兄と母が脱走の相談をしていることを知る。それを学校の先生に密告するが、その密告を自分の手柄にしたいと思った先生は、密告者がシンであることを隠してしまう。そのため、シン自身も拷問され体に大きな傷を負う。その後、兄と母の公開処刑を見せられた、という。
    しかし、シンは自分を危険な目に遭わせた母親に対して「怒り」しか感じなかった、という。

    彼は、そこから逃げ出し、人間らしい感情を知ることになるが、それによって収容所にいた際の自分の振る舞いに苦しめられ、社会に馴染めずにいるという。
    それでも北朝鮮の収容所の現実を世界に知らしめるため、シンは現在、様々な場所で自らの体験を語っている。そんな彼に対抗するため、北朝鮮は最近、彼の父親を動画に出演させ「彼は収容所にはいなかった」という発言をさせている。

    北朝鮮にはまだまだ知らざる部分が多い。ということを感じさせる一冊である。

  • 北朝鮮14号管理所。そこは反政府分子と見なされる者達の強制収容所であり、そこから抜け出した者は登場人物シンを除いて1人もいないという。
    シンは反動分子として収容されている父母から生まれた時から、ひたすら収容所内で暮らしてきたという。
    あまりのひもじさにネズミを食べたり、養豚場での仕事では焼いた肉のにおいがばれないように生で豚肉を食べたり、目の前で母と兄が処刑されるのを見せつけられたり…。
    あまりの悲惨さに、思わずフィクションなのかと思ったほどである。

  • 北朝鮮の強制収容所から絶対不可と言われた脱北に成功した青年
    シン・ドンヒョクさんの収容所内での生活から脱北、脱北後までを収録した本です。

    現在北朝鮮の強制収容所には、出所可能な革命化区域と永久に出所不可能な完全統制区域があり
    シン・ドンヒョクさんは後者の中の14号管理所というところに生まれ、23歳まで過ごしました。

    劣悪な環境の中での過酷な労働や理不尽な拷問の内容は
    途中で文面から目を背けたくなるような、そんな内容ばかりでした。

    彼には両親と一人の兄がいて、学校には同級生がいましたが、毎日互いの密告の義務に追われ
    常に隅々まで監視し合う囚人同士でしかありませんでした。

    そんな残酷な収容所で数えきれない暴力を受け、拷問で生死の境を彷徨い
    あちこちに張り巡らされた有刺鉄線、監視塔を抜けて脱獄、脱北できた彼は
    幸運に恵まれていたとしか言いようがありません。

    各国の強制収容所は終戦とともに姿を消しましたが
    北朝鮮の強制収容所は今もなお存在し、多くの人々が閉じ込められています。

    ミサイルや拉致ももちろん大きな問題ですが、この収容所に関しても
    もっとたくさんの人々に知られるべきだと、私は思います。

  • 絶対脱出はできないと言われてきた北朝鮮の14号管理所から脱出したシン・ドンヒョク氏の半生を描いた作品。収容所の中で生まれ育ち、どう言ういきさつで脱出を試みたか、そして、その後はどのように生きてきたかが書かれている本。

    本書の内容は、あまりにも衝撃的かつ刺激的である。まず、北朝鮮の収容所が想像を絶するほどの過酷な収容所であることがわかる。そこでは、密告が奨励されていることはさることながら、日常的に拷問が行われ、公然と公開処刑が行われている。次にショックを受けるのは、国際社会がそのような人権侵害が行われていることに、ほとんど何も手が打てていないことである。内政不干渉の原則があるとはいえ、このような明確な人権侵害が堂々とまかり通っていること自体、許されないことである。現在、多くの非政府組織が、脱北者の支援をしているが、何よりも、このような他国内で起きている人権侵害を防ぐのはいかに難しいことかを思い知ることができる。

    本書は、北朝鮮の収容所の実情や脱北者の実態を知ることができる、超一級の資料である。

  • 驚愕の書である。
    北朝鮮で多くの餓死者が出る都市があったり密告社会であることは知っていた。また軍隊の疲弊についても知識もあった。しかしこの本に書かれている強制収容所の様は想像を超えるものであった。

    アウシュビッツは 大量に人を殺しはしたが たった3年である。ここは50年以上。食べものを盗んだといわれ拷問、妊娠したら死刑、親兄弟も密告の対象、そんな収容所で生まれ、韓国や米国の存在はおろか金正日さえ知らずに育った少年がいかに脱獄し、脱北したかが書かれている。
    ラーゲリーもアウシュビッツも言っちゃ悪いが何となくかすむ。
    だってこれ 今の話。現在進行形、著者が逃げたのもつい最近。

    人間の負の可能性もここまであるのか。

    システムができあがると個々人で立ち向かう気をなえさせるのだ。
    人間と人間としてみないというシステムが一旦できあがると
    そのシステムは自律的に動き出す。

    第二次大戦下の日本もそうであったし
    ポルポトもそうだった。
    文化大革命もそうだった。

    これはヒエラルキーの一番上にだけ問題があるのではなく
    あんな風に抑圧されたら大変だと中間層がそのピラミッドを守りだすからだ。

    それにしても 北朝鮮は長い。

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著者プロフィール

ジャーナリスト。1952年、米国ワシントン州生まれ。シラキュース大学大学院でジャーナリズムを専攻。『ワシントン・ポスト』の東アジア、東欧、サハラ以南アフリカなどの各支局長を歴任し、現在は米国PBSのドキュメンタリー番組『フロントライン』や英国『エコノミスト』のリポーターとして活躍。著書にEscape from Camp 14 (Viking, 2012)(邦訳『北朝鮮 14号管理所からの脱出』園部哲訳、白水社)、Africa: Dispatches from a Fragile Continent (Norton, 1990) 、A River Lost: The Life and Death of the Columbia (Norton, 1996) がある。

「2016年 『金日成と亡命パイロット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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