原発事故と放射線のリスク学

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  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535586505

感想・レビュー・書評

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  • 化学物質のリスクの第一人者による原発事故の影響、放射線の体に与える影響、具体的な対策を包括的に論じた本。

    放射線のリスクには「閾値」がない(と想定される)。つまりある一定以上低ければ影響ゼロ、とはならない。ただし、そのサイズは検出不可能なまでに小さくなる。科学者の言葉では「ゼロとは言えない」、報道の言語では「リスクはまだある」。

    だから何らかの基準値を誰かが言わないといけないが、政治的な難しさがあって言えない。それどころか、著者のち密な検証によると、事故直後に過大に計算された線量が訂正されずに維持され(遮蔽物による除去率を国際基準よりも小さく見てしまった)、そのままになっている。結果として終わらない除染、帰還の遅れにつながっている。
    この人のすごいところは、誰も言わない目標値の理論的根拠を示したことである。「私は、『さらなる検討が望まれる』というような結論の文章が嫌いです」。

    この手のことに声を上げると必ず「御用学者」の批判が飛び交う。実際には著者は上下水道の汚染について長年行政と戦ってきた闘士。
    父上は共産党員で、だからかどうか大学でも恵まれた職にはつけなかったとか。
    巻末には上野千鶴子氏との対談も収録。

    上野氏は言う。
    「安全は確率(の話)だが安心は100%の絶対(であるべき)」。

    答えて中西氏曰く。
    「『安心』は誰かに与えられるものではなく、その人が確立、獲得するものです。だから、これを政策的に与えられるといっていること自体が間違い」(P294)、と冷静。
    一見厳しいが、とおして読むと、耳ざわりの良い意見しか言わない人に比べて、著者がどれだけ被災地に寄り添っているかがよくわかるのだ。

    出版は2014年、日本学術会議の総括論文がでる3年もまえのことか・・・。

  • 8月新着
    東京大学医学図書館の所蔵情報
    https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_search/?amode=2&kywd=4311477196

  • サイエンス
    原子力発電

  •  「リスクを避ける」と考えるのではなく、「リスクを選ぶ」という時代になっているということが印象的だった。要は、リスクにはトレードオフがあって、どんなリスクでもそれを避けると別のリスクが持ち上がる。それらのリスクには大小があって、どちらを選ぶかということになる。
     放射線の問題もあるが、これからの世の中を生きていくためにもリスク管理は重要な考え方で、一読しておくと良いだろう。

  • 気合のはいった提言。アメリカでは、こういう割りきった考え方をよく見かける気がする。

  • ☆帰還可能線量として年5mSvを提唱。

  • 読了するまでに5ヶ月かかりました。何回図書館で借り直したことか。
    「リスク・トレードオフ」という考え方。「落ち着いてリスクを選んでください。リスクを避けると考えてしまうと、結局リスクを見ないことになってしまう。」という箇所がとても心に響きました。

  • 第一章ははっきりいってむずかしい。でも、そこをどうにかくぐりぬけると、比較的わかりやすく福島原発事故の放射線関係の案件について、まともな知見が得られます。こまかく理由を追っているのを読者も追っていって理解することになるのですが、どうやら甲状腺がんについては大丈夫そうなんですよねえ。一部マスコミが不安を投げかけるのも、この本を読んでいたら出てこないと思われもする。その甲状腺被ばくについて。チェルブイリでは3000ミリシーベルト以上の甲状腺等価線量だったのに対して福島では35ミリシーベルトだったと。これが50ミリシーベルトだとか100ミリシーベルトだとかを超えると要注意という世界的な共通認識があるという。福島のひとたちを見捨てたり差別したりしないために、本書は多くの人が(みんなが、といいいたいところ)読んだらいいなあ。まあ、仮に大きなリスクがあったとしても、差別だとかするべきじゃないのですけど。また、除染については、除染って二兆円規模だったんだなあと知りました。それも、ストレートに除染できていなくて、紆余曲折を経た後にやりすぎとも言えるくらいの厳しさでもって規定された○○マイクロシーベルト以下っていうのを遵守する方向でやったから、本当に莫大な費用になっている。住民の心情ってのもあるし、むずかしい。その心情の面では、サイエンスとメンタルの間で綱引きして膠着するんですな。メンタルってのはやっぱり人間だからすごく強い。サイエンスなんぞ信じられない、理解できないというくらいに。そして、そういう人間心理の土壌に建設された原発であった。この文脈で言えば、原発的なモノってたくさんでてくるのではないかな。なんて考えてみたり。

  • ★リスク評価の第一人者の自負★題名からだけでは分かりにくいが、化学物質のリスク評価の体系を作った第一人者による原発事故の評価。絶対の安全という思考停止を超え、原発事故と放射線によるリスクを評価する仕組みをつくり、どこまで社会的に許容できるかまで踏まえて対案を出す。結論を出さない研究者の文章を嫌い、自らが遅れてこの分野に参入しても、だれもこうしたリスク評価をしていなかったことに驚く。
    文章は論文調ではなく、雑誌掲載のものもあり非常に理解しやすい。福島県伊達市の「除染の神様」半澤隆宏政策鑑の話も現実を示していて面白い。
    「長期的」といった国のあいまいな目標を15年と自分で判断し、除染目標を5ミリシーベルト/年と提言する。子供の生長期間を考えた時間設定はなるほどと思う。
    リスクと生活上の安全感の違いは理屈だけでは分けられないが、使い分けが必要だと主張する。リスクを取って自分の立場を鮮明にするのが素晴らしい。

    古い共同体が残っているところほど、女性にとっては「ふるさと」は強い意味を持たない。嫁に行くからというのは意外な指摘。
    「福島のために」ではなく「人のために」を考えるべきで、個人補償も必要だという。帰還以外を選んでも不公平にならない選択肢を。

    大学で苦労したのは女性だからではなく、共産党活動をしていたからというのは初めて知った。

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著者プロフィール

産業技術総合研究所フェロー

「2014年 『原発事故と放射線のリスク学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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