食のリスク学―氾濫する「安全・安心」をよみとく視点

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  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535585744

作品紹介・あらすじ

BSE、中国製ギョーザ、有機農業、健康食品など、あらゆる食の問題を俎上に、リスク評価の視点でさばく。環境リスク学を築き上げた著者が、環境問題に取り組む過程で踏み込んだ「食の問題」への明瞭な解答。

感想・レビュー・書評

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  •  農薬,添加物,遺伝子組換食品など,感情に訴える一部のリスクを気に掛けるあまり,他のリスクを増やしてしまう。コストを考えずにゼロリスクを目指してしまう。社会にはびこるそういう現状を憂える本。著者は,環境リスク評価が専門。次第に食と健康の問題にもかかわるようになったそう。
     1991年から92にかけて,ペルーで起こったコレラ蔓延には驚く。トリハロメタンの発癌性を問題として,水道水の塩素消毒をやめてしまったところ,80万人がコレラに罹患,7000人が死亡したという。凄。自然信仰,生食信仰が蔓延する日本もひと事ではない。
     特に第二章がなかなか。食品や栄養が健康に与える影響を過大評価するフードファディスムの概念を,日本に紹介した高橋久仁子氏との対談。フードファディズムは両極端があって,「砂糖が有害だ!」という声が上がると,企業側が反対に「砂糖で頭がよくなる!」と主張するようなことが起こる。こうなるとどちらも同じ穴のムジナだ。
     フードファディズムに取り込まれやすいのは家庭で孤独に奮闘する女性たち。男性の参加で改善するのかもしれないが,道は遠い。食育基本法に対しても懐疑的で,その根底に食育は「女がやれ」という思想がこもっていると女性学者二人で気焔を上げる。根は深いのかも。
     著者は,食の安全を求める市民運動にかかわったこともあるそうだが,運動との訣別も経験。最初は正しくても,一つのスローガンを言い続けなくてはならなくなると,時代についていけずに間違った運動になってしまう。そういうのってきっとあるよね。いろいろと,難しいんだな。

  • 食や環境の安全・安心を考える人は必読。
    日本に「リスク評価」という考えを定着させた中西さんが、
    この1年に起きた様々な「食の安全」に関する問題に意見を述べます。

    「フードファディズム」の概念を日本に紹介した、群馬大の高橋教授との対談も必見。

    「基本的に日本食品メーカーは法律を守り食品衛生に配慮して一生懸命にやっている。でも消費者にありもしない効果を期待させるのはフードファディズムでしょう」
    「消費者が誤解したってそれはこっちの知ったことではないというマーケティングの勢いと、消費者が誤解するようなことを期待してはいけないという人たちとの両方が一企業の中でせめぎあっている」
    「ある意味で(広告の誤読は)国語教育の問題」
    「これだけ複雑になった消費社会の中で行間を読むべき領域と読んではいけない領域があることを国語教育で扱う必要があるのではないか」
    「コンプライアンスを徹底しているという会社が、法律に触れないからといって消費者の誤解を計算に入れたキャッチコピーを出していいのかと問いたい」
    など、マーケティング好きには耳の痛いが踏まえておきたい意見も。
    科学の専門知識がない方にも読みやすい内容です。

  • ちょっと昔の本ですが、十分読む価値があります。
    リスクトレードオフ、リスクとコスト話などあまり語られないですが意思決定する際に大事なことが書かれています。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/499546214.html

  • 筆者の考え方は、「食品の安全は特別ではなく、ある程度のリスクを許容せざるを得ない。食品についてリスクがゼロであるべきだとの考え方は誤っており、リスクゼロをいい続けると必然的にごまかしになる。」であり、非常に納得がいった。
    ロンボルグの本(の和訳)をほめている点も参考になった。

  • 過去のいろんな食の安心、安全について議論した本
    どれもこれもダメというわけではなく

    それをやめると相反するリスクもありバランスを考えなければいけない
    というようなことを書いていると思います。

  • 暮らし
    サイエンス
    思索

  • 危険だ!と踊らされる愚かさを実感。リスク評価を行う重要性を認識。読んで良かった目から鱗な一冊でした。オススメしていただき、ありがとうございました。

  • 原発問題での放射能リスクの評価の話からこの本にたどりついた。ここはひとつ、かかわりの深い食に絡めてこの手のリスク評価を知ろうとしてみた。

    著者は日本のこの分野では草分け的な方のようだ。市民運動と連携して研究を始めつつも、イデオロギーによる運動とは一線を画し、ファクトに基づく科学的手法を研究してきた。

    東大講演を収録した第1章
    ・科学物質と微生物のリスクトレードオフ
    ・リスクとお金のトレードオフ(西原理恵子を引用!)
    ・閾値とゼロリスク
    などを論じている。ここは、まあ当たり前とも思える内容。

    第2章は食糧化学者の高橋先生との対談。お互い、歯に衣着せぬ物言いで面白い。
    ・フード・ファディズム、健康食品批判は少し耳が痛い。
    ・理科の先生が新聞からトンデモ論を拾って授業に使ってしまう(論文くらい嫁、ということなのだが)
    ・安全と安心の混同など。

    第3章は著者へのインタビュー。
    ・食糧危機やバイオ燃料や有機農業や遺伝子組み換えやと俗説を斬る。しかし、そうしてファクトに基づいたリスク評価をすると、運動家と企業の両方から石もて追われるのだ。
    ・安全と持続可能性は基本的にはトレードオフ。
    ・専門家は、みんな自分の分野が大事なので、その意見は偏っているものだ。そこにゼネラリストの環境リスク研究者の出番があるのだが、じゅんぶん活用されていないし評価も報われない。

    第4章はブログからの抜粋。

    全体とおして少し気になったこと。ファクトベースのリスク評価は基本だが、それを受け取る側の心理も考えた、リスクコミュニケーションなり制度設計が重要だ。特に不確定性が大きい状況ではどこにブラックスワンが潜んでいるか分からないから、一見過度と見えるリスク回避行動も一概にバカにはできない。また岩田健太郎の言っていた、受容可能なリスク、そうでないリスクもあるだろう。交通事故のリスクは受け入れられても、牛を食べて脳がスポンジになるリスクはなかなか受け入れられない。この心理もリスクの見通しと関係があると思うのだが。

  • 子供ができて「食の安全」に興味を持ち、
    手に取ってみたもの。

    別の方のレビューに、以下とあったがまさにそうだと思う。
    「農薬,添加物,遺伝子組換食品など,感情に訴える一部のリスクを気に掛けるあまり,他のリスクを増やしてしまう。コストを考えずにゼロリスクを目指してしまう。社会にはびこるそういう現状を憂える本。」

    本としては、対談の寄せ集めなので、ちょっと読みにくいが、TVや新聞の報道に踊らされず、しっかり議論を見極めないといけないなぁとことはわかった。

  • 2015/10/01

    RISK=重篤度×risk

    リスクゼロはありえない

    リスクトレードオフ

    あるリスクを削減した時に、別のリスクが出てくる現象

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著者プロフィール

産業技術総合研究所フェロー

「2014年 『原発事故と放射線のリスク学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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