環境リスク学: 不安の海の羅針盤

著者 :
  • 日本評論社
3.95
  • (32)
  • (20)
  • (25)
  • (1)
  • (3)
本棚登録 : 208
感想 : 30
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535584099

作品紹介・あらすじ

環境にとって大切なものは何か?ダイオキシン、環境ホルモンなどの環境問題に真摯な態度で取り組んできた著者の航跡をたどる「最終講義」(1章)、「環境リスク学」の分野を切り開き、リスク評価の先をも見渡す2章ほか、中西リスク論のすべてがここに結実。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ふむ

  • 主に環境リスクについて論じた本。
    でも、そのテーマより所々に見受けられる研究者としての矜持に感銘を受けた。
    研究に対してどう取り組むべきかという信念が見える。

    下水道の話など、専門ではない人が読んでも分かりやすく面白い。
    もちろん、リスクとは何かどう評価するべきなのかについても論じている。
    環境だけではなく、ビジネスにもどうにか適用できないかと思う。

  • 初めは水特に上下水について始まり、BSEや環境ホルモンについて「リスク」について論じた本。
    始めの上下水に関する項はちょっと専門的だけど、そのあとのリスクに関する考え方はありとあらゆる事に応用出来るし、応用すべき。
    心に残った手法は
    リスクというものはそのものの及ぼす悪影響とそれが起こる確率で評価すべき。
    逆問題として物事をとらえる。これがあったからこれが起きたと一義的に物事を決めつけるのではなく、これを引き起こした要素はなんだろうと考えていく。
    それは膨大な仕事だけど、後から重大なミスはしない。

    こうやって書くのは簡単だけど、世間一般は早く結論を出したがり、事なかれに走りがちだし、根拠の曖昧なわかりやすい風評に流れがち。
    そんななか一人本質を追い求めた中西さんは科学者として素晴らしいだけでなく、人としても凄い勇気の持ち主だと思います。

    このような世間に流されない批判的な思考及び問題に対する合理的なアプローチそして合理的または倫理的かつ行動可能な解決策を考え出すこと。
    これは我々科学者、技術者が持たなくてはいけないもの。
    忘れそうになるけど、忘れたらダメだね

  • 中西さんと一緒に仕事の機会があったので手に取ってみた。

  •  先日、うちのマンションに中学生が深夜忍び込み、屋上でたばこを吸っていたという事件があった。そのため、「二度とこんなことがないように」何十万か払って非常口を鉄扉で檻のように覆う工事をした。ほんとうに、それだけ払って見合うだけものだったのか……なかなか正解は見えにくい。いちマンションのことならまだしも、環境全体にかかわることならなおさらだ。でも、その判断を助けてくれるものがある。それが「環境リスク学」だ。

     「安全第一」という標語がある。でも、あれは「リスクをゼロにする」ということとしてとらえてはいけないんだという。どんなに安全そうに見えても、危険はゼロにはならない。必要なのは、費用と効果をにらみながら対策することだ、というしごくまっとうな考え方。ところが、「絶対安全と言えるか?」という脅迫や、「ゼロじゃない」ことに対する不安が、その「まっとうさ」を押しのけてしまう。たとえば、この本に載っていた例でいえば……
    ・ダイオキシンの主役は、焼却炉ではなく、魚だった。
    ・ダイオキシン類によるリスクは、受動喫煙による虚血性心疾患のリスクのおよそ1/100。
    ・BSEのリスクを削減するために、全頭検査をするのは、ほぼ意味がない。
     ……などなど。
     ようするに、あれだけ騒いだ環境ホルモンも、まだ禁輸が続いているBSEも、まともな常識というより、「ヒステリー状態」で対策されているんだなぁということ。
     この「環境リスク学」の考え方が、今後ますますまっとうな「常識」として考えられるようになると、すこしは世の中、ましになると思うんだが。
     とにもかくにも。今年読んだ科学啓蒙書のなかで、いちばん刺激的で、いちばん意外な知識を得られて、いちばん読み物としておもしろかった。とくに第1章、この著者の「最終講義」は、痛快さと、人情と、教訓にあふれ、まるで講談のようなおもしろさ。ぜひご一読を。
    (以上2004年に読んだあとのレビューを転載、でもいまでもかわらぬ名著です。)

  • 現代科学に依存した生活であれ自然の中での生活であれ、人は環境からのリスクとともに生きていかなくてはいけない。
    3.11以降、みんなが原発の危険を意識するようになったわけだが、それだって存在するリスクにどう対応するかということに還元される。xx万ベクレルの放射性物質を検出xxミリシーベルトの放射線を測定という情報に単純反応して怖がってるだけの危険厨も、その反応を笑う安全厨も、リスクときちんと向きあっていないという点においてさして違いはない。
    リスクと付き合っていくためには、事象の機序を理解し、リスクを洗い出し、測定し、そして評価する、というごく当たり前で地味なプロセスの積み重ねしかない。そしてそれは調査し発信する側だけでなく、受け取る側においても求められる姿勢でもある。
    とはいえ、震災後の原発をめぐる狂騒の多くは義務教育レベルでの知識すらほとんどの人には理解されていなかったことに起因するわけで、僕らがリスクと適切に向き合うための道のりはまだまだ遠い。

  • 1-1-2 科学技術社会論

  • リスク不安解消には制御すること。そのための羅針盤がリスク評価である。めざすはGPS。

    環境を研究対象として扱うことは、政治だということ。

  • 普通の大学の研究は,社会との兼合いがそれほど強いものではない.でも,中西先生がやっているような環境,それも社会や人間に及ぼすリスクを考える,というテーマは,社会の短期的な損得に思いっきりぶつかる話である.だからこそ,本の中にあるように,国や会社や他の学者,マスコミなどと戦いながら,自分の信じるものを突き詰めてきた.その難しさは,同じカテゴリで仕事をしている自分にとって,想像もつかないものである.だからこそ,この本を読みながら,自分のやっていることがそれほど社会に影響を及ぼさないことを残念に思いつつも,心のどこかで安堵してしまう.

    この本は,環境のリスクということを知るにもよい本だけど,「研究をしていく」ということの意味を知るためにも読んで欲しい本である.それと,この出版には起こっていなかった福島の事故について,中西先生がどのように考えるのか,環境へのリスクをどう考え,どうアプローチするのだろうか.興味があるテーマだと思う.

  • "私は、最初の勝負は数値の確かさだ、そこで生き残れるか否かが決まる、ということをこの経験で知りました。そして以後、データの正確さについては非常に神経質になりました。"



    "ファクト(事実)へのこだわり、これが私の三十五年に及ぶ大学での研究生活を支えた背骨のようなものです。それはたぶん、言葉への不信感、言葉の無力さ、思想というものへの強い不信感か来ていると思います。"



    "日本の反対運動とか市民運動には、自分たちが治める場合どうするかという発想がないのです。お上に逆らえなかったという歴史的なものもあるとは思いますが、考え方を変えていかないといけないと思います。"




    "ここで重要なのは、自分たちで決定するということです。自分たちで決定しなければならないのだという意識、習慣、これまでの経験、そういうものが欠けていることが問題でしょう。"






    "生活の質を考える?それはいいことだ。生きている間も苦しいのだからと多くの方が言います。しかし、実は私はQOLの研究をすること、および、それを使ってリスク評価することを研究室の院生やCRESTの研究員に長い間禁止してきました。
    (中略)
    QOLのようなあいまいな特性をいかに取り扱うかということは、これからのリスク研究の大きな課題の一つだと思います。ぜひ、いろいろな分野の研究者が入ってきてほしいところです。"





    "車はなぜ許されるの?携帯はなぜいいの?ユビキタスコンピューティングなんて、いいの?という問題はある。しかし、市民はずるいから、これらの商品の魅力が大きいためにリスクに今は言及しない、考えないことにしているだけであって、もう少し落ち着けば、問題は過去の分まで含めて出てくるのである。"





    引用したい言葉がいっぱいwwww
    中西さんパネェっすwwwww
    でも今まで生きてきて、もっとも思想に共感できる女性です。

全30件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

産業技術総合研究所フェロー

「2014年 『原発事故と放射線のリスク学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中西準子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
奥田 英朗
村上 春樹
宮部みゆき
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×