真説 経済・金融の仕組み 最近の政策論議、ここがオカシイ

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  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535558397

感想・レビュー・書評

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  • 元日本銀行監事による金融業務に関する本で、市中銀行による信用創造の仕組みと銀行勘定、日銀による金融調節について主に書かれている。内生的貨幣供給論に基づいた信用創造に関する本は結構あるが、銀行簿記まで踏み込んだ本はないので貴重な本だ。各国の中央銀行によって行われている非伝統的金融政策についてはほぼ全否定で、アベノミクスについては非伝統的金融政策で「期待」が働いたかも「しれない」と全面的に否定はしてない。

    信用創造と銀行簿記について大変勉強になったが、最後の二章は延々と財政破綻の懸念と構造改革の推進が説かれていて頭痛がする内容だった。最後の二章は目を引くような事が書かれてないので読まなくてもいいだろう。内生的貨幣供給論と実際に日銀が日々に行っている金融調節の仕組みを知りたい人には必読だと思う。読んでおいて決して損はない。

    評点 7点 / 10点

  • 世界GDPに占める各国別ウェイト
    2000年
    米国31%
    EU24%
    その他15%
    日本14%
    ラテンアメリカ6%
    NIEs, ASEAN5%
    中国4%
    インド1%

    2014年
    米国22%
    その他22%
    EU21%
    中国13%
    ラテンアメリカ7%
    NIEs, ASEAN6%
    日本6%
    インド3%

    日本の経済成長率
    1950年代10.9%
    1960年代9.6%
    1970年代5.2%
    1980年代4.4%
    1990年代1.5%
    2000年代0.6%
    日本の高度成長は、東西冷戦構造がもっとも安定的であった時、東アジア唯一の民主主義体制工業国として異例の好条件・幸運に恵まれた故のもの。

    中国は日本の35年前の経済成長率及び一人当たりGDPと全く同じ。

    金利水準は、長期的根源的(自然利子率)には、経済の価値創生力・利潤率の写し絵。

    西暦1000年当時の世界5大都市
    コルドヴァ(イスラム最盛期のスペインの首都)
    開封(北宋の首都)
    コンスタンチノープル(東ローマ帝国の首都)
    アンコール(クメール王朝の都)
    平安京

    今、我々に求められているのは、生産性向上によってもたらされる付加価値の分配にあたり、先進諸国が共有してきた自由と平等の妙なる調和の仕組みをグローバル時代にふさわしく設計し直す事。

    年間約60兆円の日銀券が日銀から市中銀行→民間へ出て行き、それよりやや少ない額の日銀券が民間→市中銀行→日銀へと帰ってくる。

    日本の準備預金制度は1959年に発動された。

    金融政策とは
    1.現在の実体経済状況(生産、雇用、物価動向等)と相互に関連しあった金融状況(金利水準・体系とそれを前提とするマネーストック需給動向)についての徹底調査と情勢判断。
    2.それが不適正と判断すれば、望ましい実体経済状況と、それと整合的な金融状況への移行を目指して政策を決定。
    3.ベースマネー需要に対する供給調節。これによるベースマネーレートの示現
    4.これを起点とする新金利水準・体系形成への影響力行使・誘導。
    5.銀行-企業間の新しいマネーストック需給攻防→新マネーストックの生成。
    6.実体経済、金融状況に関する望ましい新均衡実現。

    実際にモノを言うのは、中銀の市場調節操作、ベースマネー需給地合い変化の結果として産まれた新ベースマネーレートが起点となって形成された新金利体系・水準と企業の投資効率との比較相対関係であってベースマネーの量ではない。(内生的信用拡張説)

    オールドQE論
    ベースマネーアップ→マネーストックアップ→物価、景況好転(外生的貨幣供給説)

    ニューQE論
    ベースマネーアップ→インフレ期待アップ→物価観・景況感好転を期待

    マネーストックは、企業が価格原理に基づき、儲かると考えて銀行から借り、銀行が採算に乗ると踏んで企業に貸す時のみ増加し、逆の時に減少する。企業、銀行の儲けを決める鍵は長短金利水準と体系。

    馬から水を取り上げる事はできるが、水を無理に飲ませる事はできない。

    金融緩和期に本部から融資促進を指示されて無理やり貸し込んだ時は、しばらくしてから不良債権が多発した。

    中銀が引き締めあるいは緩和政策をとる事は、二段ロケットのブースター役であり、それが市中銀行行動に点火しなければ効果は実現しない。つまり、自由主義経済体制下の金融政策は、営利経営体としての銀行の営業活動、バンキングビジネスを通してのみ、その効果を発揮しうる。

    国債について、個人や企業等非金融機関が引き受ける場合は、最初に引受手から政府への資金移動が起こるのでマネーストックは減るが、その後公共事業や社会保障等の名目で受け手に支払われるのでマネーストックが増え、トータルではストックの総量は不変。
    だが市中銀行が受け手になる時は、銀行の対政府信用創造が行われるだけなので、最初の時点でMS減にはならず、MS総量は市中銀行の国債引き受け分だけ増える。

    近年の日本経済の低迷は、対症政策不十分による実力以下の下振れではなく、実力そのものがダウンしている為。ゆえに、旧来の政策路線をひねるのではなく、苦しいが正しい抜本策を講ずる事。

    我々が真に求めるべきは、かつての冷戦構造下の高度成長期におけるような短期・循環的不況からの脱出戦術ではなく、冷戦締結・世界的パラダイム転換に伴って、それと意識せずに落ち込んでしまっている低成長体質からの脱却・内的発展活力再生の為の長期構造戦略である。

  • 元日銀マンの著者が金融の仕組みを解説した本だが、現在の異次元緩和策に大きな疑問を投げかけている。ベースとなる理論が脆弱で説得力がなく、極めて実験的な試みとしており、将来に禍根を残すことになりかねないと論じている。資金需要の乏しい金融緩和期の金融政策には限界があり、日銀総裁の言葉どおり、「期待に働きかける」ことで市場のムードを変えることしかできないとしている。デフレ脱却のための金融政策というが、そもそもデフレは本来的に経済低迷の結果であって原因ではなく、現在の処方箋そのものが間違っていると断じている。重い内臓疾患に悩む低体温の患者に使い捨てカイロを大量にあてがって体温を上げるようなもので、いずれ副作用に悩むことになると、面白可笑しくも厳しい表現も多く、現在の状況に警鐘を鳴らしている。異次元緩和の開始後もうすぐ3年になろうとしてるが、働きかけた期待は時間とともに弱くなり、金融市場の人間は追加緩和策にさらに踏み込むことの危険性を薄々感じ始めており、著者の意見が単なる少数派から変化する可能性が高まっていると思われる。

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著者プロフィール

元日本銀行監事

「2015年 『真説 経済・金融の仕組み』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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