日本財政「最後の選択」: 健全化と成長の両立は成るか

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  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532356224

作品紹介・あらすじ

「財政規律正常化」をルール化せよ!消費税再増税の延期によって、ますます遠のいた財政再建の道。このままで国家は破綻しないのか?瀬戸際に追い込まれた状態からどう脱出するかを、日本経済論のエキスパートが緊急指南!

感想・レビュー・書評

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  •  後の世代にツケ廻しをしないためには、否が応でも財政再建が必要になる、という本。
     ここでいう「財政再建」とは、財政破綻を回避することであり、この本でいう「財政破綻」とは、「国内の民間貯蓄(家計貯蓄+企業貯蓄)だけでは国債残高を持ち切れなくなった時」と定義されている。
     要するに、家計貯蓄と企業貯蓄で国債残高(すなわち政府債務)をカバーし切れなくなる前に、政府債務を何とか減らさねば、という話。

     個人的には、本書で主張する消費税の早期税率アップには大賛成である。
     軽減税率などという朝三暮四なものは論ずるに値せず。
     低所得者の生活を守るには、消費税率を20〜25%まで上げた上で、低所得者向けの給付を充実させるのが王道である。
     そういう意味で、日本の多くの低所得者は『だまされている』(笑)。

     余談だが、かつて中曽根元首相が提唱した『売上税』の導入検討時に、建築家の黒川紀章氏が、「この種の付加価値税を導入して所得税・法人税を減税するのは、普通のサラリーマンにとっては得になることなのに、何で反対するんだか」と嘆息していたのを思い出す。
     全くもって同感である。

  • 日本の財政について、現状と課題、簡単なシュミレーションがコンパクトに記され、頭の整理になった。
    デフレを脱却して経済成長を取り戻せば財政再建などできるのだ、という議論が粗雑であるか理解できる。
    しかし本書は15%への増税ありき、で書かれてるように感じられ、少し物足りない。

  •  本書は、日本の国家財政の維持可能性について、(中央政府の)一般会計と国債/GDP比率を取り上げて、具体的に財政危機がいつ来るのか?について書かれた論文” Is the Sky the Limit? Can JGBs continue to defy gravity?”(Hoshi Ito 2013) http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/aepr.12023/abstract (抄訳→ http://www.jcer.or.jp/j-fcontents/report.aspx?id=BJZSKKRZ6UTI72R5SRGWF6I7PHIQT83H WP→
    https://www.jcer.or.jp/academic_journal/aepr/pdf/AEPR%20Working%20Paper_3_Hoshi_Ito.pdf )の内容をアプデートし、解説・紹介したもの(具体的には、「第5章 日本の債務はどこまでいつ可能か」)。

     現状のままでは維持可能性が否定されることが経済学会のコンセンサスかと思われますが、これまで財政危機の具体的な時期まで明確化したものはありませんでした。
    (2009年までの先行研究のサーベイとしては、『財政の持続可能性と財政運営の評価』(加藤2009)http://www.esri.go.jp/jp/others/kanko_sbubble/analysis_05_01.pdf と、『財政赤字と財政運営の経済分析』(畑農2009)http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641163447 第2章が判り易いです。また、確率的動学モデル(ルーカス・ツリー・モデルの応用)で維持可能性を満たす確率のカリブレーションを行ったものでは、『日本の財政の維持可能性のカリブレーションによる検証』(櫻川・細野2011)http://web.econ.keio.ac.jp/staff/masaya/dl/forthcomingpaper/sustainable.pdf があります。)
     日本では、近年国債の大量発行により債務/GDP比率が急上昇している一方、国債利回りは低く抑えられたままですが、これは国内民間貯蓄が潤沢で金融機関を通じて国債購入に回っていたため、と考えられます(第4章)。本書では、民間貯蓄が国債を買い支え切れない様な高い債務/GDP比率(「民間貯蓄の天井」)に到達する時=買手がいなくなり債務危機が発生する時期、と定義し、いくつかの前提(一部パラメータは回帰分析で推定)を置き、シミュレーションを行っています。
     この結果、消費税を少なくとも15%まで引き上げなくては、2020年代半ばに財政危機が起こるケースが多くなりますが、20%まで引き上げれば、殆どのケースで維持可能、となります。(深尾先生は、「少なくとも消費税で20%引き上げに相当する50兆円程度の歳出削減ないし増税が必要」http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/12j018.html と仰ってます。) 
     また、伊藤先生は、金融政策については、2013年の「異次元緩和」や2014年の追加緩和は「正しい政策」とし、「デフレからの脱却、2%インフレ目標の達成のために金融政策が大きな役割を果たすのは当然」としながらも、長期的には金融政策(アベノミクスの第一の矢)は、潜在成長率の引上げ、生産性の向上、実質賃金の向上には無力であり、金融政策が実質金利をマイナスにしている間に、第二(中期的財政再建)、第三(成長戦略の実行)の矢を放たなくてはならない、としています。即ち、2015-6年は非常に重要な2年間になるとし、具体的には、①2015年夏までに経済財政諮問会議において、プライマリー・バランスを2020年までに均衡させる、2020年代半ばまでに黒字化する、という方針を立てる、②マイナンバーを早期に総合所得の把握に役立てることで、負の所得税導入等、社会保障給付の不正防止を容易にする、③消費税をインボイス方式に移行、④成長戦略の実行(2015年度法案成立)を挙げておられ、①については、オリンピック前の2019年4月に消費税15%引き上げを提唱されてます(P.260-261)。(5/12の日経では、2018年にプライマリー・バランスの赤字幅をGDP比1%にする中間目標にする様ですね。 http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS11H4N_R10C15A5EA2000/ )

    ところで、伊藤先生の2月の講演の記事について、クルーグマン先生は、納得できない、とされ待てます。↓
    マクロ経済的量子トンネリング
    http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20150227/macroeconomic_quantum_tunneling

    ノア・スミス先生は、2012年の星・伊藤論文http://www.nber.org/papers/w18287 について、デフォルト・シナリオが最も有り得る、としています。
    Financial repression, Japanese style
    http://noahpinionblog.blogspot.jp/2012/08/financial-repression-japanese-style_13.html

  • 150516 中央図書館
    財政破綻の可能性を指摘する学者と、「大丈夫だ」とのたまう学者を比較すると、誰が見ても、危機を指摘する学者の著作のほうが、正統で詳細で理論的でデータが具体的なのだ。「大丈夫だ」系の著作がことごとく品のないものであることは、見たらわかるではないか。政治家と日経だけが、このことにわざと触れず、「大丈夫だあ」の集団社会幻想の維持に手練手管を尽くしている。それは立場上しかたないかもしれないが、結局、破断点を過ぎた後で、東条英機や朝日新聞のように弁解するのであろう、「わかっていても、そうするしか仕方がなかった」と。

    システムがカタストロフを起こす時期は、理論的に求めるのは無理。しかし、どこかで不安定に転じることは絶対確実だと、まともに勉強してきた大人なら絶対わかるはずなのに。

  • 日本の巨大な国家負債について、それが永遠に持続可能ではなく、早期に財政再建に取り組まなければ大変な事態に陥ると警告する論はよく耳にしますし、それについて書かれた本もいろいろ読みましたが、現実には国債の金利は低いままですし、どうも「危機」に対する実感が湧きにくいというのが正直なところです。
    ただ、「永遠に持続可能ではない」ことは理解できても、「では、いつ、どういう条件下で破綻が起きるのか」については、これまで十分に説得的と言える説明を聞いたことはありませんでした。
    が、この本では、いくつかの十分合理的と言える仮定を置いたシミュレーションで、消費税を10%までしか上げなければ、2020年代半ばには民間の貯蓄総額が跛行された国債購入に必要な総資金を上回って国内消化できなくなること、その場合海外投資家に残りを買ってもらわなければならなくなるが、そこまで財政が悪化し、しかもさらに悪化を続けることが予想される以上金利に大きなプレミアムをつかなければならず、それによってさらに急激に財政が悪化することになるのでまもなく「財政危機」に陥るであろうことが、実にリアルに説明されていました。
    また、今後成長率を高めることができても、たしかにそれで税収は増えるものの、その分金利も上昇することとなるので、増税や歳出削減をせずに財政危機を免れることは結局できないこと、したがって、消費税の増税と社会保障費の削減は結局絶対に避けては通れないことが、初めて心から納得できました。
    増税と福祉のカットが政治的に難しいことはよくわかりますが、残された時間があとたった10年しかないのであれば、それを国民に十二分に説明して必要な措置を講じることは、政治の責任ではないのかと強く思わされました。
    これまでなんとかなってきたから、これからもなんとかなる、ものでないことは、どうやら間違いないようです。消費税率15%~20%、年金支給開始年齢68歳などは、今から覚悟しておいた方が良さそうです。

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著者プロフィール

政策研究大学院大学特別教授、コロンビア大学国際関係・公共政策大学院教授
1950年生まれ。75年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。79年ハーバード大学経済博士号(Ph.D.)取得。ミネソタ大学准教授、一橋大学経済研究所教授、IMFアドバイザー、大蔵省(現財務省)副財務官、東京大学先端科学技術研究センター教授、同大大学院経済学研究科教授、公共政策大学院院長、経済財政諮問会議民間議員等を経て現職。2010年紫綬褒章受章。

「2023年 『ESG投資の成り立ち、実践と未来』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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