なぜGMは転落したのか: アメリカ年金制度の罠

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532353520

作品紹介・あらすじ

世界一の自動車メーカーとして君臨し、優秀企業の代名詞だったGM(ゼネラル・モーターズ)は、なぜ経営危機に陥ったのか?その最大の元凶は、巨額の会社負担を伴う手厚い企業年金制度である。半世紀にわたる経営者、労働組合、政府の無策と妥協によって膨れ上がった退職者へのコスト-年金や医療費の支払いは、会社の利益を食い尽くし、債務超過へと転落させたのだった。そして同様の現象が今、優良企業や地方自治体を次々に破産させている…。全米屈指の金融ジャーナリストが、「アメリカ経済のブラックホール」と呼ばれる年金問題を切り口として、世界経済を揺るがすビッグスリー救済問題の背景を解説。年金基金の運用悪化に直面する日本の企業に貴重な教訓を与える注目作。

感想・レビュー・書評

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  • ビジネス書はやっぱり米国ものの方が濃厚。

  • GMは1930年頃から世界一の自動車メーカであり2007年までその地位を保っていたにも拘らず、あっという間に破綻してしまいました。製品戦略に起因する経営上の問題は勿論あるとは思いますが、この本を読んでGMがいかに昔に退職した人に対して多くのコストをかけていたのかが分かりました。

    GM従業員の時給は7000円だそうですが、半分は年金・保険給付の費用だそうです。とは言うものの、株主ではなく従業員に優しい会社であり、アメリカの会社らしくないと思いました。さらに驚いたのは、この問題はGMだけでなく、かつてアメリカが繁栄していた時代に活躍していた殆ど全ての企業(自動車、鉄鋼)をはじめ、地方自治体(消防士や警察官等の公務員)まで同じ問題を抱えているようです。

    近い将来にこのシステムをリセットする必要があると予想され、そうなれば日本もその嵐に巻き込まれることになり、背筋が寒くなりました。

    以下は気になったポイントです。

    ・2006年までの15年間で、GMは従業員の年金プランに550億ドルをつぎ込んだ一方で、配当は130億ドルしか出さなかった(p15)

    ・GMの労働組合は、会社が資金を出す月125ドルの年金、物価スライド式の賃上げ、コスト半額負担による医療保険という内容と引き換えに、1955年までの5年間労働争議(ストライキ)を休止すると言う契約に合意した(p35)

    ・賃金には税金がかかったが医療給付にはかからないので、給与以外の付加給付を求めるようになった(p37)

    ・1961年にGMの労働者25万人を率いてストライキをうつと、賃金は2.5%であるが年金は12%増加を勝ち取った、さらに従業者向け全額健康保険、退職者向けの入院・医療・手術保険の半額を勝ち取った(p46)

    ・1963年のGM利益がピークだった頃、現役従業員(40.5万人)に対して、年金受給者はわずか3.1万人であった、年金基金へのGM拠出金は9500万ドルに対して、支払った給付金は2500万ドルであり、かなりの黒字で運営されていた(p47)

    ・1964年の労使契約で、アメリカ史上最高益を発表したGM(シェア50%)は、年金は50%上昇、15年間で年金は3倍、退職者の医療費が50から100%負担することになった(p47)

    ・1979年の契約では、15日の有給休暇以外に9日の休暇の増加、さらに数週間のバカンスが認められた(p62)

    ・2003年の交渉では、早期退職者への給付は月3000ドルあまりに引き上げられた、UAWに属する労働者は健康保険費用の7%を払うのみ、全国平均は32%(p93)

    ・2005年のGMシェアは25%となり(ピーク時の半分)、1964年よりも販売台数が少なかった(p95)

    ・2005年の在職従業員は14万人に対して、退職者及び扶養家族含めて、110万人の治療費を払っていた(p96)

    ・旧世代の標準的な労働者は40年間働いて10年程度年金生活をした、現在は25年間働いて、ほぼ同期間年金生活をする(p114)

    ・政府機関が年金給付を始めたのは民間企業よりも早かった、しかし導入されたのは危険な業務から、1857年に障害を負った警官に受給資格があったが、1878年に25年勤務した者で55歳に達したすべての警官に年金が拡大された(p119)

    ・サンディエゴ市は、観光地としての魅力を宣伝したにも拘らず、ホテル室料にかかる税金はカリフォルニア州で最も低かった、ごみ収集は無料で行っていた(p226)

  • 本書が刊行された後にGMはついに倒産したが、アメリカ企業や地方行政を崩壊させたアメリカ型の年金制度や健康保険制度、労働組合の問題性を提示した一書。
    ストライキを回避したいが為にアメリカ自動車企業は労働組合に対して妥協を繰り返し、未来に負債を残してしまった。
    多大な企業年金を残したまま倒産したアメリカの象徴でもあったGMの姿と背景を知ることでアメリカ社会の現実を知ることができる。

  •  GMが本年6月1日に連邦破産法11条の適用の申請を行った。
    GMが破綻したことは、個人的にはベルリンの壁の崩壊と同じような衝撃である。しかし、その真の原因が企業年金制度や医療保険に根差していること、また問題を先送りしてきたことに対する「付け」であることを知り、それ以上の衝撃を受けた。問題をいつまでも先送りしてはならない。

  • 原題は"While America aged"で、こちらの方が内容を正確に表している。副題にもあるように、米国の社会保障制度、特に年金制度を扱ったもので、GM、NYの地下鉄、サンディエゴ市の各年金制度がどのように破たんしていったかが詳細にかたられる。GMについては最近報道が多いこともあって、興味深く読めたが、NY地下鉄組合やSD市の公務員組合については正直、読んでいても気が乗らなかった。GMはゆっくりと、SDは911テロによる株価暴落のため急速に、それぞれ年金債務が手に負えない額になってしまうわけだが、根本にあるのは組合交渉の過程において、給与という目先のキャッシュを重要視しすぎるあまり、年金のような未来の支払いに対する危機感がマヒしてしまい、高齢化、長寿化によってその戦略ミスがあらわになってしまったということのようで、洋の東西を問わず、同じような過ちが繰り返されるのだなぁというのが感想。著者の分析によると、ビッグスリーは寡占状態であったがゆえに、給付のコストを価格に転嫁することが可能で、(公務員のような)年金の大盤振る舞いが可能になったのだとか。が、21世紀初めには、年金プランに550億ドル拠出した一方、配当が130億ドルとなっており、株主の会社というよりは組合の持ち物になってしまった。本書では、組合に300億ドルを拠出することで健康保険の負担からは解放されたところまでが描かれているが、逃れきれなかった年金債務が今日のチャプター11の最大の要因となった。■年金基金からお金をくすねるのは、いつでも都合のよい方策に思える。未来の受給者は声を上げないからだ。

  • 府立もあり

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