2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か

著者 :
  • 日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532324414

作品紹介・あらすじ

 米中対立の激化に伴い、戦略物資としての半導体の価値が高まっています。米バイデン政権は政府助成による国内企業のテコ入れを急ぎ、中国への技術移転を阻止する政策を矢継ぎ早に打ち出しました。日本でも半導体産業の復興を目指した国家戦略が始動しています。自動車で進むCASE革命をはじめ経済のデジタル化において半導体は不可欠な存在であり、需要は高まり高度化もますます進んでいます。
 経済のグローバル化が進み、半導体をはじめとするテクノロジー産業では、国際的な分業・物流が発達しました。米中で二極化する世界では、複雑化したサプライチェーンの要衝を戦略的に支配下に置かなければ、経済の安定と競争力を保てなくなっています。
 政府が経済を管理する国家安全保障の論理と、市場競争に基づくグローバル企業の自由経済の論理が相克し、半導体をめぐる世界情勢はますます不透明になっていきます。
 日本は20世紀に「半導体大国」と呼ばれ、世界の市場を席巻しました。だが、米国、韓、台湾との競争に破れ、かつての権勢は見る影もありません。大きく変わる国際情勢の中で日本に再びチャンスは訪れるのでしょうか。半導体産業の復興を夢見て、水面下では政府、企業がにわかに動き始めています。
 本書は、米中対立の情勢分析、最先端の技術開発の現場ルポ、過去の日米摩擦の交渉当事者の証言などを交えながら、技術覇権をめぐる国家間のゲームを地政学的な視点で読み解き、ニッポン半導体の将来像を展望します。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    国々の覇権争いは、「半導体」という新インフラに戦場を移した。
    何故半導体なのか。それは、あらゆるものがインターネットに接続されるようになった今、情報の集積装置である「半導体」の生産を握ることこそが、国際政治を主導できるからだ。それは経済戦争だけでなく軍事戦争でも同義である。今や戦車や戦闘機といった古典的兵器よりもむしろ、ドローンを始めとした遠隔兵器のほうがより低コストで効果的になっている。ドローンの性能差がCPUの処理速度で決まる以上、性能の高い半導体を製造することは戦争の勝敗にも直結してくる。

    半導体戦争が加速し始めた契機は、トランプによるファーウェイへの禁輸措置だ。本当にバックドアが仕込まれていたのかはともかくとして、この決定は中国の情報産業に大ダメージを与えた。
    それは超巨大企業「TSMC」の存在があったからだ。TSMCは台湾企業である。エヌビディア、クアルコムなどの米国の大手をはじめ、世界のほとんどの半導体メーカーが製造を委託し、TSMCの生産力なくしては製品を市場に送り出せない。中国のファーウェイやZTEも同様であり、この新たな規制によって中国製スマホの勢いが一気に削がれることとなった。

    そして今は、半導体をはじめとした世界の主要産品、特に情報通信に直結する素材が、「経済戦争」の道具として使われるようになってきている。
    トランプは米通商法232条の発動によって、通商政策を経済的枠組みから国家安全保障の枠組みに置き換えた。すなわちWTOやFTAのルールを無視して、正々堂々と貿易規制をかけることが可能となった。これは日本も同様であり、2019年7月1日には韓国への化学品3品(いずれも半導体の製造に欠かせないもの)の輸出管理を厳しくする措置を行っている。「ホワイト国除外措置」として当時話題になったが、これも「兵器などの製造に使われるおそれがあるため」という国防上の理由を用いている。

    今や、国防戦略と経済戦略は重なっている。国防×経済と言えば武器輸出が一般的だが、どちらかといえば軍需による直接的な利益獲得を目指す政策だった。しかし、半導体製造の独占化は、「自らの経済圏の中でサプライチェーンを完結させ、他国を締め出す」という守り&兵糧攻めの戦略である。しかもコロナで「サプライチェーンの保護」が安全保障の重要課題となった今、一昔前ではギルティとされていた「ブロック経済」が黙認されつつある。
    半導体をめぐる攻防は、もはや戦争と変わらないところまで来ているのだ。

    「だが、いま半導体をめぐって論じられている経済安全保障は、軍事を含めた国家の安全保障の一側面に他ならない。半導体の問題は、国家安全保障の問題そのものなのだ。」
    ――――――――――――――――――――
    本書の感想だが、筆者の説明がとても巧みで、抜群に分かりやすい。半導体やその関連産業の知識が無いまま読んだが、情報分野をめぐる地政学をすんなり理解できた。また、TSMC上級副社長や、禁輸措置を喰らったファーウェイの日本法人会長のインタビューなど、ビッグプレイヤーの生の声を載せているのも非常に嬉しい。情報分野で低迷している日本が、2030年に向けて取るべき行動も示してあり、決して言いっ放しではない。
    これがコンパクト(300ページ弱)にまとまっているのは素直に凄いと思う。間違いなく名著であり、是非読んでみてほしい。
    ――――――――――――――――――――

    【まとめ】
    1 世界で加速する半導体投資
    世界で1年間に出荷される半導体チップの数は、1980年には約320億個だったが、2020年には1兆360万個に膨れ上がった。2030年までには2兆〜3兆個に達するとの予測もある。
    21世紀のインフラの主役は半導体である。サイバー空間の戦略的な重要性が高まった今、データの受け皿となり処理を行う半導体こそが、地政学を左右する戦略物資となったのだ。

    2021年、バイデン政権は拡大し続ける中国半導体メーカーに対抗するため、次世代の先端技術の研究開発に290億ドルを投じる「米国イノベーション競争法案」を可決。米国内の半導体産業を強力に支援し始める。
    その戦略の目玉となったのが、TSMCの誘致である。さかのぼること2020年5月15日、半導体を受託生産するファウンドリーの世界最大手、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が、アリゾナに工場を建設する計画を発表した。TSMCは、技術力でも規模でも、世界のどのファウンドリーが逆立ちしてもかなわない怪物企業だ。エヌビディア、クアルコムなどの米国の大手をはじめ、世界のほとんどの半導体メーカーが製造を委託し、TSMCの生産力なくしては製品を市場に送り出せない。

    バイデン政権の狙いは、米国に唯一足りない「製造分野」の穴埋めであった。サプライチェーンを米国の国内で完結させれば、外国から自国の情報を守ることも、逆に外国を攻めることも可能なる。そうした半導体の供給先の大部分は米国の自動車産業であった。

    バイデン政権が公表した報告書は「米国単独では脆弱性に対処できない」と指摘するものであった。日米とオーストラリア、インドが協力する「Quad」や、G7で連携し、半導体同盟を組んで中国への依存を減らす方針を明確にした。
    これに対して中国は即座に反発する。2021年6月9日、北京で、中国外務省のワンウェジピンが「中国を仮想敵とすることに断固反対する。中国が正当に発展する権利は誰も奪うことができない」と発言した。
    その中国も、補助金の規模では米国に負けてはいない。2014年に設立された官製ファンド「国家集積回路産業投資基金」の第1号と第2号を通して、5兆円を超える政府助成を実行している。これだけだと米国とほぼ同じ額だが、地方政府のファンドを加えると、合計10兆円以上が投じられたとみられる。

    また、欧州でも動きが加速していた。EU加盟27カ国の政府は「演算素子と半導体の技術に関する共同宣言」に署名。域内の半導体産業の強化が加盟国の共通の目標であることを確認し、域内のサプライチェーンへの投資を増やすことで合意した。


    2 ファーウェイ禁輸措置
    バイデン政権の戦略の発端は、トランプ政権時代の経済制裁に遡る。2019年、5G機器にバックドアが仕掛けられているとして、アメリカがファーウェイに対して禁輸措置を行った。
    しかし、当初の禁輸措置には大きな抜け穴があった。台湾である。ファーウェイ製品に欠かせない高度な半導体チップが台湾で生産されおり、米国から中国への半導体の輸出を禁止しても、台湾から中国への半導体の供給が止まっていなかったからだ。
    そこで米政府が目をつけたのが、ファーウェイ子会社の半導体メーカー、海思半導体(ハイシリコン)である。ハイシリコン自身はチップの開発・設計に特化し、ほとんどの製造を台湾のTSMCに委託していた。その台湾・中国のサプライチェーンが、制裁下でも生きている。米政府は、何らかの方法でTSMCとの関係を切断すれば、ファーウェイを干上がらせることができると考えた。
    2020年5月15日、トランプ政権は決定的な作戦に打って出た。米国製の機器やソフトを使って製造した半導体をファーウェイに輸出することを禁じ、この措置を外国企業にも適用したのだ。この新たな規制によって、台湾のTSMCは中国のハイシリコンにチップを供給することができなくなった。

    半導体は、その作成過程に使用される素材も含めて、外国経済を殺すことのできる武器となりうる。政府が「安全保障」の名のもとに貿易管理をひとたび行えば、特定の国のサプライチェーンを崩すこともできてしまうのだ。


    3 中国が選んだ戦略
    半導体分野での世界最強企業TSMC。2020年の売上高は5兆円を超え、3年間で11兆円の設備投資を予定している怪物である。
    同社は米と中の間をバランスよく取引していた。トランプ政権がファーウェイへの輸出にストップをかけるまでは、売上の約半分は米国向け、2割が中国向けだった。米政府の要請を受けアリゾナに建設する新工場には、5ナノの技術を移転するが、台湾では既にその先の3ナノを量産し、さらに2ナノの製造ラインの建設にも入っている。アリゾナ工場が完成するのは2024年だから、その時点で5ナノはもはや最先端ではない。たとえ相手が米国であっても、虎の子の技術は手渡さないのだ。
    一方で米国と敵対する中国にも生産拠点を置いており、2018年末に稼働した南京工場は1世代前の16〜12ナノで生産している。技術レベルが中程度であるならば、米国も目くじらを立てないと踏んだのだろう。

    TSMCからのチップ輸出を禁止された中国は、今はまだ力不足の国産ファウンドリーにテコ入れし始める。国策ファンド「国家集積回路産業投資基金」を設け、合わせて5兆円を超える資金を半導体産業に流し込んだ。また、自給自足を強いられたことによって中国の製造技術が発達し、NAURA、AMECといった新興中国メーカーが徐々に売上を伸ばしている。

    2021年3月17日、中国最大の国策ファウンドリーであるSMICは、深圳で3億5000万ドルを投じて新工場を建設すると発表した。米国の制裁を受けて、半導体の国産化を急ぐ中国政府の政策に沿った動きである。
    生産するのは、最先端ではない線幅28ナノのチップだという。このレベルならば、米政府による禁輸措置に抵触せず、米国からも製造機器を調達できる。スタートアップや家電メーカーの試作品なら、10ナノ以下の最先端のチップは必要ない。
    世界的な半導体不足による価格の高騰は、華強北にも及んでいる。スタートアップに人気が高い機器制御用のマイコンは、入荷まで1年以上待たされる場合もあるという。「深圳スピード」が衰えれば、中国企業のイノベーション力にも広く影響が出るだろう。中国政府としては、チップを絶えることなく深圳に流し込み、エコシステムを崩壊から守る必要があったのだ。

    最先端の技術力だけを比べて優劣を論じると、本質を見誤る。国産化を急ぐ中国政府の一連の政策を見ると、最先端の技術の追求よりも、供給の絶対量を増やすことを優先しているように感じる。


    4 デジタル三国志
    ●アメリカ
    半導体の生産拠点は、多くが環太平洋の沿岸部に集中している。
    米国は半導体の覇権を守るため、米国が必要とするファウンドリーの集積地である台湾を守ると同時に、台湾のファウンドリーを米国内に移転させた。前者は東シナ海、南シナ海での軍事行動を増やして中国を牽制したこと。後者はアリゾナでの新工場の建設である。

    バイデンの戦略によって、国際分業の流れが変わるかもしれない。そもそも製造部門を切り離すファブレス化は、半導体メーカーの投資リスクを減らすために考案されたものだ。だが、中国の台頭により、このビジネスモデルが逆に米国の地政学リスクを高めるという皮肉な結果となっている。
    「開放」から「鎖国」ヘ――デジタルをめぐる通商政策の大きな方向転換が起きる要因が、いまの米国には揃っている。米国には世界からデータを集めるGAFAがある。データを処理する半導体の開発では、米企業が世界最高の技術力を有する。AIの研究も世界で最も進んでいる。サイバー空間の土台となるインターネットは、実質的に米国の団体・組織が運営している。つまり、枢要なデジタル技術のほとんどは既に米国が握っている。
    あとは足りなかった半導体の製造技術を国内に確保しさえすれば、デジタル分野で自由貿易を追求しなければならない理由は弱まるのではないだろうか。

    ●中国
    台湾からの半導体の供給に再び道を開くためには、台湾に軍事的圧力をかけ続けて「その気になれば台湾を実効支配できる」という状況を作り出しておくのがよい。このセオリー通り、南シナ海での軍事行動によって制海権を手にしている。
    中国の最大の武器は国内市場だ。今後の米政府の輸出規制が高水準の技術に限定されれば、各国企業が中国国内の需要を求めて活発化することは間違いない。

    また、中国政府はアメリカが脱退したあとのTPPに参入することに前向きである。今やアメリカではなく中国が「自由貿易」の旗を掲げて世界に打って出ており、今後、中国が特にデジタルの分野で、WTOや国際電気通信連合(ITU)などの国際機関を通して積極的に国際ルールの形成に参加してくるのは間違いない。

    ●欧州
    欧州の戦略は、他の国々の動きを左右するような突出した技術を確立する点にある。
    例えばオランダにあるASMLは、高度な露光装置を作ることのできる世界で唯一のメーカーだ。ベルギーの研究開発期間IMECとも提携し、オールヨーロッパで開発を支えている。
    また、英国に拠点を置くアームは、半導体チップの設計に特化したファブレス企業だ。クアルコム、アップル、エヌビディアなどのメーカーは、アームから基本回路の設計図をライセンスの形で買い、このアームの図面を組み合わることで、自社のチップの設計図を完成させていく。極端な言い方をすれば、各メーカーはアームの図面がなければ自社のチップを作ることができない。
    アームがソフトバンクから米国のエヌビディアに売却されることが発表されたとき、英国政府が待ったをかけた。米国が半導体のすべてを握ってしまうと、英国は地政学の戦いの駒を失ってしまうという判断からだった。


    5 日本の動き
    米国と日本は同盟関係を結んでいるが、半導体産業を巡ってはライバル関係であり、黙って見ているわけにはいかない。日本政府はTSMCと2年に渡る厳しい交渉の末、国内に工場を誘致することに成功する。岸田首相は総額1兆円に及ぶTSMCの投資を政府として支援する方針を表明した。

    アメリカと比べて予算や軍事防衛の面で太刀打ちできない日本が持ってきたプレゼントは、「研究開発支援」である。2021年5月31日、経産省はTSMCが日本で国内の半導体材料や製造装置メーカーと共同で行う先端半導体の研究開発を支援すると発表した。これに先立ち、TSMCは3月に「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」の設立も決めていた。茨城県つくば市の産業技術総合研究所に検証ラインを設置し、政府の助成を受けて3次元技術の研究に取り組む。
    2019年には、東大教授の黒田忠広が率いる東大TSMC連合のプロジェクトが動き始めている。日本での生産はともかく、時間軸が長い研究開発の領域では日本とTSMCの絆は弱くない。日本には次世代の製品の研究拠点としての魅力がある。日本は半導体の素材や「後工程」などの領域において他国をリードしているからだ。

    世界をリードする分野の一つに、NTTが開発した「光電融合素子」がある。これを使えば電気の代わりに光で動く超高速の半導体チップを作れるかもしれない。また、インターネットの技術にも革新が起こりうる。
    世界でただ一国、日本が光電融合素子を生産できる国になれば、日本は半導体バリューチェーンの新たな要衝となるだろう。NTTの技術には半導体の地政学の地図を塗り替える潜在力がある。そのためには、日本の国内に工場がなければならない。NTTがメーカーである富士通と組む理由が、ここにある。日本の安全保障だ。


    6 日本はどのうように立ち回るべきか?
    自由貿易の原則を守りながら、安全保障の要素をうまく組む。そのために日本はどのような戦略を取ればいいのか?
    例えばTPP。これからのTPPは、米、中、欧、台湾が入り乱れた壮絶な駆け引きの場となるだろう。米国抜きで日本が築いたTPPが、アジア太平洋の覇権をめぐる新たなゲームの舞台となる。この展開は、2021年のTPP議長国である日本にとって、むしろ舞台回しの役を買って出る絶好の機会かもしれない。舞台によじ登ってきたプレーヤーたちに、どう動いてもらえば新しい国際ルールをつくれるか。TPP11の生みの親として、日本が矢継ぎ早にアイデアを示し、各国の議論を先導することができるはずだ。

    技術面で言えば、グローバル・バリューチェーンのなかで、できるだけ多くの要衝を押さえ、中国や米国にも一目置かれる立場を目指すのが、最も現実的な路線である。
    そのためには日本がどの分野で強さを発揮できるか考えなければならない。たとえば製造装置や素材といった半導体を「つくる」分野。日本がもっとも強い分野だが、産業の性格としてみれば従属的であることに変わりはない。TSMCがアリゾナに工場を建てれば、日本企業を含めて多くのサプライヤーが「随伴投資」をするだろう。言い換えれば、現時点で国内の機器・素材メーカーが強いといっても、肝心のファウンドリーがいなければ日本の半導体産業は復興しない。
    そのためには半導体を「使う」分野の発展が必要だ。「使う」があれば、自ずと「描く」が発達する。「つくる」もついて来る。半導体産業の復興は、未来の社会を描くユーザー企業の想像力にかかっている。

  • 半導体というレンズを通じて学ぶ地政学の本、って感じ。

    デジタルが世界に広がり、その元になっている半導体の重要性がますます高まり、
    国家の安全にまで影響を及ぼすようになったってことでしょうか。

    これまで国が関わる産業ってのは、インフラ系ってイメージがありましたが、
    半導体が新たな国のインフラになり得るように思えました。
    少なくともアメリカや中国はその重要性に気が付いていて、
    とてつもない投資を国として行っているということが分かります。

    国と国の争いに関するニュースは断片的には理解していましたが、
    その背景にある意味まではあまり理解していませんでした。
    今回、半導体というキーワードを元に、それらの繋がりが理解できました。
    ただし、この分野に疎い自分としては、ちょっと内容が難しかったです。
    でも、これくらいのことは理解しておかないとダメなんでしょうかね。
    世の中のことを正しく理解するうえで、役立つ一冊と言えそうです。

  • 昨今新聞等で、品不足によりその単語を目にしない日は無くなってしまった、半導体。
    本書は半導体についての、2030年をめどにした国やメーカーの勢力図やその推移を著者自身の取材をベースに予測した一冊。

    80年代には隆盛を誇った日本の半導体メーカーの凋落は著しく、現在では、半導体製造のための原材料と、製造装置の分野でしかその存在感を示せなくなってしまった。

    ただ、本書では現在NTTが開発中の光トランジスターや、富士通とパナソニックの半導体部門が合併してできたソシオネクスト社の高い技術力等、製品としての半導体で、まだ日本が十分巻き返せる可能性を示唆しているので、これらが実現し、日本の半導体がまた世界半導体企業のTop10ランキングに返り咲いてくれることを切に願う次第。

    最後になったが、半導体ビジネスに関わる全ての人必読の一冊である。

  • 良書 まあサクサク読めました。ちょっとまとまりがなかったかも。

    結論は、半導体のカスタム製造を手掛けている台湾のTSMCのために、台湾が地政学的に重要な地域になっている。世界は、TSMCの工場を自国に作ってもらうために躍起になっている。

    TSMCは世界に類を見ない優秀なファウンドリー(半導体を受託生産する企業)である。
    微細加工技術の雄:回路線3ナノを量産できるのはTSMCのみ。

    前半は、TSMCをめぐっての、米中独日のせめぎ合いを描く。
    後半は、半導体産業の全体を俯瞰し、その概要を説明する。

    <半導体関連企業>

    ウエハー製造 信越化学、SUMCO
    ウエハー薄膜形成装置(PDV,CDV)、研磨装置製造 アプライドマテリアル
    完成半導体検査装置 KLAテンコール
    エッチング装置 ラム・リサーチ
    ファウンドリー ①TSMC 60%、②サムスン電子 13%
    EDA(半導体設計ソフト)イノプシス、ケイデンス(ECAD)
    マイクロンテクノロジー
    メモリ キオクシア、ウェスタンデジタル
    イメージセンサー SONY
    光電融合素子 NTT、富士通
    マルチメディア TI
    ロボットカー ソシオネクスト
    パワー半導体
    MPU インテル、AMD
    カープラットフォーム トヨタ
    5G ファーウェイ
    組み立てパッケージング キューリック・アンド・ソファ・インダストリーズ

    目次は以下

    序章 司令塔になったホワイトハウス
    Ⅰ バイデンのシリコン地図
    Ⅱ デカップリングは起きるか
    Ⅲ さまよう台風の目-台湾争奪戦
    Ⅳ 習近平の百年戦争
    Ⅴ デジタル三国志が始まる
    Ⅵ 日本再起動
    Ⅶ 隠れた主役
    Ⅷ 見えない防衛戦
    終章 2030年への日本の戦略

  • 名著。半導体を軸に、国際政治をスッキリと描いて見せている。一般的に地政学は地理的に有利な陣地の奪い合いだが、半導体の場合は加えて知財やデジタル世界での陣取り合戦。各国それぞれの得手不得手も組み合わさって複雑な所を、非常に切れ味よく書いている。

    ソシオネクスト:富士通とパナソニックの半導体部門を統合して2015年に設立された。難易度が高いチップの開発設計に特化したファブレス企業。

  • アメリカと中国の半導体を巡る争い。
    半導体のサプライチェーンを築くことが、国家の安全保障に繋がる。アメリカが圧倒的な技術力を誇る台湾のTSMCを誘致することで、上流から下流までの全てを手に入れようとしている。中国をサプライチェーンから排除することは、中国自らの半導体作りに向かわせることにもなる。
    また、中国の市場の魅力も捨てがたいのかもしれない。
    ファウンドリとファブレス企業という分業が、今の世界のサプライチェーンをより複雑にしている感じもあります。
    かって日本が強かった半導体は、メモリなどの一部の分野に追いやられてしまいましたが、基礎研究の分野では、大きな力を持つ。NTTのIOWN構想は、とても気になりました。電気でなく光で情報処理する技術。日本だけがなし得ているという。商用や展開にはいくつもの障害があるかもしれませんが、応援したいです。
    自動車の自動運転やIOTに始まる半導体の未来もなかなか、楽しいと感じました。

  • 2021年に出版された半導体に関する世界情勢をまとめた本。

    「電子立国日本」などと言われた時代から幾年月、すでに半導体製造を担っているのは、米国や、台湾や、欧州。そして、世界規模での分業化が進んでいる、とのこと。

    半導体は、生活のさまざまな場面を支える資源であり、文化的生活を送るためにも不可欠なものになっている現在、世界レベルでの分業化の危うさを感じました。

    私がこの本を読んだのは、2023年になってから。
    この本が出たのは2021年。

    この本が出たばかりの頃に読んだとしたら、「日本は1番じゃなくなっちゃったのか〜。ちょっとは頑張ってくれないかなー」ぐらいの感想しか持たなかったかもしれない。けれど、昨年に始まったロシアのウクライナ侵攻や、それに対する各国の反応などを聞いていると、技術を手元に用意できない怖さを感じました。

    商売だけではなく、安全保障としての技術の蓄積も考える必要があるのだと、とても考えさせられました。

  • 半導体の産業における重要性は薄らと認識していたが、安全保障面でも重要物質であり、地政学的な側面から解説してくるところに目新しさを感じた。
     
    日本の立ち位置がパッとしないが、製造装置や素材面で優位性があるし、TSMCとの協働研究や熊本への工場誘致など着実に戦略を練っているところは興味が引かれる。

    米国の王者の貫禄、中国の台頭、台湾の技術力と強かさ、欧州のスマートな振る舞い、小国の存在感、日本の巻き返し。それぞれの思惑がひしめき合い、物語が展開されていく。胸熱な読書になりました。

  • 筆者は優れた国際報道をした記者に贈られる「ボーン・上田賞」の受賞者。ジャーナリズムの観点でも十分ドラマティックで刺激的なのだが、分析と提言がすばらしい。2023年に話題になった「半導体戦争」(クリス・ミラー著、ダイヤモンド社)と併読すると、半導体をめぐる国際政治・地政学と技術トレンド、人間模様それぞれの解像度が一段と上がる。

    半導体戦争もそうだが、ベースとなる感想はアメリカ恐るべし、モリス・チャン恐るべし、だ。日本への提言はおそらく著者の知己の経産省幹部らとの議論もふまえてのことと思われる。提言にある環太平洋半導体同盟などは対中国でみても必要性はわかる。その前の章のシンガポール、コーカサスの事例も興味深い。日本には半導体材料など素材・化学の分野で世界的に高シェアの企業は多い。日本なしではできないサプライチェーンをいかに磨き、冗長性があり、堅牢な仕組みにしていけるかが肝要なのだろう。

    日本はかつて通産省が産業構造の変革を主導して成功したという歴史(一部は神話?)があり、その後はおとなしくなった。今起きている日本国内でのTSMCやラピダスの動きは世界が半導体重商主義といえる状況になる中での日本の目に見える対策なのだろうが、米中だけでなく韓国や台湾、ヨーロッパの友好国との連携と競争になる。これらを支えるには政治の安定と周辺産業の高度化・集積が不可欠だろう。

    後者については、スタートアップ育成、その前の段階の教育・研究が重要であり、本に出てくる東大の黒田先生の取り組みが広がることに強く期待したい。同じく本に出てくる小池氏は日立と台湾UMCのファウンドリー合弁の挫折からラピダスの社長についての再挑戦だ。東芝にいた舛岡富士雄さんもご健在。日本の半導体の1990年代からの凋落からの復活戦で、世代を超えた挑戦に期待したい。

    前者については、アメリカが「もしトラ」の前提ではなく、「すでトラ」と構えて、東アジアでは韓国のユン政権、台湾の頼次期政権との政治の友好関係を揺らぎないものにしておく必要があると痛感した。日本の政治が揺らいでいる場合ではないなあ。

  • 著者の膨大な取材量が窺える良書だった。
    半導体が国家の存亡を揺るがす可能性を持つ戦略物資であることが細やかに説明されていて納得感があった。現代的地政学に関しての考察も興味深い。
    部品としての半導体そのものについての解説はざっくり。工学書ではないので当然だけれども、興味はそそられた。

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著者プロフィール

日本経済新聞社編集委員
1961年生まれ。北海道大学理学部卒業、85年日本経済新聞社入社。科学技術部、産業部、国際部、ワシントン支局、経済部、フランクフルト支局、論説委員兼国際部編集委員、アジア総局編集委員などを経て現職。

「2021年 『2030 半導体の地政学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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