意外と会社は合理的: 組織にはびこる理不尽のメカニズム

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
3.53
  • (5)
  • (22)
  • (17)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 256
感想 : 26
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532319175

作品紹介・あらすじ

だらだら続く会議はどうしてなくならないのか。現場のことをわかっていない管理職ばかりがなぜ多いのか-。不条理に見える組織の実態も、その仕組みがわかれば会社はもっと働きやすい場所になる。マクドナルド、HP、マッキンゼー、P&G、アルカイダ、ボルチモア市警、サモア政府、グーグル、ザッポスなど多様な組織を例に、採用、報酬、マネジメント、組織文化、イノベーションといった組織における不合理とその本質を、気鋭のコロンビア・ビジネススクール教授とハーバード・ビジネス・レビュー・プレス編集長が組織経済学の観点から説き明かす。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 軽いタッチで読みやすく書かれた組織経済学の本。会社だけでなく軍隊や教会を含む、組織一般において一見不合理に見えるような現象を、組織経済学の視点から解明しようとしている。それらの不合理に見えるものは、利害や目標のトレードオフのなかでもっともマシなものなのである(p.12f)。

    組織経済学は経済学のなかでも傍流に置かれがちな分野だ。経済学というとミクロ経済学やマクロ経済学といった、究極的には価格の決定メカニズムがすぐに頭に浮かぶ。こうした理論は価格が我々の作為とは別のところで、つまりかの「見えざる手」で決まるという発想にある。需要が増えれば価格は上がる。供給が増えれば価格は下る。だが、ここで実際に価格の決定(あるいは設定)をしているのは個々の企業だ。その中には価格を決めている人がいる。つまりこうした経済学では企業をはじめとする組織内の人間行動をブラックボックスにしている(p.30-34)。この組織内の人間行動を研究するのが組織経済学である。例えば現在の効率的な企業を可能にしたのはプロの経営者と中間管理職からなる組織だという組織経済学の認識があり、これはチャンドラーのいう「見える手」なのである(p.165-171)。

    本書はおそらく組織経済学の概念で一番有名な、インセンティブの話から始まる。インセンティブを与えれば、人はそれに従って動く。インセンティブの設定の仕方がまずければ、不合理な結果を生む。例えば逮捕の数を巡査の報酬に連動させたボルチモア市警。結果として逮捕しやすい軽い犯罪によって大量の市民が逮捕され、重大な犯罪は放っておかれた(p.54-57)。結果は不合理だが、実に合理的な過程だ。組織には一般的にエージェント問題があるが、インセンティブによってこれを解決するのはとても難しい。働く意欲を引き出す適切なバランスを見出すのが難しいことを、いくつもの具体例で著者は明らかにしている(p.47-83)。メソジスト教会の成立過程や、信者獲得の軌跡を取り上げているのが面白い(p.89-103)。邦題だと会社の話の本に見えるが、実際は一般的に組織を扱った本であり、こうした教会やはたまた軍隊の話、さらにテロ「組織」アルカイダも出てくる。

    他にはイノベーションについて興味深いことが書かれている。イノベーションを起こす組織は少ない。それは単に大企業病などの問題ではない。例えば、マクドナルドがその初期の段階でイノベーションを広範に認めていたらどうなるか。フランチャイジーが勝手なことをやりはじめたら。収拾もつかなくなるし、マクドナルドが何の会社なのか分からなくなるだろう。つまり、イノベーションを抑圧するのはブランドを守るためであり、一貫した品質を守るためなのだ(p.125-133)。これは極端な話だが、まさにイノベーションはその余地を残しつつ、組織としての統一性を保つのが難しい事柄である。著者は軍隊の例を引いて解決の方向を示そうとしている。軍隊こそ組織の中の組織であり、厳密な指揮命令系統が必要とされる。とはいえ、新たなタイプの敵に対応できるよう、イノベーションは必要だ。そこで、アメリカ陸軍はウェストポイントという教育機関と、その中でも特にSOSH(Social Scienceの略)に特別な地位を与えて、そこでイノベーションを許している。こうして強固な指揮命令系統とイノベーションの両立を図っている(p.146-153)。

    また管理職について。日本の企業でも無能な管理職がいるように、管理職というのは不合理な行動をしているようにみえる。実際に作業しない管理職は、組織の中でどんな合理性を持っているのか。著者によれば、それは組織の均質性を保つ役目を担っているのだという。管理職は上からの方針を組織の下部に浸透させ、また組織の下部で起こっている事柄を上に伝達する役割を持つ。管理職が無能なのではなく、会社の実態を把握するという仕事がそもそも効率の悪いものなのかもしれない、とまで書かれている(p.178-182)。

    その仕事が80%が会議であると言われるCEOの行動についても面白い。CEOはなぜそんなに会議に出てばかりいるのか。これは当たり前だが会議に出ることが合理的だからだ。会議という、対面でしか得られない・伝えられない情報があるからだ(p.194-198)。会社の実態を把握するのに数字や単なる文章では伝わらないことは多々ある。会議でそうしたノン・バーバルな情報が得られる。また、リーダーシップとは文化を醸成して組織の方向付けをすることだが、こうしたことも文章にしづらい(p.253f)。

    というように、組織内の一見不合理な行動を組織経済学で軽く説明しようとした本だが、ちょっと読みにくい。誰もが不合理と思う行動→その事例→組織経済学の概念を使った解明→なるほど!、といった形の記述になっていない。最初のインセンティブの話はだらだらとずっと続くし、論の流れがいまひとつはっきりしていない。発想や題材はいいのに少しもったいない。
    「大きな組織内で勝手連的にネットワークが形成されることの危険性は明白だ。説明責任、調整、監視、職務と責任の定義といったものがすべてうやむやになってしまう。そもそも組織が存在するのは、そうしたものをはっきりさせるためだ。」(p.311)

  • 組織がなぜ不合理な、「なぜこんなにも簡単なことも出来ないんだ」という疑問に答えてくれる本。

    平たく言えば、個人的には不合理に見える事象も、組織レベルでは合理的な場合がある。
    あるいは個人個人が個人の合理性を追求した結果、組織として不合理に陥る等、かなり示唆に富んだ本だった。

    ただし、経済の専門用語はともかく、米国の軍隊の用語も頻繁に出ており、しかもその解説がないため、分かりにくい章も多い。
    また本の構成自体がそうなのか、翻訳者の腕なのかは置いておくが、1ページ当たりの文字の量、情報量が多く、しかも硬い文章のため、読みにくい。
    もう少し、その辺りを考慮した構成になっていれば、★5だった。

  • Evernote

  • 伝統的な組織と今日の大企業の中にある共通点を持ち出して、組織の仕組み―不合理、不条理さを明かしていく。
    結局なんでそしきはそんな風になっちゃうの?というのは第1章 なぜ組織を大きくするか でスコット・アーバン氏の「アーバンスペクタクルズ」とHPヒューレット・パッカードとの比較で説明されており、その後はダラダラ事例が続いてやや飽き気味だった。

  • ビジネス
    社会

  • 不条理に見える組織というものの実態に不満を抱く従業員は少なくない。だらだら続く会議、現場をわかっていない管理職など。組織というもののシステムに幻滅し、背を向ける前にどうしてそうなっているかという考察はやってみる価値はある。その意味でテーマ&視点としてはとても面白い本と思う。

    リーダーの役割とは何か。それは明文化できない、組織の方向性を決定する事であったりルールではない文化を醸成する事にある。その為一見非効率な会議に出席する必要がある。CEOの仕事はあえて会議を通じて情報を集め、メッセージを発信する。
    またピラミッド型のヒエラルキー組織ではトップに行くにつれて現場の情報が失われていく。

    仕事をチーム制にするか組み立てライン化にするかという議論もある。組織や時代によって差異はあるだろうがこういったのも一長一短がある。チーム制にすると全体性の生産性は上がるかもしれない。だが成果にフリーライドするものがある為インセンティブ設計(評価)は難しい。じゃあ組み立てライン化がいいかというとイレギュラーなトラブルが起こった時にカバーしにくい、なにより部門を超えたチームプレーがないと成り立たない組織もある(例:警察組織)
    その為にインセンティブ設計というものは大事である。何より名人の技というのは得てして目立たないもの。自律的組織において評価に不満があるというのはある意味健全だという事まで著書では言っている。

    賃金を上げるという事はどういう事なのか。会社側から見ると賃金を上げるという事は堕落を防ぐ為に監視を強化する必要であり、組織の肥大化に繋がる(トレードオフ)

    管理職と従業員の間の軋轢が絶えないのは何故か?
    理由①人は能力の限界まで出世する
    理由②管理職は会社のソフト実態を把握するという極めて不愉快で効率の悪い仕事を引き受けなくてはいけない→作業者より管理職の方が重要(ペンシルベニア大学のイーサン・モリックが行った管理者と作業者の相対比較の研究)

    中央集権化とイノベーションは矛盾する。規律や指示への服従を重んじる一方で創造性と想像力を育てる方法を模索している。(例:軍隊、マクドナルド)
    又組織の変革にはコストとメリットが存在する。ペーパーレス、サードスペースについても議論の余地はある。

  • なるほど、一見理不尽に感じるシステムにも理由があることが理解できた。逆に、変化を期待するものに対しても、合理的理由がなければ成立しないということだ。

    合理性を失った判断をした組織が淘汰されていく。

  • 141101 中央図書館
     経営戦略やビジネスモデルを解説する経営書ではない。「組織の経済学」を用いて、企業や警察や軍隊という組織が、<span style='color:#ff0000;'>組織目的と構成員の目的を、インセンティブシステムやコミュニケーションツールによって、どのように擦り合わせていくのかの</span>、様々なヒントを紹介する。タイトルの「意外と会社は合理的」というのは、訳がわからない。原題の『The Org』すなわち『組織』が、本書の本質を表している。
     組織の経済学は、ノーベル経済学賞も受賞したコースの「企業の本質」に始まる。伝統的な市場の経済学がブラックボックスとして扱ってきた企業などの組織内部について、分析の手がかりをあたえるものだ。組織は、自らの内部に抱えるものと市場で売買するものをどのようして決定するのか。答えは「効率を最大化できるように」だが、<span style='color:#ff0000;'>その鍵となるのは「取引コスト」</span>である。なぜ「組織」というものが存在するのかを理解する鍵である。
     では、組織の内部ではどのような論理が働くのか。構成員のインセンティブはどのように制御されるべきか。単純な経営学は「成果主義」とのたまうが、警察のような組織ではそれは通用しない。そもそも明快な「成果」の定義は存在しない。<span style='color:#ff0000;'>さまざまな指標の緩やかなミクスチャ</span>がおそらく唯一の解である。
     それでも、こうしたイ<span style='color:#0000ff;'>ンセンティブシステムが、最も優れた構成員の不満の種になる可能性は常にある</span>。時間を潰して給料だけをもらおうとする輩でなく、仕事を趣味とし、インセンティブや報酬は必ずしも気にせずに良い仕事をしようとする人々に、評価と仕事ぶりがかみあっていないというフラストレーションを抱かせるリスクだ。警察の仕事でいえば、逮捕者を出さずに安心を実現している担当者が疑いもなくもっとも優れているが、それは評価されにくい。この論理を突き詰めると、<span style='color:#ff0000;'>最も優れた構成員が不満や幻滅を抱くことが、組織が機能している証拠という逆説的な結論</span>となる。このことを、強力なインセンティブなど経済合理性を盲信して組織を運営しようとするマッチョな経営者とそのスタッフは、戒めとすべきである。

  • 組織に不合理で理不尽なメカニズムがあるのは体制成立の背景の由来によるということだが、それは組織に身を置くものなら誰でもわかっていることだと思う。

  • 組織を機能させるために決めたルールが、結果として目標達成に効かない、という話の羅列。

全26件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

ボストン大学スレーター家「行動経済学」寄付講座教授。著書に『会社は意外と合理的』(ティム・サリバンと共著、日本経済新聞出版社)。『悪い奴ほど合理的』( エドワード・ミゲルと共著、NTT出版)。

「2019年 『コラプション なぜ汚職は起こるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

レイ・フィスマンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×