稲盛和夫最後の闘い: JAL再生にかけた経営者人生
- 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2013年7月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532318987
作品紹介・あらすじ
「誰のカネやと思ってる!あんたにそれを使う資格はない」官僚的な経営幹部らを容赦なく叱り飛ばした稲盛。リーダー不在という日本の課題に斬り込む迫真のルポ。
感想・レビュー・書評
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稲盛和夫氏が逝去されたのをきっかけに手に取ってみた。稲盛和夫氏は経営者としてより、哲学家として好きな部分が多い。稲盛氏の「愚直に、真面目に、地道に、誠実に、働け」という言葉は今の自分の軸となっている。
そんな稲盛氏のJAL再建の裏側。とんでもない偉業に対し、一定数のやっかみ、僻みを持つ人らの反応は今の日本が病んでる証拠なのかも。
ただANAの立場からすると同情はする。
読み物としても面白い本だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
会社更生法を適用されたJALの再生に、「晩節を汚すからやめておけ」と周囲に言われながらも奮闘した稲盛和夫の経営者人生最後の闘いを描いたドキュメント。大西康之氏は企業もののドキュメンタリーの名手として私が愛好する作家さんであり、最近は『起業の天才!―江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』がベストセラーになっています。稲盛和夫の考え方や行動指針がJAL再生という壮大なテーマの中で具体的に描かれており、特に大企業においてこれからリーダーを目指す人にとっては非常に参考になる内容と思いました。
稲盛和夫を言い表しているのは、エピローグにある以下の部分だと思います。
”20代から80代まで「静」と「動」が同居し続けた稀有の人物。それが稲盛和夫である。「静かな思想家」だと稲盛を思ってみればいささか生臭いし、エネルギーにあふれた「動の経営者」だと思って接していると、「リタの心」を説かれて驚かされる。(中略) 稲盛が持つ「静」の部分は社員への愛情、「動」の部分は事業への闘志と言い換えることができる。”
私自身も稲盛和夫を尊敬していますが、どうも「利他の心だ」「利害に流されるな」といった言葉ばかりが先行し、精神論が好きな人たちばかりが信奉している印象があり気に入らない点もありました。そんな中、利他の心を持つのはビジネス上の大義を考える時であって、やると決めたら数字は納得いくまで細かく見るし、間違った考え方は嫌われてでも正すなど心を鬼にしてやり切る、という本書の整理は非常に腹に落ちるものでした。
逆に、どんなに心を鬼にして事業を前に進めることに徹したとしても、現場の声に耳を傾けることに時間を惜しまないこと、会社や社会に貢献するために自分の利害を捨てること、各社員の成果や行動を深く知りフィードバックをすること、会社で起きていることを数字で可視化して細かく理解してPDCAを回すこと、などの利他の心は大前提として持っておけるよう意識を深めたいと思いました。利他の心を知るためには、以下の部分が参考になります。
”皆さんの中には、楽をして儲けたい、有名になりたい、と言った利己心や邪な心があるでしょう。それが人間として普通の状態です”
”しかし、皆さんの中にはもう1つの心があります、不平不満を言わず、人様によくしてあげようという美しい心。良心です。利他の心とも言います”
”それは、努力をして呼び覚まさないと出てこない。心を整理して、浄化して、良心を目覚めさせなければなりません。大義のために苦労をしましょう。そうすればきっとすばらしい人生が開けてきます”
また、彼がJAL再建を引き受けた動機も非常に印象的で、3つの大義を挙げています。
①2万人近くの人員削減を実施した後に残った32,000人の雇用を守ること
②日本の航空業界を健全な競争がない独占状態に陥ることを防ぐこと
③JALの再生失敗が与える日本経済への悪影響を食い止めること
どれも自分の名声や成長などのためではなく、会社の、そして社会のためにモチベーションを高めていたことがよくわかります。
また、アメーバ経営についても触れておきます。稲盛さんの実践するアメーバ経営は、組織を情報と目的を共有できる10人程度の小集団に分け、この単位で具体的な経営指標を設定してPDCAを繰り返していくというもの。徹底的に透明性を重視するOKRの精神と一つ一つの行動を数字で評価し改善する管理会計の手法をMixしたようなイメージです。また、見える化した数字を見て行動にまで落とし込む、経営者の精神を一人ひとりに求めていたのも特徴です。
”なぜ収入が減ったのか。なぜ費用が増えたのか。数字にはすべて理由があるはずだ。それが分かれば、次の手が打てる。だが天気や景気のせいにした説明では、対策の立てようがない。
(中略)
「・・・という理由から、今月は収入が減っております」
「で」と稲盛。
「減ったのは分かった。だからどうするんや」
「それは、その・・・」
「おまえは評論家か!」
先月と今月の数字の変化を把握し、その原因を突き止め、対策を練り、翌月の見直しを立てる。そこまでやらなければ、稲盛は納得しない。”
これを見て、自分が2〜3年目でやっていた「収保速報」という売上高の速報値をまとめて上に報告する業務で当時の鬼上司から「大口増減を知るためにやっとるんちゃうぞ」と言われたことを思い出しました。自分は「とにかく正確な数字とその原因を示さなきゃ」という思いでやっていたわけですが、それは「あとは経営にお任せします」と言わんばかりのフォロワー気質だったなという反省が募ります。あの時の自分が「数字上こういう傾向があるので、さらに現場に聞いて深掘りしたところ、こう考える顧客が増えているようです。したがってこうして行きたいのですがどうでしょうか?」と言えていたら、もっと重要なPJTを任せてもらえたのかもしれません。
最後に、印象的な抜粋をもう一つ。
”利益がなければ安全のための投資も、路線の維持もできない。利益のために安全を犠牲にしろというのではない。安全のために利益が必要なのです。”
これは本当にそのとおりで、「自分たちがやりたいこと」のためには絶対に利益が必要なんですよね。でも大企業にいると「与えられた予算だし」とか「ここはお金使っていいや」とかともすれば「なんで予算を減らすんだろう、ケチな会社だ」とすら思ったりします。しかしそれは完全に経営者視点から逸脱している。常に会社がやりたいこととそのために必要な行動に目を向け、徹底的にやる。その先で、「やりたいこと」を見つけて投資していく。ただ文句を言うのではなく「何が課題でそのためにこれをやっているんだ」「だったらこう言うやり方の方がいいんじゃないか」などPDCAにつながる言動を意識して行きたいと感じました。 -
面白かった。
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稲盛和夫によるJAL再建はあれよあれよという間にV字回復を遂げて完了してしまったという印象だったが、大変な苦労、葛藤が当然にあったわけでその内幕を詳細に教えてくれる本書は迫真のドキュメンタリーであり、極上のリーダー論である。腐りきった巨大官僚組織の再建はとてつもない難事業で、カリスマ性と哲学、信念のある稲盛氏でなければ到底無理だっただろう。
稲盛氏の自著はたくさん読んできたが、他者による評伝は氏のパーソナリティ、生き様を客観的に鮮やかに伝えてくれる。若くして創業し従業員たちの人生を背負い始めた時から心と信念を磨き続けてきた80歳稲盛氏のJAL再建は、稀代の名経営者の最後の大仕事であり、日本社会に熱いメッセージを残した。そのメッセージを確かな構成力でまとめ上げた見事な労作。大いに感動し感銘を受けました。
また、稲盛氏は民主党に期待し、物心両面でかなりの支援もしていたわけだが、野党転落、党の解体、特にかわいがっていた前原氏のなれの果てには相当寂しい思いをしただろうと思う。「民主党が天下を取ってもいい加減な政治をすれば、次に修正された自民党が政権を取る。何回か繰り返す間に人類の英知が生まれ、新しい国に変えてくれると思う」という民主党が政権を取る前の自身の発言がいくらかの慰めになるだろうか。 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/735605 -
JAL再建に本気で取り組んだ稲盛さんの熱意が伝わってきました。
仕組みがあっても、それを実践するのは社員。
やらされるのではなく、腹落ちさせて自走できるようにするのがいかに大変なことか。
稲盛さんの言葉で「問題が起きたら自分が動け。自分で決めて、自分でしゃべれ。それがリーダーだ」が印象的でした。
今度はアメーバ経営を学ぼうと思います。 -
『稲盛和夫 最後の闘い』
自ら目標を見つけて燃える自然性、燃えている人がいれば自分も燃えていく可燃性、何があっても火がつかない不燃性。人間は三種類に分けられるという発想は面白いと思った。私がかつてバイトをしていた早稲田アカデミーは「本気でやる子を育てる」というキャッチコピーを持っているが、これは自然性と可燃性の人間を育成していくという強い意思表示であると考えるし、今になって非常に良いコピーであると感じる。 -
稲盛さんのソウルを感じられる一冊。