ものづくりからの復活: 円高・震災に現場は負けない

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (493ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532318055

作品紹介・あらすじ

本社よ覚醒せよ、現場よ連帯せよ。「全産業空洞化は幻想」「サプライチェーン改革はバーチャル・デュアルで」「電力改革には品質の視点が不可欠」「現場発の国家戦略を」-。日本再生への「現場主義宣言」。高度5メートルからの日本経済論。

感想・レビュー・書評

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  • ・ものづくりとは、設計情報(顧客にとっての付加価値)をものに作り込み(媒体に転写し)、市場までの「設計情報の流れを」を作り、「良い設計・良い流れ」で顧客や社会を満足させ、結果として売上げを得る経済活動のこと。

  • 日本のものづくり哲学をとある研修の資料として読んだのがもう4年前。
    インテグラル(すりあわせ)とモジュラー(組み合わせ)を社内、社外の組み合わせで説明してあったのは納得がいきよく覚えている。
    またものづくりとは設計情報の媒体への転写という説明も割とすっとはいってきた。この本は円高・震災に対してものづくり現場目線から見た藤本氏の反論である。

    先ずものづくりの現場は工場の現場を思い浮かべるかもしれないが、広義で扱っており適用範囲が広い。
    現場は仕事をする場所であり、農業者の田畑や放送局、小売店などすべての働く場所を指していると受け取った。
    ものづくりも同様に広義であり、設計情報の転写というとわかりにくいかもしれないが、
    例えば料理であればどういう材料を使い、どういう手順で料理し、どんなものと組み合わせて出すかと言うアイデアやデザインを媒体(この場合は肉や野菜)に加工すると言うことだ。
    車の場合なら例えば車のデザインも設計情報の一つで金型を使って鋼板という媒体にプレスと言う方法で転写する。

    モジュラー型のものづくりは1部品1機能のものを組み合わせお互いに独立していると考えるとわかりやすい。部品を組み合わせてできる製品がそうだ。
    インテグラルは例えば小型車の乗り心地をどうやってよくするかと言うことで、一部の設計を変えると他の部品の設計も変えることになり最適化のすり合せが重要になる。
    日本は有形物だけでなくサービスなどもこのすり合せのものづくり現場の力が強いというのが、いろいろな現場を見て回った藤本氏の意見で、
    安易に外国への移転を考えるのではなく日本にマザー工場を残すことが外国の同じ工場の競争力強化につながると説く。

    生産性の向上と言う場合も金銭的な生産性と1製品製造にかかる時間と言う物的生産性を分けて考えている。
    労務コストに直結する加工費が海外の4倍であっても、単位時間辺りの生産量が3倍であれば充分競争の範囲に入る。実際の自動車工場の例のようだ。

    では日本に残すべき現場の条件とは?
    顧客へと向かう設計情報の良い流れを作る現場のことであり、
    ①正確で(品質)②よどみが無く(リードタイム)③効率的で(生産性)④柔軟な(フレキシビリティ)流れのことである。
    これは一つの工場のこともあるし、あるサプライチェーンのこともある。
    また例えば組み立て工場の正味作業時間は改善の進んだトヨタ系で50%台で通常の有料現場では10%程度と生産性だけでも改良の余地は充分にある。

    原発、震災からの復興、円高等々に対し現場からの提案をあげているが紹介しきれない。
    日本の製造業はもうだめだでもなく、むやみに日本は強いというのでもなく客観的に見てよく鍛えられた強い現場を残すのが海外に出て行く場合にもプラスになると言う話でよくわかる。
    ただ単純な組み合わせ産業はやはり中国の方が強いので、企業を残せでも、ある産業を残せでも無く強い現場であれば場合によっては業態転換をしてでも残せと言う厳しい意見でもある。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:509.21//F62

  • 生産プロセスの改善を担うため、良い現場は国内に残すべし。

  • 東京大学大学院経済学研究科教授兼ものづくり経営研究センター長、組織学会長、進化経済学会長の著者(東京大学経済学部卒業、三菱総合研究所を経て、ハーバード大学ビジネススクール博士課程修了(D.B.A)。専攻は技術管理論・生産管理論・経営管理論)が、広義のものづくり(工場でものを削る匠の世界のことではなく、設計の意図をものに作り込む=設計情報の流れを作り、良い設計良い流れで顧客や社会を満足させ、結果として売上をあげる経済活動)といった切り口で、今よく言われる、ものづくり悲観論〜海外生産移管の流れに異論を唱えた本。
    日本の現場の力を維持向上しながら、海外活動にも展開して行くべきとの主張。サプライチェーンについての考察も詳しく災害時のために、仮想的な二重化することで、競争力と強強靱化の両立との意見。
    ものづくり論から、農業、電力にも話が及び、電力については、日本の電力の品質の高さから、必ずしも価格だけで、海外進出とはいけないだろうとも。
    考察の内容も、具体的でわかりやすい。読みやすかったが、さすがにボリュームは多く、重複した内容もありちょっと疲れた。


    目次
    第1章 それでも良い現場を日本に残そう―全体の俯瞰
    第2章 現場の理論―ものづくり経営学の広がり
    第3章 ものづくり現場の虚像と実像
    第4章 サプライチェーンの危機と復旧
    第5章 原発事故後の電力供給―ものづくりの視点から
    第6章 現場発の国家戦略
    第7章 草の根イノベーションとインストラクター
    終章 日本に良い設計・良い流れ・良い現場を

    メモ(長い)
    ハンデを加味した「競争力」と、条件を揃えた「生産性」
    賃金格差と工数当たり出来高。
    に着眼して整理。

    目的地を絞った海外直接投資とお金をかけない国内生産革新との二本足で立つ経営

    全産業空洞化論の危うさ
    空洞化論による自滅。
    空洞化論が空洞化を生む。
    そもそも空洞化と言われ長くたっている。ハンデをしょってから長く、持ちこたえてきた。

    海外生産移管で日本生産拠点はマザー工場。その落とし穴。
    単純な生産移管ではなく、「戦うマザー工場」
    生産性の高さで、ハンデを埋める「競争力」を目指すことで、進出先の賃金上昇に対して戦えることで、進出国での競争力維持ができる。国内の製品開発、設計能力も、生産拠点があることで機能維持できる。
    単純な生産移管をしていると、再び低賃金国への脱出で、長い将来が望めない。

    サプライチェーンの強靭化と競争力確保
    サプライチェーンの脆弱ポイントのチェック
    チェックポイントは、依存度、可視性、代替可能性、可搬性

    在庫に積み増しや生産の分散化などでは、競争力の低下。

    バーチャルディアル化。本当に二重化するわけではなく、緊急避難できるよう平時から設計情報の可搬性を確保し、避難訓練をしておく。供給契約にバックアップ条項をいれるなどする。
    考えるルールとして
    ①通常はあくまでも競争力を最高にする最適編成を選択せよ。
    ②どちらかのラインが被災したら、まず、被災品目の在庫と需給状況を迅速に把握し、被災ラインの復旧が間に合うか判断せよ。間に合えば被災ラインの現地での復旧とせよ。
    ③現地復旧が間に合わねば、ライン問で設計情報を移動させ、無事な方のラインを一定期間内に汎用ライン化せよ。並行して被災ラインの復旧も進め、復旧が完了したら、元のラインに被災品目を戻せ。

    統合型組織能力の高い日本の現場
    労働力不足の中で経済が急成長した結果、企業内の分業は抑制され、企業間の分業は促進された。つまり、企業内で多能工が増え同時に企業間でサプライヤーシステムが発達し、企業な以外ともチームワークが発達。

    モジュラー型とインテグラル型アーキテクチャ
    モジュラー型ー 社内共通部品を寄せあつめる、クローズドモジュラー型と業界標準部品でできるオープンモジュラー型
    インテグラル型ー機能要素と構造要素が多対多で対応

    国境を超えにくいもの、労働力と資本
    19世紀のリカードは、資本は海外活動の不確実生を嫌って国境は越えないとしていた。

    生産性ロスは、企業のこと本社や本国拠点ののうりょくいてんのうりょくと受け入れ側国拠点の能力吸収能力、及び製品・工程アーキテクチャの影響を受ける。インテグラルよりであるほど、生産ロスは大きくなる傾向がある。
    (企業のこと特殊的なものづくり組織能力・能力移転能力・能力吸収能力)✖(製品特殊的なアーキテクチャ)✖(立地特殊的な賃金・為替レート)の組み合わせで現地拠点生産費が決まる。

    マザー工場は能力移転能力と、自らの現場能力を鍛え続けていなければならない。自ら戦わないレッスンプロ的存在では存続はむつかしい。


    ものづくりとは工場でものを削る匠の世界のことではなく、設計の糸をものに作り込む=設計情報の流れを作り、良い設計良い流れで顧客や社会を満足させ結果として売上をあげる経済活動。

    日本自動車産業悲観論、電気自動車礼賛論にたいして、、、
    電気自動車の普及とコストについて、電池技術の難しさと電池のコストが固定費的要素より変動費のかたまり(希少金属等々の問題を言われているか?)でたくさん作ればコストがどんどん下がるわけでない。
    (そもそも個人的には、、、
    電気自動車はモジュラー的でエンジン車よおり誰でも作れるという世間の話納得できない。自動車がインテグラル型である理由はそのムーブメントの問題だけではない。そもそもの車両としてもすり合わせの塊の製品で、モーターになったから簡単にといったモジュール型製品とは思えない。と思っていたら同じような内容、パソコンと車ではモジュラー化といっても意味が違うとのくだりが)

    トヨタ(特に品質問題)についての著者の見解
    設計複雑化という魔物に正面から力勝負しいてしまった。VWは何とか機能を落とさずに製品設計や車種構成を新しい形で単純化合理化しようとしていたのに。

    会社はピンチでも現場はチャンスだ
    正社員だけの生産ラインで、作業の無駄の削減に真剣に取り組める。中小企業にも元気なところは多い。大企業が悲観論で組織的鬱に陥っていないかが心配。

    大震災で起こったこと
    車載マイコンが代替可能性が低かった。
    化学品が装置産業的で代替供給が量の面でも厳しかった。
    微小な部品が複雑なサプライチェーンで実態把握に時間がかかった。
    3次部品が特定企業に集中するケース。ダイヤモンド構造。
    サプライチェーン情報の可視化

    震災復興期における現場組織と本部組織
    本部=マトリクス組織、現場=ネットワーク組織
    問題情報を持つ主体を迅速に「コミュニケーションでつなぐ」ことを重視するネットワーク、つながった主体が「共同で問題解決する」という継続性を重視するならマトリクス(プロジェクト組織)
    別の箱ではなく横串。

    高い法人税で日本から逃げるのは、優良外資系企業のアジア本社。税収だけでなく外国人や外資系の優秀な経営者、
    管理者が出て行くことが問題か。
    企業でも、異質人材の確保が必要。

    イノベーション。アイデア創造→問題解決→事業化→普及の4段階で上流の2つの部分が花形だが、下流の活動も重要。
    サービス業にもものづくり経営を活かすべき。

    ものづくりインストラクター養成カリキュラム
    固有技術偏重ではなく、流れづくりの経験と知識を活かせるようにするのも目的。品質、コスト、リードタイム、フレキシビリティや3Mについての講義でも流れづくりを意識する内容。改善実習も。

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著者プロフィール

早稲田大学教授,東京大学名誉教授

「2024年 『工場史 ポスト冷戦期の日本製造業』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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