新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実

  • 日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532264505

作品紹介・あらすじ

Twitterで5万人のフォロワーを持つ米国研究機関在籍の若手ウイルス免疫学者、峰宗太郎先生が、対話形式で分かりやすく、時に辛辣に、新型コロナを巡る以下のテーマについて語ります。「新型コロナワクチン」の接種開始を前に、その効果とリスクを巡って議論が盛り上がってきました。冷静に自分の頭で判断するための科学的トピックが満載です。

・日本人がコロナワクチンを打つ前に知っておきたいこと
・そもそも、ワクチンってなぜ利くの?
・自然に流行させて「集団免疫獲得」、ではなぜいけない?
・理屈は正しいけど試した人はまだいない?!「核酸ワクチン」の革新とリスク
・知らなきゃ議論もできない「免疫」の仕組み
・「免疫力アップ!」はとっても危険なバズワード
・デマが出るわけ、いいかげんな専門家が消えない理由
・「インフルエンザ並み」という考え方は正しいか?
・感染症を考えるなら「確率」の考え方に触れておこう
・日本社会が感染症に強い理由~勝ちパターンが見えてきた!
・デマによる不安を一発解消、新型コロナQ&A

感想・レビュー・書評

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  • 編集者の山中浩之さんが、米国の医療・医学研究機関を経て、ワシントンDCにいる峰宗太郎先生の話をまとめたものです。
    2020年12月8日刊。

    〇先行きを断言する発言にはたいてい根拠がない。
    〇ぱっとしないけれど「3密(密閉・密集・密接)」を避け、換気をすることが大事。
    〇当たり前の「よく食べ」「よく眠る」が感染対策のゴールデンルール。
    〇患者が「効いた・治った」ことと、薬の有効性はイコールではない。
    〇ワクチンの効き目には大きな幅があり、事前に予測はできない。
    〇核酸ワクチンは実験では効果を見せているが、ワクチンを含め薬に副反応は付き物。
    〇世論が過剰にゼロリスクを期待すると、反動が非常に心配。
    〇新型コロナワクチンで免疫がどれくらい付くか、持つかは現状では「分からない」。
    〇免疫系は「こうすればこうなる」という一対一対応。白か黒かが非常に言いにくい。
    〇特効薬、ワクチンができれば、風邪と同じ、怖くない…はみな「神風願望」
    〇淡々と対策強化・緩和を試し、フィードバックを繰り返すのが最も有効。
    〇神風を期待せず、ストレスをうまくかわし、安全なワクチンを待つ。
    〇PCR検査は感染しているか否かを100%確定できるものではない。
    〇無自覚感染者は検査を行っても見逃す確率が高い。
    〇PCR検査ができるのは「陽性の確定」まで。

    そして、最後にこの本は手軽に新型コロナ情報を「全部」ゲットできる本ではなく「雑学集」でもない。なにより「考え方」と「情報の取り方・検討の仕方」。すなわち情報との接し方、これをまず大事にしていただくきっかけになれば、大変ありがたいと結ばれています。

    例えば、この本では「期待されている、新型コロナワクチンで免疫がどれくらい付くか、持つかは現状では分からない」と述べられています。
    免疫系は「こうすればこうなる」という一対一対応、白か黒かが、非常に言いにくいそうです。
    来年の夏には、オリンピック・パラリンピックが予定されていますが、今は外国から変異種と呼ばれるものも入ってきてしまい、それでは非常に心配になります。

    菅政権は、GoToトラベルを止めるのが遅すぎたと言われたりもしているようですが、オリンピック・パラリンピックも「もう1年延期する」または「中止する」の判断が遅すぎたと言われないようにしてもらいたいと思います。(政治家の方にもこの本を読んでもらいたいです)

    そして、最後になりますが、今年の年末年始を感染拡大させないために、帰省しないで一人で、又はご家族だけで過ごさされている方も多いかと思います。
    特に周りの人のことを考えて、一人で過ごされている学生さんやお勤めの方、ご高齢者の方には感謝の気持ちでいっぱいです。
    来年は、毎日感染拡大しているこの現状が収まり、年末年始は、ご家族団らんして、過ごせますよう心よりお祈りします。

    年末年始も不眠不休で働いていらっしゃる医療従事者の方々にも、多大なる感謝を申し上げます。

    では、皆さま、どうぞ来年はよい年になりますように!

    • 地球っこさん
      まことさん、今年もまことさんのレビューでたくさんの気づきがありました(*^^*)

      来年もよろしくお願いします。
      よいお年を♪
      まことさん、今年もまことさんのレビューでたくさんの気づきがありました(*^^*)

      来年もよろしくお願いします。
      よいお年を♪
      2020/12/30
    • まことさん
      地球っこさん。
      私の方こそ、いろいろと、楽しいレビューをありがとうございました。
      こちらこそ、来年もよろしくお願いします。
      地球っこさ...
      地球っこさん。
      私の方こそ、いろいろと、楽しいレビューをありがとうございました。
      こちらこそ、来年もよろしくお願いします。
      地球っこさんも、どうぞよいお年をお迎えください♡
      2020/12/30
  • 細胞を持たない、遺伝子とその容れ物だけの存在で、生物か否かも議論がある、新型のそんなヤツに振り回される毎日。
    よく考えるとほんと不思議。

    この本は、対談形式でわかりやすくコロナとワクチンについて書かれている本。巷に溢れる正しくない情報に騙されない方法も書かれている!

    良書だと思いました。

    ・予防法
    ①栄養と睡眠をしっかりとる
    ②手指衛生の徹底
    ③咳エチケット
    ④3密を避ける
    ⑤体調不良者と接触しない、体調不良なら外出しない
    ⑥マスクの着用
    ⑦十分な換気
    ⑧うがいは水で十分
    ・「3密」概念は日本が世界に先駆けて打ち出した概念。他の国での認識は十分ではない。

    ・ファイザー製などメッセンジャーRNAワクチンは、理屈は正しいが実績が全くない種類のワクチン。新しいテクノロジー。あと10年くらいでできるといいよね…といったペースで開発されていたものを急ピッチで作った。
    ・副反応はたくさん出る。だから、社会全体でリスクとメリットを勘案して、覚悟を決めた上でやっていく必要がある。
    ・日本は先進国の中でもワクチンに対する不信感が強い国なので、副反応がスキャンダラスに封じられると、せっかく見えてきた希望を失ってしまうことになりかねない。

    ・PCR検査は疑い者の確定診断のためには有用なツール。しかし、スクリーニング目的としては偽陰性など弊害も多い。またリソースは限定されており、費用対効果を考えるとスクリーニング目的でやるべきでない。


    …さて、皆さんはワクチンを打てるようになったら打ちますか?
    僕はたぶん打つと思います。怖くないと言ったら嘘だけど、人類の最新のテクノロジーを信じたいので。

  • ワクチンを打った人も打たなかった人も。

    怖いもの見たさでページを開くと知ることになる「不都合な真実」。いざ!と読み始めてみたら、拍子抜け。悪いのは自分なので著者は責められないが、本著は新型コロナワクチン開発前の本だったので、今のワクチンの恐怖を煽るような内容では無かった。タイトルの誤認については、買うタイミングにもよるので、自己責任。仕方なし。

    西浦博教授は疫学モデリングの第一人者なので語る資格があるが、テレビで話すような感染症疫学の御用学者は資格なし、と語る峰宗太郎氏。確かに当時はよく分かっていない状況について、素性のよく分からない専門家がテレビで語り、これまたよく理解したつもりの素人評論家たちが井戸端会議をする社会現象があった。誰もが何かに縋りたかったのだろう。

    端的に、この時点での不都合さ、とは何だったのか。それは開発中ワクチンであるベクターワクチンは「長期的な予後が分からない」という事。従来ワクチンならば、既に接種後の経過観察が長期にできているが、mRNAやベクターワクチンは違いますからね、と。

    これを理解した上でリスクは大きくないと判断して打ったか、理解せずに期待や正義感、同調性で打ったか、理解していたから避けたか、単に不安で避けたか。打った本数や種類も含めて、今、多様な被験者が生活している状態だ。

    個人差もあるから余計に分かりにくいが、真相はよく分からぬままだ。ただ、打った方が良い人と打たなくても良い人、打たない方が良い人という個体差があったはずだったとは思う。

  • とにかく読みやすい。医療従事者としてもうすぐコロナワクチンを接種するの事前に読んでおこうと思った。通常の治験期間の20年近くをすっ飛ばしていたり、通常治験を中止するような副反応も見られたり、それなりの覚悟を持って接種しなければならない。

  • PCR検査やワクチンの有効性の話など とてもわかりやすく書かれていると思いました。
    この本は2020年12月発売の本なので ワクチンがそこそこ打たれている現在の先生の意見を聞いてみたいです。
    イスラエルでは3回目のワクチンを打ち始めているようですが 副反応が強く出るワクチンを回数打ち続けて大丈夫なのか?とか...
    今、感染拡大しているデルタ株には効くの?とか...
    まだ、今からわかることなのかもしれませんが...
    ネット情報はたくさんあり過ぎて どれが本当なのかわからないくらい、もう自分の考え方次第ですよね。
    体調が悪い時は心折れそうになります。
    何度考え直してみても 自分に出来ることをやる...ってことに行き着く。

  • 【感想】
    素晴らしいコロナ関連書、間違いなく必読!

    世界各国でワクチン接種が始まった。しかし、日本も含め、ワクチンに関するデマ、誤報が様々なメディアから報じられている。ときには専門家でさえも誤った意見を述べてしまう中、「コロナウイルスに関する様々な情報を、整理しつつ自分の頭で考えてみよう」と呼び掛けるのが本書だ。インタビュアーの編集Yさんの質問が的確なこともあり、「そうそう、これが知りたかったんだ」という情報まで、深く詳しく突っ込んでくれた。

    印象的であったのは、安全性を疑問視する声が挙がる「ワクチン」について、接種の是非を「国策の観点」から考察した部分である。

    ワクチン対応に関しては、もはや拙速かどうかを考える余地もないほどに状況がひっ迫している。そんな中、日本全国の20歳~69歳の男女を対象に行ったワクチンに関するアンケートでは、半数が「様子を見てから接種したい」と回答。「あまり接種したくない+絶対に接種したくない」は3割にのぼった。欧米と比べてもワクチンに懐疑的な人が多い結果となった。

    ワクチンの副反応の確率はわずかであり、重篤な症状となる確率はさらに低い。コロナをいち早く押さえ込む意義のほうが強く優先されるため、当然、誰しも打つのが正解であるだろう。全員一丸となって協力し、集団免疫を獲得するのが「絶対条件」だ。

    しかし、「何としてでも打て」と、本当に強制できるだろうか?

    日本は欧米ほどコロナ死者が多くないため、ワクチンの効き目よりも副反応のほうに焦点が向けられがちである。欧米と比べてひっ迫感の無い日本では、打たなくてもいいという選択肢が現実的に見えてくる。
    そんな中、副反応が大規模に出てしまうと、新型コロナ対策自体に相当な逆風が吹いてしまう。ただでさえワクチン接種に懐疑的な国でネガティヴな意見が出てしまうと、世論が一気に非接種に傾き、集団免疫の獲得に失敗してしまう。

    だから、「四の五の言わずにワクチンを打て」という安易な主張はできないのだ。どこまでも慎重に世論を気遣うべきであり、必要なのは「科学的アプローチ」ではなく、「政治的アプローチ」なのだ。

    科学的リテラシーを突き詰めれば、むしろ「ワクチンを必ず打ってほしい」などとは口が裂けても言えなくなる。本書を読んで一番衝撃的だったのは、この事実が「免疫学者」というプロの立場から主張されたことだ。

    免疫学者の峰先生は、どこまでも「分からないことは断定しない」というスタンスを貫いている。しかし、それは決して無責任な態度ではない。
    新型コロナとはデマや妄信との闘いであった。WHOの初動、クルーズ船対応、PCR検査の拡大の是非、未知の災害を前に様々な憶測が飛び交う中、感染症専門家ですら判断を過ち、政治家はもっと判断を誤った。こうした混乱を最前線で見てきた先生が、慎重すぎるほど慎重な態度を取るのも無理はないだろう。

    ではそうしたデマはどうして発生したのか?それは「安易にファクトを求める」態度から来たのである。
    世論は安心を得るべく散々ファクトを求め続け、行き過ぎた断定主義を生んだ。科学的見地から何でも白黒つけようとし、時には専門外の学者に政治的決定を委ねた。

    しかし、新型コロナウイルスは「分からない」のだ。こうすれば安心であるとは誰にも言い切れない。何しろ未曾有の病気の前では専門家でさえもお手上げであり、科学が答えを出すにはあまりにも情報が足りない。安心を得ようと「専門家の意見」に飛びついた結果、誤った知識が流布するきっかけになってしまった。

    結局のところ、ファクトをいくらかき集めようとも、「自分の頭で考えないと、いつまでたっても安心はできない」。


    科学は結論まで教えてくれない。決断を下すのは、いつだって自分なのだ。



    【本書のまとめ】

    1 新型コロナウイルスの基本情報
    今回の新型コロナウイルスは分類上SARSに近いため、「SARSコロナウイルス2」と名付けられた。このSARSウイルスとの類似性の高さが、コロナ攻略の鍵になる。

    ●用語解説
    基本再生産数…免疫がなく、何も対策が講じられていない状態で、1人の感染者が何人にうつすか(再生産数)の値。
    実効再生産数…免疫、ワクチン、外出規制など、対応策が取られている中での再生産数。

    飛沫…ウイルスの周囲に唾液などの水分が取り巻いている状態のこと。これによる感染は「飛沫感染」という。重いので空気中をあまり漂うことなく、速やかに落下する。新型コロナが当てはまる。
    飛沫核…水分が蒸発し、ほぼウイルスだけの状態のこと。これによる感染は「飛沫核感染(空気感染)」という。空気中を長時間浮遊するため、感染力が桁違いになる。結核が当てはまる。
    ※飛沫感染と飛沫核感染の定義は、正確に決まっているわけではない。

    コロナの流行はインフルエンザの流行とよく似ているが、CFR(感染致死割合)で比べると、インフルエンザより100倍も高い。
    新型コロナの厄介なところは、軽症と無症状が非常に多いこと。感染者の4割が自覚なく感染を広げてしまい、ときおり重症者を生み出してしまう。
    SARSの封じ込めが成功したにもかかわらず、コロナが封じ込めできないのは、この「無症状者の多さ」が原因である。SARSはその強力さからすぐに隔離措置が取られるため、市中感染が広がらなかったのだ。

    現状、コロナに対しては、共存しつつワクチンで抑制していくしかない。


    2 感染対策
    メインは飛沫対策である。接触感染対策は、手洗い以外はそこまで敏感にならなくていい。手洗い+手を口に入れない、程度の注意でよい。

    ●感染対策
    ・栄養と睡眠をしっかりとる
    ・手洗いを欠かさない
    ・うがいは水で十分
    ・咳エチケット(うつすことを防ぐためのマスクの着用)
    ・三密を避ける
    ・体調不良者と接触しない
    ・十分な換気
    現状、感染対策としてはこれしか言えることがない。上記以外の感染対策がプッシュされている場合、それはウソなので気を付けよう。


    3 免疫とは何か
    感染症というのはウイルスや細菌などの「病原体側」だけでなく、「感染される側」の免疫などの状態と併せて、両者を理解することが必要である。増えたウイルスだけが身体に異常をきたすのではなく、ヒトの免疫が過剰な反応をしてしまうせいで、自分の体を傷つけることもある。ウイルスと、ウイルスの増え方を見ているだけでは不十分である。

    「免疫」とは「一度かかった感染症に二度はかからない」という意味だ。
    「集団免疫」とは、ウイルスや細菌などに対し、人口の一定以上の割合が免疫をもつことである。これが一定以上まで高まると、集団の中でそれ以上感染症が広がらなくなる。再生産数が1以下になるからだ。
    新型コロナにおける集団免疫の値は、人口の50%とされる。自然感染で獲得しようとすると莫大な犠牲者が出るため、ワクチンで獲得することを目指している。


    4 次世代のワクチン、「核酸ワクチン」
    ワクチンの種類にはいくつかある。
    生ワクチン…弱毒した生の病原体を打つ
    不活性化ワクチン…殺したワクチンを打つ
    組み換えワクチン…ウイルスの成分の1つだけを人工的に作って打つ

    この3つは、安全性は高いが、量産が難しかったり、免疫系の反応が若干弱かったりする。

    この3つから更に進化した「メッセンジャーRNAワクチン」「DNAワクチン」、まとめて「核酸ワクチン」と呼ばれるものが、対コロナワクチンとして注目されている。
    これは、処理したウイルスではなくDNAやRNAをそのまま注射する。遺伝子技術によって組み替えられたDNA達は、目的の細胞に入った瞬間にタンパク質に翻訳され、あたかも弱毒化したウイルスに感染したように作用する。設計図を直に打ち込んで、人の細胞を工場にして免疫を作ってしまおう、という発想だ。

    核酸ワクチンはSARSのときから研究開発されていたが、「10年後、20年後に実現するといいね」というスピード感だった。それがコロナウイルスの流行により一気に開発レースが進んで、実用化に向けて動いている。
    素早く量産できるものの、人に打った場合の検証があまり進んでいないまま突っ走っている。効き目は実証されつつあるが、核酸ワクチン自体に先例が無いため、「10年後に副反応が起きないと言えるか?」までは詳しく分かっていない。

    インフルエンザのワクチンを注射しても、免疫は数ヶ月で消えてしまうが、コロナワクチンでも同じことが起きないのだろうか?
    今回のコロナの自然感染では、3ヶ月ぐらいすると血液の中の抗体の量が下がり、免疫が落ちてくることが分かっている。ただし、ワクチンでも同じことが起こるかは全く別問題である。そもそも、根付いた免疫がどのぐらい持つかは全く予測できない。


    5 国策としてのワクチン接種の方向性
    コロナ撲滅における頼みの綱はワクチンである。しかし、核酸ワクチンを先行して摂取開始した国で、もし副反応が大規模に出てしまうと、新型コロナ対策自体に相当な逆風が吹いてしまう。ただでさえワクチン接種に懐疑的な国でネガティヴな意見が出てしまうと、世論が一気に非接種に傾き、集団免疫が獲得できなくなってしまう。
    だから、ワクチン接種というのは本当に慎重にやるべきなのだ。
    今のイケイケどんどんの雰囲気では、「情報戦」としては非常にまずい。

    ①ネガティヴな反応が出ないように細心の注意を払いながら、核酸ワクチンを打つ
    ②核酸ワクチンと並行して、比較的安全な「不活性化ワクチン」の開発を続ける
    ③開発が成功した段階で、核酸ワクチンから切り替える

    上記が、コロナ撲滅に向けた「一番安全なシナリオ」である。とはいっても、国の感染状況によって戦略は異なってくる。

    米国、英国は核酸ワクチン接種を急速に進め、中国は核酸ワクチンと並行して不活性化ワクチンの開発を行っている。
    米国と英国は死者の数が飛び抜けて多い。感染を食い止めるためならば、ある程度のリスクを取らざるを得ない。しかし、中国や日本といった国は相対的に死亡者数が少ない。そのために、安全性に細心の注意を払う。ワクチンによって万一死者が出てしまえば、それこそ大問題となり、ワクチン否定派が大勢出てくることになる。皮肉なことに、死者数の少ない国ほど核酸ワクチンに対して慎重に取り組まなければならないのだ。


    6 ワクチンと人の免疫
    ワクチンは人間の免疫系との相互作用であるため、人によって効き目に差がある。ある人には重症化予防までしかできないが、よく効く人にとっては感染予防にもなる。そのため、「効くor効かない」と二択でくくることは難しい。

    そもそも、ワクチンの効力を測定するためには、現状では「抗体価(抗体の量)」ぐらいしか指標がない。ヒトの免疫系は
    ・自然免疫(侵入してきたウイルスを手当り次第殴る)
    ・獲得免疫(ウイルスを特定してピンポイントで殴る)
     →液性免疫(細胞の外にいる病原体を殴る)
       細胞性免疫(病原体に感染した細胞を殺す)
    があるが、分かっているのは液性免疫に分類される「抗体」の数だけであり、その他の免疫系は、数が増えれば効くかどうかははっきりしていない。

    ワクチンの効果の指標となる「90%の有効性」というのは、「ある人の感染リスクが90%減った」でも、「100人のうち90人の感染を防いだ」わけでもない。ワクチンを打ったグループ、打たなかったグループにいつも通り生活してもらい、前者のほうが感染者の割合が90%少なかった、ということである。
    (もちろん、家にずっといたりして、コロナにかかる機会がそもそも少なかった、という人物もたくさん含まれる)

    究極的に、ワクチンというのは、効きもリスクも確率的な事象から逃げられないのだ。


    7 新型コロナ対策のちょうどいい湯加減
    接触8割削減、他人と2メートル離れろ、などさまざまな感染症対策が提言されているが、科学によるモデリングは、具体的な人の行動まで数値化して落とし込むことまではなかなかできない。絶対にこれ、というエビデンスはなく、本当に100%科学的な裏付けがある、という対策はない。

    まず現実に起こっている感染状況を把握する。様々な施策を通じ、このぐらいなら平気、ああいうことをすると感染拡大が起こる、という「肌感覚」を得るぐらいにデータが集まってくる。そこからやっと、「多少密集した場所でも、換気がされていて、喋らなければ大丈夫」なのではないか、と仮説ができ、科学者のモデリングが可能になる。

    湯加減は、浸かりながら調整するしかない。ぬるくしたり熱くしたりすること自体に責任はなく、慎重に色々試すことでしか解決し得ない。

    先に対策の効果を予測しろ、というのは、科学原理的に不可能なのだ。


    8 PCR検査のウソホント
    PCR検査は「陽性の確定」には使えても「陰性の証明」には使いにくい。検査規模を増やしても、やればやるほど偽陰性・偽陽性が出てしまうため、医療リソースの無駄遣いとなる。

    そういうわけで、「PCR検査は絶対数で考えてもあまり意味がない」。PCR数を感染者数や死亡者数で割った打率(検査全体から陽性の人がどれくらい見つかったか?)を重視するべき。
    言い換えれば、「疑いのある患者をどれだけ検査前に絞り込めるか?」の指標を重視するべきなのだ。現在の医療体制は、医師が判断した患者や、行政が特定した濃厚接触者だけに検査を適用しているが、その正確性で検査数の有効性を見極めるのがよい。

    ちなみに、インフルエンザ検査はPCR検査と同じぐらいの精度であるが、ほぼ病状を特定している。これは「症状から判断している」ためである。インフルエンザ検査をしてもし陰性が出た場合は、お医者さんが患者の容態(熱があり、関節が痛く、学校でインフルエンザが流行っている…等)を総合的に勘案し、「陰性ですがインフルエンザの可能性が高いので、タミフルを出しましょう」と診断しているのだ。

    コロナが厄介なのは、「無症状」だからである。患者に現れている症状が検知しにくいため、正確な診断が下せない。それがゆえに、検査前確率が高い人、すなわち濃厚接触者を追うという対応が妥当なのである。

    コロナ初期は、「陽性が疑われる人」に対してPCR検査のキャパシティが足りなかったので、検査の回数を増やすのは正しかった。しかし、それを拡大解釈して「希望者に受けさせる」ために回数を増やすのは間違いである。
    また、PCR検査は発症から7日目ぐらいまでの患者に対しては8割程度の感度があるが、それ以外(例えば発症前)では、ただでさえ低いのに、感度が輪をかけて下がる。無症状の人に検査を行ってもかなり精度が落ちるのだ。

    いつでもどこでも何度でもやるほどのリソースは不足している。あくまで、検査は眼の前にいる「陽性らしき人」を断定する道具として使うべきであり、やたらめったら検査するのは大間違い。「陰性と陽性を区別する」ためのものではないのだ。

    また、巷で言われている「高齢者だけ厳格な措置を」も実は有効でない。確かに高齢者や既往症の人が重症化しやすいのは事実だが、これだけを理由に「若者は外に出してよく、高齢者は隔離しろ」とはできない。はっきり断定できるほどの差がなく、客観的で分かりやすい基準を作るのが難しいのだ。実際にこれをやったニューヨーク市では、若者が次々と死んでいる。


    9 信じていい情報を見抜くには?
    コロナ禍においては専門家や有識者ですら「?」情報を発信している。いったい我々は何を信じてればいいのだろうか?
    結局のところ、情報を集めて、自分の頭で考えることが大切である。
    リテラシーは知識層であるほど高くなるかというと、そんなことは全然ない。正確な情報を得るためには、情報の集め方だったり、公的情報を確認したり、複数の情報でクロスチェックしたり、と色々あるが、「これだけ押さえておけば」というものはない。

    一番ダメなのは、騙されることを恐れるあまり「絶対正しい」ものを探そうとすることだ。
    みんなが思っているほど、科学者がやっていることが必ずしも正しいわけではない。ましてや科学者を神聖視するのは、リテラシー的にアウトである。
    誰を信じるかではなく、何を信じるか。
    「自分の頭で考えないと、いつまでたっても安心はできない」。

  • 日経ビジネスで紹介されていたのがきっかけだったかしら?

    2020年11月現在の情報とワクチン接種後という環境でも、十分勉強になりました。

    ワクチンや治療薬の技術がより向上することを祈りながら、受け身にならず、情報を取捨選択できる術を身につけなければと思った次第。

  • 非常に良い本でした。是非、多くの人に読んでもらいたいです。自分にこの本を広げる影響力が欠片もないことが残念でならない位に、本当に多くの人に読んでもらいたいです。

    対談形式と言う形も良かったですし、自らド素人と言っている編集者Yさんが、ある程度医療知識がある人なら流してしまいそうな超基本的なところも流さずに聞いてくれているので、つまずかず・投げ出さずに読めました。
    (とは言え、日経ビジネスの編集者さんです。そもそもの頭の出来と知識量が違いますから、私は、Yさんが聞き返し→峯先生が説明して→Yさんがなるほどと納得しているところを、2,3回読み返したりしましたけどね、、P●●参照ってところでは漏れなく戻って読み返しましたけどね、、、でもちゃんと読み切りました。そこ大事です)

    さて、こういう種類の本ですので、読み終わったら、超ざっくりとでもいいから、ポイントをまとめてレビューにしよう!と思い、付箋紙を貼り、ちょっとした感想を付箋紙に書き込みながら読みました。
    が、読み終わり本を閉じてみたら、もう。付箋紙だらけ!
    うーむ、、、ちょっと時期を逸したのもあり(読了日2021/4/1・二度目の緊急事態宣言が開け、そしてもう既に再再拡大の予兆です)、
    内容のレビューは、いつもレビューを拝見して、すごいなあと思っている方々のものを勝手におすすめさせて頂くこととして、私自身は完全に個人的な読後の思いだけを記すことにしました。
    ★まことさん、たけさん、すいびょうさんのレビューはとっても分かりやすくまとまっていたので、お薦めします(勝手に名前をお出ししてスミマセン!)

    峰先生は、あとがきで、この本を読んだ読者であっても、峰先生ご自身の情報すらも丸呑みにしないで、とおっしゃっていますが、
    ここまで懇切丁寧に説明してくださった峰先生に怒られそうですが、峰先生は信頼できるな、と思ってしまいました。
    いやいやいや、峰先生。だからと言って、今後、峰先生の発信している情報だけ読むとかではないです。おっしゃっていたように、厚生労働省や内閣など、公的情報を自ら取りにいくことも、今後は常に意識しようと思います。
    それから、私個人は、ついつい日本の政府の対応は後手後手だなと悲観してしまうことが多い立場でしたが、3密の考え方を早くに打ち出したことなど、もはや基本的過ぎて流してしまっていたことが、とても重要なことだったのだとか、そんなことを改めて認識できたことも良かったです。マイナスな情報にあふれていた1年間でしたが、楽観はできないけど、分かってきたこともあるし、何より、未来につながる情報もあるなと思えました。この1年のトライアンドエラーは、きっと未来に生かされると信じたいです。

  • Twitterでフォローしているばぶ先生の著書。喩えが多くてわかりやすくロジックが明快。とことん自分で考えることを教えてくれる。
    “大事なのは知識じゃなく考え方”、“この本すらも疑え“。自分の考えを確立させるのに必要なのはしなやかさと強さ。

  • スッキリだったかな、この峰さんという人がコメントしているのを度々見ていたから、新聞広告で見かけて気になって、それでも買ったのはだいぶ経ってしまった。
    もう両親がワクチンを接種したこのタイミングで読んでも仕方のないことかと少し思ったが、読み終えた今は読んでよかったと思っている。
    ワクチンそのものは、どうやら本当はまだこのタイプは打つべきではないんだろうなとは思う。でも人の体はそれこそ、全然効き方が変わってくるらしいし、今回打ってずっと効くわけでもないのはわかったし、できるならこっちの方というワクチンも後1年くらいで出てくるようなら、それが出たらまた打てばいい話。

    もっともこの本は最終章で、書かれていることを鵜呑みにするな、きちんと自分の頭で考えてみることが大事なんだと、読者を諫めている。判断する根拠を著者のレベルの知識まで持っていくのはほぼ不可能なわけだけど、考え方を知るための時間はあるわけだから、まずは免疫って?とかウイルスって?とかこれまで考えたこともないことだけど、コロナ禍がもたらしたこの機会に、結局は原発だったり、熱海の土砂災害だったり、そういうことがなぜ起こるのか、災害はどの程度まで人力で防げるのか、これからも起きるであろう色々な問題に向き合い立ち向かうための、考え方を考えることをしていってほしいと、訴えている本なんだろうなと、そういうことを気づいてくれというテーマで書かれた本なのだというのが、書かれていて、これはまあ、ブックオフには売れないな、持っていたい本だなと思った。

    にしても、この本が出た頃はまだ新株についてはわかっていなかったので何も触れられていないのだけど、早速、この本のテーマでいう、自分がさあ何をできるのか?を考えさせる状況が動いている…

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著者プロフィール

1981年京都府生まれ。神奈川県立湘南高等学校卒、京都大学薬学部卒、名古屋大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科病因病理学専攻修了。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所などを経て米国国立研究機関博士研究員。医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。専門はウイルス学、免疫学、病理学。

「2021年 『新型コロナとワクチンの「本当のこと」がわかる本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

峰宗太郎の作品

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