乱流: 米中日安全保障三国志

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532169961

作品紹介・あらすじ

米国にとって、台頭する中国にどう向き合い、安定した関係を保っていくのかは、未経験の難題だ。旧ソ連とは違い中国は軍事ではライバルだが、経済では欠かせない協力相手だからだ。米ソの角逐は、経済力でまさり、民主主義を重んじる米国の勝利に終わった。では、米中の攻防はどんな結末に向かうのか。それが日本の将来に意味するものは何か。
かつては、米国の政権交代に伴い最初は敵対、後半は融和というサイクルが見られた。しかし中国の存在感が大きくなった結果、中国が引き下がらなければ、米国はかつてソ連を崩壊させたのと同様に、軍拡競争に巻き込む決意。その証拠に中国が最も手薄な潜水艦網をアジアに展開し、中国を刺激する計画を明らかにしている。
一方、中国は冷静な大戦略に基づいて新たなリーダー国家をめざし動いているという中国覇権陰謀論が盛んだが、習近平訪印の際に軍の現場が暴走し一触即発の事態を招くなど、ガバナンスが働いていないことを露呈している。
このような様々な思惑が絡んだ米中関係を前提として日本はどのようなシナリオを構築すべきなのか。嫌韓論、嫌中論の本ばかり賑やかななか、本書は冷静に米中の駆け引きを明らかにする。日本に迫られる4つの選択肢を提示し、米中の思惑についての筆者の仮説を、日本では詳細に報じられていないエピソードで補強して解説する。

感想・レビュー・書評

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  • 米国と中国の対立の構造を歴史を振り返りながら解説した本。習近平が地方都市の首長だった時、日本の各都市と姉妹提携を結び日本が好きだったと語るエピソードから始まるなど、リアルな事実に基づいた解説が参考になります。

  • 著者が2008年に書いた<a href="http://blog.goo.ne.jp/rainygreen/e/ca935840f50ea0e609f52859122664ae">『暗流ー米中日外交三国志』</a>は抜群に面白かった。
    あれ以来、日経紙面に著者の署名記事を見つければ進んで目を通してきた。

    それから8年の時間が流れて発刊された待望の続編。
    8年といえばまるまるオバマ政権下の時代である。
    そしてその間、中国では習近平、日本では安倍晋三がリーダーの座に就き、長期政権を続けている。

    本書では、主にオバマ政権の中国に対するスタンスの変遷、そして南シナ海・東シナ海において圧力を強めている習近平政権の戦略と力学を中心に、米中関係をめぐる出来事を紐解くとともに、二つの大国間で難しい舵取りを迫られる日本の行く末に対する著者なりの処方箋を示している。

    まず、著者は米国の対中スタンスに働く「法則」について考察する。

    ニクソン政権〜ブッシュJr.政権の米中関係では「接近の法則」が働いてきた。
    米政権の発足当初はギクシャクするものの、次第に妥協し、2年以内に協調関係に入っていくというパターンで、ソ連という共通の天敵がいたり、中国がまだ米国を脅かすほど強大ではなかったことがそれを可能にしていた。
    ところが、中国が強大になり、米国が米主導の秩序が脅かされることに警戒感を深めるようになった今、もはや「接近の法則」は働かず、「離反の法則」が米中関係を動かしてゆく。
    オバマ政権はその適用第1号だったと言えるのではないか。
    「離反の法則」は以下のように働く。
    大統領選では候補者が厳しい対中政策を競い、就任後はややトーンダウンして現実路線を試みる。
    だが、思うような成果が上がらず、米中関係は冷え込む。
    次の大統領選は前任の教訓を踏まえて、より厳しめの対中政策からスタートする。
    それを繰り返すことで米中関係は対立の方向へとエスカレートしてゆく。

    著者に言わせると、米国にも中国にも「国家のDNA」がある。
    米国のDNAは「西へ、西へ」と開拓精神で突き進むところにある、と。
    だからこそ、太平洋を挟んで遠く離れた南シナ海や東シナ海の情勢にも関心を寄せ、影響力を行使してきた(もちろん航行の安全という実利もあるが)。

    だが、ちょうど先週米国大統領に就任したトランプの言動をみる限り、そんなDNAなどという情緒的な言葉で本当にすべてが語れるのか、という疑問も抱かざるを得ない。

    本書は、昨年のアメリカ大統領選の結果が出る直前に書かれている。
    トランプが勝利する可能性にも配慮した書き方はされているものの、大統領選の結果は筆者にとっても想定外のものだっただろう。
    トランプ政権の滑り出しを見るに、上記のような「離反の法則」すら働いていないように思えてくる。
    中国に対して強硬な姿勢をとってはいるが、関心事は安全保障にはなく、もっぱら経済問題にあるように聞こえる。
    著者自身、先週の日曜日の日経朝刊一面コラムで、トランプ政権が通商・通貨問題で中国に言うことを聞かせるために安全保障面での譲歩を取引材料に使うのではないか、という懸念を示している。

    一方、中国はどうか。
    著者は、中国のDNAは、万里の長城に象徴される、自分の縄張りの囲い込みだとする。
    東シナ海や南シナ海に「万里の長城」を築き、米国を追い出そうとしているのだと。

    著者の見立てでは、習近平政権の大目標は、2049年の建国100周年までに米国に代わって世界のリーダーになること。
    そのため、それまでは米国との決定的な衝突を避け、外堀を埋めていく戦略をとる。
    対日本についても、その文脈で、米国から引き剥がすような揺さぶりをかけてくるだろう、と。

    問題なのは、中国も権力闘争や経済成長の鈍化などの内憂を抱えていること。
    人民の反発や軍の暴発を制御しきれず、突発的な衝突が発生するリスクを内包している。
    そこにきてトランプ政権という不確定リスクが加わってしまった。

    そんな混沌を深める米中関係の狭間で、日本が取りうる策には何があるのか。
    著者は、本書の時点では、最も現実的な日米同盟基軸路線を維持できるよう努力を尽くすのが最優先だと言う。
    他方で、それが将来うまく立ち行かなくなるリスクに備え、日中協商関係路線や自主防衛路線に向けた備えをしておくべきであると。

    個人的には、自主防衛路線は政治的に、そして何より財政的に、かなり困難なのではないかと思う。
    だとすると、日中協商路線という禁断の道を選択せざるを得ない日がいつか訪れるのかもしれない。
    悩ましい時代になったものだ。

  • オバマ政権までの米中日の外交安全保障の経緯(後編)
    まあ、題名を決めた時点とは違う意味で『乱流』になっちまたけどな<トランプ政権成立
    とはいえ、中国がどういった動きを続けてきたか、米国がこれまで中国相手にどういった期待と失望とリアクションをとってきたかはトランプ政権が成立しても代わらない。そして、日本の、『与えられた状況』と、『とるべきリアクション』も(選択できる範囲も)変わらない。トランプ大統領の言動に一喜一憂している暇は無い。
    『日米同盟の強化。進化、深化』
    これ以外に中国に飲み込まれずに生き残る道は無いのだから。
    そして、米国(国民)が『日本が安全保障を米国に丸投げして己の経済的利益のみを追求している』様に見られない事が、日米同盟の維持・強化には欠かせない。
    『目に見える形』で日本が自ら防衛努力を強化していく(防衛費の増加)事は必要不可欠であろう。その上で、米軍をこれまで以上に在日米軍基地に『依存』させる方向性が求められる。

  •  筆者はまず、ニクソン政権以降の米は、対中「接近の法則」が優位だったが、中国の強大化にともないオバマ政権期から「離反の法則」が働くようになっていると述べる。他方で尖閣問題を巡る日米の温度差や米中の「日本外し」の可能性を指摘する。中国については、15年秋以降の対日姿勢軟化は日米分断が狙いだとすると同時に、軍末端の統制不徹底を例に、国内の安定のリスクを挙げる。
     米中関係を規定する変数として筆者は中国国内の安定、経済成長、米中軍事バランスを挙げているが、米自身の政策や北朝鮮問題の動向のように、変数は他にもあり得るだろう。
     そんな中、「裁量権」が限られる日本の選択肢として筆者が述べるのは、日米同盟基軸路線を維持すると同時に、(この路線に反しない)日中協商や自主防衛にも取り組む、という、安全保障の専門家にとってはごく常識的であろうバランスが取れた結論である。
     一つ一つの出来事については丹念な取材が感じられる。米中・日米中関係には出来事も変数も多すぎて分析も取るべき方策も断定しにくいのだが、それだけ複雑な問題だということなのだろう。

  • 会議や会談での会話やインタビューで聞いてきたコメントが記されていて臨場感があります。米国と中国の狭間にあって、どうすればいいかということだけど、選択肢が乏しい。米国がリバランスでオフショアコントロールを進めるなら、日本は軍事費増で応えることが求められる。でも、昨今の安倍政権の支持率低下をみると、それも難しい。米国の迷走といい、民主主義は難しい。中国が抱える構造的問題に足元をすくわれるのを祈るばかりなのでしょうか?

  • 世界の警察官として振る舞うのを止めたアメリカ。大国として影響力を増す中国。日本はもはやアメリカに追随しているだけでは済まくなった。そんな不都合な真実に向き合い、日本外交の3つの選択肢、アメリカの引き留め、日中協商、自主防衛、を示す。
    日々の新聞報道や断片的なニュースだけでは伺えない日米のパワーバランスが克明に綴られている。外交や安全保障を専門とする新聞記者だけに、記述も読み易い。

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著者プロフィール

日本経済新聞 本社コメンテーター。1987年入社。流通経済部、政治部、北京支局、ワシントン支局などを経て、2009年9月から、外交・安全保障担当の編集委員兼論説委員。2016年10~12月、英フィナンシャル・タイムズに出向し、「Leader Writing Team」で社説を担当した。2017年2月より現職。外交・安保分野を中心に、定期コメンタリーを執筆する。2018年度のボーン・上田記念国際記者賞を受賞。著書に『乱流 米中日安全保障三国志』(日本経済新聞出版社、2016年)、『暗流 米中日外交三国志」(同、2008年)がある。

「2022年 『ウクライナ戦争と激変する国際秩序』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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