減反廃止: 農政大転換の誤解と真実

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532134624

作品紹介・あらすじ

競争力劣化、規模拡大阻害、食料自給率低下の元凶だったのか?悲劇の検証から問題解決は始まる。迷走の40年をムダにするな。

感想・レビュー・書評

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  •  減反廃止と言いながら、現在は飼料米に多額な補助金をつけて、米価を維持しようとしている。減反廃止とはなんだったのか?農林省を経験し、岐阜大学の教授が書いた「減反廃止」(2015年発行)は、直球的な説明でわかりやすい。
    減反廃止をなぜ決断したのか?政治的要因として、農林族の力が落ちたことをあげる。
    減反廃止をした時に、コメ大増産による米価大暴落が予想された。しかし、米価大暴落が起こらない可能性が生まれた。
    ①農家の高齢化、担い手不足でコメ増産余力が縮小した。②農業団体、および生産者はもともと減反に反対。③農業成長戦略と減反は相入れない。④自民党は、「戸別所得補償」に反対していた。強制減反をし続けるのは、困難で廃止しかなくなった。
    減反廃止をすることでの期待できること。
    ①自由な経営判断と多様な価格帯でコメが生産できる。結果として経営感覚に優れた専業的な経営者が生まれる。②適地適作が可能に。農水省の配分廃止となる。③競争力が強化される。④米価が下がり、消費者の利益となる。⑤食料自給率の向上。⑥補助金依存農政からの脱却。
    ということが、期待されたにも関わらず、「減反廃止」と言いながら、農水省の補助金制度は現存している。減反の看板は外しているが、農水省のやっていることは、目的別米に補助金をたっぷり与え、米価を維持するもしくは高くすることに全力をあげているという現実がある。
    この本のか書かれた時には、「減反しても米価は継続的な低下」していた。
    減反において、集落主義があり、ペナルティなどの強制的な取り組みの中で、自殺者なども出た。
    1970年には、過剰生産が大きな問題で、過剰生産をどう調整するかが問われた。それが、減反だった。自給率が低いのに減反するというのも奇妙なことだ。価格を維持するには、高い関税を維持しながら、輸出するという方法もあった。アメリカは、輸出に全力をあげるために、コストダウンを図った。
     この本で初めて知ったが、アメリカやヨーロッパでも過剰生産が起こり、生産調整の減反が行われた。このやり方が、アメリカでは、過剰になれば減反し補助金をだす。あくまでも減反は個人の選択制であった。EUにおいても行われたが、減反することで、価格を下げるという政策的な導入があった。そして、面積で縛ることで、単収が上がった。どうも頭の中で、食糧危機がくるという色眼鏡で農業を見てしまうが、日本のみならず、欧米でも過剰生産だったのだ。
     日本は、面積で縛らず、生産量でしばった。そのため、米価は下がらなかった。うまいコメを重視したので、単収も上がらなかった。1969年には、日本のモミ米で10アール563kgで世界3位だった。その時に1位はオーストラリアで、719kgだった。2012年では、日本は671kgで、世界13位。単収は中国673kgにも、韓国694kgにも抜かれた。1位は、エジプト958kg、2位はオーストラリア956kg。
    結局は、太陽光線が多く、乾燥地帯の方が、光合成が進み、収量は上がるのである。湿潤で雨が多いことが、モンスーン気候でイネにあって、瑞穂の国だと言っていたが、イネは光合成の多い方が、収量が上がる。
     著者は、消費者のコメ離れを、食の洋風化、人口の減少をあげ、「非価格的による消費減少は、実は一層大きい」と言っているが、30年近く労働所得が上がらない日本の状況が全く考慮されていない。モデル自体に、収入という項目が入っていない。小麦が伸びたのは、コメよりも小麦が安いからだ。
     著者は、飼料米については高く評価をしている。①飼料米は、収量が多い。穀物生産の飼料仕向けは、世界的な潮流。聖なるコメの呪縛から精神的な解放が必要。②減反廃止ショックの緩和となる。③水田にこだわらない場合にも、飼料米がいいのでは。粗飼料の自給率は77%で、100%まで高められる。④複合経営の補完的位置付けであり、兼業農家の手抜き。などと指摘している。
    にも関わらず、飼料米への補助金は高額である。こうやって、自給率を上げるという名目のもとに、補助金で成立させ、飼料米の作付けが増えれば、補助金依存体質は続く。結果として、コメの値段は高くなり、世界がコストダウンしている状況の中で、政府の補助金がなくなれば、コメは安楽死を迎える。この本は、「減反廃止」というテーマを、アメリカやEUの減反政策を見つめながら、日本の減反廃止を論じているのは、好書である。実証に満ちた、分厚い本である。
    渡辺美智雄が農林大臣の時に「減反をしながら米価を上げるというのは、冷房と暖房を一緒にかけるようなものである。長い目で見たら決して農民のためにならない」と言ったが、飼料米にたっぷり補助金を注ぎこんて、米価を上げるというのは、冷房と暖房を一緒にかけるようなものである。長い目で見たら決して米作りのためにならないと思う。
    農水省は、減反の40年、さらに減反廃止後も迷走し続けるのである。

  • 2018/07/15

  • 農業経済学の立場からだと事業規模で見ていく、面積じゃないというのは、納得。米の消費が落ちて、輸出がそれほどあてにならなくて、日本人の米信仰はそろそろ何とかしましょうという話になる。色々な意味で、私たちは、千年単位で、価値観が変るところに居合わせているんだな。

  • 611.33||Ar

  • ことコメ作りに関しちゃ、何につけても日本が世界一だろうとは、勝手な思い込みであった。耕地面積は少なかろうと栽培技術が優れており、面積あたりの収穫量は多いんだろうと思っていたら、世界13位。エジプト、韓国、中国にまで抜かれているとか。また、コシヒカリがナンバーワンとも言えない時代になったと言う。家庭で食べるご飯は減って、外食産業での需要がウエイトを高めており、そこでは粘りが強く食器にこびりつく品種は嫌厭される。家庭でも、白米よりチャーハンやらパエリアやらを作ることが増え、そこでも粘りは喜ばれない。なるほど。

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著者プロフィール

1954年埼玉県生まれ。1978年東京大学農学部卒。同年農林省入省。1996年岐阜大学農学部助教授、1999年同教授・農学博士、現在に至る。この間、2002-2003年アデレード大学経済学部客員研究員、2006年メリーランド大学農業政策研究センター客員研究員、2012年イリノイ大学農業経済学科客員研究員

「2014年 『減反40年と日本の水田農業』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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