リ・インベンション―概念(コンセプト)のブレークスルーをどう生み出すか

  • 東洋経済新報社
3.88
  • (19)
  • (20)
  • (16)
  • (2)
  • (2)
本棚登録 : 207
感想 : 26
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492533246

作品紹介・あらすじ

驚きを与える製品をどう作るか。自転車用の見えないヘルメット、ノートと音声を連動させたペン、頭脳戦の要素を組み込んだベーゴマなど、9つの事例を紹介。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ”「イノベーション」(革新)ではなく「リ・インベンション」(再発明)を唱えた一冊。
    自転車にからむ事例2つが特に印象的(ホヴディング、レボライツ)。また、技術的な「イノベーション」をおいかけても、ビジネスにつながらなかった事例については納得感あり(SONY トランジスタラジオ等)。

    一方で、先行するクレイトン・クリステンセン氏の「持続的イノベーション」「破壊的イノベーション」の研究や概念をどう捉えているのだろうか。三品氏のいう「(空しい)イノベーション」は、「持続的イノベーション」と何が違うのか。「リ・インベンション」は、新市場型破壊の「破壊的イノベーション」ではないか、との思いも持った(*1)。

    本書で紹介されているスマートペンは画期的だし、ダイソンのエアマルチプライアーもうまく説明できないが欲しくなってしまう製品だ。もちろん、Apple の iPad/iPhone も数値より感性へ強く訴えかけるもの(TV CMはあいかわらずうまい)。

    どうリ・インベンションするか。Part3 "The road to re-invention" の中見出しから拾うとこんな感じだ。
    ◆故きを温ねる
    ◆技術の変化を問う
    ◆ニーズの変化を問う
    ◆取り残された人々を見つめてみる
    ◆忘れ去られた昨日を見つめてみる
    ◆あたりまえの売り方を変えてみる
    ◆インテグリティで共感を引き出す
    ◆捉え所のない感覚にこだわり抜く
    ◆旧習に妥協する発想をぬぐい去る
    ◆社外に人を求める
    ◆社内で人を育てる
    ◆逸材を選び出す
    ◆少数精鋭チームを隔離する
    ◆外人傭兵チームを制御する
    ◆成功の芽を内部に取り込む

    「さもありなん」という思いと、「でもそれだけじゃ…」という思いが交錯する。
    例えば、若手を登用せよ(不惑に達してない人を)というが、年輪経営を標ぼうして年功序列・終身雇用を宣言する伊那食品工業はどうだろう?日本生命を定年退職した出口氏が60代で起業したライフネット生命保険は??また、少数精鋭をいうが、企業全体を少数精鋭チームに分割することまで考えているのだろうか。etc.


    閑話休題。
    「イノベーション」という言葉に惹きつけられ、乱発してしまう僕らの傾向には十分に注意しつつも、言葉の定義よりはその本質を見つめていきたい。

    その大きなヒントは、「ターゲットを数値評価から感性評価へシフトさせる」(p.270)にあるように感じた。


    *1:『イノベーションへの解』 p.64に、破壊的イノベーションについて新市場型破壊とローエンド型破壊の2種類の解説あり。
      3章で『イノベーションのジレンマ』が参考文献にあげられながら、本文中で触れられていないのはやや引っかかる。


    <読書メモ>
    ・リ・インベンションとは、直訳すれば「狙い定めた事物をゼロから再発明する」という意味ですが、それを私は「前衛への挑戦」と意訳します。(p.5:まえがき)

    ・挑戦意欲に溢れる20代で人材をふるいにかけ、有望株にストレッチ経験さえ与えれば、少数精鋭企業を牽引する企業家人材の不足に日本が困ることはありません。企業サイドでも、守りに入ったベテラン社員をつかまえて育成、育成と騒ぎ立てるのではなく、ぜひ20代に注目してほしいものです。(p.9:まえがき)
     #20代の可能性については大いに賛同。一方、ベテラン社員へのステレオタイプな批評にはちょっと首をかしげる。

    ・標的製品を一から創り直すうえで鍵を握るのは、本質機能から遠く離れた副次機能です。コアユーザーの想定を変えれば、以前は重視されていた特性が意味を失うこともあれば、逆に以前は意味をもたなかった特性が意味を持つようになったりすることがあります。(p.222)
     #ホヴディング:硬さ、空気抵抗→装着しやすさ
     #レボライツ:明るさ、持続時間→自動車からの視認性
     #OXO:切れ味の鋭さ、水切り性能→持ちやすさ、使いやすさ
     #エアマルチプライアー:省電力性、静寂性→安全性、手入れのしやすさ、収納性
     #ウォークマン:録音機能の拡充→きれいな音楽の携帯 etc.

    ・リ・インベンションのケースでは、<やりたいこと>を持った個人が先にいて、あとからプロジェクトが立ち上がるのが普通ですが、VVCでは奥田社長発案のプロジェクトが先にあり、<やりたい人>をあとから募ることになってしまったのです。(p.241)

    ★対策の第三弾は、ターゲットを数値評価から感性評価へシフトさせるという変更でした。(略)
     欧米企業は、80点主義の日本製品に世界の消費者が飽きたらなくなってきた間隙を突くように、120点狙いの製品を次々に投入してきています。(略)電池の持続時間や燃費のような数値評価軸に囚われていると、それこそ不戦敗になってしまうのではと気がかりです。(p.271)


    <きっかけ>
     2013/7/11 ボスからお借りした5冊のうちの1冊。”

  • P:285 推定文字数:203490(17行×42字×P) 抜き書き:2541字 感想:355字 付箋数:8
    (対ページ付箋:2.80%、対文字抜き書き:1.24%、対抜き書き感想:13.97%) 

    ※付随して読みたい本
    どうする? 日本企業(東洋経済新報社) 三品和広 

    話題は広くて、少し古い音楽や絵画でのイノベーション的限界により日の目を見なかった作品群の話など、とても惹きつけられて一気に読める。

    ・織機で布を織るには開口、よこ入れ、打ちの三つの動作が必要。たて糸の偶数群と奇数群を上下に分け(開口)、その間を杼(ヒ)という道具でよこ糸を通す(よこ入れ)。通したよこ糸を筬(オサ)で手前に打ち、たて糸に組み込む。
    1733年、イギリスのジョン・ケイによる飛び杼の発明(手前のレバーを片手で引くと杼が飛ぶ)で生産性が格段に向上した。
    1950頃からウォータージェットやエアジェットでよこ糸を飛ばす無杼織機が登場。
    明治初期までの手動の有杼織機では1分間にせいぜい40回のよこ入れしかできなかったが、現在のジェット織機は1分に1900回よこ入れ可能。一反織るのに16時間かかったものが1分程度しか必要無くなった。単純計算で約1000倍。まさに正真正銘のイノベーションである。
    その立役者となったのが日本のメーカー(津田駒)だが…革新織機の効果は5年も持続しません。1980年をピークにグラフは下降を始めます。一時は15%に届こうとしていた営業利益率も、1994年にはマイナスに転じてしまいます。それ以降は現在まで大きく上下動を繰り返すだけです。技術者たちの懸命の努力を、利益は反映していないのです。
    >>/> 技術の進歩の凄まじさ。昔は服が税金だったのに。

    ・私たちはリ・インベンションを「ある製品について、いまとなっては解消できるようになったにもかかわらず放置されている不合理や、かつては合理だったもののなかに新たに芽生えた不合理を解消すべく、当該製品を特徴づけると長らく考えられてきた特性パラメーターを無視して、誰に、何を、どのように提供すべきものなのかにまで立ち返り、評価軸自体を作り替えること」と定義しています。この定義からは、イノベーションとリ・インベンションの違いを次の三点に集約できます。

    ①狙いの違い。
    イノベーションは表面的には高付加価値化を狙いますが、その基準点は競合製品に置かれます。それに対してリ・インベンションは、従来製品では満たされていなかったニーズに応えることに狙いがあります。
    ②従来のパラメーターに対する態度の違い。
    イノベーションは競合製品との差異化を狙うので、従来のパラメーターを肯定的に捉えます。肯定したうえで競わないと、競合製品より優れていることを証明できないためです。それに対してリ・インベンションは、従来のパラメーターを否定します。従来のパラメーターでは捉え切れていない不合理の解消に狙いがあるためです。
    ③必要とされる力の違い。
    イノベーションの成否は技術的なブレークスルーを生み出せるかどうかにかかっています。そこでは組織的な技術力が問われます。一方、リ・インベンションの成否は誰に、何を、どのように提供するものなのかというコンセプトにかかっています。そこでは必ずしも技術力は必要なく、構想力が問われます。
    >>/> 存在する商品をこの二つに分けるのは中々難しいけれど、このユーザー志向はいつも頭に有ってよいと思う。

    ・模倣できないマインドの違いは、消費者には丸見えになります。恐ろしいことに、製品の細部が作り手のマインドを映し出してしまうからです。使い勝手の悪いデザイン、安いと叫ぶパーツ、形ばかりの警告シール、心地悪い操作音、無愛想なエラーメッセージなどは、誰かが妥協をした証です。
    >>/> 耳が痛い。。

    ・アイパッドのソフトウェアキーボードのキーは四角形として画面上に表示されますが、タッチを感知する領域は六角形になっています。これで間隔のズレを許容するわけです。ただし、感知領域を拡大すると、オーバーラップができてしまい、キーの判別に困ってしまいます。この問題を、アイパッドはユーザーが次にタッチするキーを予測して、そのキーの感知領域を瞬時に広げることで解決しています。ユーザーは気持ちよくアイパッドを使いこなしていると感じるはずですが、その裏方でアイパッドは涙ぐましい努力をしてくれているのです。
    >>/> 複雑な現実は複雑な方法でしか解決できないけれど、何とかなってしまうのがテクノロジー。

    ・1979年7月、ソニーはウォークマンを世に問いました。しかし、発売から一ヶ月経った時点での売り上げ実績は、目標に遠く及ばず、わずか3000台にとどまりました。売れるはずがないと悲観論を唱えた人たちは、密かにほくそ笑んだに違いありません。
    ここでソニーは学生を集め、ウォークマンを手渡して、自由に使ってもらう活動を繰り返しました。…常識に挑戦するウォークマン(ラジオからお気に入りの曲を録音するエアチェックが大流行していて録音機能を取り去ることは考えられなかった)は、単に知名度を上げるだけでは購買につながりません。使用体験や、使っている人を見る疑似体験が不可欠だったのです。
    >>/> ウォークマンの斬新さは今では伝説だけれど、当初はやはり非常識だったのか。その時には体験をショウアップする必要があるんだ!

    ・トランジスタラジオが価格破壊を免れなかったのに、なぜウォークマンは20年もの長きにわたって市場に君臨することができたのでしょうか。面白いことに、TR-55の追随品は発売翌日に登場しましたが、ウォークマンの追随品が出るには13ヶ月を要しています。
    >>/> 誰もやろうとしないし、していないから追随できない。

    ・フォー・ザ・レスト・オブ・アス、先端から取り残された普通の人たちのために。技術だけではダメなんだ、人文科学と結びつけないと。―スティーブ・ジョブズ
    >>/> ギークなテクノロジーおたくだったはずなのに、何故これが大事だと信じられたんだろう。

    ・テイラーの教えとは、不合理な自己流に走りがちな従業員を、専門化が合理的に作成する作業標準に従わせなさいというものです。科学的経営は、大量生産方式を確立したヘンリー・フォードが大規模自動車工場に適用して大成功を収めたのみならず、太平洋戦争でアメリカに挑んだ日本を完膚無きまで打ちのめす原動力となったことで、誰もが正しいと信じていました。
    それなのに、よりによって敗戦国の日本が、彼我の生産力の差を嫌というほど思い知らされたにもかかわらず、戦後は科学的経営の教えに反して全員経営に走ったのです。そして、終戦から30年も経つと、日本はテレビや自動車のモノ造りでアメリカを凌駕し始めました。このように説明を加えると「驚嘆」の意味が伝わるかと思います。
    >>/> その組織の傾向は泥臭いイノベーション、技術進歩、ガラパゴスに向いているというわけですね。

  • ■ひとことで言うと?
    リ・インベンションの鍵は「こだわり」「顧客洞察」「少数精鋭チーム」

    ■キーポイント
    - リ・インベンションとは
    - 既存製品の再発明
    - 暗黙の不合理の解消、新技術による革新的な性能向上
    - 既存のコンセプト(評価軸)を疑う
    - 誰に(Who)、何を(What)、どうやって(How)届けるか?
    - リ・インベンションに必要なこと
    - 強いこだわり:「やりたいこと」を中心に据える
    - 深い顧客洞察:ユーザーの潜在的な需要を発見・創出する
    - 自由な少数精鋭チーム:既存組織のしがらみに囚われずに活動する

  • 笑う消費者、泣く企業。

    ■再読の背景
    最近読んだ「武器としての資本論」にあったイノベーションに対する考察が興味深かったで、あらためて本書を読み返した。資本論には"笑う消費者"の考察はないものの、イノベーションに成功しても労働者(ひいては生産者)がなぜ幸せになれないのか、報われないのかという視点があり、本書と共通している点が興味深い。
    相対的な生産手段の獲得(絶対的な手段=労働力の増加ではない、すなわちイノベーションによる高機能化、コストダウン)は消耗戦である…と。

    ■概要/感想
    では結論、イノベーションへの解は何か?
    それは「リ・インベンション〜前衛への挑戦〜」であると筆者は言う。
    私の中では「資本主義そのものや、その緩衝地帯であったフォーディズムが終焉を迎える世界で、資本vs労働者の階級闘争にケリをつけ、全ての人が生産者になる世界を実現させる」ことだと解釈する。そのための一つのアプローチとして、本書「リ・インベンション」が有益な示唆に富むことは間違いない。
    特にフォーディズムから抜け出せない日系企業、慌てて舵を切りネオリベ化した大企業に対して、経済学の視点でなく、経営学(特に経営戦略)の視点で痛烈なメッセージを与えてくれており、規格大量生産から抜け出す必要に迫られた企業にとっては必読である。

  • イノベーションしても、すぐにコモディティ化して企業に利益をもたらさない。
    リ・インベンションが必要。
    ☆ホヴディング hovding 見えないヘルメット エアバッグ
    ☆レボライツ revolights 自動車に知らせるための自転車用ライト
    ☆キッチン用品 OXO
    ☆ダイソン社 羽のない扇風機
    ☆アップル社 ipad、パソコンにあらず

  • イノベーションとリ・インベンションの違いが最後まで腹落ちしなかったので、事例の後づけ解説以上に伝わるものが無かった。

  • なんか読みにくいので、また別の機会に

  • 「どうする?日本企業」や、「戦略不全の論理」で有名な三品先生の本であり、ゼミ生の成果発表的な本でもあります。

    「リ・インベンション」という概念を用いて、日本企業に成長して欲しいというメッセージが含まれています。

    本書で言うイノベーションは技術革新や技術改善として使われており、既存の技術やビジネスの延長線上にあるものを指しています。このイノベーションが救世主の役割を期待された概念であるのですが、機能していませんということなんです。理由として、消費者に受けいられなかったり、利益に結びつかなかったりと。イノベーションが起きても、時代にあわないということで、開発者の努力が水の泡になってしまうケースが多いということが事例からも読み取れます。

    そこで、リ・インベンションという新しい概念の登場です。こちらは、コンセプト中心で、過去のパラメータ情報を否定し、新たなニーズを創造するということだそうです。
    リ・インベンションの事例として、iPadやウォークマン、ベイブレードなどが紹介されています。

    個人的には、リ・インベンションがイノベーションの本来の意味だと思うんだけどなぁ。イノベーションって技術革新と訳されてしまうから、既存のレールから外れないようなものになってしまうんだと思います。

    最後にリ・インベンションに築くための組織の作り方について説明されています。ここが重要だと思います。
    副次的機能の重要性やインテグリティの話が興味深かったです。

    ですが、あまり新鮮味のある話ではなかったです。どこかで聞いたような内容を焼きまわししたような形で、目から鱗というわけではなかったです。

  • 驚きを与える製品をどう作るか。自転車用の見えないヘルメット、ノートと音声を連動させたペン、頭脳戦の要素を組み込んだベーゴマなど、次元の違う製品を生み出す「リ・インベンション」の9つの事例を紹介。

    PART1 なぜリ・インベンションなのか
    PART2 これがリ・インベンションだ
    PART3 どうリ・インベンションするか

  • 9つの事例をもとに、「あたりまえと思っているものについて、ターゲットや進化の方向を変えて革新を行う」というリ・インベンションを説明。前半は事例の解説、後半はそれら事例を基した経営・組織論。9つの事例以外にも、日本の失敗事例などもあり。

全26件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

三品 和広(ミシナ カズヒロ)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1959年愛知県生まれ。82年一橋大学商学部卒業。84年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、89年ハーバード大学文理大学院企業経済学博士課程修了。同年ハーバード大学ビジネススクール助教授、北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助教授等を経て、現在、神戸大学大学院経営学研究科教授。

著書:
『戦略不全の論理』(第45回エコノミスト賞、第21回組織学会賞(高宮賞)、第5回日経BP・BizTech図書賞受賞)
『経営は十年にして成らず』
『経営戦略を問いなおす』
『戦略不全の因果』
『戦略暴走』
『総合スーパーの興亡』
『どうする? 日本企業』
『リ・インベンション』
『高収益事業の創り方(経営戦略の実戦(1))』
『市場首位の目指し方(経営戦略の実戦(3))』
『モノ造りでもインターネットでも勝てない日本が、再び世界を驚かせる方法』
『デジタルエコノミーと経営の未来』(共著)
『信頼とデジタル』(共著)

「2022年 『企業成長の仕込み方(経営戦略の実戦(2))』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三品和広の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×