最強の未公開企業 ファーウェイ: 冬は必ずやってくる

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492502662

作品紹介・あらすじ

ファーウェイという企業をご存知でしょうか。
世界170カ国に展開、世界人口の3分の1にサービスを提供し、
米国の経済誌に「世界でもっとも革新的な企業」として、
フェイスブック、アマゾン、アップル、グーグルに続く第5位に選ばれるようなグローバルIT企業です。

中国語社名は「華為技術有限公司」。
もともとは、うだつの上がらない人民解放軍の退役軍人だった任正非が、
1987年に深センではじめた怪しげな、中国ではよくあるブローカーのひとつでした。
その他大勢のブローカーと任が違っていたのは
「20年後に世界レベルの通信機器メーカーになる」という強い思いを抱いていたこと。
そしてそれは現実となったのです。

しかし、ファーウェイは急成長するにつれて、かつて教えを請い信頼を寄せた米企業から訴えられたり、
人民解放軍と密接なつながりを持ち、保護を受け、通信情報を軍に流しているのではないかとウワサされ、
ロビイストの暗躍する米議会に問題視されて、いわばアメリカそのものを敵に回したこともありました。
任の経営哲学は時に秘密主義とも呼ばれ、株式公開をしないこともあり、
実態がなかなかうかがい知れず、厚いベールに包まれてきたことも、そうした憶測を助長しました。

わずか20数年の間に、奇跡の成長を遂げたIT業界の”紅い巨人”、ファーウェイとはいったい何者なのか。
そして創業者の任正非とはどんな人物なのか。
ファーウェイは従業員が全株式を保有する会社であり、任の持ち株比率は1%台にすぎません。
彼の類い希なるカリスマもまた、大いなる謎だと言えます。

本書は、それらを全面的に解き明かす初めての書物です。

中国、台湾、米国で出版されたのに続き、ついに日本語版が登場します。

サブタイトルの「冬は必ずやってくる」は、
任の経営哲学とファーウェイの急成長を解き明かすキーワードのひとつ。

巻末にはファーウェイ社内で読み継がれる任による文章「ファーウェイの冬」も収録しています。

感想・レビュー・書評

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  • ファーウェイも今まで苦労してきたのと、コツコツ積み重ねて来た結果、今の姿があるのだと言う事がわかりました。

    ファーウェイは現在では技術の最先端を行って、あと2年以内にはSamsungも抜いて販売台数世界一になると思います(あくまで私の予想)。アメリカに狙い撃ちをされる程に、ファーウェイの快進撃は華々しく勢いのあるものです。

    でも、ファーウェイは創業からずっと途上国向けに商売をしてきて、そこで生き残る為に良い物を低コスト必死に作ってきて価格競争を磨いてきたました。また現在まで多大な開発費をつぎ込み、すごい努力して技術を磨いてきた企業です。

    これがファーウェイの強さの本質であり、日本企業が忘れてしまったハングリー精神かと思います。

    今ではファーウェイ「情報を盗んでいる企業」というレッテルを貼られていますが、この本を読むとそれだけではない一面が分かります。ファーウェイに少しでも興味のあるは方は読んでみて下さい。

  • ・君たちは目をまっすぐ顧客に向け、上司には尻を向けろ。幹部への気配りのために上から下まで狂奔しているようではいけない。上司が自分を気に入ってくれれば昇進できるなんて考えるな。そんな体たらくでは、我々の競争力は弱まってしまうだろう
    ・顧客のためにつくすことこそファーウェイの唯一の存在理由である
    ・我々の成功の源泉は、資本でも技術でもなく顧客である。ファーウェイは投資家と親しむのではなく、顧客と親しむ企業文化を育まねばならない
    ・短期的な利益のために長期的な目標を犠牲にしてはならない
    ・マネジメントに灰色の要素を残すことはファーウェイの生命の樹なのだ
    ・「水が澄みすぎると魚がいなくなる」―何もかもが透明で厳格な環境は息苦しく住みづらい。それは人間の組織も同じであり、清濁併せ持ってこそ「河流」なのだ
    ・世の中には完璧な戦略など存在しない。何もかも取り入れようとせず、最も肝心な点を押さえていればそれで成功なのだ。同様に、完璧な人間も存在しない。だからこそ、我々は灰度の観念を持ち続けなければならない
    ・ファーウェイは創業以来20年以上にわたって変革を続けてきたが、短期に大きな変動を伴うような変革は避けてきた。これまでの変革はいずれもゆっくりした変化であり、社員の皆さんは変革であると感じなかったかもしれない。だが、変革とは小さな変革の積み重ねであり、決して一気に変動させてはならないのだ。そうしなければ企業は崩壊し、多くの人が犠牲になってしまう
    ・組織変革に取り組む企業の多くでは、なぜ社員の活力を十分に引き出すことができず、むしろ破壊的な亀裂を生じさせてしまうのか。典型的な要因のひとつは、変革を主導する指導者が「白でなければ黒」という極端な思考を持っていることである。あるいは、漸進的な変革に飽き足らず「一気に成果を挙げたい」と望む時、人間は必ず失敗する
    ・幹部を抜擢する際は、彼の技能よりも人格を重視すべきだ。人格とは、私がいつも強調している勤勉の精神、献身の精神、責任感、使命感である

  • 通信機器およびスマートフォンの世界で今や飛ぶ鳥を落とす勢いの中国通信最大手企業「ファーウェイ」。日本でもスマホが売れてきたので、知名度も上がってきている。2017年には初任給が日本企業よりも高い月40万円で募集ということでもニュースになった。

    ファーウェイは、非常に独特な経営管理を実践している企業である。輪番CEO制、非上場として社員で株式を保有、7,000人にいったん辞職願を提出させた、仮想敵である「藍軍参謀部」の存在など。よくある中国企業とは違って、任氏は政府の役人と私的な交友がないという。中国の他の企業との付き合いやメディアとの付き合いもほとんどない。任氏はその性格もあるのかもしれないが、あえて距離を置くことを選択した。中国企業としては非常に稀である。

    本書は、創業者でありトップの任氏の経営哲学を任氏の言葉を多数引用したものである。

    ■ ファーウェイの戦略
    「突き詰めて言えば戦略とは「私は誰か」「何ができるのか」「何ができないのか」という三つの問いに答えることだ」という。ファーウェイは、生き延びるために、戦略を先鋭化させてきた。非上場であることは、そのために有利に働いた。いくつかファーウェイの戦略と言えるものを抜き出してみる。

    「ファーウェイの最低限かつ最高の戦略は『生き延びる』ことである。他者より長く生き延びることができれば、既に成功者なのだ」
    「ファーウェイの成功の秘訣は、”鶏肋戦略”を絶えず続けたことにある」
    「欧米の通信機器メーカーが危機に陥った原因は、利益率が高すぎたことだ。一方、我々は暴利を求めなかったからこそ生き延びた。こんな薄利だからこそ、わずかな生存空間の中で生き延びる術を身につけざるを得ず、そのおかげで経営力が高まったのだ」ー 非上場であることの利点でもある
    「戦略において短期的成果を求めるのは欧米企業の弱点である」ー これもまた非上場であることの利点。ITバブルの崩壊は上場していないというファーウェイの特徴がメリットになった。ITバブル崩壊がファーウェイの戦略的チャンスをもたらしたのだ。
    「ファーウェイは今後も相当長い間、欧米企業の後追い戦略を続けなければならない。その過程でチャンスを待つのだ。我々より聡明なライバルがミスを犯すその瞬間を」
    「我々は誰とでも相乗りしなければならない。左手にはマイクロソフトの傘を、右手にはシスコの傘を持っておくのだ。戦略的同盟に期待してはならない。ある者と同盟を結べば、それ以外の者はみな敵になってしまう」ー ファーウェイはオープンな戦略を取り続けてきた。オープンこそが基本戦略である。

    オープン戦略と同時に重要視しているのが顧客至上主義である。「目はまっすぐ顧客に向け、上司へは尻を向けろ」という。

    「我々は『川底を深く掘り、堰を低く作る』という精神に則り、自分自身にはより多くの困難を与え、他者にはより多くの利益を差し出すべきである。友人を多く作ることで敵を減らす。ひとりだけ優位に立とうとせず、多くの友人と団結してウィンーウィンの実現を目指すべきだ」ー 独特の表現を交えてこう語る。「幾多のライバルと共存共栄しながら天下の英雄となる」という理想を掲げるのである。

    技術革新に関しても顧客至上主義から判断される。
    「ファーウェイはイノベーションを通じて技術面で業界をリードしなければならない。しかし、リードしてよいのは常にライバルの半歩先までだ。三歩先まで進むと顧客ニーズから乖離してしまいかねない」

    ■ 灰度哲学
    任氏の経営哲学としての特徴は、「灰度哲学」である。「進むべき方向は灰色の混沌の中から生まれる」という。
    ファーウェイの成功の秘訣を任氏は「開放、妥協、灰度」という三つのポイントを列挙し、それらこそが急成長の原動力であると説明した。そして「灰度哲学」こそがベースとなる思想なのである。

    「合理的な肺度(グレーゾーン)の許容は、ファーウェイの発展に影響を与える様々な要素を調和させる。この調和の家庭が『妥協』であり、調和の結果を『灰度』と呼ぶ」ー「マネジメントに灰色の要素を残すことはファーウェイの生命の樹なのだ」

    灰度哲学は、技術の見方にも影響を与えている。
    「ビジネス環境の変化が大きすぎ、また速すぎる。今歩んでいる道が一体どこまで続いているのか、我々にはわからないし、答えを知っている者はどこにもいない。我々は神ではないのだから、情報化社会の将来がどうなるかを正確に予測することはできない。つまり、完璧なビジネスモデルを設計することなど不可能なのだ」

    灰度哲学のコアになる「寛容」について次のように述べている。
    「寛容とは軟弱ではなく強さである。寛容による譲歩には明確な目的や計画があり、主導権は自分の手中にあるのだ。逆に言えば、消極的な受け身の譲歩は寛容とは呼べない」
    「勇敢な人間だけが、どうすれば寛容になれるかを理解している。臆病者は決して寛容になれない・なぜなら寛容は臆病者の本質ではないからだ。寛容とは高い人徳の表れなのである」

    「ファーウェイが成功した秘訣のひとつは、『熱力学第二法則』と『散逸構造論』をうまく応用したことだ。絶えず熱を加え続け、絶えず散逸し続ける。そうしなければ、競争力を20年以上も保ち続けることは無理だっただろう」
    ー「極限まで紅くなれば灰になる」という。

    灰度哲学と対になるのが「自己批判」である。自己批判は思想、品格、素質、技能を核心する優れたツールであると言われる。
    「自己批判をうまく行うのは難しい。なぜファーウェイにそれができるのか。第一の理由は、リーダーが率先して自己批判し、メンツを失うのを恐れないことだ。そして第二の理由は、人格を否定せず、灰度哲学に則って妥協していることだ。ふつうの企業にはとても真似できないだろう」

    ■ オープン
    ファーウェイの特徴はその開放性にある。また、欧米の技術ややり方を取り入れるに当たり、謙虚にそれを受け入れる。業務プロセスについては、『米国の靴を履く』という言い方で、全面的に業務プロセスを改善に取り組んでいる。

    私はしっかりと『米国の靴』を履く必要があると考える。彼らに謙虚に学ぶことで、初めて彼らに追いつくことができるのだ」ー 経営制度の面では積極的に米国流を取り入れた。その徹底のためにはコンサルタント会社にも多くのコストを費やしたという。

    「ファーウェイの業務プロセス変革は、個人の権威を消滅させるためのプロセスだった。組織が一人や数人のリーダーの影響力に頼らなくなった時、我々は成熟したと言えるだろう」
    これもまた生き延びるための徹底した方策だったのかもしれない。

    ■ 仕事のやり方
    インテルのアンディ・グローブは「パラノイアだけが生き残る」と言った。任氏は「奮闘者だけが生き残る」と言う ー 愚直である。

    「他人が耐えられない苦労を耐え忍ぶことができる者だけが、他人の前に立つことができる」と書くとき、トップや管理職に求めるものがどういうものかわかる。

    「経営幹部は使命感を、中間管理職は危機感を、一般社員は飢餓感をもつべし」という。

    「10年以上にわたる業務プロセス変革にしても、二度の集団辞職にしても、ファーウェイの変革が「より多く働いたものにより多く報いる」という価値観に根ざしたものであることは間違いない」

    ■ ファーウェイの冬 - 危機意識について
    「ファーウェイの冬」 - 任氏が2001年に社員宛に書いたメッセージである。巻末に全文が掲載されているので、是非とも読んでほしい。任氏は危機、衰退、破滅は必ずやってくる、と説く。
    このメッセージは、ファーウェイの身体に刻まれた危機感のDNAである。崩壊や死の予兆に対して世界中のどのライバルよりも敏感なのだ。

    「失敗という”その日”は、いつか必ずやってくる。私たちはそれを迎える心の準備をしなければならない。これは私の揺るぎなき見方であり、歴史の必定でもあるのだ」ー この認識を社員との間で共有をしている。

    「我々は平時であっても危機感を忘れてはならない。いずれ必ず危機が訪れることをしっかり認識しなければならない。みなさんも知っているように、誰もが認める世界的な一流企業でも、みるみるうちに業績が悪化し、気がつけば崩壊寸前ということが珍しくない」

    そのためには「一人当たりの生産性の改善を長期的かつ持続的に追求することだ」と説く。また、社員の流動性についても触れている。

    ---
    本当のところここに書かれたことが内部的にどこまで実践されているのかはわからない。その内容は独特でありながら一種のパラノイア的要素を含んでおり、競争相手からは脅威である。
    著者らはどちらかというとファーウェイ寄りの人たちのようであるが、もっと外部から研究されてよい企業だと思う。


    ※ 刊行に寄せて、元ノーテルCEOのウィリアム・オーエンスから言葉が寄せられている。ファーウェイとノーテルが合併する可能性があったんだ。
    また、ファーウェイが2002年にモトローラにハードウェア事業を売却しようとしていたらしい。そこで得た資金で大規模なリゾート開発を行う目論見だったらしい。

  • 孤高の経営思想家、どこまでもオープンに、開放と閉鎖、妥協という名の芸術、顧客至上主義、奮闘者だけが生き残る、灰度哲学グレーゾーン、保守的な革新、自己批判、7000人の集団辞職、均衡と不均衡の極意。

    経営とマネジメント。利益売上と効率性。小さな組織。危機感。生き残ることが最重要。

    時代も国も違うけど、インテルとかぶるなーっと感じた。

  • 中国の片田舎でわずか数名の従業員で設立されたファーウェイ。現在は通信業界の巨龍として世界中に通信設備網を張り巡らしていますが、その道のりは決して平坦なものではなかった様です。この本には創業者・任正非さんが設立したファーウェイの今までの歩みと任正非さんの経営哲学・思想、経験が書かれています。

  • 最強の未公開企業ファーウェイの根底を流れる冷徹なリアリズム。誇張も入っているだろうがかなり衝撃作。小さな組織に所属してる身としては、片田舎の素人が立ち上げたファーウェイが十数年で世界のトップ企業になった事実に勇気づけられる。また、ここまで冷徹に、悲観的に世の中を捉えているところに中国企業の逞しさを見た。参考になる所多し。市場のルールに合わせる。米国に行くときは、米国の靴を履いた。完璧な人間は居ない。清濁併せのむ。何かを拒めば、それは増長する。寛容がなければ、ジョブスは生まれない。
    最低限の目標は、生き延びること。

  • 松下っぽい。

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著者プロフィール

田 濤(ティエン タオ)
華為集団顧問
1957年生まれ。82年漢中師範学院(現陝西理工学院)卒。2009年シンガポール国立大学でMBA(経営管理修士)を取得。現在は北京無限詢奇信息技術および北京山石網科信息技術の取締役のほか、ファーウェイをはじめ多数の企業のアドバイザーを務める。

「2015年 『最強の未公開企業 ファーウェイ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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