- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784492502273
作品紹介・あらすじ
日本の活路はここにしかない。しかし、いったいどうすれば-。成功には偶然もあるが、失敗には必ず原因がある。日本語で書かれた初の本格的分析。
感想・レビュー・書評
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この本はイノベーションについて書かれた本ですが、巷で見られる成功本とは異なって、10個の仮説を解説しているところに特徴があります。
その中でも、1)技術革新よりもビジネスモデルが重要、2)失敗には法則性がある、3)知的財産権の強化はむしろ阻害する方向である等、という内容は私が常日頃より感じていた事でですが、あまり本では見かけるものではありませんでした。
イノベーションにより改良ではなく、新しいモノ・サービスを作り出す重要性はよく聞きますが、それに至るにはどうすれば良いのかが見えてないのが現状だと思います。池田氏の考え方を理解して私の担当している業務にも生かしていきたいと思いました。
以下は気になったポイントです。
・顧客の要望を聞くマーケティングで成功した商品は殆どない、それは顧客は既存の商品を前提にして生活していて、その枠を超えるものを開発するインセンティブがないから(p14)
・新しい事業を起こそうとする場合、まず何を売ればもうかるかというアイディアがあり、その上で収益を上げる方法を考え、技術はそれに適したものを選ぶ、という「ビジネスモデル」がポイント(p15)
・期待値が全く同じ「くじ」であっても、新たに得る場合は確実な利益を好み、失うときは不確実な損失を好む(p24)
・脳が基礎代謝の20%を消費するのは、脳内の膨大な毛細血管に血液を送るためだが、人間の脳の重さはチンパンジーの4倍なのに血流量は2倍程度でエネルギー供給はぎりぎり、なので脳は新しい行動をおこさずに習慣に従って認知コストを節約しようとする(p32)
・天動説のひとつの欠陥は、恒星との距離が正確に測定できるようになり、それば数十万光年の遠いところにあると判明したこと、恒星が天球を回転しているとすると、それは光速よりはるかに速い(それも各々異なる)スピードで運動していることになる(p39)
・ローマカトリック教会が地動説を公式に認めたのは1992年(p39)
・優れた経営と技術をもった企業ほど、生き残ることが難しい、原因は、新たに登場する破壊的イノベーションの単価が安く、技術的にも劣ったものだから(p44)
・イノベーションに成功する法則はないが、失敗する法則はかなり明らか、1)最新のハードウェア開発により不可能だった機能を実現、2)大企業が参入し大規模な実証実験、3)コンソーシアムによって標準化がすすむ、4)政府が補助金が出す、5)新聞が特集を組み、野村総研が予測記事を書く(p52)
・第三世代で国際標準化したにも拘らず、いったんガラパゴス化した日本の携帯は、二度と海外市場に出られなかった、この原因の一つは、キャリアが端末をメーカからすべて買い上げて販売店に奨励金をだす流通機構にあった(p76)
・16ビットになって、OSによってハードウェアとソフトウェアが分離されて、特定のハードウェアに依存しないプログラムが開発されるようになった(p79)
・日本では、PCや携帯電話以外にもガラパゴス化したものが多い、医療サービス・デジタル放送、カーナビ、デビットカード、電子マネー等(p81)
・すべてオープンにしてもビジネスとしては成立せず、どこをクローズにするかの戦略がビジネスの成否を決める(p86)
・ビルゲイツの優れた着想は、OS/2を共同開発することを下請けから独立するチャンスとして利用し、IBM用と互換機用の2種類のOSを作り続けたこと(p93)
・長期記憶は連想で成り立っているので、人々はランダムな出来事を記憶するのは苦手だが、ひとつながりの物語は覚えやすく広がりやすい(p106)
・ベンチャーと自営業一般とは異なる、アメリカでの自営業比率は7.2%で、下から2番目で、日本(10.8%)より低く、それは90年代よりも低下(p130)
・ベンチャーキャピタルが資金を提供するのは創業企業の 0.1%以下、多くの企業は商業銀行から融資を受けている(p130)
・日本の高度経済成長の原因は、1)人口急増(低賃金、高生産性、若い)、2)技術移転により生産性が急速に上がったこと(p153、161)
・ソフトバンクは、2000年にダークファイバーの開放により、それを借りてギガビット・イーサネットでつなぐ、世界でも例をみないコア・ネットワークを構成して「ヤフーBB」が成功した(p170)
・1998年にアメリカで金融技術に初めて特許が認められて、ビジネスモデル特許が成立しはじめた、これによりイノベーションが進展した形跡はなく、むしろ停滞期に入った(p184)
・著作権の延長で利益を得るのは著作者ではなく、著作物を出している企業(p187)
・日本の書籍の印税は10%、原稿料は400字で5000円程度で、30年程度変わっていない(p189)
・日本発の国際標準になるとされた「TRON」という神話はウソ、実際にやっていたのはパソコンで遅れた松下のみ、USTRが要求したのは、「学校のパソコンに特定規格を強制するのはおかしい」と文部省の主張と同じもの、これは他のメーカが手を引く絶好の口実(p203)
2012年3月24日作成 -
本書は、様々な組織において、どうすればイノベーションが生まれるのかを、行動経済学という観点で考察したもの。
結論を簡単にまとめると以下。
1、重要なことは技術ではなくビジネスモデル
2、重要なことは仮説をたて、市場の見方を変えること
3、大企業が役員の合意でイノベーションを生み出すことはできない
4、優れた規格が競争に勝つとは限らない、大切なのは「突然変異」
5、「ものづくり」にこだわる限りイノベーションは生まれない
6、イノベーションはオーナー企業が有利
7、知的財産権がイノベーションを阻害する
8、銀行の融資によってイノベーションは生まれない
9、政府がイノベーションを起こすことはできない
10、過剰なコンセンサスを断ち切ることが重要
各章の焦点があいまいで、とても読みづらい本でした。
ただ、内容は、今後の世の中を生き抜く組織を作るためのヒントとして、参考にしたいと思うことも多くありました。
特に大事だと思うポイントは以下。
・人は絶対量ではなく変化率に反応し、利益より損失を大きく評価する傾向が強い
・物語は複雑な事実を単純化し、神話や民話のような記憶しやすい形で口伝によって広がる。そのメカニズムは理論による説得とは違い、むしろ伝染病に似たパターンで広がる。
・長期記憶は連想で成り立っているので、人々はランダムな出来事を記憶するのは苦手だが、ひとつながりの物語は覚えやすく、多くの人に広がりやすい。だからイノベーションを広めるためには、それが必要だと思えるような魅力的な物語が必要だ。
・本来、情報とはパーソナルなものである。日本の和歌も日記も、全て個人的なメッセージだった。それが大量生産されるようになったのは、個人の嗜好に合わせて情報を生産することが困難だという20世紀までの技術的制約によるものだ。そうした制約が無くなって情報の個人化が可能になった今、J-POPや民放のワイドショーより、ブログやSNSの方が好まれるのは当然だ。
多額の宣伝費をかけて「メガヒット」で規模の利益を得るビジネスは、もう限界がみえており、マスメディアとともに滅亡する恐竜だ。今後のコンテンツ産業のフロンティアは、iグーグルやアマゾンの「おすすめ」のように情報を個人化することだろう。
・製造業では需要の存在は確実であり、供給側の規模だけが問題だったのに対して、情報産業では供給側の設備の規模よりも需要やイノベーションの不確実性が問題になるのである。こういう場合には、あらかじめ特定の目標を設定して大規模な投資を行なうよりも、
多くの「実験」に分散投資し、事後的に見直して失敗したプロジェクトから撤退するオプションを広げることが重要になる。 -
イノベーションについての体型的な視点をできるだけ理論ベースでアプローチした本です。池田氏も冒頭で述べているように今まで経済学でイノベーションというのは不確実な事象というある種サジが投げられたものであり、他方経営学ではケーススタディの分析にとどまっておりなぜイノベーションが起こったかはわかってもどうやってイノベーションを起こすかはやはりベールに包まれていました。それをできるだけモデル化しようとしたのが本書です。大学の教科書にも使えるように意識して書いたというのだが、アカデミズムの教授が書く本との違いはケーススタディの量でしょう。理論ベースの教科書では実際例というのはこちらで勝手に考えるように課された命題でしたが池田氏は自身の経験と広範な知識を惜しみなく披露しまだまだ不透明なイノベーションのハウツーを描くことにある種成功しています。難点としては、専門用語が多いということです。池田氏の肩書きは経済学者であり、引用や思考もそれによることが多いのですが他にゲーム理論やORや進化論などの用語が使われているのでこれらいずれかを少しでも知らないと調べながらの読解になるので厳しいと思います。また企業の例もIT系がなぜか多くそれに付随するハードウェアやスクリプト言語の名前など出てくるので相応の覚悟が必要です。ドットコム、自然独占、FTTH、これらの意味または示唆することを想像できるかできないかがひとつの指標になります。しかし用語が多すぎてケーススタディが果たしてケーススタディたり得ているのかどうかの読み手の議論ができないのは問題があるでしょう。モデルを知ってケースを知ったとしてもあくまで聞いた情報以上の価値はなく、読み手がそれを咀嚼できるやら。広範な知識を先ほど評価しましたがそれがたたったか。
総評としてはアカデミックな性格を持ちながらも常に実践を意識したスタイルと時折アイロニーを含んだような文章の構成のそれらの全ては読み手を飽きさせず社会人、学生だけでなく近年の脳トレ層にも勧めることのできる思考を促す良書である。経済学はこう使うのか、ゲーム理論はこんな使われかたをしているのかを理解する一助にもなり二度三度読んでも新しい発見がある本だと思われる。 -
企業の実例は興味深いが、理論部分を読むと日本語と思えない難解さで頭が痛くなる。。。
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151003 中央図書館
池田信夫は、伝統的アカデミズムの学究ではないが、理論知らずのアホなコンサル崩れの「経営評論家」では提示しえない、経営理論の経済学的フレームワークを、普通のビジネスパーソンにも理解できるレベルにしっかり要約してくれる、他に例のない存在である。
この本は、経営学の専門書というほどでもないが、経済評論家やコンサル崩れの一山幾らのヨタ本よりは、はるかに難しい内容にフォーカスしており、単体のビジネス書としては、多くは売れそうにないだろう。経営学系列の大学の教科書(副教材?)としては、いいセンなのかもしれない。
80年代以降の、ITやPCやSONY、SHARPに関する経緯も、ざっくり・ばっさりと書いてある。それだけに、池田の記述だけが真実かどうか、という厳密な考証の対象にはならない。だが、腑におちる内容ばかりであり、真実から遠いものではないと感じ -
行動経済学を元にイノベーションについて書かれている。最初の行動経済学についての話が若干長いかと感じる。
イノベーション理論について様々な事例を用いながら説明しているのでわかりやすいが、本として一貫したものがないため、読み終えた感覚はすっきりはしない。 -
イノベーションを阻害する要因をこれまでの失敗から読み解くといった内容。示唆に富むものだった