新しい世界の資源地図: エネルギー・気候変動・国家の衝突

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (587ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492444665

作品紹介・あらすじ

原油価格はなぜ激しく変動するのか?
米中関係はどうなるのか?
地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか?
地政学リスクから第一人者が読み解く『ウォール・ストリート・ジャーナル』ベストセラー

エネルギー問題の世界的権威で、ピューリッツァー賞受賞者の著者が、エネルギー革命と気候変動との闘い、ダイナミックに変化し続ける国際政治の地図を読み解く衝撃の書。最新情報が満載!

日本人が知らない資源戦争の裏側とは?
米国vsロシア・中国の新冷戦、エネルギー転換の未来を描く!

[米国]「シェール革命」で中東と距離を置く
[ロシア]市場を求めて中国と急接近
[中国]「一帯一路」で中東・欧州にも影響大
[中東]石油需要枯渇への危機感が増す
[自動車]石油の地位を脅かす自動運転車と電気自動車
[気候変動]再生可能エネルギーや政策の役割の比重が増大

感想・レビュー・書評

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  • この一冊を頭に入れるだけで、世界を見る目が変わる気がする。高レベルで広範囲のエネルギー事情が解説される。国防においても経済においても重要な課題であり、教科書にすべきほどの決定版ではないだろうか。あまりに密度が濃過ぎて、年跨ぎで読む事になった。メモ書きの抜粋に書評を添えて以下に記す。

    アメリカはシェール革命の結果、石油と天然ガスのどちらにおいても、ロシアとサウジアラビアを一気に抜いて、世界最大の生産国になった。現在では、世界屈指の石油と天然ガスの輸出国でもある。アメリカは、エネルギーをほぼ自給できるようになった。

    何十年にもわたって、世界の石油市場を規定してきたOPEC加盟国対非加盟国と言う捉え方は、ビッグスリー(アメリカ、ロシア、サウジアラビア)と言う新しいパラダイムにとって変わった。

    1991年ソ連の崩壊により、ウクライナは初めて主権国家となる。その際に生まれながらにして世界第3位の核保有国となった。1900の核弾頭をソ連から受け継いだ。しかし、1994年のブダペスト覚書で放棄し、ロシアに譲渡された。そのかわりウクライナはロシア、イギリス、アメリカからウクライナの既存の国境を尊重すると約束を取り付けた。2005年の時点で欧州に輸出される天然ガスの80%がウクライナのパイプラインを通っていた。
    オレンジ革命以降、ロシアは天然ガスの価格交渉で態度を硬化。今まで安価にウクライナに天然ガスの未払いや価格を理由に、ウクライナへの供給を停止。アメリカはロシアに抗議。

    世界で最も重要な通商航路と言われる南シナ海。スプラトリー諸島は、もともと波に隠れて、水上から見えない岩サンゴ礁があちこちにあるような危険な海域であった。南シナ海を通る世界貿易の額は3.5兆ドル。中国の海上貿易の3分の2、日本の海上貿易の40%以上、世界貿易の30%を占める。中国が輸入する原油の80%は南シナ海を通過、食料安全保障の面でも重要な水域であり、世界の漁獲量の10%、マグロ類の漁獲量の40%。

    中国のエネルギーの85%は、今も化石燃料で、石炭の占める比率が60% 。石油は20%だが、輸入量は世界最大であり世界の総需要の75%。輸入される石油のほとんどは中東産であれアフリカ産であれ、南シナ海の前に狭いマラッカ海峡を通る。

    南シナ海で見つかる資源の大部分は原油ではなく、天然ガスである可能性が高い。

    1933年スタンダードオイルオブカリフォルニアがサウジアラビアで油田を探す権利を獲得。1938年に掘り当てた。1930年、ヒジャーズネジド王国がサウジアラビアに改称。1950年代に世界の生産量が増え始め、石油収入が流れ始めたが、石油による富の時代が本格的に始まったのは、1973年の石油危機で、原油価格が4倍に跳ね上がった時から。そこからサウジアラビアは豊かな国に。

    欧州では、電気自動車にも風力タービンにも必要とされる。レアアースが95%を中国産が占める。欧州で使われているコバルトの60%は、元はコンゴ民主共和国で算出したものだが、実際に欧州に輸入されるコバルトの80%以上は中国で精製。

    箇条書きでは文脈が繋がり難いが、そもそもウクライナ情勢も中東情勢も、南シナ海における問題もエネルギー確保が遠因、あるいは直接的な理由であり、その極めて重要な課題に加えて、カーボンニュートラルが作用していくというのが世界的な流れである。この事は本書を読まずとも認識済みかも知れないが、その詳細について、理解の助けになる本だ。

  • 【感想】
    本書はエネルギー問題を扱う専門家、ダニエル・ヤーギンによって書かれた「資源をめぐる地政学」の本である。原書が書かれたのは2020年9月とかなり新しく、アメリカ、ロシア、中東といった巨大産油地域の最新情報はもちろん、電気自動車や気候変動といった、エネルギー関連業界の動向まで余すことなく網羅している。まさに「新時代の地図」と言える一冊だ。

    エネルギーが国際政治上の武器として扱われた例といえば「第4次中東戦争」であるが、そこから50年近く経った今でも、石油をはじめとする「資源」は常に大国間で緊張を生み出し続けている。
    そのエネルギー業界に、近年大きなシフトが起きた。「シェールガス革命」である。
    新エネルギーの発見によって、米国は世界最大のエネルギー消費国からエネルギー産出国に転換した。2019年には70年ぶりの純石油輸出国に返り咲き、2022年にはオーストラリアとカタールを抜いて、LNG輸出が世界トップとなった。
    この出来事は世界のエネルギーの地図を塗り替えた。
    ロシアは今まで、「ノルド・ストリーム」によって欧州との結びつきを強めていたが、アメリカの台頭により同地域への影響力が低下することが予想されている。そうなると西側だけでなく世界のエネルギー市場から完全に孤立してしまうため、それを防ぐために中国との大型契約を行ったり、サウジアラビアとパートナーシップを締結したりして、対米への足掛かりを築いている。
    中東諸国も同様に面白くない。アメリカはOPEC非加盟国であるため、石油産出に関して連携ができない。アメリカの石油増産により原油価格が国際的に下落すれば、ダメージを受けるのは石油依存度の高い中東各国だ。また、OPECを主導する巨大産油国サウジアラビアとしては、中東諸国の火種になっているイランが石油増産を行うのを防ぎたい。ただし、原油価格の下落を防ごうと減産を行い、かといって他国は減産をしなかったら、自分たちだけがシェアを奪われる格好になってしまう。これがジレンマとなり、OPEC加盟国は対応に窮している。

    エネルギーをめぐるテーブルの上では、こうした政治的駆け引きが繰り返されていく。これもひとえにアメリカがエネルギー大国に成長し、ロシアや中東の政治的意向を無視してパワープレイに走ることができるようになったからなのだ。
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    以上は一例だが、本書はこのように「アメリカのシェールガス革命によって起こった影響」を、現在の世界情勢に当てはめて「新しい世界の資源地図」を作ろうとしている。本書が凄いのは、現在の情勢だけではなく、歴史の話もふんだんに交えている点だ。アメリカの章であれば、シェールガス革命前夜からエネルギー大国になり上がるまでの足取りを丁寧に説明しており、中東の章であればイラン革命からイラク戦争、ISIS誕生やOPECプラスの締結といった諸要素を幅広く解説している。読んでいて、「え、この密度で全世界を取り上げるの?」と思ってしまったぐらい、とにかく濃い。そして最後は「電気自動車」や「気候変動」も紹介している。国同士のやりとりだけでなく、マーケットの動向も取り上げ、そしてその分析も非常に細かい。これ一冊でエネルギーをめぐるトレンドを総ざらいできそうなぐらいだ。その分、ハードカバー600ページ弱という超ボリューム。だが、読む価値は大いにある。是非オススメだ。

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    【まとめ】
    1 アメリカ:シェールガス革命
    シェールガス採掘技術の登場によって、テキサスはごく短いあいだに変貌を遂げ、並外れた成長の軌道に乗った。2009年1月から2014年12月にかけ、テキサス州の原油生産量は3倍以上増えた。この時点で州の産油量は、メキシコの産油量を上回り、さらにはサウジアラビアとイラクを除くOPEC加盟のすべての国の産油量をも上回った。
    これは石油資源の地図をも描き換えた。パーミアン盆地の「スプラベリー・ウルフキャンプ」と呼ばれる一帯は、サウジアラビアの巨大油田、ガワール油田に次いで、今や世界で2番目に大きい油田と見なされた。イーグル・フォードも、クウェートのブルガン油田やサウジアラビアの別の油田に次いで第5位に食い込み、ロシアの石油力の拠り所になっているサモトロール油田を抜いた。米国は復活し、再び世界の主要な石油のプレーヤーに返り咲いたのだ。

    シェールガス革命の結果、原油の輸入量が急速に減り、貿易赤字が縮小する。さらにこの革命が重要だったのは、国内に雇用をもたらしたことだった。2019年の時点で、シェールガス革命はすでに280万人以上の雇用を支えており、製造業、関連ソフトの開発事業、不動産事業といった関連産業にも雇用効果が波及した。また、今まで国外の拠点に向けられていた産業投資が、国内に方向転換し始めた。国と州の歳入は、2012年から2025年までで1.6兆ドルになると予測されている。

    LNGのグローバルビジネスが加速した結果、オーストラリア、カタール、エジプト、イスラエル、ロシアなどで新しい輸出事業が立ち上げられている。
    中でも顕著なのはメキシコである。シェール層の一部は米国からメキシコに続いているが、メキシコには採掘技術がない。そこでメキシコはエネルギー部門の自由競争を開始し、国内外の企業から投資を呼び込んでいる。新しいパイプラインや発電所が建設され、米国のシェールガスがメキシコの発電所に届き、値段の高いLNGや石油にとって変わった。

    トランプ政権誕生後、LNGは貿易紛争と政治の道具になる。
    天然ガスの世界最大の生産国であり、なおかつ欧州における主要供給国でもあったロシアにとって、シェールは脅威だった。対象的にアメリカは、シェール革命のおかげで「安全保障上強硬策に打って出られる余地」ができたのだ。

    シェール革命で地政学はどのように変わったか。
    ①イランとの核合意の締結。
    →核開発絡みの制裁に対して、イランは原油供給を絞り価格をつり上げることで、輸入国を間接的に攻撃し、制裁を緩めさせることが可能だった。しかしアメリカの生産量の増加によって、イランの輸出量の減少が相殺される。結果、イランに強固な圧力をかけることが可能となり、同国を交渉のテーブルに引きずり出すことができたのだ。
    ②LNGの輸入をロシアに依存する割合が減ったことで、欧州におけるエネルギー安全保障が多様化された。

    これまで何十年にもわたって世界の石油市場を規定してきた「OPEC加盟国vs非加盟国」という捉え方は、「ビッグスリー」(米国、ロシア、サウジアラビア)という新しいパラダイムに取って代わられたのだ。


    2 ロシア:帝国の復活を目指すエネルギー大国
    ロシアは世界の三大産油国の1つに数えられる。天然ガスでは米国に次ぐ世界第2位の生産国であり、今も世界最大の輸出国だ。石油と天然ガスの輸出から得られる収入が、国と国力の財政基盤になっている。その収入は歳入の40〜50%、輸出収入の55〜60%、GDPの推定30%を占める。
    ロシアが世界経済の主要なプレーヤーであるのは、何よりも石油と天然ガス資源のおかげだ。ロシアの原油輸出額は2000年に360億ドルだったものが、2012年には2840億ドルまで増えた。じつに8倍の伸びだ。同じ期間に、天然ガスの年間輸出額も170億ドルから670億ドルまで上昇した。石油・天然ガス収入の増大に伴って、ロシアは経済の弱国から強国へと変貌し、対外債務を返済し、国民の給与と生活水準を引き上げ、年金を増額し、ルーブルの「安定化」基金を蓄え、国防をさらに増強し、大国としての復活のために資金を投じた。

    天然ガスの輸入をロシアに依存している欧州。そのエネルギー政策には2本の柱があった。
    第1の柱は、天然ガスのシステムの強靭さとエネルギー安全保障を高めるとともに、欧州全体で天然ガスの単一市場の形成を目指すことだった。ガス会社は欧州内の各地に容易に天然ガスを輸送できるよう、パイプラインのつながりを増やしたり、必要に応じて、天然ガスの流れる向きを逆にできるよう、パイプラインを改良したりした。またLNGの基地や貯蔵施設への投資が促進されたほか、買い手による天然ガスの転売を制限する「仕向地条項」も撤廃された。
    第2の柱は、気候変動対策として、脱炭素と高効率化、再生可能エネルギーへの速やかな移行を目指すことだった。先頭に立ったのはドイツだ。ドイツは「エネルギー大転換」というスローガンを掲げて、風力や太陽光発電の開発に大規模な助成を行った。

    2011年、ロシアとドイツを直接繋ぐ――対立関係が続くウクライナを経由せずに――100億ドルの天然ガスパイプライン、「ノルド・ストリーム」が開通する。これによって欧州はますますエネルギー供給をロシアに依存することとなり、域内外の議論の的となる。
    中欧の政策担当者やメディアのあいだでは、このパイプラインの建設で得をするのはロシアだという批判が根強かった。西欧の国々、とりわけドイツはそれとは見方が違い、市場や貿易や投資を含むもっと大きな相補関係の一部、地理的に避けられない関係の一部としてこの計画を捉えていた。

    ノルド・ストリームが大きな物議を醸す中、ロシア政府から欧州へ向けて、1つのメッセージが発せられた。サンクトペテルブルク国際経済フォーラムでのことだ。ガスプロムのCEOアレクセイ・ミレルが、欧州からの出席者で埋まった会場で次のように言った。「ロシアに対する恐怖心を克服するか、さもなければ、ガス切れを起こすかです」。

    4年後の2015年末、「ノルド・ストリーム2」建設のための調査が始まり、再び政治的議論の対象となる。
    米議会はプーチンに近いと言われている個人や企業、金融機関を対象とした制裁を可決した。ノルド・ストリーム2もいくつかの法案で制裁の対象とされた。EUの中で東欧諸国は、ノルド・ストリーム2の建設を止めるための制裁を歓迎したが、そのほかの国の反応は違った。ドイツの外相とオーストリアの首相は共同声明で「欧州のエネルギー供給は欧州の問題であり、米国の問題ではない」「政治的な制裁の手段と、経済的な利害とを結び付けるべきではない」と述べた。理由はそれだけではない。欧州のあるエネルギー大手の幹部に言わせると、米国が制裁を科すのは「自国の天然ガスのため」、つまり米国のLNGの輸出のためだった。

    2019年12月20日、ロシアとウクライナのあいだで話し合いがまとまり、果てしなく続きそうだった天然ガスをめぐる両国の激しい争いが和解に達したというニュースが伝わった。ロシアが引き続き5年間、ウクライナ経由で欧州に天然ガスを大量に輸送することを約束したのだ。これによりウクライナの通過料収入の目処が立った。さらに驚きだったのは、ロシアがウクライナへの約30億ドルの賠償金の支払いに応じたことだった。
    ロシアとウクライナの長い争いについに終止符が打たれてから数時間後、ドナルド・トランプはフロリダへ向かう途中に防衛予算法案に署名し、ノルド・ストリーム2への制裁を発動させた。この制裁に対してメルケルは「EUへの不当な内政干渉だ」と怒りをあらわにした。

    プーチンは現在、エネルギー政策を東方にシフトしている。中国への接近である。
    ロシアも中国も、「一極支配」と米国に「覇権を握られた」国際システムにも、活動家やNGOにけしかけられた民主主義の普及と体制の転換にも、反対の立場で一致している。両国が唱えているのは、多極化と、何よりも国家の(とりわけ自国の)「完全な主権」である。
    二国間の議題の最上位に置かれたのは、大規模な天然ガスの契約の問題である。中国は経済成長を支えるとともに、大気汚染を抑えるため、どうしても天然ガスの利用を増やしたかった。一方ロシアは、ヨーロッパの顧客への依存を弱めるとともに、石油・天然ガスへの旺盛な需要があり、なおかつ政策と経済の両面で方向性が近い国の市場に、将来軸足を移す必要があった。

    2014年、2国間で「30年で4000億ドル」という超大型の契約が成立。この結果、中国はドイツに次いで、世界で2番目に大きいロシアの天然ガスの市場になった。

    2019年12月2日、上海で超大型の天然ガス事業の契約が交わされてから5年半後、全長約3000キロのガスパイプライン「パワー・オブ・シベリア」が開通。プーチンがソチで、習近平が北京で開通に立ち会った。今や、エネルギーがロシアと中国の戦略的パートナーシップの土台になっている。


    3 中国:覇権を狙う新進気鋭
    中国は産業革命時代の英国と同じように「世界の工場」になった。例えば、中国は現在、鉄鋼(世界の生産量のおよそ半分を占める)、アルミ、コンピュータの世界最大の生産国だ。電気自動車や風力タービンに必要なレアアースでも、世界最大の生産量を誇っている。2011〜2013年の3年間で、中国で消費されたセメントの量は、米国で20世紀中に消費されたセメントの量を上回る。保有する資産も莫大だ。中国国家外為管理局の外貨準備は、3兆ドルにのぼる。そのおよそ3分の1は米国債で占められる。
    同時に、中国政府は輸出主導型から消費主導型の経済への転換を図ろうとしており、中国は消費国としても急速に成長している。SARSが流行した2002年、中国のGDPは世界のGDPのわずか4%だった。2020年のコロナウイルスの流行時には、その比率は16%に達していた。これはつまり、世界各国が新型コロナウイルスの打撃を受ける以前から、中国経済は世界中に影響を及ぼしていたことを意味する。

    エネルギーをめぐって現在紛糾しているのが、南シナ海をめぐる問題だ。
    南シナ海の海底には石油や天然ガスが眠っているとされているが、期待されているほどの資源が本当にあるかは定かではない。現在、南シナ海で生産されている原油は日量90万バレルほどだ。これは2019年の世界の産油量の1%にも満たない。
    では、将来はどうか。ある中国の予測では、未発見の埋蔵量は最大で1250億バレルと見積もられている。これはイラクやクウェートとほぼ同じ規模だ。ただ、米エネルギー情報局は120億バレル程度だろうと推定している。また、資源が発見される可能性が一番高いのは岸に近い海域であり、争われている海域にはその5分の1の埋蔵量しかないと考えられている。
     
    南シナ海が重要なのはむしろエネルギーを含む貿易だ。
    2001年のWTO加盟以来15年で、中国の石油の消費量は2.5倍に増えた。しかし2020年初頭の時点で、石油の輸入量は世界の総需要の75%を占める。
    また、世界の石油タンカーの約半数が南シナ海を通っている。この海域を通る世界貿易の額は3.5兆ドルにのぼり、中国の海上貿易の3分の2、世界貿易の30%を占める。行き先は中国ばかりではなく、日本や韓国へ向かうタンカーもある。日本や韓国は、中国の行動によって石油の輸入を妨げられるリスクを負っている。
    しかし中国にとっては米海軍が唯一のリスクだ。中国のストラテジストが念頭に置いているのは、次のような危機のシナリオだ。台湾が独立の動きを見せ、中国がそれに対して軍事行動を起こす。すると米国が対抗措置として、南シナ海の中国の石油ルートを断つ。そこから導かれるのは制御不能の事態だ。

    米中のあいだには、鋭く対立する経済問題が山ほどある。トランプが大統領に就任してから、中国は極めて危険な地政学的競争相手として「敵国」の最上位に位置づけられている。副大統領時代のマイク・ペンスによれば、中国は「米国の技術をごっそり盗み取り」、「世界に類のない超監視国家」を築いた国であり、今や「米国の軍事的な優位を切り崩し」、「米国を西太平洋から追い出そう」としているという。
    対して中国は、「米国で強まっている覇権主義、パワー・ポリティクス、単独行動主義」に非があるとし、米国は「絶対的な軍事的優位」を追求し、「国際的な安全保障環境を損ねている」と米国を非難した。また、アジア・太平洋地域が「国家間の競争の中心的な舞台になっている」のは、「域外の国々」(つまり米国のこと)が「不当に中国の領海や、中国の島嶼部の周辺水城や空域に侵入して、中国の安全保障を損ねている」せいだとされた。

    しかし、米中はより一層相互依存を高めている。ゼネラルモーターズの中国での自動車の販売台数は、米国での販売台数を上回っている。トランプ元大統領による貿易戦争以前、米国の大豆の輸出は60%まで中国向けで占められ、アップル社のiPhoneの中国での売り上げは年間400億ドルにのほった。さらに、中国は米国産LNGの最大の市場になるとも予想されている。


    4 中東:世界最大の産油地域
    OPEC最大の産油国サウジアラビアと、主要な産油国の1つであるイランとの現在の争いは、どちらが中東の地図において優位に立つかの闘いだ。それは宗教や、イデオロギー、国益の衝突という形を取り、覇権への意欲によって支えられている。

    2014年9月頃、原油価格が1バレル当たり100ドルを切った。それが11月には77ドルまで下がった。原因はいくつか考えられるが、需要の増加をしのぐ勢いで米国のシェールオイルの生産が増えていたのが一番の要因だ。
    地政学的な緊張や混乱によって原油価格が上がるのは自明の理だったが、今回は真逆の現象が起きている。サウジアラビアは、OPECの中で数少ない、原油価格にテコ入れできるほどの減産を行える国だ。しかしサウジアラビアは減産に消極的だった。自分たちだけ減産し、ほかの国が減産しなければ、市場シェアを失うからだ。OPEC外のメキシコ、ロシアも減産をしない意向である。新しい問題はOPEC外に新しい産油国が増えすぎたことで起きたのだ。
    OPEC各国の大臣たちはその日、決定を下さないという決定を下した。価格を市場に委ねたのである。

    その後の数週間、原油は市場にとめどなく流れ込み続け、2015年1月には5ヶ月前の半分以下に価格が暴落した。米国ではシェール業者が大打撃を受け、企業の倒産数は100件近くにのぼった。
    石油輸出国の大半が苦境に陥った。ロシアでは、政府系ファンドの資産が急速に目減りしつつあった。サウジアラビアは赤字に転落し、外貨準備高の切り崩しを加速させていた。イラクの石油収入は崩壊した。2015年、ベネズエラは破れかぶれになり、ほかのOPEC諸国に「米国内で反シェールの環境保護運動」を起こそうと呼びかけた。
    2016年11月、OPEC諸国間で「アルジェ条約」が承認される。総生産量を日量120万バレル減らすことを盛り込んだ減産措置である。2週間後、OPECと、ロシアに率いられた11カ国の非加盟国グループ(米国やカナダはもちろん入っていない)の代表がウィーンに集まって、協定を結ぶ。OPECの日量120万バレルの減産に対し、非加盟国は55万8000バレルの減産で応じることが決まった。OPECと非加盟国の新しい連合体は「OPECプラス」とも「ウィーン連合」とも呼ばれるようになった。

    OPECプラスは地政学的な秩序の再編にも繋がった。ロシアとサウジアラビアがパートナーシップを締結したからである。ロシア側からすれば、アラブ諸国で随一の米国の同盟国であるサウジアラビアとのパートナーシップは大変都合が良く、サウジアラビアからしてみれば、ロシアはイスラエルやシリアやイランなどの、中東の全陣営と話ができるプレイヤーだった。

    サウジアラビアは現在、「ビジョン2030」を掲げ、石油以外の輸出を大きく伸ばすことを目標に国の変革を目指している。経済の多様化、民間部門の成長、石油への依存の軽減など、国の運営を多角化することで安定を図ろうとしている。ただし、サウジアラビアは王国であり、雇用の大半が政府部門の仕事であることから、ビジョン2030には社会全体の構造改革が必要となる。


    5 電気自動車
    石油産業にとって電気自動車の台頭は、100年ぶりに強敵となりうる競争相手が現れたことを意味する。

    現在、電気自動車の販売のおもな推進力になっているのは、政府の政策だ。その状況は世界中どこでも変わらない。
    世界で一番電気自動車やプラグイン・ハイブリッドが普及しているのはノルウェーだ。2019年には販売台数の45%を占めた。ノルウェーでもやはり政府の支援がものを言っている。補助金額がかなり大きいのに加え、路上でも優遇されており、電気自動車を買わないほうがおかしいと感じられるほどだ。
    米国では、連邦税額控除が最大のインセンティブになっている。控除額はバッテリーの大きさで決まり、各メーカーの最初の20万台の販売までは、最大で7500ドルだ。州や市で独自のインセンティブを導入している場合もある。追加の税額控除や、相乗り専用レーンの通行許可、無料駐車場などだ。2008年の金融危機に対する財政刺激策の一環で、オバマ政権はテスラに4億6500万ドル、日産に12億ドル、それぞれ電気自動車の開発のための融資を行った。

    自動車と燃料供給者の世界が、新しい競争の舞台になった。もはや単に消費者に自家用車を販売するだけの競争ではなくなっている。単なる自動車メーカー同士の競争でもなければ、ガソリンブランド同士の競争でもない。競争は多元化している。ガソリン車と電気自動車の競争であり、自動車の個人所有と移動サービスの競争であり、人間が運転する車と無人の自動運転車の競争でもある。その結果が、技術とビジネスモデルの闘いであり、市場シェアをめぐる争いだ。変化は徐々にだが、確実に起こっている。攻勢をかけているのは電気だ。石油はもはや無敵の王者ではない。ただし、もうしばらく、運輸産業は広く石油の影響下に置かれるだろう。

  • この本には、地政学とエネルギー安全保障の変化によって、世界がどうなっていくかが書かれている。

    舞台となるのは、4つの国と地域。アメリカ、ロシア、中国、中東だ。エネルギー安全保障において、現状最も重要なのは、石油と天然ガスの確保である。アメリカでのシェールガスとシェールオイルの発見は世界のバランスを大きく変えてしまった。

    そして、今後のエネルギー安全保障の鍵となるのが気候変動への対策(カーボンニュートラル)になる。めちゃくちゃとも思えるくらい高い目標が設定されているが、これを達成させるための3つのキーワードがある。1つ目が炭素回収、2つ目が水素、3つ目がバッテリーだ。この3つの技術革新が求められる。

    この本の原書の発売は2020年だったので、少し情報が古い。今の世界情勢を知ったら、もっと違った考察が出てくるのかもしれない。

  • 著者のヤーギンは現在進行中の話も小説のように描いてみせ、読み手を引き込む力がある。この本はエネルギーという人類史に不可欠な存在を通じて過去、現在、未来を活写している。500ページあまりある大著だが楽しくて苦もなく読めた。国際関係、エネルギービジネスに関心を持ち始めた高校生くらいには必読の書にしてもよいのではないか。

    前半のアメリカ、ロシア、中国、中東の各地図はヤーギンの真骨頂。シェールガス・シェールオイルなどすでに知られたストーリーもあるが、彼は世界全体のエネルギー地図を紡いでみせる。シェール開発に賭けた経営者、プーチンの代理人ともいえる石油会社のトップ、サウジアラビアの王子、、、出てくる登場人物の表情が浮かんでくるような感覚になる。個別事象と歴史、展望そして人物画結びつくと物語は俄然おもしろくなる。
    ただし、イタリアの哲学者・歴史家クローチェが唱えたように、「すべての歴史は現代史である」という視点は忘れないでおきたい。

    後半の自動車の地図は前半ほどの驚きはなかったが、ヤーギンの問題意識は理解できた。気候変動に関する危機感もよく理解できる。

    最後の南シナ海の4人の亡霊はヤーギンらしい終わり方。中国の海洋の冒険主義、航海の自由と国際法、地政学とシーパワー、戦争で得するのは誰か?ーー。の古くて新しい話しを改めて認識できる。中東は昔から火薬庫と呼ばれるが、南シナ海も然り。あと個人的には中央アジアも加わるのかなと考えた。

    本が出たのがコロナ禍がまだ収束していない時点であり、かつロシアのウクライナ侵攻、イスラエル・ガザ戦争は起きていない。この辺りは読者が想像を膨らませて自ら考える訓練にもなるかなと。

    邦題の「新しい世界の世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突」は資源が前面に出ており、国家の衝突が新しいステージに入ったという要素が伝わりにくいかなと感じた。英語のタイトルはThe New Map:Energy,Climate,Clash of Nations であり、個人的にはこちらの方がしっくり来る。

  • 『これまでの20年以上、ウラジーミル・プーチンは大統領として壮大な「国際的事業」に取り組んできた。それは旧ソ連諸国をまたロシアの支配下に置くことであり、ロシアを世界の超大国として復活させることであり、新しい同盟関係を築くことであり、ひいては米国を押し返すことだった。どれほどロシアに原因があるかは別としても、プーチンの思惑にかなった結果になっていることは間違いない。北大西洋条約機構(NATO)の分断しかり、EUの分裂しかり、米国の政治の混乱や、醜悪さや、二極化しかりだ』―『第9章 プーチンの大計画/第2部 ロシアの地図』

    自分がこの業界---ここで少し長めの無駄話になるのだけれど、石油業界(あるいは石油会社)というと、日本では一般的にガソリンスタンドやサインポールを出している石油元売りの業界(あるいは会社)というイメージが強いけれど、欧米ではむしろオイル・インダストリーと言えば石油を生産する方の業界を指すことが多いんだよね。いわゆる業界の川上(=上流)側を指している訳で、これが無いことには川下もない訳だから。石油という言葉をお堅く訳せば実はOilじゃなくてPetroleumだけど(これはむしろ原油(=Crude Oil)と同義)上流も下流も含めた業界の意味だとPetroleum Industryが使われる印象。そして石油には原油と天然ガスが含まれる。ついでに言うと20年くらい前までは天然ガスはおまけ(というかハズレ)だったのが、最近はOil CompanyじゃなくOil & Gas Companyというのが一般的になったくらいガスも商品として価値が認められるようになった(それも今後変わるだろうけど)。なんでこんな話をするかと言えば、今の日本人のほとんどは石油が輸入出来て当たり前だと無意識に考えていて、石油が戦略物質だということに中々ピンと来ないから。皮肉なことに戦前の軍部はそのことを確り理解していた---に入りたての頃、世の中ではまだセブン・シスターズという言葉が実態を伴って存在していた。なので、最初の海外赴任の頃に出版されたダニエル・ヤーギンの「石油の世紀」は、まだ駆け出しの自分には業界の歴史と共に暗黙のゲームのルールのようなものを知る絶好の教科書だったことを覚えている。

    そのヤーギンの最新作「新しい世界の資源地図」は、米国、ロシア、中国、そして、中東という、どの国にとっても石油資源戦略上外して考えることの出来ない基軸において過去30年程の間に起きた大きな変化を概観し、更に自動車、気候問題という観点から近未来の方向性を占って見せるという大著。「石油の世紀」の続編との位置付け(「探求」は飛ばしてもいいような気がする。気候変動を気候危機と同義語と捉える向きには逆なのかも知れないけれど)であるが、後半の2つのカテゴリーについては現在進行形の部分が多く、明確な視座を提供するという訳ではない。元々著者の得意とすることは飽くまで複雑に絡み合った事象の背景にありそうな、全体を統制するかのような要因(あるいは物語)を見い出すことで、未来予想をすることではない(というのは言い過ぎかも知れないけれど)。それに、やはり四地域に関する洞察こそヤーギンの面目躍如という感じがする。

    『もっと若い補佐役たちの考えは違った。「アラブの春」の盛り上がりに感激し、フェイスブックやツイッター世代に共感を覚えていた。聴衆の心を掴むオバマの演説の力を信じていた彼らは、ムバラクの追放を躊躇しないよう大統領に直言した。「歴史の正義の側」に加わるべきだ、と。「しかし、どちらが歴史の「正しい」側で、どちらが「誤っている」側なのかは、誰にもわからないのではないか」と、ゲイツはのちに書いている。「希望と理想主義によって始まった革命のほとんどが、抑圧と流血に終わるのだ。ムバラク後に何が起こるかは、誰にもわからない」』―『第4部 中東の地図/第31章 対決の弧』

    米国のシェール革命、ロシアの天然ガス資源開発、そして中国のエネルギー需要の増大と地政学的平衡感覚、どれもセブン・シスターズ後の世界での大きな変化であり、ヤーギンの考察は、その時代を同時並行で走って来た身には尚更、なるほどと思わせるところがある(もっとも、そもそも岡目八目とも言うし、並走している限り歴史的な流れは見え難いというのは世の常だし、実は個別の小さな動きの背景にあるものが個々の決断全てを論理的に決定している訳でもないと思う。歴史とは、結局のところ過ぎたものを顧みて総括する以外、把握することは困難なものなんだと思っておいた方がよい、と個人的には思う)。けれど、やはりエネルギーの供給を考える上でどうしても外せないのは石油であり、それが中東地域に偏在しているという事実から目を背けることはできない。本書の各段落に費やされている頁数を比較してみても、米国(72pp)、ロシア(67pp)、中国(65pp)、中東(166pp)、自動車(58pp)、気候(53pp)と圧倒的に中東に割かれた頁が多い。資源量の偏在に加えて、宗教、民族、いわゆる国という単位の成り立ちのどれもが一筋縄では捉えられない複雑さを有していて、尚且つ、その変化も激しい地域であるのだから仕方がないと言えばないのだが、そこに、欧米露の思惑も入り乱れているので尚更だ。そして更にそこに加わる中国の一帯一路。この地域において白地図を塗り分けるようなヤーギンの考察も現時点では合理的なものと思えるけれど、未来については必ずしもその合理性の延長にある訳ではない。

    『移行はどれくらいの速さで進み、どのような影響を及ぼすだろうか。予測には大きな幅がある。IHSマークイットのシナリオによれば、世界の電力消費は2040年までに最大60%増える。その時点で、風力・太陽光が全発電量に占める割合は24%から36%になると予想されている。どちらにしても現在の7%からは大幅な上昇になる。予想に開きがあるのは、容易に想像がつくとおり、技術や発明、政策や経済の未来については、どうなるかわからず、さまざまな想定がなされうることによる』―『第43章 再生可能エネルギーの風景/第6部 気候の地図』

    例えば、IHS Markitという会社は、少し前にファイナンス情報を提供するMarkitと合併する前までIHS(Information Handling Service)という会社で、石油業界の情報提供会社としてはもう少しシンプルな会社だったし、そのIHSだって石油部門に関してはCERA(Cambride Energy Research Associates。ヤーギンが設立)を買収したことで単なる情報サービスから脱して業界の雄であったWood MacKenzieと肩を並べるシンクタンクのメインストリームに出てきたという印象。そもそもその前はもっとシンプルな探鉱情報(いわゆるスカウト情報とマップ)を提供する業界的には最大手だったPetroconsultantsという会社を買収して参入して来た部外者的会社だったという印象が未だに自分には残っている。そういう栄枯盛衰を傍で見てきた身としては、業界の常識が変わるのは本当にあっという間ということを忘れてはいけないと思うこと頻り。例えば、どんな類の開発にも付き物であるHSE(Health-Safty-Environment)だって、20年くらい前までは工事現場的な単純なHSだったのが、今やSHSE(Social-HSE)と社会的責任も負わなければならない立場を操業者に課すこともある。けれど、例えばアフリカ東岸に於ける開発で負わなければならない社会的な責任とはどこまでの範囲を含んだものなのか。その国の資源に対する適切な開発はもちろんのことだが、貧困救済までも考慮した地域の活性化策も含むのか、はたまた地域間の貧富の差の解消策も含むのか、民主的な為政者の支援策も含むのか、と考えだせば切りがないし、より問題は複雑になる。だから単純な物語というのは本当は存在しない、とどうしても思ってしまうのだ。

    ヤーギンの本はいつも大部で読むのが一苦労という感じだけど、歴史書的な記述で混沌とした社会情勢の変化などを筋立てて語るので、判り易いと言えば判り易い。でも、例えば日本史における司馬遼太郎の「創作」のように少し判り易くし過ぎているところもあるのだろうと思いながら読んだ方がいいようにも思う。

  • なんかすっげースラスラ読めるけどぶっちゃけ全然アタマに残ってねえ。
    タイトルの和訳に配慮というか苦労が見えた。

  • 世の中には、「学校では教えてくれないけど、分かっていた方がいいこと」が多すぎると思いませんか。まったくもう。

    この本、「エネルギーに興味あるんだったら、読むといい」と素敵Guyに勧められ、いや、特にエネルギーに興味あるわけじゃないんですケド・・・と思いつつも、近所の図書館にちょうどあったし、正月休みに入るところで読む時間もあるしで、素直に言いつけに従い、読んでみた。

    で、最初の言葉になるわけです。
    エネルギーの地図、つまりエネルギーをめぐる各国の戦略、めっちゃくちゃ大事じゃないですか? 世界情勢を読み解く上で。
    え? 今ごろ何言ってるって?

    こういうのはちゃんと学校で教えるべきじゃないでしょうかね。
    世界の紛争の裏に資源あり、てことを、もう少ししっかりと。世界の国々は人道的・政治的な理由だけで戦争したり他国に干渉したりするわけじゃないんですよって。
    歴史の時間ちょっと削ってもいい気がするなぁ~。
    たとえばシェール革命が他国との外交交渉上の姿勢をこんなにも変えちゃうなんて、やっぱり知っておくべきよね。

    ダイベストメントがこれまでに削減したGHG排出量は、おそらくおよそ0トンだろう、っていうビル・ゲイツの言葉もけっこう考えさせられた。
    石油の値段が下がり過ぎると困る原理とか、シェールがショートサイクル、とかいうエネルギーごとの産出事情とかも何気に重要情報ではないでしょうか。

    モディ首相の言葉「グローバルサプライチェーンはコストだけにもとづくべきではありません。信頼にももとづくべきです」と言って、中国依存を減らそうとしているのもなるほど、と思ったし。

    「電気自動車はガソリン車の6倍、風力タービンは天然ガスの発電所の9倍、それぞれ多く鉱物を使用する。鉱物の需要は急増するだろう。その増加率はリチウムが4300%、コバルトとニッケルが2500% にものぼる」「世界の三大産油国の産油量が世界の産油量に占める割合は約30%だが、リチウムの場合、上位3ヵ国が供給量の80%以上を占める」っていう鉱物をめぐる状況も、なんだかヒエエエエな事実でした。

    そしてアップデートも大事。
    気候テックをめぐる投資と政治関連のニュースなんて、この本の後、今年(じゃなかった、もう去年か)1年だけでずいぶんいろいろあった気がする。
    でも、表のニュースを見ているだけじゃ、なかなかそれぞれの事象が頭の中でつながらないので、こういう親切な解説本をときどき読むって大事ですね。

  • ー 以来、技術とイノベーションはエネルギー転換の要因になってきた。そのためには着想や発案から技術やイノベーションが生まれ、さらにそれらが最終的に市場へといたる必要がある。これは必ずしも短期間で起こるわけではない。エネルギーはソフトウェアとは違う。現に、リチウムバッテリーが1970年代半ばに発明されてから、路上を走る車に使われ始めるまでには、30年以上かかった。近代的な太陽光や風力の産業は1970年代初めに誕生したが、規模が拡大し始めたのは2010年以降だ。しかし、デジタルから新素材や人工知能、機械学習、さらにはビジネスモデルなどまで、イノベーションのペースは、関心の高まりとともに加速している。背景には、気候対策や政府の支援もあれば、投資家の判断、異分野の企業やイノベーター間の協力、技術や能力の収斂もある。

    何がいつ起こるかは、関わる者の才能や、開発を支える資力、真剣さ、困難に負けない気力、創造性の豊かさにも左右される。イノベーションからは、破壊的なものであれそうでないものであれ、新しい技術が生まれ、それによってエネルギーと地政学の新しい地図が形成されることになるだろう。しかし地図は直線的に進む未来を保証するわけではない。ある程度の頻度で、思いもよらぬ妨げに見舞われ、そのつど進路変更を余儀なくされることは間違いないだろう。シェール革命も、2008年の金融危機も、アラブの春も、2011年の福島の原発事故も、電気自動車の復活も、太陽光のコストの急落も、世界的な大流行を引き起こす感染力の恐ろしく強いウイルスの出現と経済の暗黒時代も、米国の政治を揺るがした2020年の大規模な抗議行動も、予期せざるものだった。

    しかし、予期でき、備えられる妨げもある。わたしたちがそれによって具体的にどういう道を進むことになるかまでは描けないとしても、はっきり「見えている」ものもある。1つには気候をめぐる困難の数々がそうだ。しかしそれだけではない。緊張が高まり、分裂が進む世界秩序においては、国家間の衝突もそうだと言える。 ー

    ウクライナ侵攻の前に出版された作品だが、世界で起きている資源戦争の今が分かる作品。

    僕たちアラフォー世代は10代の頃に『沈黙の春』を読み、環境問題に向き合わなければならないと教育を受けてきた。にも関わらず、その後の30年間、ほとんど何もして来なかった罪は重たい。

    そして僕たちは来年40歳になる。次の25年で何を実現出来るのか、それが2050年の未来の姿を決める。そう考えると、僕たちの年代の責任が非常に重たいのがよく分かる。

    僕たちは本来は、世界を変えなければならないのに、日々の小さな仕事に振り回されているのはいったい何故なんだい???

  • 地政学が流行った時期に見つけて購入。アメリカのシェール革命、ロシア、中東、中国のエネルギーを巡る情勢がNHKのドキュメンタリーのように克明に描かれている。事実の羅列ではなく実在の人物の言葉や行動と共に綴られており臨場感がある。中東の情勢に疎かったのでこの本でだいぶ勉強になった。

    一方で気候の章は自分の専門に近いからか知っている話が多くやや物足りなさもあった。

  • いやー、難しい…。哲学系以外で理解に時間をかけたのはホント久々かも。まぁその難しさが面白いわけなんだけど。

    エネルギーを生み出すのに必要な石油/天然ガスが大国アメリカから採れるようになった「シェール革命」から本書は始まる。ロシアやサウジアラビアからの輸入を必要としなくなる上、色々な国へエネルギー源を輸出することが出来るというのは、各国の関係性を変えるのに十分だったわけだ。
    ロシアや中国、中東の危うさも同様に、このエネルギー源に由来している部分もある。エネルギー源は金になるからこそ、それを手に入れようと誰もが争うのだな。

    一方でコロナや再生可能エネルギーにより、石油/天然ガスの価値というものも変わってきている。身近な例で言えば電気自動車など。石油/天然ガスの価値が下がれば、それによって成り立っていた国々は方針を改めざるを得なくなる(サウジアラビアなどがいい例だ)。あるいは、レアアースがそういった石油/天然ガスの枠に収まっていくのかもしれない。

    エネルギー1つとっても世界情勢全体を俯瞰しなければならず、「地政学」という一言がいかに汎ゆる意味を孕んでいるかを示してくれる超良書。難しいしまとめきれないんだけど、非常に納得感のある一冊でした。オススメです。

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著者プロフィール

ダニエル・ヤーギン
IHSマークイット副会長
「米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家」(『ニューヨーク・タイムズ』紙)、「エネルギーとその影響に関する研究の第一人者」(『フォーチュン』誌)と評される。ピューリッツァー賞受賞者。ベストセラー著者。著書に『石油の世紀――支配者たちの興亡』、『探求――エネルギーの世紀』、『砕かれた平和――冷戦の起源(Shattered Peace: The Origins of the Cold War)』、共著に『市場対国家――世界を作り変える歴史的攻防』がある。世界的な情報調査会社、IHSマークイットの副会長を務める。


「2022年 『新しい世界の資源地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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