日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492396469

作品紹介・あらすじ

「日本人の優秀さ」こそ、この国の宝だ――。

日本在住30年、元ゴールドマン・サックス「伝説のアナリスト」、
日本文化に精通する「国宝の守り人」、日本を愛するイギリス人だから書けた!

外国人エコノミスト118人の英知を結集して示す、日本人の未来。
「人口減少×高齢化」というパラダイムシフトに打ち勝つ7つの生存戦略とは。

■筆者からのコメント■
日本に拠点を移してから30年、さまざまな出来事を目の当たりにしてきました。
経済の低迷、それにともなう子どもの貧困、地方の疲弊、文化の衰退
――見るに耐えなかったというのが、正直な気持ちです。

厚かましいと言われても、大好きな日本を何とかしたい。

これが私の偽らざる本心で、本書に込めた願いです。
世界的に見て、日本人はきわめて優秀です。
すべての日本人が「日本人の勝算」に気づき、行動を開始することを願って止みません。
――デービッド・アトキンソン

■主要目次■
第1章 人口減少を直視せよ――今という「最後のチャンス」を逃すな
第2章 資本主義をアップデートせよ――「高付加価値・高所得経済」への転換
第3章 海外市場を目指せ――日本は「輸出できるもの」の宝庫だ
第4章 企業規模を拡大せよ――「日本人の底力」は大企業でこそ生きる
第5章 最低賃金を引き上げよ――「正当な評価」は人を動かす
第6章 生産性を高めよ――日本は「賃上げショック」で生まれ変わる
第7章 人材育成トレーニングを「強制」せよ――「大人の学び」は制度で増やせる

感想・レビュー・書評

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  • 弱体化する日本という国の現状を知ることができる良い本でした。

    この本の主張を要約すると以下の通りです。
    ・日本はこのままだと数十年後に発展途上国レベルの国になる
    ・その原因は「高齢化」と「人口の減少」の2つの問題を同時に抱えていること
    ・特に「人口の減少」は日本経済にとって致命的、なぜなら「人口の減少」は商品やサービスの需給バランスを崩す(需要が減る)が、企業は供給を減らしたくないので企業同士による価格競争が起き、この競争によって「低品質・低価格のスタイル」になってしまい、最後に「給与を下げられてしまう」という形でバチを食らうのが最下層の従業員たち
    ・「高齢化」と「人口の減少」の2つの問題を同時に抱えている国は諸外国には少ないので諸外国の対策は参考にならず、日本独自の対策に取り組む必要がある(「高齢化」だけど「人口は増えている」という諸外国の方が多い)
    ・その対策とは「賃金を上げること」、日本の最低賃金はあまりにも低い
    ・企業が従業員の賃金を上げるためには、「生産性を上げる」しかない
    ・「生産性を上げる」ためには、中小企業の統合(中小企業は生産性が低い)、高品質な商品を売って高所得を得るスタイルへの切替(現状は逆)、大人の生涯学習による生産者のスキル向上、などやることは多い
    ・でも一番やらなければならないのは、まず国民が「変化を歓迎すること」
    ・特に人口が多い40代以上の大人が時代の流れと共に積極的に意識を変えていかないと、日本は本当に終わる

    この本を読んで僕が思ったのは、「日本はここまで難しい状況にきてしまっているのか・・」ということです。例えば、著者はこの本だけでなく至る所で中小企業の統合を薦めていますが、これはかなり痛みを伴うと思います。日本の中小企業には良い面がたくさんあって、それが日本の経済の根幹を支えていると僕は思います。だけど、現実として、高齢化社会の日本で年金や介護医療保険制度を維持していくために国は税収が必要で、税収を得るためにはとても少ない働き手ひとりひとりが生産性を上げることが必須で、そのためには中小企業の経営統合をして人事総務や経営を一体化しないといけない。日本が誇る中小企業の良い面を捨てるほどの意識改革をしないともうなす術が無いところまできているのか・・と思わされてしまいました。
    あと、それ以前にまず、「生産性とは何か?」と人に聞かれたときにきちんと答えられるような大人になろう、とこの本を読んで思いました。

    日本以外の国にルーツを持ち、だけど日本に長く住み、日本人的視点と日本国外からの視点の両方を持つ筆者のような方の本は、自分には無い視点と発見を教えてくれるので、僕は読むのが好きです。
    他には、ロバート・フェルドマン氏の「フェルドマン博士の日本経済最新抗議」なんかもおススメです。

  • 本書でも著者は、持論である「最低賃金の継続的な引き上げ」による生産性向上策を力説している。

    世界でも突出して人口減少と少子高齢化が進む日本において、社会保障制度の維持と国の借金問題解消のためにGDPを減らしてはならず、そうすると、人口減少・高齢化による総需要減少を賃上げによって相殺するしかない。その策として、中小企業経営者等に対し、最低賃金引き上げによって生産性向上・付加価値化を強く促すべき、というのが著者の主張だ。「日本は世界でいちばん、経済成長を生産性向上でまかなわなくてはいけない国」だとして強く危機感を煽っている。

    実際、イギリスの政策の実証検証などによって、「最低賃金と生産性の間に、強い相関関係が認められる」ことは明らかなのだという。

    著者によれば、日本の生産性が低い要因は、日本企業の "いいものをより安く" 戦略(Low Lord capitalism)と企業規模の小ささ(中小・零細企業の多さ)の2つとのこと。

    日本企業は「人材の質が高いのでいいものを作っている」のだが、"いいものをより安く" 戦略の下「価格が安いために生産性が低くなる」構造に陥っている(日本の労働者の質は世界第4位なのに対し、生産性は世界第28位という惨憺たる状況)。労働者目線で見れば、「日本の労働者は世界一搾取されている状況にあ」る,ということになる。そして、人件費を含むコストカットに邁進する Low Lord capitalism を続けると、社会が低付加価値・低所得経済に移行し、企業の収益姓を悪化させ、ひいては国の社会保障制度を破綻させてしまうという。「人口減少時代では Low road capitalism は国が滅びる近道です。人口減少時代では High road capitalism しか選択肢はないのです」と。

    近年、中韓や新興国の低価格戦略に太刀打ちできない日本の大企業は、事業をハイエンドな高付加価値製品にシフトさせたり(そして、これはこれで下手なビジネスモデルとして批判されたりしている)、より利益率の高いソリューションビジネスに業種転換したりしているが、中小零細企業はまだまだ薄利多売型ビジネス中心、ということなのだろうか? オンリーワン技術を活かしてグローバルニッチを目指せ、等とよく云われるが…。もしかすると、米国企業と比べて狙っている高付加価値の次元が違うのかも知れない。

    また、中小企業の多さが、日本の生産性の低さの最大の原因だともいう。企業規模が大きくなればなるほど、設備投資を充実させるなど生産性向上に取り組む余裕が生まれるので、当然といえば当然だが、突き詰めると、半ば強制的に企業統合を進めて規模の利益を追求せよ、ということになる。ただ、大企業が中小企業を吸収していくのだとすると、日本の大企業はサラリーマン経営者が多くてリスクを取った迅速な経営判断ができない、と批判されているから、中小企業の良いところが失われてしまうデメリットもあるような気はする。まあ、中小企業同士が合併していけばいいのかな。

    何れにしても、著者は、国が最低賃金を継続的に上げる政策を実施して「まずは所得を継続的に上げることです。その結果、生産性が上がります。それには企業の規模を大きくする必要がある。それによって輸出もできるようになる。技術の普及も進む。所得が増えるから、税収が増える。株価も上がる。財政が健全化する。要するに、今の悪循環を好循環に変えることができるのです」、と結論付けている。この正のスパイラル、どこまで上手く回るのか分からないところもあるが、他に選択肢がなければやってみるしかない。是非、最低賃金、経済界の反対を押し切ってでもドンドン引き上げていってもらいたい。

    日本経済の輸出依存度が先進国の中でかなり低いということ、恥ずかしながら実はよく知らなかった。日本は加工貿易で生きている輸出大国、というくらいに単純に認識してしまっていた。

    人口減少時代には、日銀による通貨供給の量的緩和策ではインフレ誘導できない(デフレを脱却できない)ということ、本書はかなり分かりやすく説明している。この点で経済学の勉強になった。

    年功序列・終身雇用で守られたホワイトカラーのアウトプットを意識せずダラダラ働く労働スタイルが日本の生産性の低さの原因、とよく云われるが(そしてそれを聞いてヒヤッとしたりするのだが)、根本原因は別にあるんだな。情けないことに、この点については読んでいてちょっと安心した(笑)。

  • マクロ経済・金融の仕組みなどが頭に入ってないと、本論のところが理解できない。読了していないが、一度積読にしておく。

  • 人口がますます減少する日本で、GDPを上げるには生産性向上しかない。それを企業の自助努力に頼っている時間はない。政府が主導し、なかば強制的に生産性向上に突きつけるしかない。著者はその手法として最低賃金の大幅アップを主張している。最低賃金に関わっていた身としては、今の審議会方式では大幅アップは出来ないと思う。また、どんな方法で上げるにしても、先50年くらいの経済成長の予想や、最低賃金が成長にどう影響しているかを表に出さないと説得できない。それも最低賃金がそういう影響を与えると知らないとできない。

  • よかった。労働者の質と生産性の不一致の問題がいちばんのイシューということがよくわかった。これからは政治の民間の胆力と柔軟性が問われるフェーズだ。

  • 面白かったです。
    ・大企業に比べて中小零細は生産性が低く、企業統合して規模を拡大すべき
    ・日本は中小零細が多すぎる
    ・中小零細からは技術革新も起きづらいどころか、前時代的な技術を使い続けている
    という話は特に印象的でした。
    最低賃金アップの話も面白い。

    インボイス制度が賛否両論を呼び起こしているが、中小零細の優遇を改めるには良い政策だと思った。

  • コロナ渦でみなおしたい

  • 人口ボーナスが終わった日本がどう経済を成長させるか、が主眼。
    最低賃金の増加が効果的というのが新鮮だった。経済学の合理性だけでは割り切れない世界で政府が戦略的に政策を打つ必要性がデータの裏付けとともに伝わった。、

  • 失われた二十年を経験する間も、多くの政治家や識者が口を揃えて、日本のモノづくりや技術力の比類のなさを喧伝していたが、GDP成長率など圧倒的な低成長を邁進しつづける現状を鑑みると、その誇るべき技術力さえ心もとなくなっている所だったので、著者の指摘は時機を得ている。
    戦後日本の奇跡の経済成長も、元はと言えば急激な人口増加とそれに伴う若年層の増大によるもので、勤勉だったからではなく当たり前の成長だった。
    しかしこの成功体験が神話を生み、世界第28位という極めて低い生産性に甘んじても変革できない国になってしまった。

    ただ日本は中小企業が多すぎるから規模拡大して生産性を上げよという提言はどうかな。
    例えばタクシー業界は、慢性的な運転手不足に対して免許の受験資格を緩和することで若年層に門戸を広げようとしている。
    著者に言わせれば、やるべきなのは最低賃金を上げることで、それを実現するためには合併して会社の規模を大きくすることだろうが、ほとんどの場合、歩合制で安定しないし、客とのトラブルなど査定に影響するものは自腹で処理し、少しでも会社に目をつけられると難詰される現状では、ますます会社側からの圧迫が強まるだけという気がする。

    日本の戦後の急激な人口増加もそうだが、中小企業が他国に比べて多いのも、国が導いてそうなったのではないだろう。
    急激に増加すればその反動で急減するのは自然だし、国民性がそうならたとえ人口が少なくなっても小規模経営は減りこそすれなくならないだろう。
    昔から日本人は一つの会社で製品すべてを完成させるのではなく、製造加工を専門に細かく分担しあって生きていたので、必ずしも戦後の成功体験によるものではない。
    それとGAFAに代表される事業規模に比して働く人を極端に少なくするのが主流になりつつあるのに、茨の道にしか見えない。

  • 人口減少や少子高齢化にともなう経済問題について、どう解決していけばいいかを海外の研究などを参考に書いた本。
    その中でも特に有効だと思われるのが最低賃金の引上げで、イギリスでは効果がでているらしい。最低賃金を引き上げると失業者が増えるという意見もあるらしいけど、中には、最低賃金を引き上げたことによって労働意欲が増し、労働者が増えるという時もあったのだとか(失業率が増えるということはほぼない)。ただし、一気に高く引き上げると問題があるようで、韓国では失業率がさがってしまったらしい。
    それにしても、日本の人口の減り方は相変わらずすごい、というよりひどいなとつくづく思う。ベビーブームなんてものが二回あったうえに、団塊ジュニアが就職氷河期世代と重なってしまったのが一番の原因だとは思うけど、そもそもなぜベビーブームなんてものがあったのだろう。それがなければ、こんなひどい減り方になることもなかったのだろうし。いやでも、それがなければ経済成長もできなかったのかもしれないのか。その二つの世代がいなくなれば、減り方は穏やかになるだろうけど、それまで日本が存続しているかどうか…。
    途中、年代とインフレ・デフレ要因の関連について、子どもが増えるのはインフレ要因、生産年齢人口(15~64歳)が増えるのはデフレ要因、高齢化はインフレ要因、超高齢化はきわめて大きなデフレ要因と書いてあったのだけど、生産年齢人口が増えるのがデフレ要因というのがよく分からなかった。物が安いほうがいいからか? 給料をもらってる世代なのだから、インフレでもいいような気がするのだけど。ちなみに、日本は超高齢化社会なので、きわめて大きなデフレ要因だとのこと。安倍政権が異次元緩和を行っても2%のインフレ目標に届かなかったのは、日本の人口動態が原因とのこと。確かにそれはありえそうだなと思った。
    人口が減っているのに、通貨の量を増やすだけで2%のインフレ目標を実現するのはかなり難しいのだなと思った。そもそも、人口が減ってる分、需要が減ってるそうだし。
    ところどころでてくる、日本の人材評価ランキングは世界4位という記述があったのだけど、これはどういう指標をもとにしたランキングなのかいまいちよく分からなかった。第4位(先進国の中では最高順位)なのに、生産性が28位だから、日本は社員の能力を生かし切れていないということなのだけど、そもそも何をもって4位になったのかと。
    なお、この本でいいたいことは最低賃金の引き上げだと思うのだけど、イギリスでは最低賃金は地域別に違わないらしい。日本は都道府県によって最低賃金が異なるので、東京に一極集中するのもそれが原因だろうとのこと。確かに、それはありえそうだなと思った。何で分けてるのだろう。地域活性化にはふるさと納税より、最低賃金の統一のほうがいいような気がしてきた。
    ちょっとビックリしたのが、著者が「日本は最低賃金を上げるべきだ」と主張をすると、「日本人の給料が低いのは美徳です」なんて反論してくる人がいるということ。マジでそんな反論してくる人がいるのかとビックリした。何で賃金が低いことが美徳になるのか意味が分からない。
    後、日本は子どもの教育はしっかりしているけど、経営者の教育が十分なされてるとはいえないとのこと。確かに、そういわれてみると社会にでたら教育を受ける機会ってそうそうないから、大学を卒業して数十年たっている経営者からすると、知識は教育を受けた数十年前で止まってしまっている可能性もあるわけだしね。確かに、このへんちゃんと教育していったほうがいいのかも。

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