デフレ反転の成長戦略

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  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492395349

作品紹介・あらすじ

なぜ物価と賃金が下がり続けるのか?なぜ金融政策が効かないのか?日本経済を破綻に追い込みかねない「負の連鎖」をミクロ・マクロの両面から鋭く分析。突破のカギとなる"企業サイドの戦略シフト"と"政府の政策大転換"を訴える話題の書。

感想・レビュー・書評

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  • デフレ脱却の兆しありとの楽観論も出てきたが、デフレ論を読み返すべく本書を手にする。

    読む前に、書評二本に目を通す。
    http://book.asahi.com/business/TKY201009070272.html
    http://togetter.com/li/314041

    本書は、デフレの要因を「事業再編よりも人件費カットによるコスト削減を優先する日本企業の行動様式」にあると指摘。「賃金よりも雇用」を優先する労働組合も一棒を担ぐ役割となって、構造転換を遅らせたとする。そして、規制改革や官製市場解放を遅らせた政府も足を引っ張った。

    「一国の平均賃金が持続的にマイナスに陥るまで人件費の抑制を行うのは日本だけ」であり、「低価格競争→人件費削減→低価格志向化→低価格競争→……」が日本のデフレスパイラルの要因とする。

    デフレ反転には、「低生産性分野から高生産性分野にヒト・カネをシフト」させ、「産業構造を転換すること」が必要であり、それを可能とする労働市場づくりを提言する。

    具体的には、(1)プロフェッショナル労働市場の形成によりイノベーション力を高める(米国モデル)(2)成長分野への転換を促す技能・賃金向上策を交えた労働市場流動性向上策(欧州型フレクシキュリティモデル)(3)普通の人々が能力を高め、緊密なコミュニケーションによりイノベーションを起こす(日本型職能システムの良さを残すモデル)を組み合わせよと提案。

    とくに、興味深いのはライフステージによって働き方の要請は変化することを前提に、「入口」「出口」の改革を提案していることである。新卒一斉採用をやめ、派遣社員で技能獲得を優先、正社員を経て、子育て期には一旦限定型社員に。その後、正社員に復帰して子供が独立した暁には、収入安定の必然が後退するので、副業などを組み合わせた限定型社員や契約社員へ移行する、などのセミリタイアモデルを紹介している(208頁「ライフステージに応じた働き方ポートフォーリオの例」)。

    最終章の政策大転換の提言では、成長分野へのの転換を促す政策提言を促すとともに、労使間では欧州型産業民主主義的労使交渉の実現を提案。労働組合を社会横断的な性格のものに転換し、正社員と非正社員がともに同一価値労働・同一賃金を前提に景気回復時の賃金上昇、後退時の調整を行うことが望ましいとする。(これには中高年賃金の引き下げを伴うが、子供の教育費や住居費については、公的助成の強化を提言。オランダのワッセナー合意に学び、政労使三者による雇用・賃金システムの転換を促している。なお、同時に高いスキルを持つプロフェッショナル市場は米国型で決まることが望ましいとして、とくに海外からの優秀な人材獲得に向けたスキームにも目を向けるよう指摘している。

    2000年代半ば以降に、労働組合役員を担っていた際、「労働分配率イシュー」には理解が不足していたことを反省、一方で「フレクスキュリティ策への着目」は直感的であったが適切であったのかもしれないと、自らの過去の主張をレビューすることができた一冊。

  • 値下げ賃下げの罠。デフレになった経緯、日本が、企業がなすべきコトを解説した本。
    わかりやすかった。

    メモ
    ・欧米と日本企業で、現地法人での課題認識に違い。本社ー海外子会社の調整メカニズムについて比較調査。欧米は「現地幹部への経営理念の浸透」「業務手順やルールのグローバルな標準化」、日本は「本国人駐在員による監督監視」「現地幹部への経営理念の浸透」
    日本は属人、欧米は仕組み。
    ・労働分配率
    2007半ば、大企業ベースでは44%。第一次石油危機以前レベル。派遣を正規に加える操作をしても、0.6%引きあがる程度。1998ごろ58%レベルまで上昇していたところが急激に下降。中小中堅は低下は穏やか。
    賃金抑制変調の行動様式。
    ・米国「プロフェッショナル労働市場」欧州「フレクシキュリティーを具備した職種別労働市場」
    日本「日本型職能システム」
    これから、出口と入り口の改革。
    キャリアコースの複線化(プロフェッショナルコースの設置)
    出口(飼い殺しを避ける、セーフティーネット)
    ・サムスンのマーケットイン
    対象地域の顧客が必要とするものを徹底的にマーケティング。「地域専門家」3ヶ月語学、文化教育し、その国で半年から一年自由に過ごさせる。
    ・法人税
    諸外国は地方法人税はない
    ・春闘の機能不全
    労使協調でかつ、非正規が対象外

    10.11.14読了
    池田
    時間3h
    評価◎

    目次(「BOOK」データベースより)
    序 章 「値下げ・賃下げの罠」に陥った日本経済
    第1章 いかにして「値下げ・賃下げの罠」に陥ったか
    第2章 「値下げ・賃下げの罠」下の企業行動様式
    第3章 国際比較からのインプリケーション
    第4章 「値下げ・賃下げの罠」を破る政策大転換
    終 章 賃下げを実現する経営戦略

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著者プロフィール

株式会社日本総合研究所調査部長 / チーフエコノミスト、博士(経済学)
1987年京都大学経済学部卒業、同年住友銀行入行、91年(社)日本経済研究センター出向、93年(株)日本総合研究所出向、調査部研究員、2003年経済研究センター所長、05年マクロ経済研究センター所長、07年ビジネス戦略研究センター所長、11年(株)日本総合研究所調査部長、13年法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科客員教授(兼務)。この間、2003年法政大学大学院修士課程(経済学)修了、15年京都大学博士号取得。
主要業績に、『北欧モデル ―― 何が政策イノベーションを生み出すのか』(共著、日本経済新聞出版社、2012年)、『市場主義3.0 ―― 「市場vs国家」を超えれば日本は再生する』(東洋経済新報社、2012年)、『デフレ反転の成長戦略 ―― 「値下げ・賃下げの罠」からどう脱却するか』(東洋経済新報社、2010年)など多数。

「2016年 『失業なき雇用流動化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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