岩井克人「欲望の貨幣論」を語る

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492371244

作品紹介・あらすじ

大反響の異色経済ドキュメント4作目。
同番組シリーズがテーマとする「欲望が欲望を生みだす資本主義の先に何があるのか」。
今回は、仮想通貨が生まれ、キャッシュレス化が進む現象を捉え、資本主義の基本を成す貨幣に着目。
「貨幣論」「会社は誰のものか」など、正統的な近代経済学の枠組みに留まらず、様々な問いかけ、考察をしてきた日本を代表する経済学者である岩井克人氏が登場する「欲望の資本主義 特別編 欲望の貨幣論2019」(2019年7月14日放送)をベースとし、追加独自インタビューも交えた書籍化。
NHK総合「欲望の資本主義」(2016年5月放送)を書籍化した『欲望の資本主義』、2017年新春放送の「欲望の資本主義2017」・2018年新春放送の「欲望の資本主義2018」を書籍化した『欲望の資本主義2』、2019年新春放送の「欲望の資本主義2019」を書籍化した『欲望の資本主義3』(6月末刊行予定)に続き、番組シリーズのコンセプトにさらに肉迫する意欲的な企画。

感想・レビュー・書評

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  • こんな本が出版されていることを知りませんでした(涙)。
    貨幣論の岩井克人さんの最新の情報、
    最高でした。
    アリストテレスが貨幣の重要性、資本主義のはしりに言及していてということ。
    さすが、岩井先生でした(感謝)。

  • 「貨幣とは貨幣であるから貨幣である」という貨幣の自己循環論法。なんだそりゃ。小泉進次郎が言いそうなトートロジーでもあり、早口言葉のようでもある。しかし、これが真理なのだろう。ただ、若干の補足が必要だ。

    お金を使うことは、お金自体に使い道は無いことを知りながら、流通させていることであり、最も純粋な投機とも言える。お金を信じていると言うことだ。貨幣商品説とか、貨幣法制説やMMT論はあるにせよ、本著では結句、貨幣とは、集団幻想として認知され、貨幣という交換価値に帰結する事で貨幣足り得るという主張を採用する。

    貨幣の存在を探りながらも本著が面白いのは、アリストテレスのポリス(都市国家)からの掘り下げだ。アリストテレスは、人間は自然本性によってポリス的動物であるとし、共同体全体にとって何が善であるかを絶えず議論し共同体全体の運営に関心を持てるように政治を転換すべきという主張をしていた。アリストテレスにとってポリスとは他者と共によく生きると言う目的を最高に実現できる最高の共同体。

    他方、欲求の二重の一致を迂回するために貨幣はが発生した。ポリスを維持するためには貨幣が不可欠である。逆説的だが、貨幣はポリスの持続性を切り崩してしまう力を持っている。貨幣交換が拡大していくと手段と目的が逆転し始めるようになるとアリストテレスは述べる「貨幣が交換の出発点であり、終極目的でもある」。

    アリストテレスは自らがポリスの内部に発見した資本主義を〝無限”という悪を求める活動として断罪する。医者には他の人を健康にすると言う本来的目的があり、軍人には戦争に勝利すると言う本来的目的がある。しかし一度資本主義が生まれてしまうと、医者も軍人も貨幣それ自体を増やすと言う決して満たされることのない目的を求める。結果資本主義は、他者と共によく生きると言う目的を最高に実現できる、最高の共同体であるべきポリスから持続性を奪うことにより内部から解体してしまう力を持っている。

    貨幣が自己目的化するのは、際限なき欲望の故。また、自らの自由を労働で販売する市民が、他人の自由を奪い自身の自由を守るために貨幣が重要なのだ。複雑化され貨幣に仮託される欲望の一部には、生存本能がある。お金があるから安心だという心理は、その反映だ。以前ぼんやりそんな事を考えていたが、久々にその思考回路をトレース。分かりやすい話だ。

  • ビットコインは法定通貨になりえない。
    なぜならビットコインがまさに「分散化」された仮想通貨だから。

    資本主義社会の本質的な不安定性により、バブルやインフレの時に社会全体の安定性のために行動してくれる、公共的な機関がないから。

    アリストテレスは、共同体のみならず、すべての事物はなんらかの「善」を目的にした存在だと考えた。

    「善」という目的が実現されると、もはやそれ以上何も望む必要はなくなるから「善」のそれ自体で「自足」している状態であるといえる。

    よって「無限」を目的にすることは、決して「自足」の状態に達することができないことを意味する。
    すなわち究極の「悪」

    「新古典派」=基本的に不純物がないほどに、純粋に市場原理が機能するほどに、効率性と安定性が実現され理想状態に近づくとする考え方。

    「不均衡動学派」=効率性と安定性は二律背反である。
    市場にあって純粋な競争が行われるほどに、恐慌またはハイパーインフレなどの可能性が増してしまう。
    政府や中央銀行の存在があることで、曲がりなりにも安定性が生まれる

  • 分かりやすく、貨幣の価値の循環論法について書かれていた
    個人的に2章以降の内容があんまりためになら無かった

  •  『貨幣論』、『二十一世紀の資本主義論』と続けて読んで、今回、著者の最新の本書を読んだ。上記2冊はいずれも今から30年近く前に刊行されたが、これらで展開された「貨幣」の本質は、たとえその姿形を変えたとしても、その実態は変わらないとわかる。その一方で、これらの本には存在しなかったビットコイン等の仮想通貨や昨今話題であるMMT(現代貨幣理論)に対する見解を述べており、これまでの著書ではカバーされていなかった部分を本書で補足されている。
     本書全体を読んで、アリストテレスとカントの2人の哲学者の偉大さがよくわかる。著者曰く、アリストテレスは資本主義以前の世界で、貨幣の本質を見抜いたり、共同体のあり方の鋭い見方をしてるという。一方、カントは近年台頭したグローバル経済を克服するための対抗策として、その思想は今でも有効だと見なす。
     グローバル化によって、アダム・スミスを祖とする新古典派の影響力が強まったが、これらの学派は非効率、不合理な要素を排除し、効率性、合理性を徹底的に追求する。その結果、市場が不安定化する状態となり、資本主義社会がますます不安定となる。今後、資本主義社会がそう簡単に終わる気配がしないが、その中でも、人間が人間として生きていくには、他者のために生きていかなければならない、と著者は2人の哲学者の思想からそのように結論付ける。

  • 岩井氏の本は毎回感銘を受けているので本書も早速手に取りました。岩井氏と言えば、貨幣論、資本主義論を、アリストテレスやゲーテ、シェークスピア、カントなど、古今東西とは言わないまでも(西&古に偏っていますが)、経済学以外の巨人の視点を通じて分析するというのがユニークな特徴だと思っています。つまり経済学という領域にこだわらないところに面白さがあるわけです。

    本書では、どちらかといえば貨幣論を中心に同様のアプローチがとられていました。その意味では、岩井氏の本をこれまで何冊も読んだ人からすると、そこまで新しいことは書かれていないものの、とにかく主張がわかりやすく解説されているというのが本書の価値でしょう。前著(貨幣論、ヴェニスの商人の資本論、経済学の宇宙、など)を読まれた人にとっては復習に、はじめて触れる人は著者の主張が明瞭に伝わってくる本だと思います。

    私が今回改めて納得した主張は、資本主義における効率性と安定性の二律背反の話です。「経済学の宇宙」にもその主張は記述されていましたが、本書を読んで理解が深まりましたし、深まったと同時に、実は極めて挑発的な主張でもあるということに気づきました。効率性と安定性の二律背反とは、言い換えるならば自由放任主義(効率追求)が経済の不安定化や行き詰まりを生み出すということなのですが、ふとミヒャエル・エンデの「自由の牢獄」という物語を思い出しました。ネタバレになるのでストーリーは述べませんが、「制約条件のない自由は不自由である(身動きが取れなくなる)」というような話です。またミクロ経済学でも、何かしらの制約条件(例:予算制約)のもとで、ある経済変数(例:効用)を最大化する、という問題については最適解が計算できるわけですが、制約条件がなければ問題は解けません。大澤真幸も、ある本でエンデの同物語に触れ、自由には制約条件がつくべきであると主張し、たしか「将来世代に対する義務」を制約条件として現世代は自由を謳歌すべし、というようなことを提唱していたかと思います。本書改めていろいろと深く考えさせてもらえる本でした。

  • 経済学や貨幣について独学していくなかで、「これからの正義の話をしよう」「ビットコインスタンダード」を読んだ後にこの本を読んだ。
     
    貨幣や経済を学ぶに連れ、学問は隔たりなく体系的に学ぶことの重要性と楽しさを覚えている。

    また著者の思考をまずは読み取り、その上で対岸の思想を学ぶことも自分の思考を枠の中に留めないためにも柔軟体操として必要である。

    前置きが長くなったが、アリストテレスのいうポリスを維持するための貨幣の必要性と、貨幣によるポリスの崩壊リスクというパラドックスについて共感したと同時に、そこに「欲望の貨幣論」の本質があることを理解した。

    経済や貨幣を勉強する中で、自分自身これからの未来を生き抜くための手段を見つけたいという「未来の可能性に対する根拠」を欲求していたと感じたが、これは際限のない無限ループだと気づいた。

    世の中に完全なものはなく、存在しているものが形を変え、時間軸とともに流転していくだけなのである。
    なので我々は歴史から学び、その時にその瞬間に自分のエネルギーを注げる何かを考え続けることでしかないと私は思う。

  • オレもこれまで岩井克人の本は読んできたけど。
    今、子供が読んでる。

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著者プロフィール

丸山 俊一(マルヤマ シュンイチ)
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー
1962年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」などの「欲望」シリーズをはじめ「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」「人間ってナンだ?超AI入門」「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」「地球タクシー」他、異色の教養番組を企画・制作。
著書『14歳からの資本主義』『14歳からの個人主義』『結論は出さなくていい』他。制作班などとの共著に『欲望の資本主義』『欲望の資本主義2~5』『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』『欲望の民主主義』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するⅡ』『マルクス・ガブリエル 危機の時代を語る』『マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」』『AI以後』『世界サブカルチャー史 欲望の系譜 アメリカ70~90s「超大国」の憂鬱』他。東京藝術大学客員教授を兼務。

「2022年 『脱成長と欲望の資本主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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