医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492315071

作品紹介・あらすじ

医者「なぜ患者さんは治療方針を決められないのか」
患者「なぜお医者さんは不安な気持ちをわかってくれないのか」
人間心理のクセがわかれば、溝は埋められる!

「ここまでやって来たのだから続けたい」
「まだ大丈夫だからこのままでいい」
「『がんが消えた』という広告があった」
「本人は延命治療を拒否しているが、家族としては延命治療をしてほしい」
「一度始めた人工呼吸管理はやめられない」
といった診療現場での会話例から、行動経済学的に患者とその家族、医療者の意思決定を分析。
医者と患者双方がよりよい意思決定をするうえで役立つ一冊!
シェアード・ディシジョン・メーキングに欠かせない必読の書。

「行動経済学では、人間の意思決定には、合理的な意思決定から系統的に逸脱する傾向、すなわちバイアスが存在すると想定している。そのため、同じ情報であっても、その表現の仕方次第で私たちの意思決定が違ってくることが知られている。医療者がそうした患者の意思決定のバイアスを知っていたならば、患者により合理的な意思決定をうまくさせることができるようになる。また、医療者自身にも様々な意思決定におけるバイアスがある。そうしたバイアスから逃れて、できるだけ合理的な意思決定ができるようにしたい。患者も行動経済学を知ることで、自分自身でよりよい意思決定ができるようになるだろう。」――「はじめに」より

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    内容が濃くかつ難しかった為、「本を読んで理解をする」という単純なアクションに非常に時間がかかった1冊でした。
    ただそれ以上に、読み終わった後に得たリターンの大きさをこの1冊からは感じ、トータルで見て読み応えの良い書籍でしたね。

    「医療現場の行動経済学」という限定的なものではなく、経済学という学問全体について、あまり馴染みがなかった僕からすれば、とてもイイ勉強になりました。(ただ、専門用語おおすぎ・・・笑)
    確かに「バイアス」という感情は自分自身も持っており、この何とも言えない「主観」が既に言語化されているということに、感動しました。

    また、「意思決定に関する4つの特徴」という項目も非常に興味深かったです。
    大きくは「プロスペクト理論(確実性効果と損失回避)」「現在バイアス」「社会的選好(利他性・互恵性・不平等回避)」「限定合理性」の4つ。
    どれも物の見事に聞いたことがないWordなのに、確かに「このどれかの特徴に沿って、何気なくではあるがいつも僕は意思決定しているな~」と、目から鱗。
    なんてゆうか、本当に学問って尊いですよね。
    無学でその時その時の感覚や勢い・ノリのままに生きている自分からすると、その感覚さえも既に学問化・言語化されているという学問の尊さに、舌を何重にも巻いちゃいました。

    僕は医師・医療従事者が顧客ではあるものの自分自身ではありませんので、「医療現場の行動経済学」なんて今後もメインで活用する事はおそらくないでしょう、、、
    ただ、仕事上で意識するのは勿論の事、患者という目線である一定のバイアスに縛られる事なく医療を受けようかと思いました。

    また、日常におけるちょっとしたコミュニケーションや、恋愛や、仕事上での商談・プレゼンテーションなどに置き換えても、TPOを選ばずどんなシチュエーションでも変換できる非常に有効なスキル・考え方がこの本には詰まっています。
    勿論、人対人のコミュニケーションなので感情を一切排除した「理屈のみのクロージング」に染まるのはNGでしょうが、こうしたエビデンスに基づいたテクニックを普段から意識して使用すると、人付き合いは今後一段と奥が深くなり、一層楽しく、そして興味深くなるのではないでしょうか。

    前述の通り、読み終えるのには非常に難儀しましたが、思っていた以上にイチ論文としてのクオリティが高く、医療現場に限らず他にも応用のきくテクニックとしてとても参考になりました。
    自身の学問書として、何度も読みたい1冊です。


    【内容まとめ】
    1.医者と患者の両者間には、医療行為の受け止め方に深い溝がある。
    「何度も同じような患者を診てきた医者」と、「生涯で初めてである患者」という圧倒的な目線の違い。

    2.「ここまでやって来たのだから」:サンクコスト・バイアス
    「埋没した費用」という意味で、過去に支払った費用や努力の内、戻ってこないもののこと。
    (バイアスとは「偏り」のこと)

    3.「まだ大丈夫」:現状維持バイアス
    「現状維持したい」という気持ちから生じる偏り(バイアス)のこと。

    4.「今は決めたくない」:現在バイアス
    意思決定をしなければならない事は理解しているが、それを先延ばしするという「現在バイアス」。

    5.「がんが消えた」:利用可能性ヒューリスティック
    医学的に証明されている治療法よりも、誇大広告など身近で目立つ情報を優先して意思決定に用いてしまう事。
    都合のいい解釈。

    6.人の意思決定の4つの特徴がある。
    ・プロスペクト理論(確実性効果と損失回避)
    →リスクへの態度に関する、人々の意思決定の特徴。
    「確実性効果」、「損失回避」「フレーミング効果」などが挙げられる。

    ・現在バイアス
    →遠い将来であれば忍耐強い選択ができるが、直近の事となるとせっかちになり、時間非整合な意思決定を行なってしまう。

    ・社会的選好(利他性・互恵性・不平等回避)
    →他人の効用や行動に影響を受けること。自分自身の物的・金銭的選好に加え、他者の物的・金銭的利得への関心を示す選好を人々が持つと想定されている。

    ・限定合理性
    →系統的に異なる直感的意思決定を示すこと。私たちは、意思決定に思考費用がかかることから、直感的に判断する事が多い。

    7.ナッジ
    →「軽く肘でつつく」という意味の英語。

    8.せっかちな人や先延ばしがちな人ほど、健康的な行動を取らない。せっかちな人ほどタバコを吸ったり、肥満になったりしがちである。
    理由として、健康状態の改善や病気の進行が止まるという「利益」は、行動を取ってすぐ発生するのではなく将来的に発生する事が多く、時間割引率が高い人にとっては優先順位が「将来<現在」の為、医療健康行動を取らないと考えられる。
    彼らの行動を変えるには、何らかの工夫を施して、現在および将来の利益をより大きくしたり、現在の費用や負担をより小さくしたりする事が効果的。
    また、現在の利益を新しく追加する、という方法もある。

    9.利益フレーム<損失フレーム
    損失フレームで失われる利益の大きさを強調する。
    「損失回避」という人の行動経済学的な特性の一つ。一般的に、利益に比べて損失は2.5倍に感じると言われている。
    「◯◯をすれば将来あなたの健康状態のはこれだけよくなります」という利益フレームの勧誘文句よりも、「◯◯しなければ、健康状態はこれだけ悪くなります」という損失フレームの勧誘文句の方が効果的。

    10.将来の事なら人間は望ましい行動を計画できても、いざ行動すべき時が訪れたらその実行を先延ばししようとする傾向(現在バイアス)や、これまで投資した費用をもったいないと感じて諦めきれない気持ち(サンクコスト・バイアス)があり、合理的な意思決定を邪魔してしまっている。

    11.なぜ女性医師の方が患者の死亡率が低いのか?
    担当医師が男性であった患者の死亡率は、担当医師が女性であった場合に比べて0.4%ほど高い。
    (この0.4%の死亡率の差は、100万人以上のデータから算出されている。)
    理由として、女性医師の方が男性医師よりもガイドラインに沿った治療を行い、より患者中心の医療を提供している事が挙げられる。
    また、女性の方がリスク回避的であったり、男性の方が自信過剰であったりと、男女でリスクに対する態度が違う可能性も示唆されている。



    【引用】
    医療現場の行動経済学


    p1
    がんという病気と治療法を熟知し、何度も同じような患者を診てきた医者から見れば、当然の判断かもしれない。
    しかし、一人一人の患者にとっては生涯で初めてのことなのである。
    医者と患者、両者の間には、医療行為の受け止め方に深い溝があるのだ。


    p4
    ・「ここまでやって来たのだから」:サンクコスト・バイアス
    サンクコストとは「埋没した費用」という意味で、過去に支払った費用や努力の内、戻ってこないもののことをいう。
    (バイアスとは「偏り」のこと)

    患者が抗ガン剤治療をやめたくない理由に、10年間も辛い治療をしてきたのにそれを中止すると、治療そのものが無駄になるという思いがある。
    医師は、患者がサンクコストの誤謬に陥っていることを探り出し、「今考えるべきことは、これから先の事だけ」という事を理解してもらう事に力を注ぐ。


    p6
    ・「まだ大丈夫」:現状維持バイアス
    現在の治療法を維持したいというのは、行動経済学でいう「現状維持バイアス」が発生しているからだと考えられる。
    この場合、「現状」が判断基準となっているので、別の判断基準を参照点に変えてもらう事を意図する表現が必要とされる。


    p8
    ・「今は決めたくない」:現在バイアス
    辛い意思決定をしなければならない事は理解しているが、それを先延ばしするという現在バイアスが発生する可能性も高い。
    この場合は、「多くの人はこのような意思決定をしている」という表現より、同調性や「自分自身の積極的意思決定ではない」というデフォルトに近い手法で患者の肉親の選択負担を減らし、より望ましいと思われる選択肢を選びやすい環境を作ること。


    p10
    ・「がんが消えた」:利用可能性ヒューリスティック
    医学的に証明されている治療法よりも、誇大広告など身近で目立つ情報を優先して意思決定に用いてしまう事。


    p13
    人の意思決定には、以下4つの特徴がある。

    1.プロスペクト理論(確実性効果と損失回避)
    →リスクへの態度に関する人々の意思決定の特徴。

    「確実性効果」
    →行動経済学では、客観的確率と主観的確率の間に乖離があると考えられている。
    80%~90%という比較的高い確率のものを主観的にはより低く感じる傾向がある一方で、10%~30%という比較的低い確率をより高く感じる傾向がある。

    「損失回避」
    →利得よりも損失を大きく嫌う。
    利得局面ではリスクがあるものよりも確実なものの方を好むというリスク回避的な傾向があるのに対し、損失局面では確実なものよりもリスクがあるものを好むリスク愛好的だという特徴。
    損失を確定するという安全な選択肢よりは、大きな損失があるかもしれないが「参照点」を維持できるというリスクのある選択肢を選ぶという人間の特性がある。

    ・フレーミング効果
    →損失回避や確実性効果を背景にして、同じ内容でも表現方法が異なるだけで人々の意思決定が異なること。

    A:術後1ヶ月の生存率は90%です。
    B:術後1ヶ月の死亡率は10%です。
    同じ確率にも関わらず、Aの場合なら約80%の人が手術すると答え、Bの場合だと約50%しか手術すると答えなかった。
    損失を強調したBの表現の場合、「損失回避行動」が引き起こされてしまう!

    ・現状維持バイアス
    →現状を変更する方がより望ましい場合でも、現状の維持を好む傾向のこと。
    これが発生するのは、現状を参照点とみなして、そこから変更することを損失と感じる損失回避が発生していると考えられる。


    p25
    2.現在バイアス
    →遠い将来であれば忍耐強い選択ができるが、直近の事となるとせっかちになり、時間非整合な意思決定を行なってしまう。


    p30
    3.社会的選好(利他性・互恵性・不平等回避)
    →他人の効用や行動に影響を受けること。
    自分自身の物的・金銭的選好に加え、他者の物的・金銭的利得への関心を示す選好を人々が持つと想定されている。

    ・利他性
    →他人の利益から効用を得る。

    ・互恵性
    →親切な行動に対して親切な行動で返す。

    ・不平等回避
    →不平等な分配を嫌う。


    p32
    4.限定合理性
    →合理的推論とは系統的に異なる直感的意思決定を示すこと。私たちは、意思決定に思考費用がかかることから、直感的に判断する事が多い。

    ・意志力
    →精神的あるいは肉体的に疲労している時は、意思決定能力そのものが低下する。

    ・選択過剰不可
    →選択肢が多い場合、どれを選ぶかが困難になり、こと治療法の選択に関しては治療そのものを受けなくなる可能性がある。
    選択肢が多すぎる場合は、提示する選択肢を減らす事で、選択行動そのものを促進すること。

    ・情報過多負荷
    情報過多だと、正しく評価して良い意思決定ができなくなる。

    ・平均への回帰
    数字の変動が激しく、極端に平均から乖離した数字が出た場合、オートで平均値に回帰する事が良くある。


    p38
    ・ナッジ
    →「軽く肘でつつく」という意味の英語。
    意思決定の歪みを、行動経済学特性を用いて、選択の自由を確保しながら、金銭的なインセンティブを用いないで、行動変容を引き起こす。


    p48
    ・せっかちな人や先延ばしがちな人ほど、健康的な行動を取らない。
    せっかちな人ほどタバコを吸ったり、肥満になったりしがちである。
    また、様々な種類の検診や予防接種に参加しにくく、近年では食事制限や運動療法など医師からの指示も中々守れない。

    理由として、健康状態の改善や病気の進行が止まるという利益は、行動を取ってすぐ発生するのではなく将来的に発生する事が多く、時間割引率が高い人にとっては優先順位が「将来<現在」の為に医療健康行動を取らないと考えられる。

    彼らの行動を変えるには、何らかの工夫を施して、現在および将来の利益をより大きくしたり、現在の費用や負担をより小さくしたりする事が効果的ではないか?
    また、現在の利益を新しく追加する、という方法もある。


    p55
    ・損失フレームで失われる利益の大きさを強調する。
    「損失回避」という人の行動経済学的な特性の一つ。
    一般的に、利益に比べて損失は2.5倍に感じると言われている。

    「◯◯をすれば将来あなたの健康状態のはこれだけよくなります」という利益フレームの勧誘文句よりも、「◯◯しなければ、健康状態はこれだけ悪くなります」という損失フレームの勧誘文句の方が効果的。


    p74
    将来の事なら人間は望ましい行動を計画できても、いざ行動すべき時が訪れたらその実行を先延ばししようとする傾向(現在バイアス)や、これまで投資した費用をもったいないと感じて諦めきれない気持ち(サンクコスト・バイアス)があり、合理的な意思決定を邪魔してしまっている。


    p78
    ・ヒューリスティックス
    本事例では、高額な免疫療法クリニック等の広告に用いられる「少数の法則」や「利用可能性」によるバイアスが影響。
    これによって、結果の良い極端なケースを過剰に信頼してしまう。


    p92
    ・「利己的な動機付け」と「損失回避」
    一般的に、人は自分にとっての利益を最大に、そして損失を最小にしようとする。
    説明時は、その点を考慮すれば理解や決断が早くなるだろう。


    p189
    ・臓器提供の意思について
    オプトイン・・・ドナーになることに明示的に同意する場合
    オプトアウト・・・ドナーになることを拒否しない限り同士しているとみなす場合

    オプトアウトを導入しているオーストリアでは臓器提供に同意する人の割合は99.98%、これに対してオプトインを採用する隣国ドイツでは12%に留まる。
    この明らかな違いは、両国における身体観や死生観の違いに由来するというよりは、意思表示の仕方の違いによるものと考えられる。


    p225
    ・急性期の循環器領域における意思決定
    全ての医療行為には意思決定を伴うが、まず第一に「医療従事者による意思決定」が為されて、第二に「患者の意思決定」が為される事となる。
    その中で、医療従事者は完全な情報をもち極めて合理的な意思決定を行うという完璧な人間像を前提とすることが多い。
    しかし、医療従事者そのものにも行動経済学的な意思決定バイアスがある。

    また急性期では医療従事者として診断の正確さや治療の迅速性を求められる上、一定の割合で生命に直結する合併症なども起こるため、患者のみにならず医療従事者にとっても心的負担が多い。
    これらの状況において、行動経済学的なバイアスが発生する可能性は高い。


    p243
    ・なぜ女性医師の方が患者の死亡率が低いのか?
    担当医師が男性であった患者の死亡率は、担当医師が女性であった場合に比べて0.4%ほど高い。
    (この0.4%の死亡率の差は、100万人以上のデータから算出されている。)

    理由として、女性医師の方が男性医師よりもガイドラインに沿った治療を行い、より患者中心の医療を提供している事が挙げられる。

    また、女性の方がリスク回避的であったり、男性の方が自信過剰であったりと、男女でリスクに対する態度が違う可能性も示唆されている。

    • やまさん
      きのPさん
      こんにちは。
      いいね!有難うございます。
      こちらは、いますごく暑いです。
      出ていて帰って来たら汗びっしょりです。
      ヤフ...
      きのPさん
      こんにちは。
      いいね!有難うございます。
      こちらは、いますごく暑いです。
      出ていて帰って来たら汗びっしょりです。
      ヤフーの天気予報では20度ですが、まだ高いように思います。
      やま
      2019/11/14
    • きのPさん
      やまさん
      お住まいは東京でしょうか?
      暑いんですか??
      関西は昨日からめっきり寒くなりました。
      やまさん
      お住まいは東京でしょうか?
      暑いんですか??
      関西は昨日からめっきり寒くなりました。
      2019/11/15
  • ◯行動経済学を医療現場で実践している本。しかし、実践の統計データがないため、事例集になっている。
    ◯とはいえ、行動経済学のエッセンスは医療や業務など、パターナリズムを要する分野にマッチするため、関係者は読むと参考になると思う。
    ◯しかし読んでて気になるのは、医療行為の差し控えと中止など、ともすれば相手の行動を操る可能性を秘めている点である。その点は丁寧な説明がそれぞれ前提となっているのでいいのかもしれないが、行政で活用する場合、それぞれ活用した意味について、深く考えておく必要があるかもしれない。
    ◯本筋とは離れるが、マスコミの影響力には辟易とした。

  • 題名通り医療現場における行動経済学について触れた本
    前半の行動経済学に関する解説も簡潔でそれだけでも読む価値がある

  • 国内医療業界の行動経済学的解説、というよりも、行動経済学的観点からみた医療業界という期待値で読まれた方がいいと思った。

  • 全体的に学術的。堅い印象で読みごたえがある反面、さらりと読むには適さない。

    大腸がん検診の受診率向上に、「今年度、大腸がん検診を受診しなければ、来年度は便検査キットが送付されません」という損失フレームのメッセージが有効、というのがなるほどと思った。

  • これは面白い。行動経済学を医療現場に当てはめると、人の行動が理解でき、逆に患者の行動を促すための医療側のアクションが見えてくる。

    損失回避バイアス:人は利益よりも損失を大きく評価してしまいがちで、それを避ける行動をとる
    フレーミング:参照点が変わると人の評価は変わる
    現状維持バイアス:大きな変化を避け現状を維持しようとするバイアス
    不作為バイアス:行動するかしないかで、悪い結果が出た時の自己評価が「行動した」時の方がより損失が大きいと思うバイアス
    保有効果バイアス:すでに所有しているものを高く評価するバイアス(同じものを同じ値段で買おうと思わない)
    利用可能ヒューリスティック:簡単に手に入るもの(知っていること)、情報を信じてしまう(民間療法など)
    サンクコストバイアス:すでに支払っているコストを重視してしまうバイアス(取り戻す、という行動をとりがち)
    極端回避性:上限、下限を避ける
    同調効果:他人の行動を見て自分の意思決定をする傾向
    ナッジ:自己決定権を残し、特定の選択肢を選びやすくするためのひと押し

    女性医師の方が患者の死亡率が0.4%高いという統計結果も、女性のリスク回避性から発生したのではないか、という、考察があったが、そうかな?

  •  行動経済学では、ヒトは合理的な存在ではなく、思考に一定のバイアスが存在すると考える。この本では、実臨床で遭遇する具体的な問題について、行動経済学的なアプローチから問題の原因をデータで証明しながら考察し、解決案を提示している。また、患者だけではなく、医師も思考のバイアスがあるとし、それにより生じる問題に対する解決案も提示している。行動経済学のそのような考え方は参考にすべきであり、臨床の場でも応用すべく行動経済学を一度しっかりと学びたいと感じた。
     本書では行動経済学についての説明は十分ではないため、行動経済学を一度触れてから本書を読んだ方がさらに理解は深まると予想される。
     本書は臨床の場に立つ方にはもちろん、行政や医療系ビジネスに関心がある人にとっても患者の受療行動や予防成績を向上させるのに参考になるため、一度読むことを勧めたい。

  • 「行動経済学」とのタイトルではあるが、患者やその家族との医師の関わり方について、指針を示すことに紙面の多くを割いている。
    患者とのコミュニケーション技術に関するノウハウを書き並べるのではなく、過去の論文や研究に基づいた書き方には非常に説得力があった。

    盲目的・マニュアル的に患者及びその家族の診療にあたってはいけない、と再認識させられる内容であった。
    特に終末期は、しばしば合理的とは思えない判断をしてしまうことは普通であり、むしろ当たり前かもしれない。

    患者は合理的な判断をいつでも出来るわけではない、ということは全ての医療従事者が知っておくべきことであり、その点において行動経済学は医療(治療方針決定や予防行動など)との親和性は高いと言える。

    そして、患者の判断は常に合理的ではないという事実は、ともすれば医師のパターナリズムに逆戻りする危険性を示しており、活用も悪用もできると感じた。

    コミュニケーションがうまくいかなかった場合に、どこに原因があったのかをチェックする意味でも、この本に取り上げられている行動経済学的特性は、頭に入れておいて損はない。
    大事なのは、そういった特性を誰しも持っているのだと、知ることなのだろう。

    ヒューリスティックスをうまく使えるのはソーシャルワーカーや看護師の方かもしれない、と言う説は、本当にそうだよなと思ったし、尚更コメディカルとの連携が必要だと感じた。

    公衆衛生を整備するためには、内容云々よりも、啓発をいかにうまくやるかにかかっていると感じた。
    やるのは、政府か?インフルエンサーか?企業か?
    栄養士や看護師、医療職は対個人のアプローチはできるが、全体的な促進には、大規模な取り組み方が必要で、真に健康を目指すのであれば、所持しているコンテンツだけでなく、「伝える力」も必要であろう。

    その点において、メディアはいい意味でも悪い意味でも強大で、協力していきたい存在だ。


    人間の「あるある」を分析し、定義しているのが行動経済学なのだろうか。「ライフハック」を「ナッジ」と呼び、学問的に捉えている。

    GRID(やりぬく力)というのは、行動経済学的に大多数の人が持っている現在バイアスを克服してコミットメントするためのテクニックだ。であれば、裏技的な本は売れるに決まっている。

    参照点を変えることで、見方が変わる、と知っていれば、今の自分の判断を、参照点を変えて捉え直す過程を追加し、合理性を上げられるかもしれない。

    全体的に、再読したい書籍だった。

  • 医療者と患者の認識のギャップについて行動経済学的に解釈できる一冊。

    心不全患者への行動変容を促すためにこの一冊を買いました。

    読んでみると、如何に私には現状維持バイアスが多いことか。
    悪いことではないけれど、それだけでは挑戦できないこと聞く気づかされました。

    また、改めて医療者の言葉の重みを感じる一冊でした!
    また読みたいです。

  • この本はドライかもしれませんが今の医療のあり方と社会保障のあり方の中で1つの処方箋を示すものになると思います。
    もちろん治すための医療は必要ですが身体に負担をかけてまで高度医療を続けるのか。
    社会保障の観点からも議論が必要です。

    サンクコストバイアス(返ってこないコストにこだわる)
    現状維持バイアス(明日も同じことが起こると思う)
    現在バイアス(先送り)
    利用可能性ヒューリスティック(身近で目立つ情報を優先)
    人の意思決定はいろいろバイアスがかかっており経済的に合理性のある決断をするわけではないということです。

    そういう意味で医療の適正化という目的に向けて有効な手段を取るにあたって人間の意思決定のクセを利用する必要があると思います。
    そのためには行動経済学を知る必要があります。
    仕事に活用するのにちょっと真剣に勉強しなあかん分野やなと思います。

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著者プロフィール

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授。

「2023年 『検証・コロナ期日本の働き方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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