- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784492314746
作品紹介・あらすじ
不穏な世界を読み解くのに欠かせない視座を提供!
・経済変化の本質は何か?
・制度はどう進化するのか?
・何が成長と衰退を分けるのか?
制度的視点から歴史を考察し、現代の世界経済秩序を読む。
アセモグル、ロビンソン、フクヤマ、ファーガソン、ロドリック・・・
知的論客たちの主張に多大な影響を与えているノース教授の制度論。
・経済変化のプロセスを見極める。
・人間の学習プロセスを注視する。
・経済変化のよりよいモデル化に貢献する。
この3点を主眼に置いて、ノーベル賞経済学者が持論を展開。
いまなお進化を続ける制度分析のフロンティアを知る一冊。
感想・レビュー・書評
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翻訳のせいでダメになった本。なのでこの書評も本の内容ではなく翻訳評になる。複数の翻訳者で訳しているようだが、専門の翻訳者が技術をもってきっちりと訳しきっていればもっとずっとよい本になっただろう。翻訳者は、この原著や読者に対してどのような責任を感じてこの本を訳して、完成としたのだろうか。こんな訳しかできないようであれば、断るべき。非常に残念。テーマは非常に面白く、ダグラス・ノースはノーベル経済学賞も受賞したその筋の重鎮で、読みたい人のひとりでもあったが、直訳以下の翻訳で、これだとまだ原文を読んだ方がマシなのではないかと思う。たくさん例を挙げることができそうだが、たとえば、
「実際、脳科学者と心の科学者たちが一緒になって理解を豊富化しようとするようになったのは、ごく最近のことにすぎない」...「豊富化??」。Amazonでなか見検索をして確かめると、案の定”enrich”だった。普通に「理解を深める」でいいじゃねえか! encalturationを文化化とか訳しているのでもしかしたらと思ったら...。
また、たぶん語順そのままに訳出しているだけなので、おそらく次の文は何を言わんとしているのか翻訳者自体理解していないのではないだろうか。「実際のところ、足場のより広い側面が、制度進化の特定的な文脈を提供しているので、特定的分析においても、足場のより広い側面を統合しなければならないのだが」ー 少なくとも翻訳者が著者の意図を理解し、それを読者に伝えようとする意志や工夫はどこにもない。
アントニオ・ダマシオの著作から引用されている箇所があるので、本書の訳と手元にあった元の翻訳書の二つの訳を比較してみよう。まずは、この本における訳。
「人間を取り巻く条件というドラマは、もっぱら意識から生まれ出るものである。もちろん、意識とそれが明らかにしてくれることは、自己にとっても他者にとっても、よりよい生活を創り出すことを可能にしてくれる。しかし、そのよりよい生活のために私たちが支払う代償は高いものである。それは、リスクや危険、苦痛を知るという代償だけでない。それよりもずっと悪いものである。すなわち喜びとは何かを知り、どのようなときに喜びが欠けていたり、到達不可能であったりするのかを知るという代償である。
人間を取り巻く条件というドラマはこのような仕方で意識から生み出されている。私たちの誰もが合意したことのない契約で獲得された知識に関係しているからである。よりよい生存の費用はその生存そのものに関する無知の喪失である。何が起きているのかに対する感情は、私たちが決して問いかけたことのない質問に対する解答であり、私たちが交渉しようにもできなかったファウスト的契約におけるコインでもある。私たちの代わりに自然がそれを交渉したのである(Damasio 1999, p.316)」
「よりよい生存の費用はその生存そのものに関する無知の喪失である」という表現あたりが文言直訳風でまず気になる。
『無意識の脳、自己意識の脳』(田中三彦訳)は次の通り。
「人間の条件のドラマはひとえに意識に由来している。もちろん、意識と、意識によって明らかになる事実によって、われわれは自己と他の、よりよい生活を創造できるようになるが、そのよりよい生活のためにわれわれが支払う代償は高い。それは単に、リスクと危険と苦という代償ではない。それはリスクと危険と苦を「認識する」代償である。さらにもっと悪いことは、何が快かを認識し、それがいつなくなるか、あるいはそれがいつ達しがたいものになるかを「認識する」代償である。
人間の条件のドラマは意識に由来する。なぜなら、それは誰も取り決めていない商談において得られた認識に関するものなのだからだ。よりよい存在の代償は、まさに存在について無知でなくなることなのだ。事象の感情は、われわれが問いかけていない問いに対する答えであり、それは、われわれが交渉しようにも交渉できないファウスト的取引におけるコインでもある」
訳者の田中さんが殊更に上手いのかどうかわからないが、すでに何冊も翻訳を手掛けているサイエンスライターだ。著者の意図を汲んで、伝えようと意志がどちらから感じられるのか、両方を比較するとわかると思う。また、日本語の翻訳が手に入るにも関わらず、本書の翻訳者がそれを参照していないのではないかと思われることも残念なところだ。さらに言うと、”(Damasio 1999, p.316)”と書くのではなく、もし書くのであれば、”(『無意識の脳、自己意識の脳』(2003年講談社)アントニオ・R・ダマシオ、378頁)”とするべきではなかったか。
ということで、途中で読むのをやめた。
翻訳者を代表して瀧澤氏が本書翻訳の経緯を最後に書いている。ノース氏とも親交があった経済学者の故青木正彦スタンド―ド大名誉教授が監訳者を指名したとのこと。翻訳に当たってはその本人だけでなく、研究所に所属する研究員に部分的に任せたとこと。訳語の調整や校正作業も別の人に頼んだと書かれている。つまりは翻訳は素人である方が時間がない中で自分の配下の人間に仕事を振って、通しの最終確認も監訳者がきちんと時間をとってやられたのかも不明だ。「長時間の作業にもかかわらず、訳文に思わぬ誤りがあるとすれば、それは監訳者のものである。訳文に対して読者諸氏のご叱正をいただければと思う」と書かれている。慣例にしたがって置かれた文章なのかもしれないが、ここはぜひとも海外科学解説書ファンのひとりとして叱正したい。問題は誤訳というものではないよ、ということも指摘したい。
自分も一冊翻訳したことがあるんで少しわかるんだあ(反省もあり)。 -
訳文が昔の岩波文庫みたいだ。
【書誌情報】
原題:Understanding the Process of Economic Change (Princeton University Press, 2005)
著者:ダグラス・C・ノース 計量経済史、制度派経済学。
監訳者:瀧澤弘和
監訳者:中林真幸
訳者:水野孝之/川嶋稔哉/高槻泰郎/結城武延
2016年2月19日 発売
定価 4,104円(税込)
ISBN:9784492314746
版型:A5判
ページ数:320
不穏な世界を読み解くのに欠かせない視座を提供!
・経済変化の本質は何か?
・制度はどう進化するのか?
・何が成長と衰退を分けるのか?
制度的視点から歴史を考察し、現代の世界経済秩序を読む。アセモグル、ロビンソン、フクヤマ、ファーガソン、ロドリック・・・。知的論客たちの主張に多大な影響を与えているノース教授の制度論。
・経済変化のプロセスを見極める。
・人間の学習プロセスを注視する。
・経済変化のよりよいモデル化に貢献する。
この3点を主眼に置いて、ノーベル賞経済学者が持論を展開。いまなお進化を続ける制度分析のフロンティアを知る一冊。
〈https://str.toyokeizai.net/books/9784492314746/〉
【簡易目次】
第1章 経済変化の過程の概略
第1部 経済変化の理解に関する諸問題
第2章 非エルゴード的世界における不確実性
第3章 信念体系、文化、認知科学
第4章 意識と人間の志向性
第5章 人間が構築する足場
第6章 ここまでの棚卸し
第2部 その先にあるもの
第7章 進化する人為的環境
第8章 秩序と無秩序の原因
第9章 正しい理解、誤った理解
第10章 西洋世界の勃興
第11章 ソビエト連邦の盛衰
第12章 経済成果の改善
第13章 私たちはどこへ向かうのか? -
ダグラス・ノースのこれまでの議論(制度とインセンティブについての考察)に加え、人間がいかに認知するか、という観点について、認知科学などその専門分野にも足を広げ開設した本。本書で取り扱っているような「社会と人間の科学」は、昨今人類がより豊かに暮らすために解明すべき重要なテーマであるが、本書はその解明に向けて果敢に取り組んでいる分野と言える。著者は去年亡くなってしまったが、この分野が更に理論の発展ももちろんのこと実証研究の発展も進んでいけば、その解明に向けて前進すると思う。
というか、翻訳が良くても、私にとっては難しい内容だと思うけど。
経済学史が...
というか、翻訳が良くても、私にとっては難しい内容だと思うけど。
経済学史が専門でノーベル経済学賞とったのって、ノースだけみたいですね。
それだけ、彼の制度研究は、その後の、エコノミストたちに影響を与えたんだ。
ノースが大学院生のときマルキストだったと知って、驚きました。
青木正彦が東大で学生運動やってたのは有名な話だから知ってたけど。
青木正彦の日本の経済システムの研究も、ノースの影響をかなり受けてますね。
澤田拓也さんって、翻訳もしてるんですねー。すごい。