トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉

著者 :
  • 東洋経済新報社
4.13
  • (22)
  • (26)
  • (10)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 257
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492223918

作品紹介・あらすじ

「人殺しの組合にはいられない」(本文より)

JR東日本労組「3万人大量脱退」、「JR革マル」対「党革マル」の「内ゲバ」、北海道の社長2人と青年組合員の相次ぐ「謎の死」の真相とは。
事態の裏側で、いったい何が起きているのか。
『マングローブ』を凌ぐ、衝撃の超弩級ノンフィクション!

◆「トラジャ」とは?
①インドネシアのセレベス(スラウェシ)等の山地に住む民族。水稲耕作を営む。(『広辞苑』)
②旧国鉄の「動労」(動力車労働組合)や「真国労」など革マル系組合出身の労働者で、分割民営化前後に、革マル派党中央に上がり、国鉄内の革マル系組合だけでなく他産別を指導する「労働者」出身の革マル派同盟員の秘密組織。

<内容紹介>
『週刊東洋経済』の短期集中連載「JR 歪んだ労使関係」(3回)を、追加取材の上、大幅加筆し単行本化。
講談社ノンフィクション賞を受賞した前著『マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(07年)以後を描く。
テーマはJR東日本、JR北海道、さらにはJR貨物の三社の国鉄分割民営化から今日までの労使関係を中心にした経営問題。
それに加えて、『マングローブ』執筆時に判明していなかった、知られざる革マル派非公然部隊の動きや、党革マルVSJR革マルとの暗闘劇を描く。
またJR東労組の大量脱退問題は、会社に対する敗北ではなく、組合という存在自体に嫌悪感やアレルギーを持っている「当世社員(組合員)気質」への敗北であると位置づける。その上で今回の大量脱退は国鉄・JR労働運動の終焉、さらにはナショナルセンター「連合」に代表される組合型労働運動の終焉を意味していると結論づける。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  いったい、あの労働組合の存在はなんだったのか。
     内部にいても全然わからなかった。

     2018年初、まず地方支社から雪崩をうって労働組合脱退が各職場で始まった。
     当時、まだ長野支社にいた俺は、

    「電力はすでに終わった」
    「設備で残ってんのはウチだけだ、とにかく急げ」

     との声を聞いていたい。
     たしか2月か3月か、所員集まって一人ずつ届けを出して、晴れて労働組合から脱退した。
     その時は、なんでこんな話になってるのか全く知らなかったが、あとから原因は、会社に対してスト権を打つという組合への反発だったと知る。

     4.69万人を誇った自称世界最強の労働組合は2019年初までに脱退者は3.5万人にのぼり、実質崩壊した。

     今更ながら労働組合の横柄な態度が大嫌いだった。
     3,4年前、支社登山クラブに属していた関係で、労働組合の登山大会の手伝いをしたことがある。
     ホテルの受付やっていて、ある人が日本酒の酒瓶を渡して「部屋に持っていけ」と言った。
     どちら様?と聞くと「俺を知らないのか!」と怒鳴られた。
     東京地本のエラい人だった。
     知るか、バカ。
     以来、労働組合が大嫌いで、なるべくなら関わらないようにしてきた。


     本書は、2008年の「マングローブ」から10年経った続編のようなノンフィクションだ。
     前書では、JR総連の末端に至るまで浸透する革マル派の党員、通称「マングローブ」について書かれていた。

     本書では、逆にJR総連から革マル派党員になった通称「トラジャ」について書かれている。
     まず、2018年のJR東日本とJR東労組で起きた労使協調の破棄から起こる大量脱退について。
     次に、JR東日本とJR東労組の歴史的な経緯について書かれる。
     
     本書での本題は、JR東労組の上位団体、JR総連を切り口にして、未だに異常な労使協調が続けれられているJR北海道とJR貨物が後半の主題となる。
     

     内部にいてさえ、全然わからないまま労働組合が崩壊した。
     殆どの社員は、俺含め労働組合無所属だ。
     JR東労組の成り立ちからして、組織は内部に敵を作ることで強化してきた。
     逆に、内部の敵が増えすぎて組織が瓦解したと筆者は分析している。

     あの大量脱退騒ぎは何だったのか。
     一定の答えが本書にある。

  • JRの歪んだ労使関係をテーマにした600ページもの力作。
    前作の「マングローブ」、類書の「暴君」でも、このような常識外れの組織が生き残っていることに驚いたが、それは本書も同じ。親方日の丸的体質と経営者の保身ゆえなのか。
    それにしても、JR北の惨状は目を覆うばかり。疲弊する地域経済の基幹インフラ企業がこのままで良いはずがない。使命感を持った多くの従業員のためにも、早くまともな組織になることを願うばかり。
    本書では連合会長のインタビューまで交え、労組の存在意義と健全な労使関係が大切だと訴える。単にJR労組のルポに終わらない点でも厚みがあった。

  • 革マルとの闘い 組織の存亡を賭け、多くの人材を喪失する 費やすエネルギーは虚しいが現実
    国鉄の分割民営化は革マル潰しが本質
    日本国を挙げた戦争と言っても過言ではない
    JRになっても各社それぞれ戦いを継続
    JR東日本は委員長の死に合わせて戦闘モードへ

    JR北海道は革マル組合が協力でより深刻
    36協定拒否から2011年9月に中島尚俊社長が自殺。そして2014年1月に坂本眞一元社長と2人の社長経験者が相次いで自殺を遂げた。2018年1月には、将来の労働組合幹部候補と言われていた組合員も「謎の死」を遂げている。組合としては戦勝。
    菅義偉官房長官の方針を嶋田社長が現実化
    技術系トップが組合と親しく混乱の要因
    まだまだ大変

    経営権
    人事 設備投資 価格

  • 労使対決的な組合と、御用組合が出来て日本の労働戦線が弱体化してきた歴史ではあるが、JR東労組については革マル派が浸透したことで、労働者のための組合であることをわすれて、自己の組織維持のための集団となれ果てた。
    その結果が、組合員の大量離反につながる。

  • 同じ時代に起きている事とは信じられない。今年最高の衝撃的な本だった。

  • JR東日本労組「3万5000人大量脱退」、「JR革マル」対「党革マル」の「内ゲバ」、北海道の社長2人と組合員の相次ぐ「謎の死」の真相とは。
    事態の裏側で、いったい何が起きていたのか。

    この取材力。ジャーナリズムってこういうことなのかと衝撃を受けた。労働組合から抜けた職員を勤務時間中に拉致、そして駅の外にいる非番の組合員に引き渡す。組合を抜けるなら会社を辞めろと恫喝(刑事事件で有罪)。結婚式の招待客に敵対組合員がいるからという理由で集団欠席。社長の自殺が二度も続く。JR駅員さんの笑顔の裏にこんな苦労とゴタゴタがあっただなんて。しかも現在進行形で問題は抱えたままという。日本の闇ってすぐ近くにあるのだと知ってショックを受けた。

  • <感想>
    ・革マルとJRの関係の深さ
    →革マル内で松崎個人が大きく力を持っていたことに由来する。多額の資金や人材の流入を許してしまった。

    ・革マル排除の手法
    →早急あるいはあからさまに排除することは「組合差別」などと逆に批判の対象となり、その後相手から利用されかねない。また、経営状態の悪い三島会社にとっては労使対立を避けたいという思惑も働きやすく困難。

    <疑問>
    ・東が松崎の死以前である浦和電車区事件を機に強気に出られたのはなぜか
    →本書にあったように、松崎の組合費横領疑惑で批判が高まっていたこと、当事件が裁判沙汰に発展したこともあるだろうが、これまでの癒着を振り捨てるのに至った根底的な理由としては弱い気も。なにか公的権力の思惑があったのでは。

    ・東海や西はどうだったのか。今後今の主要労組が分裂した時、会社はどのように対応するだろうか。
    →92年の国労再雇用をめぐるスト指令権問題を機にJR連合への分離を狙い成功。それまでの労組に対する姿勢はどうだったのか。あくまでストという爆弾を待って強気に出たのか、それ以前から厳しい姿勢だったのか。動労も広域異動に応じたというからそれなりに勢力はあったはずだが、なぜその姿勢を維持できたのか。西は福知山からという声もあるが、実際どうなのか。
    今後の労組分裂について、背後に暴力的な共産主義などの反社会的思想がなければ会社としてそれを歓迎しない理由はないのではと思う。ただ、一組が過半数を失うと交渉に労力がかかるなど懸念要素はあるのか。現在、他労組への流出にはピリつく雰囲気はあるのだろうが、それと同程度の事案になりうるのだろうか。

    ・北海道には隠蔽体質があるとのことだが、労使関係と相関があるのだろうか。

    ・労組の歴史について。政治と労組はどのように結びつき、発展してきたのか。「ストなど激しい抗議→窓口を通じた話し合いによる平和的解決、法制度の整備」という道筋を辿ってきたように思う。
    ストなど激しい手法がとられた社会的背景は何か。やはり弱者が声をあげるには女性の参政権獲得の道筋のように暴力的な手段で世間の注目を集める必要があるのか。平和的解決、法制度の整備は世界的にみて進んでいると言えるのか。団体から個人へというような価値観の変遷があると思うが、その中で労組は力を持ち続けうるだろうか。

  • なんのための労働組合なのか考えさせられる本。
    JR東日本と北海道の実態を膨大な取材、長期間にわたる執念で追い続けてまとめられていて素晴らしい。
    自己の組合の労働者の行動を、強権で縛り付け、付き合いまで管理・干渉し、敵対する労組の組合員へのいじめへの加担を強要するのを見ると、いかにも社会主義共産主義の行き着く先という印象。
    連合・政党含めてまともな労働運動を行う組織の登場を願いたい物です。

  • 牧久著「暴君」と合わせて読むべき書。JR北海道についてはこちらが詳しい。炎上事故など不祥事続出の背景にあったもの。未だ革マル組合が支配する。同僚の結婚式を祝えない。組織破壊行為のレッテルを貼り死まで追いやる。少数組合員への嫌がらせ配転。中労委の命令にも素直に応じない。組合の介入で経営上の意思決定が変わる。それを利用する一部経営者。歴代社長2人の変死・・。発足当初から厳しい経営環境だったが潰したくても潰せないこんな会社。作るべきではなかった。国定分割民営化の失敗。どうすべきだったかが少し見えてきた。

  • 国鉄の民営化以降も革命的マルクス主義者たちがJR各社の労働組合を牛耳り、役人上がりの経営者と癒着して生きながらえてきた様子を克明に事実をベースに記述。JR東はつい数年前まで、北海道についてはこの瞬間もまだ以上な組合員運動が行われている。

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

西岡 研介(ニシオカ ケンスケ)
ノンフィクションライター
ノンフィクションライター。1967年、大阪市生まれ。90年に同志社大学法学部を卒業。91年に神戸新聞社へ入社。社会部記者として、阪神・淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。 98年に『噂の眞相』編集部に移籍。則定衛東京高等検察庁検事長のスキャンダル、森喜朗内閣総理大臣(当時)の買春検挙歴報道などをスクープ。2年連続で編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞を受賞した。その後、『週刊文春』『週刊現代』記者を経て現在はフリーランスの取材記者。『週刊現代』時代の連載に加筆した著書『マングローブ――テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(講談社)で、2008年、第30回講談社ノンフィクション賞を受賞。他の著書に『スキャンダルを追え!――「噂の眞相」トップ屋稼業』(講談社、01年)、『襲撃――中田カウスの1000日戦争』(朝日新聞出版、09年)、『ふたつの震災――[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(松本創との共著、講談社、12年)、『百田尚樹「殉愛」の真実』(共著、宝島社、15年)などがある。

「2019年 『トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

西岡研介の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×