世界史とつなげて学ぶ 中国全史

著者 :
  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492062128

作品紹介・あらすじ

気鋭の東洋史家による渾身の書き下ろし!
教科書では教えてくれない真実の中国史

・黄河文明はどのように生まれたか
・中華思想が誕生した理由
・気候変動と遊牧民がつくる歴史
・ソグド人が支えた唐の繁栄
・「唐宋変革」で激変した中国社会
・モンゴル帝国は温暖化の産物
・明朝こそ現代中国の原点
・なぜ「満洲」と表記するのが正しいか
・明治日本の登場が中国の歴史を変えたetc.

驚くほど仕事に効く知識が満載!
現代中国を理解する最高の入門書


現代中国とは、過去の歴史の積み重ねの決算であり、通過点でもあります。そこに至るプロセスを知ることなしに、「中国人の考え方は理解できない」「中国の存在は日本にとって脅威」などと評論しても意味がありません。問題はそのプロセス・歴史をうまく捉えていない、そのため偏見に満ちた見方になっていることで、そういう〝偏見〟の自覚すらないのが、一般的な日本人の姿ではないでしょうか。

日本人の多くが、中国は太古より強大な統一国家だったとか、中国は常に強大で、常にアジアの覇権国家だった、という印象を持っています。「中国は異質」「理解できない」といった印象を持ってしまうのは、こういう下地があるからなのです。そこで重要なのは、リアルな中国史を認識することです。それを通じて、はじめて現代中国が抱える問題も、その本質を理解することができるでしょう。

歴史といっても、細かい年号や人名、事件などにこだわる必要はありません。何よりも時代の特徴、ならびにその流れを?むことが大事です。本書では、文明の発祥から今日に至るまでの中国史の展開を一気呵成に描いて、現代につながるリアルな中国の姿を浮き彫りにしていきたいと思っています。(「まえがき」より要約抜粋)

感想・レビュー・書評

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  • 「あなたは中国が好きですか?」

    この質問に答えづらい日本人は多いのではないだろうか…
    中国の歴史や多くの遺産に魅力的なものが多いのも事実なのだが、実際感情面ではどうだろうか
    しかしながら中国はもはや国際社会の中で避けて通れない大国である
    どこかの政治家のセリフじゃないが日本は中国から離れるために引っ越しすることもできないのだ

    先日読んだ2冊の本にも気になることがあった
    ■カルロ・ロヴェッリ「科学とは何か」
     中国の思想(師を批判することはあり得ない)のせいで科学が発展しづらい国であった
     これ以外にも原因となるものがあるような気がする…

    ■ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」
     ユーラシアという恵まれた環境でヨーロッパ人が主導権を握れたのに、
     同じように恵まれた条件の中国がなぜ覇権を握れなかったか
     「政治的に統一されているから」という理由があったが、もう一歩踏み込んだ内容が知りたい

    中国の歴史を紐解けば何か理解できるものがあるのでは?
    せっかくなので中国という国を勉強したい

    ~以下は完全なる覚書~

    【第一章 黄河文明から「中華」の誕生まで】

    まずは中国という国のベースをしっかり把握する第一歩
    中国を含むユーラシアは海岸線が相対的に短く陸地が広大
    乾燥地域と温順地域が人々の暮らしを二分した(以下のこの極端な二種類から成る)
    ・温順地域…植物栽培のコントロールがたやすく農耕が発明され定住生活が可能に(有利な環境)
    ・乾燥地域…あらゆる生物にとって厳しい環境(砂漠)、放牧を行い動物から生み出される乳製品や肉に頼って生活を送る
    草原から草原へと移動繰り返す不安定な生活(遊牧)

    黄河流域から始まった中国の古代文明
    ここはまさに乾燥地域と温順地域の境界地帯
    よって、お互いに持っていないものを交易で得る(これにより言語が発生)
    シルクロードに連なっていたおかげで、西からの先進的な文明(オリエント文明など)を受け入れやすい地域でもあった

    秦漢帝国…秦の始皇帝の死により秦は崩壊
    漢王朝が誕生
    前漢…劉邦の時代、匈奴との戦い
    後漢…シルクロードの恩恵も受け、安定した平和な時代


    【第二章 寒冷化の衝撃】

    3世紀あたりから気候変動により地球の寒冷化が始まり、世界的に民族大移動が始まる
    遊牧民の一部が中国中心地域へ移動
    農耕民も農作物の生産量が低下し、人口が淘汰され、不景気かつ錯綜した時代へ
    小さな政治ブロックで集中的に経済を支えると言う形態が生まれる
    4〜5世紀「五胡十六国」時代
    5〜6世紀「南北朝時代」
    いずれも小勢力が分立し、細かい地域ブロックに分かれて再開発を進めることで寒冷化の時代を乗り越えた
    これにより複合化、多元的な社会が実現
    いかに整合していくかが今後の鍵に…
    ようやく隋が中国全土をひとつにまとめた


    【第三章 隋・唐の興亡】

    ■隋王朝
    父:文帝、息子:煬帝の親子二代の30年ほどで幕を閉じる
    政治、経済、文化が中原の集約から南方の開発へ
    黄河と長江をつなぐ大運河を建設
    揚州で塩の生産(海岸線が短いため中国では貴重)が行われる

    ■唐の時代は約300年
    二代目…太宗・李世民 中国屈指の名君(武勇、内政とも、)     
    三代目…則天武后 李世民の息子高宗の妻(中国史上唯一の女帝)
    仏教という価値観を共有することで遊牧民と農耕民を融合するレベルで南北の統合を図り勢力を拡大

    南北朝時代の突厥(北の突厥・トルコ系遊牧民)の軍事力は圧倒的
    そして突厥の商業の担い手はソグド商人
    ソグド商人は中央アジアの中核におり、ここは東西南北からモノが集まるオアシスであった
    トルコ系遊牧民…軍事
    ソグド系商業民…商業
    それらを抱え込んだ唐は多元性を一つにまとめて繁栄、実に国際色豊かな唐であった

    そんな唐も楊貴妃に夢中になった玄宗皇帝は政務をおろそかにし、
    かつ楊貴妃の血族を台頭させ、安史の乱が起こる
    8〜9世紀 唐は解体へ


    【第四章 唐から宋へ】

    唐宋変革…唐と宋の間で起きた大きな社会変動
    唐と宋の間の半世紀は「五代十国」
    政情が不安定であったため、中国各地がそれぞれ独自に経済成長を遂げた
    その原動力となったのはエネルギー革命(石炭の利用)
    材木の枯渇と言う局面を克服し、多大なエネルギーを使えるようになった
    これにより大量の金属生産が可能となり、工具や武器の生産が容易に、さらに農業生産の能力も高くなる
    温暖化、農産物の生産増大、技術革新、生産力の向上、平和な世の中が相まって人口増に
    さらに貨幣経済の成立、都市化の進展、文化や学問が発達(宋学・朱子学の誕生)

    君主独裁制へ
    多元化・多様性を前提としたものであり、中央集権とは異なる(言葉を勘違いしない)
    各地方は地方で対応し、最終的に中央政権が取りまとめる
    また遊牧民とは講和する道を取る


    【第五章 モンゴル帝国の興亡】

    東側が強くなったことにより、一部の人々が西側に押し出される
    ウイグルは西方移動してソグド人と一体になり財閥を形成
    さらにモンゴル部族と結びつき西側へ手引き
    ここからチンギス・カンの西征が始まる
    モンゴルの躍進の背景には、中央アジアの商業民がいた

    13世紀初頭から14世紀末の200年がモンゴル時代
    チンギス・カンからはじまるチンギス家(お家騒動あり)

    クビライの時
    今日の北京に首都を建設、都市計画を明確にした
    今日の北京も基本的には変わらない
    つまり現代の北京のベースはクビライの北京

    モンゴルの強さとは…
    宣伝戦と威嚇戦(攻め込むと脅して戦わずして降伏させた)が見事であり、
    支配後も相手を蹂躙せず、本領を安堵してそれまでの生活を続けさせた

    ウイグル
    資金・情報を提供する代わり、軍隊による保護と商売の権益を求める
    タイアップし領土を拡大

    紙幣
    ただの紙切れにならないよう銀と交換できる保証を付けて流通させた
    紙幣だけではなく、塩の専売許可証というシステムを作り上げる(つまり有価証券)

    元寇
    軍事侵略のイメージ
    実は違って経済圏拡大の一環ではないか?
    (軍事的な征服ではないという説もあり、既に軍事的な拡大は停止していたようだ)

    14世紀半ば
    寒冷化により崩壊が始まる
    ヨーロッパのペストも入ってきたのでは?
    大不況でモンゴル帝国が持続できなくなる


    【第六章 現代中国の原点としての明朝】

    15世紀初頭モンゴル帝国が消滅

    漢民族だけの王朝をめざした明
    鎖国を実施し、朝貢一元体制を打ち立てる
    (取引したければ土産を持参して頭を下げろってやつ)
    貨幣経済を否定
    また南北格差解消のため、江南を弾圧し、力のある方(南方)を貧しくさせた
    江南の人々を冷遇したため、彼らは北京中央政府や役人に対し常に反感を持つように

    非公式通貨としての銀が流通し、鎖国体制は崩壊、密貿易業者が増加
    (政府が認めていない貿易、通貨が流通)
    官民乖離が顕著に(国家の権力や法律に縛られず生きるという姿勢に)
    経済や貿易の局面で、民間の力量が増大したのが明朝
    その後の中国社会の土台となり、現代の中国にも顕著にあらわれている

    いくつかのコロニーが力を持つように
    その中の遼東地域は漢人とツングース系のジュシェンという狩猟民がメイン
    ここが政治的に力を持つようになり、やがて清朝政権が打ち立てられる


    【第七章 清朝時代の地域分立と官民乖離】

    遼東半島地域で満洲人が打ち立てたのが清朝
    多種族からなる政権
    満洲人、漢人、モンゴル人の三族一体を目指す
    さらにチベット、ムスリムを合わせた五大種族が共存
    それぞれの在地在来システムを活かし、統治が運営された

    貿易が盛んになり、銀が不足
    産業革命を経たイギリスから銀を得て、紅茶を対価に

    人口がさらに爆発的に増える
    政府は機能しない
    官民乖離がさらに拡大
    民間コミュニティが増大し民衆による反乱が頻発

    19 世紀半ば
    日本のように、富国強兵をめざし、西洋化・近代化を目指すが官民乖離で進まず
    (一方の日本は官民一体で成功)

    日清戦争を経て、領土という意識が生まれ出す
    国民国家「中国」の誕生
    20世紀 辛亥革命
    300年続いた清朝は滅亡

    ・蒋介石
    三民主義(民族主義・民権主義・民生主義)

    ・毛沢東
    共産主義
    自分が貧しい農村出身だったこともあり、とにかく農村本位が最大の政策目標
    イデオロギーは何でもよかった
    自他に納得させる正当化のシンボルとして共産主義を掲げた(に過ぎない)

    毛沢東が下層の人々の心を掴み評価が高まる
    が、下層の人々を持ち上げ、上層の人々を叩き過ぎ国が疲弊し失敗に

    ・鄧小平
    共産主義のイデオロギーと支配体制を残したまま、市場経済を取り入れ海外貿易も推進して豊かさを追求しようとした

    経済発展を続けられるだがいずれにしろ大多数を占める下層の人々が豊かになる事はなかった
    結局乖離はむしろ増幅されている

    習近平の懸念→下層の人々が政権から乖離するとともに、富裕層が諸外国と強く結びついて国家を顧みなくなること


    【結 現代中国と歴史】

    14世紀の危機=寒冷化

    ヨーロッパは近代化と言う形で答えを導き出した
    つまり大航海時代に始まり、産業革命に至るプロセス
    グローバル化の世界を生み出した

    中国
    南北の格差がなくなったわけではないが、貿易のおかげで沿海地域が発展し
    西側内陸部か取り残されるという東西の格差が深刻化

    日本史と西洋史は近似した歴史経過
    西洋は中世と言う封建性の時代があり、近代化を経て今日に立っている
    日本史もそのプロセスを行ったり、後追いしたような印象がある
    だから中国人の言動に違和感や不快感を覚えることが少なくない
    ところが容姿・言語に差異のある西洋人に親近感を覚えるのとまさに対照的だ

    著者はこのような歴史背景により中国では「国家の権力や法律に縛られず生きるという姿勢」
    が日本人に馴染まない習性であり、中国を受け入れがたいのでは…と解釈している
    (なんとなく納得)


    こちらを読むまで中国という国は中央政権がガッツリ幅を利かせて国民に足かせをし、
    制圧していると思い込んでいたのだが…
    それはそうなのだが、じつは国際色豊かで多元的な国であり、民間が力をもっているせいだということが理解できた
    そのため統一するためには圧政を強いるしかなかったのか…と感じる

    さて最初の自分の問題点である「科学が発展しなかった」理由及び「恵まれたユーラシアで覇権を取れなかった」理由であるが、
    最後まで本当の意味で国が統一できていないからなのではなかろうか
    いずれも優秀な人材の芽は摘まれ、官民乖離により民は民のままで終わらざるを得なかったからではなかろうか
    何かがわかりかけたような気もするが、上っ面の知識なのでもう少し深堀りしていきたい


    非常にシンプルで分かりやすい内容本書であり、ざっと中国史が理解できる
    余計な細かい内容はないが、流れとポイントがつかめる
    著者の意見もあり読み物としても興味深い
    受験に関係ない社会人向けで、(私のような)初心者からざっと復習したい大人向けだ
    往々にして歴史書は寝落ちしがち(笑)だが、その点こちらは同じ文字を何度も目だけが追っているような空白の時間に陥る心配はない
    今まで読んだ歴史書の中ではトップ3に入るかな…

    ただ一点残念なのが、地図と地図に落とし込んだ図が分かりづらかった
    惜しいなぁ…



    • ハイジさん
      アテナイエさん
      ジャレド・ダイアモンド
      読まれましたね!
      登録されていたので、レビューを楽しみにしておりましたが…
      確かに盛りだくさんで私も...
      アテナイエさん
      ジャレド・ダイアモンド
      読まれましたね!
      登録されていたので、レビューを楽しみにしておりましたが…
      確かに盛りだくさんで私も全てを消化できませんでした

      アテナイエさんは洋裁なさるのですね
      手先が器用でいらっしゃって羨ましいです
      何を作られるのでしょうか…
      気になります
      我が母も洋裁できるのですが、どうやらワタクシは父に似たようで…^^;
      2023/02/11
    • アテナイエさん
      ハイジさん、こんばんは。

      おかげさまで、ジャレド・ダイアモンド、読みましたよ! とてもおもしろかったです。ハイジさんのレビューがきれい...
      ハイジさん、こんばんは。

      おかげさまで、ジャレド・ダイアモンド、読みましたよ! とてもおもしろかったです。ハイジさんのレビューがきれいに網羅されているので、メモ程度のものしかできないとは思いますが、著者が強調していたことが、今まさに現代に通じることだと思って、なんとか繋がりそうなので、近くレビューアップしてみたいと思います。

      いえいえ、手先が器用なわけではなくて、なんども失敗して吠えていますし、糸を解いて半泣き状態ですよ。それでもソーイングは子どものころからのクセというか趣味で、バックや帽子なども作りますが、やはり好きなのは服です。平面の一枚の布から立体化していくのが不思議で、ちょっと日常や本に疲れたときには無心になれる、自己満足の世界ですね。

      ハイジさんのお母さまは何を作られるのですか? 
      わくわくする~知りたいです!  
      2023/02/11
    • ハイジさん
      アテナイエさん こんにちは

      ジャレド・ダイアモンド
      レビュー楽しみです!
      もうあれはどうして良いかわからないほどの幅広さだったので、ただ何...
      アテナイエさん こんにちは

      ジャレド・ダイアモンド
      レビュー楽しみです!
      もうあれはどうして良いかわからないほどの幅広さだったので、ただ何が書いてあったかのまとめと、しょうもないけど楽しめたところだけをピックアップした面白みのないレビューになってしまいました
      なのでアテナイエさんがどんなところに着目されるのかとても楽しみです

      母の洋裁はやはり服が多かったですね
      もう年齢的に無理なようでミシンも手離しました
      足踏み式のミシンが懐かしい思い出です

      平面が立体化される…
      確かに!
      あ、本も似てますね(笑)
      2023/02/12
  • 世界史の意味をもっと広域な周辺諸国含めと思っていたので、想定と少し違っていた。
    ある程度の世界史知識を前提とした話だったが、各時代のまとまりとして読むと学びがあり良かった。

  • 一般向けに中国の通史を分かりやすく纏めたもの。現代中国を理解する上で必須の書と言えるのではないか。

    本書で特に興味深かった点の幾つかを列挙すると、以下の通り。

    三~四世紀の気候変動(寒冷化)が漢を滅亡させ、十四世紀の寒冷化がモンゴル帝国を消滅させた、気候変動と社会変革の連動。そして、同じ時期、東西世界で同様の変革が起こったという歴史の同時平行性。

    中国の歴史全体を俯瞰してみて、異民族(遊牧・狩猟民族)に支配され、異文化・東西文化交流が促進されると産業や社会が発展し、農耕主体の漢民族支配の時期には政治・社会が保守化して停滞するように見える点。

    「モンゴル帝国への抵抗と否定が出発点」の明朝は、「農耕世界だけの分離・独立」を図り、モンゴル帝国が作り上げた「多元的な社会を「中華」と「外夷」に分断し、差別化する」政策を取ったこと。具体的には、鎖国政策(海禁)と朝貢以外の貿易・交流の禁止、反商業の農本主義(貨幣経済の否定)を採用して民間の経済実態と合わなくなり、官民が乖離していった(そして、この官民乖離構造が現代まで続いている)点。

    「清朝はどの種族に対しても、自らの君臨を正当化する善政をしなくては、君臨が保て」ない、「微妙なバランスで成り立つほかない、気の毒な王朝」である点。

    清朝期に、絹や綿、茶等の必需品の中国への依存度を下げるため、日本は国内生産化によって鎖国に踏み切った一方で、ヨーロッパは世界展開を図っており(植民地アメリカ大陸での綿花栽培)、「鎖国と開放で日欧のベクトルは全く逆」だが「輸入代替を通じた脱中国・脱アジアという点では、共通している」点。

    著者は、習近平政権が恐れているのは「下層の人々が政権から乖離するとともに、富裕層が諸外国と強く結びついて国家を顧みなくなること」であり、多元性と「一つの中国」の相剋克服が中国の永遠の課題、と纏めている。

    著者の姉妹書「世界史序説――アジア史から一望する」も是非読んでみたい。

  • 図書館で借りた。
    タイトル通り、中国の先史・古代から現代まで全ての歴史を世界史全体と紐付けつつ通し学べる本。歴史教養といったジャンルか。
    世界史の全体像を見据えつつ話が進むので、非常に分かりやすい。読み終えて、歴史知識がレベルアップした気がする。

    私自身、高校で世界史を履修せず、30を超えてから教養として世界史を学び直し、入門レベルは脱したつもりだが、この本は1冊目だったら厳しかった印象を受けた。2冊目~くらいのレベル感。というのも時折、「これがご存知の~」「言わなくても分かると思いますが」といった文体があり、「最低限は知っていて当然」という感じなのかな、と。著者は大学教授なので、無意識に受験知識は知っておいてよ、という感覚なのかもしれない。

  • ユーラシアでは、農耕をしながら定住する湿潤地域の人々と、草原を移動しつつ牧畜をする乾燥地域の人々で二分された。
    →この人々が混じり合う場所で、文明が発達した。
    また、文明が発達し、人々が交流すると契約が生じる→文字の出現

    中華とは、中心地、センターの意味。その外には朝貢国がいて、外側に行くにつれて程度の低い野蛮人、「外夷」がいる。

    秦の始皇帝の後に成立した漢では、西の匈奴により絶えず圧力をかけられていたが、武帝の時代に匈奴に勝利。その後、平和の時代が訪れる。シルクロードの最東端である漢(和帝)と、最西端であるローマ(トラヤヌス帝)は同時期に平和を享受した。

    寒冷化が進み、北の遊牧地では草が取れなくなる→民族が南へ大移動をする。

    中国での都市形態はもともと内城外郭であったが、寒冷化により城が狙われるようになると、白の外に村を作って暮らしだす。
    →政治(城)と経済(村)が分地、小さな地域に分裂することになる。これが五胡十六国時代の礎。

    中国は戦争と統一を繰り返していると思われがちだが、もともと地域ブロックが明確であり、利害調整が難しく、各地で戦争が起きていた。→複合的、多元的な社会を実現した。また、軍隊が政治的な力を持ち、貴族に支えられ、下の者を強制的に働かせるという政治・社会制度は共通していた。

    隋の時代になり、中原を統一。首都を長安と洛陽に置く。南方の経済力、北方の軍事力。

    唐の時代、李世民という名君が統治。仏教という価値観の共有も相まって遊牧民と農耕民と融合するレベルで南北の統合を図った。思想界、宗教界でもとても多元的だった。

    8~9世紀にかけ、唐は解体に向かうが、その理由は、中央アジアがイスラーム化し始め、小国が分立し始めた。また、温暖化し、ウイグル人が東から西に移動し始めた結果、モンゴル系・ツングース系の狩猟民族が力を持つようになった。

    唐宋変革:唐と宋の時代の間で起きた大きな社会変動
    ①エネルギーが木材から石炭になり、金属生産が増える。
    ②土木、農業技術の進歩により、低湿地の水田化と人口増大
    ③貨幣経済の開始
    ④貨幣の発達による商業発展。(税システム)
    ⑤都市化の発展。城郭の無いところにマーケットができ、それが商業都市化する。

    このときには各地が各名産品をその気候風土の中で作っていたため、多元化・多様性があった。それがバラバラにならないよう、君主独裁という中央集権制を取った。
    →隣接する契丹、西夏にも、対等の交際をし、攻め込まれないように上手く政治を行っていた。
    →社会が圧倒的に豊かになった。今の中国文化のベースになったのもこの時代。

    モンゴルが異様に発達した理由…騎馬の強さもあるが、支配した地域をそれまでの生活を続けさせたこともある。また、ウイグル人という商人集団が、モンゴルの軍隊とともに商業経営を拡大する。水先案内人のように征服する地を導いていた。

    モンゴルでは銀との兌換紙幣の流通、塩の専売化による税収の確保など、かなり発展した商業金融が行われていた。
    元寇も、征服ではなく商業圏の拡大を意図して日本にやってきた説がある。

    しかし、世界全体の寒冷化によって、農作物が不作になり経済が崩壊、モンゴル帝国は滅亡していく。

    明の出発は、まだ域内に残っていたモンゴル帝国の影響を払拭し、多元的な社会を中華と外夷に分離、漢民族だけの王朝を目指した。
    そのため、貿易は鎖国、取引したい国は朝貢だけ認めた。朝貢の結果明国内での売買取引が認められる、という制度。
    また、江南デルタ周辺で農業、綿、生糸栽培が発達。明朝は現物主義のため、貨幣が存在しなかったので、大量の銀が中国に流れ込み、中国の木綿や絹が世界に輸出された。しかし、当面鎖国体制を敷いていたため、密貿易が横行。政府と民間の行いが乖離し始める。

    清朝では、明朝の官民乖離がそのまま量的拡大した。
    清朝の前身は、リャオトン地域で満州人が建国したアイシン国。モンゴルと似ていた。
    清朝は、今までの「華夷思想」を、「華夷一家」にあらため、満州人、漢人、モンゴル人、チベット、ムスリム一体の政権を作ろうとした。
    貿易を容認する。中国は、大々的に小さい政府であり、人口が爆発的に増加しても、政府は何も対応を取ろうとしなかった。
    →各地で特産品を海外に輸出したり、地域に応じた背策を個別に打ち出した。しかし、欧米列強の台頭により、国が一丸とならなければ駄目になり、「中国」と名乗り、国民国家化を目指す。

    日清、日露戦争後、海岸地域を日本帝国に奪われる。→毛沢東が共産主義を掲げ、農村から革命を起こす。
    →日中戦争で日本が敗北すると、中央政府に蒋介石が戻ってくるが、農村の労働者の支持を得た毛沢東に敗北、台湾に逃げる。
    その後鄧小平が改革開放政策を打ち出すも、富裕層と農村の「上下の格差」は、今日に至るまで解消されてない。

    中国の歴史は、バラバラな民族と社会が存在する中、いかに秩序を保って共存を図るか?という腐心の歴史であった。近代の時の「国民国家」を見習ったが、単一構造的な社会ではない中国には難しい。宗教でまとまるか、共産主義でまとまるか、社会も信仰も違う国々が、一つになろうとする歴史は今日でも繰り返されている。

  • 我々は西洋の価値観で中国を見てしまうので、彼らの言動に違和感を感じてしまう事があるが、中国には中国なりの歴史に基づく価値観があることを理解しておく必要がある。
    島国の日本とは異なり、大陸の一部である中国は、絶えず他民族からの影響を受け続けながら、これまで成り立ってきたということを知る事ができた。

  • 地球の寒冷期に中国も欧州も乱世となり、存亡掛けた戦いに全てが投じられるため一般人の生活もテクノロジーの進化も停滞するという。つまり寒冷期に文明が後退するという主張だ。一方で温暖期は食料が満たされ、政権も比較的安定し、生活の安定がテクノロジーの発展に寄与しやすいという。

    ーーでは現代はどう見ればよいのか?
    温暖期であることに安心して良いのだろうか?地球規模の観点では実は現代は寒冷期の只中という話を聞いたことがある。それを人類の生み出す温室効果ガスによって温暖化に無理やり傾かせているという主張だ。

    でもそもそも寒冷期が戦乱を引き起こしてしまうのは、食料の枯渇による内政の混乱が原因だ。この状況は長引くコロナ・パンデミックとロシアのウクライナ侵攻によってズルズルと乱世に転がり落ちていっているように見える。

    本書は、中国や世界史だけでなく、近未来を読み解くための潮流を理解するためにも役立つ。

  • 遊牧民族と農耕民族との関係を軸に、中国の歴史を俯瞰する
    大学受験の時に勉強した事件や制度の名前、人物名の説明が少ないので、大まかな流れは分かり易い 受験勉強とは全く違う視点で中国史を理解できる気がして、とても面白かった

    宋代の三大発明とそのヨーロッパにおける影響は、有名すぎてあえて外したのか?

    帯に「現代中国を理解する最高の入門書」と書いてあったが、現代中国については「多元的で日本人には分かりづらい」ことしかわからなかった 清朝から中華民国、中華人民共和国への流れ、特に清朝末期からの他の国との関係に関する記載も物足りないのが残念

    著者の専門分野だと思うけど、あえて控えめの記述にとどめたのかな

  • 「民主的でもなく、国民国家でもない。(中略)要は怪しい国ということでしょう(p1)」
    「日本人は中国人の言動に、違和感や不快感を覚えることが少なくありません(p254)」
    わかる。約1年の中国留学を経て、よりこの思いを強くした。
    本書は、なぜこう感じてしまうのかの一つの解を、中国史を一気呵成に展開することによって導いている。著者が一気呵成なら、読者は一気に読める。それくらい面白い。印象的なワードは、
    「多元性と「一つの中国」の相剋(p249)」

  • 黄河文明は、農耕民族学と遊牧民族の境界線で生まれた。お互い持っていないものを交換するマーケットとして発展。ただそこには軋轢トラブルが生まれるので「言葉」や「文字」が生まれた(トラブル証拠のためのドライブレコーダーのようなもの)23

    14~16世紀の明朝は貨幣経済を否定した。物々交換社会で、海外取引に必要な貴金属も規制して半ば鎖国の農本主義160

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著者プロフィール

1965年、京都市に生まれる。現在、京都府立大学文学部教授。著書、『近代中国と海関』(名古屋大学出版会、1999年、大平正芳記念賞)、『属国と自主のあいだ』(名古屋大学出版会、2004年、サントリー学芸賞)、『中国経済史』(編著、名古屋大学出版会、2013年)、『出使日記の時代』(共著、名古屋大学出版会、2014年)、『宗主権の世界史』(編著、名古屋大学出版会、2014年)、『中国の誕生』(名古屋大学出版会、2017年、アジア・太平洋賞特別賞、樫山純三賞)ほか

「2021年 『交隣と東アジア 近世から近代へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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