「資質・能力」と学びのメカニズム

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  • 東洋館出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784491033631

作品紹介・あらすじ

新学習指導要領を読み解く。子供本来の学びの在り方と「資質・能力」育成との関係。「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業づくりの原理。今こそ問うべき「教科の本質」。

感想・レビュー・書評

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  • 新学習指導要領でもわかりにくかった「資質・能力」についてわかりやすく解説してあります。
    指導要領の解説に終始せず、現場で使える物の見方や考え方も提示してくれる本です。実践や具体例も充実していて、個人的には国語科の授業の問題点を明らかにしてくれたのは嬉しいところ。

    こうしてみると改めて大胆な変革を臨んだ指導案だけど、暗記型で無活用な知識に偏った授業を変えるための文言であって、これまでこうした授業をしていた先生方からすれば、やっと文科省からご通達が来たんだ!くらいの内容だと思います。
    教育史的にみると、これまでの教育でも今回の指導要領と同じような考え方をしていた教育者はいたわけで。
    高校にいると入試入試で何を育てようとしているのか見失いがちになります。

    学校の授業が入試のためのいっときのためものから、生涯使える物の見方や考え方を育むものに変えることで、能力を育てる施設として学校そのものがより良いものになるでしょう。

    ですが、いうは易しと言いまして、実際にやっていくためには先生たちにも勉強が必要になります。
    学校にいる先生たちは決して怠けてはいませんが、時間がないのです。

    実際の授業改善にも役立つ考え方が心理学的に紹介されてもいて、内容は盛りだくさんです。
    本気で学校改革に取り組むなら必読の書。
    この本をきっかけに、教育史や教育心理学についてちゃんと学んでおこうと思いました。

  • 新学習指導要領がコンテンツからコンピテンシーベースへと切り替わった経緯が分かりやすい第1章。どの大転換に関わった教育課程企画特別部会のみなさんの思いを受け継ぎ,自分の教育へと生かそうという熱意が引き出された。

    あと印象的なのは第5章。普段の授業の何かを劇的に変える(変わる)訳ではないけれど,普段の授業が「どのような見方・考え方をつかみ取らせる」ものになっているのかを意識していこうと思った。

    定期的に読み返したい1冊。

  • 自分のような比較的若い教員は、この本から学び観の転換が始まった!という方も多いのではないかと思います。新学習指導要領について、解説よりもわかりやすい一冊。総則なんて全然読んでないやって方にもおすすめです。

  • 新学習指導要領がどのようにできたのかを、歴史をおってわかりやすく説明している。著書独自の言葉や、海外のエビデンスによる教育の紹介があり、大変参考になる。農業社会から産業社会の教育の転換をペスタロッチ、アダムスミスなども引用して説明しており興味深かった。
    主体的・対話的で深い学びは、子供が生まれながらに持っている学びへの欲求を自然な形で実現しようとする概念であることを実感することができた。
    また、それらを実現するための三つの授業づくりの原理として「有意味学習」「オーセンティックな学習」「明示的な指導」が挙げられている。

  • 新学習指導要領について。
    以下、本書より。

    【教科は非常識】
    2004年、国立天文台の研究者が小学校4~6年生を対象に調査したところ、約4割の子供が「太陽が地球の周りを回っている」と答えました。
    結果は学校でも報告され、担当者は「現在の小学校の学習内容は極めて不十分」と断じ、ちょっとした論争になりました。

    興味深かったのは、当時、天文台の主張を支持する人たちが「地動説くらい常識だろう」といとも簡単そうに語っていたことです。
    これには心底驚きました。

    もちろん、今日では大人なら誰しも地球が動いていることを知っています。
    しかし、初日の出を拝みに行って「おお。新しい年も地球は高速で自転しながら公転しているぞ」なんて感覚を持つ人は多分どこにもいません。
    今日でも素朴な人間の感覚経験としては、動かない大地の上を太陽が東から西へと巡るのであり、天動説の方がずっと自然な世界観なのです。

    この素朴な感覚経験は心理学でいうインフォーマルな知識、理科教育でいう素朴概念の一種であり、人間の思考において極めて強靭で支配的に作動しています。
    だからこそ、永年に渡り人類は天動説を常識としてきましたし、カトリック教会は宗教裁判の末にガリレオを幽閉したのです。
    言うまでもなく、カトリック教会は大常識派でした。
    コペルニクスやガリレオがすごいのは、いかに天動説に矛盾する計算結果や観測データを得たとはいえ、それを根拠に永年の人類の常識、自身の感覚経験の方を疑い、ついには地球の方が動いているという、当時からすればおよそ非常識な理解に到達したことでしょう。

    データの存在がただちに科学的発見を導くわけではないことは、科学史の研究に基づきハンセンやクーンが明らかにしていた通りです。
    そこには飛躍的な認識のジャンプ、クーンのいうパラダイムシフトを必要とします。
    この「科学的に正しい非常識」を生み出すことこそ科学の本質であり、科学のかっこよさなのではないでしょうか。

    これは自然科学に限りません。
    芸術の世界でも同様で、ピカソもジャクソン・ポロックも、当初は「あんなもの絵じゃない」と酷評されました。
    彼らの作品は当時の美の常識では理解しがたい代物であり、およそ非常識な造形だったのです。
    そして、ピカソもポロックも戦い続け、ついには教科書にすら掲載されるようになります。

    教科は、学問・科学・芸術などの文化遺産を足場に構成されます。
    したがって、そこで教える知識や価値の多くは『現在では常識であっても、生み出された当時はおよそ非常識な代物』でした。
    そして、日常の生活経験だけでは到達するのが困難な非常識なものであるがゆえに、人々をして自分たちがはまり込んでいる生活世界の相対化を促し、それを根こそぎ改革する力を秘めているのです。

    たとえば、1789年に始まるフランス革命以前の社会において、人々が「平等」であることは決して常識ではなかったでしょう。
    だからこそ1762年、その文字通り革命的な観念を高らかに宣言したルソーの『社会契約論』そして『エミール』は発禁となり、彼はフランスを追われたのです。
    しかし、ルソーの著作によって目を開かれた人々は市民革命を敢行し、旧来の常識は徐々に書き換えられていきます。
    「知は力なり」とはこのことを意味するのだと、私は理解します。

    『教科は非常識であるがゆえに素晴らしい。』
    教師がこの真実を深く胸に刻み、その時代の非常識を次世代の常識へと変えていった革命的な知識の生成と、それを可能とした独創的でありつつ理にかなった「見方・考え方」、認識方法や表現方法の世界にいざなう時、子供たちは教科のかっこよさに目を見張り、その系統との出合いを通して、日々自分たちの世界観を、さらに現実の世界をも、今より少しでもよりよいものへと更新し続けていくでしょう。

    子供たちが学校で学ぶことの幸いに気付くのは、そんなめくるめく経験を得た時ではないでしょうか。
    本来バラ色の経験であるはずの教科学習を灰色の無味乾燥な暗記ものに貶めたのは、「地動説くらい常識だろう」といとも簡単に言い放つ、いかにも思慮の浅い無教養な大人たちなのです。

  •  本書での議論は、知識の転移の話や、態度評価(学習意欲を含む)の話など、非常によくわかるし、著者は「分かるとはどういうことか?」という点を念頭に置いて議論を進められてきた感じがすごくします。
     一方で感じたのは、教科教育に関して、「学問のエッセンスを落とし込んだのが教科だ」という意識が強いように感じました。それは今回の新学習指導要領にも感じられる部分ですが、。要は、「教科教育」というよりも「学問教育」みたいな感じに聞こえ感じもします。
     歴史学、地理学、政治学、経済学などなど、色々な学問が社会科の背景にはあるけど、それを学校教育に再変換していくときに、「学問⇒教科」という対応関係には分かりやすくならない気もします。
     教科によっては、「学問⇒教科」の対応関係がわかりやすい教科もあると思いますが、突き詰めていくと、対応関係が明確じゃない教科の方が多いのではないか。そう思います。
     オーセンティックな学びとは何か。レリバンスとは何か。学問の構造とは何か。そういったところに、これらのヒントがありそう。

  • もう実施してから数年経つ学習指導要領の中核的概念の説明とそれを実地レベルでどう展開するかの論考。国の方針に振り回されるとしても,これを最善観で捉えて,いかに教育の質を高めていくかの機会にするためにも本著の後半で述べられる学びのメカニズムを理解することは大切であろう。教科内容の学びの価値を教員が深く理解し,その内容の学習をいかに行うのか,特に認知心理学的メカニズムの理解を基礎として,これまで現場で蓄積されてきた教授学習方法を発展させていく実践研究が求められる。

  • 上智大学総合人間科学部教育学科教授奈須正裕先生が書かれた本です。

    第一章 子供の視点に立って教育課程を編む
    第二章 資質・能力を基盤とした社会
    第三章 知識基盤社会と社会に開かれた教育課程
    第四章 各教科の特質に応じた「見方・考え方」
    第五章 主体的・対話的で深い学びの実現

    「学校に残された唯一の道は、その教育原理を内容中心から資質・能力を基盤としたものへと転換し、新たな存在として再生すること」(105ページ)
    今回の学習指導要領改訂の背景、基盤となる考え方について、例をあげながらわかりやすく説明しています。
    知識基盤社会を生きる私たち一人一人が、教育について考えるべきではないかと思います。みなさんにおすすめしたいです。

  • 内容学習から、資質能力を育成する教育に変わっていく経緯やその方法などをわかりやすく書かれていた。とても勉強になった。所々、難しい用語があり、理解に悩む点があったが、どのような教育をしていくのか、学習指導要領がどのようなことを言いたかったのかがよくわかる本だった。

  • 令和2年度から実施される新学習指導要領に関して、どういった経緯や考え方で作られてきたのかがわかる本。教員には必読の書。

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著者プロフィール

奈須正裕(上智大学教授)
神奈川大学助教授、国立教育研究所教育方法研究室長、立教大学教授などを経て2005年より現職。 現行の学習指導要領等に関わっては、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会、教育課程企画特別部会、総則・評価特別部会、幼児教育部会、中学校部会、生活・総合的な学習の時間ワーキンググループ、小学校におけるカリキュラム・マネジメントの在り方に関する検討会議、小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議、2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会等の委員として、重要な役割を担う。主著に『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)、『次代の学びを創る知恵とワザ』『「少ない時数で豊かに学ぶ」授業のつくり方』(ともに、ぎょうせい)など。

「2022年 『個別最適な学びの足場を組む。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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