- Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488805012
作品紹介・あらすじ
かつては大邸宅だったが、今や年月に埋もれたかのような古い集合住宅、望楼館。住んでいるのは自分自身から逃れたいと望む孤独な人間ばかり。語り手であるフランシスは、常に白い手袋をはめ、他人が愛した〈物〉を蒐集し、秘密の博物館に展示している。だが、望楼館に新しい住人が入ってきたことで、忘れたいと思っていた彼らの過去が揺り起こされる。創元文芸文庫海外部門の劈頭を飾る、鬼才ケアリーの比類ない傑作、ここに復活。
感想・レビュー・書評
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「孤独を楽しめるのは、他人に囲まれているときだけなのだ」
神経が薄弱だったり、気難しかったり感受性が豊かなひとたちだったり、そんな生きづらさを感じているひとびと、心や身体に瑕を負ったひとびとを、社会的弱者を、やさしく受けいれてくれるような包容感。なんだか嬉しかったし、とてもあんしんした。知らない場所で、ふと友人の姿を見つけたみたいに。
けれどその路の途中で不安になる。これは、もしかすると頑ななひとびとが、こころを開いてゆく物語なのだろうか。新しい住人の到着を恐れるフランシスのように、わたしも怯えた。そんなものは求めていない。いまはそんな光(希望のようななにか)はいらないのに。
そして秘密めいた過去(現在)へと近づいてゆく。ロット番号996 へとむかって。
フランシスの痛みと恐れと怒りに邂逅して、恥ずかしさよりも、抱きしめたいきもちでいっぱいだった。過去のわたしを慰めるように。
犬女 がうちに棲みついてしまっている女のひとは多いとおもう。毎月かならず暴れだして、手に負えなくなるような。望楼館の住人たちはまるで、わたしのなかにあるわたしたちだった。ひとりの人間の、(愛すべき)矛盾をたたえた多面性だった。
「助けて!」
って何回こころのなかで叫んだことだろう。
「しー!静かに!」
と、どれだけ自分を抑えつけていただろう。
いつからか、感情を露わにすることにひどい劣等感を覚え、うちにいるじぶんを叱りつけ、心(ぼく)を締めだそとすることを学んだ。ぼろぼろの自尊心は、冷酷な 理性 によってさらに削られ、すかすかになってしまった。
「帰ったほうがよさそうだ。」
そうやって"愛"をまた閉じ込めてしまう。
「これであなたも愛される人に」
ぼくも知りたかった。どうしたら愛してもらえるのか。あの頃にはまだ解らなかったけれど、彼らの愛の カタチ を、どうしても知りたかったのだとおもう。だから、じぶんの知っている方法でしかひとに近づけない。愛されるには、愛せばいいのだと、教えられてもうまくできないんだ。
見出したときには既にズタボロだった自尊心の、失くした欠片をみつける旅。もう充分じゃない?って囁いても、まだもっと!足りない!って、叫びかえされる。いつになったら赦してくれるのだろう。ぼくが、ぼくを。そうやって毎日、ぼくはぼくを苛めてしまうけれど、じぶんで決めてしまった約束事をちょっぴり破ってみたりすることだけは、じぶんにゆるしたい。その記憶を、痛みを、武器や傷痕なんかではなくて、いっこのほこりとして、もつことができるようになるまで。
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新しい住人の登場が閉ざされた人々の過去を掘り起こし、世界に変化を引き起こす。その変化が負担となるか、プラスとなるかはなかなか難しいか。
https://historia-bookreport.hatenablog.jp/entry/2023/02/24/005125 -
ジョジョの敵キャラだけを集めて話を作ったら・・・? というお題を出されたらこの本を出せば良い。というほどに登場人物全員が異質で奇妙で偏執狂的だ。
特に素晴らしいのが主人公の性格がめちゃくちゃ悪い事である。息をするように物を盗み、自分のコレクションにする。この「盗む」ことが重要で、社会から外れた主人公の社会との唯一の接点が盗む行為なのだ。これは万引き家族とも通じるテーマだなと思った。
次に微妙だと感じた部分。
この小説の物語構造として、過去の出来事が次々と判明して彼らがなぜこのような異質な人間になったのか? ということが語られる。彼らの異質さの多くは過去の事件の影響ということで括られ、原因が開陳された後は普通の人間に戻るか、死ぬかの二通の末路が用意されている。この回収のされ方はせっかくの彼らの異質さを「幽霊の正体見たり枯れ尾花」式に矮小化させてしまっている。もっと無茶苦茶な終わり方で良かったのではないかと思わずにはいられない。 -
何から感想を書けばいいのかわからないぐらい濃密。全てが停滞して埃を被った望楼館が、埃を払い、動き出し、そして崩壊するまで。1人一冊になりそうなぐらいの物語を隠し持って、みんな暮らしている。
不動性を理解せず、四六時中動き回る新しいもの。生命力は全ての呪縛を解き放つ。 -
とにかく最初から濃い。半分迄はなかなか入り込めず疲れてしまったが後半父母の記憶の章からは一気読みだった。前半と後半で味わいが変化する、というより早々キャラが減ってしまった時にはどうするの?!と思ったけれどそれもあの建物の歴史の一つとして飲み込まれた。まさにアイアマンガーシリーズで描かれた話の萌芽がこの作品にはある。物に刻まれた沢山の記憶達、そしてその際たる物はその建物そのものなんだという事。主人公のフランシスは奇妙な男だけれど妙に親近感を覚えるのも不思議ではあった。
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創元文芸文庫として復刊したケアリーのデビュー作を読了。堆塵館に通ずる著者らしい物へのこだわり。個性的な住人と主人公。結末はあっという間にきたけれど、主人公の暮らしぶりをもっと見たかった。
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こういう書き方ができるのだと参考になった。