- Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488747022
作品紹介・あらすじ
その病院は、火星の丘の斜面に、カバラの“生命の樹”を模した配置で建てられていた。亡くなった父親がかつて勤務した、火星で唯一の精神病院。地球の大学を追われ、生まれ故郷へ帰ってきた青年医師カズキは、この過酷な開拓地の、薬もベッドもスタッフも不足した病院へ着任する。そして彼の帰郷と同時に、隠されていた不穏な歯車が動きはじめた。25年前に、この場所で何があったのか――。気鋭の初長編が待望の文庫化。
感想・レビュー・書評
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精神医療が発達し、ほぼ全ての精神疾患がコントロール可能になったかと思われた近未来、突如発生した症状「突発性希死念慮」。恋人の発症と自死を防げず、追われるように地球から火星へとやってきた精神科医カズキ・クロネンバーグは、火星で唯一の精神病院・ゾネンシュタイン病院で働き始める。カバラの「生命の樹」を模した構造を持つこの病院でカズキが直面したのは、スタッフも物資も不足する中でギリギリの医療活動を続けねばならない壮絶な環境、権謀術数に明け暮れる政治手腕に長けた幹部医師たちとの抗争、そして「特殊病棟」に長年入院/拘束され、同時に君臨し続けている謎の男。かつてこの病院で勤務していたカズキの父もまた、カズキには言えない秘密を抱えたまま息を引き取っていた。目に見えぬ悪意と亡き父親の影を感じながら日々の勤務に追われるカズキの前に、火星特有の症状「エクソダス症候群」の集団発症が襲いかかる・・・
こうしてあらすじを書くとまるでサスペンスか医療ホラーか、といったエンタメ色の強い作品のように思えてきますが、それは鴨の筆力の拙さ故で、実際には精神医療史と精神医療を巡る社会の変遷を軸にした、重たい読後感の作品です。作中のある登場人物が精神医療に関するペダンティックな語りを延々と続けるシーンもあり、相当な事前準備の上で構成された作品であることが伝わってきます。
前作「ヨハネスブルグの天使たち」を読んだ時は、「少女型ロボットが空から降ってくる」というヴィジョンありきで後からストーリーが付いてきたような中途半端なイメージを受け、その現実味のなさが鴨的には馴染めなかったのですが、それに比べると今作は地に足がついた展開で、ストーリー展開で読者を引っ張って行こうとする勢いがあります。ある意味、「普通の小説」っぽくなってきた感があります。
ただ、ラストの展開は正直ちょっと尻窄み。魅力的で謎めいた登場人物を前半どんどん投入してきた割りには、活かし切れずに小ぢんまりと納まってしまった印象です。鴨はこの方の作品をそれほど読んでいるわけではありませんが、何となく方向性を模索しているところなのかなという感じがしました。筆運びは相変わらず達者ですし、これからますます多様さを増していくのかもしれません。これからも注目していきたいと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
セフィロトの樹を、あるものに見立てた発想が秀逸。宮内さんはアイディアが本当におもしろい。
「よくこんなこと思いつくなあ」っていう驚きもあるけど、「よくこんなアイディアを物語にできたなあ」って唸っちゃう。
参考文献がすごい量だから、そうとう勉強してるんだろうね。努力する天才。眠らない兎。それが宮内悠介という作家。 -
初宮内。たぶんカバラの“生命の樹”で手に取ったんだと思うが、当たりの作家でした^^ 精神医療史をテーマに、父親で精神科医・イツキの病院内で起きた(起こした?)過去から主人公・カズキの出生の秘密へ——そこから病院最古の患者兼○○のチャーリー、度々カズキの前に現れる失語症のハルカ…などのキャラクタも相まって、SFでありミステリィチックも感じつつ、とても良かった!参考文献も多く、一つのジャンルに囚われない作家という印象。他作品も読みたくなりました^^ 星四つ半。
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火星に人類が移住した近未来を舞台とした作品です。今回のテーマは精神疾患。
と、その設定だけみるとバリバリのハードSFで、最初は随分敷居が高そうに思えたのですが、実際読んでみるとそんなことはなくて、前2作よりずっと分かりやすくなっていました。
その一方で『ヨハネスブルグの天使たち』でみられた不穏さというか、ある種とんがった感じの魅力が減じられたような印象も受けました。
まあ、前作は戦場に初音ミクが落ちてくる話でしたからね。比べるのもどうかという気もしますが。
読む人の好みにもよるでしょうし。
それにしてもよく考えて作られた作品だと思います。
何度か読み返しましたが、決定的な矛盾や不整合は見つかりませんでした。
プログラムの暗号に関しては若干強引な気もしましたが・・・
精神医学の歴史と舞台となる病院の歴史がリンクしている点、およびカズキの出生の秘密を解明していく過程が読んでいて面白かったです。
精神医学に関してはど素人ですが、精神疾患は社会のあり様による、というのはその通りだと思います。
一方で、人間だれしも狂気を持っており、それを抑圧して適応させるのは社会の必要悪であるというのも一面の真実であると考えます。
もちろん程度はあります。前者を突き詰めるとチャーリーになってしまうし、後者を突き詰めるとナチスになってしまう。
結局何が健常で何が異常か、みたいな話になってしまいますが、私たちが最後に依るべきなのは、人間としてのバランス感覚なのではないでしょうか。
・・・といったあたりを考えさせてくれただけでも読む価値はあったと思いました。
以下は物語の本筋とは全く関係ないのですが・・・
第四章でノブヤのプログラムコードに混入したループ変数について、「i」が違和感がある、自分なら「iLoopCnt」と書く、とノブヤが語るくだりがありますが、私は逆で、「iLoopCnt」のほうに違和感を持ちました。
というのも、エンジニアの駆け出しのころ私も似たような変数名を使って、レビューでダメ出しをされたことがあるんですよね。「iLoopCnt」の「i」は「Integer」「index」のどちらかだと思うのですが、前者であればハンガリアン記法なのでダメ、後者であれば省略せずに「indexLoopCounter」って書かないとダメ、みたいに当時言われました。逆にただの「i」はFORTRANに由来したループカウンタ変数なのでOKなんだとか。
そんな昔の話を思い出しました。
ホントどうでもいい話・・・ -
最近読んだばっかりだし、本棚にあるの見ているのに買ってしまった。だって文庫本が好きなんだもの…
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宮内悠介初の書き下ろし長編が文庫化。
読み始めたらなかなか手を止められなかった。これは面白い。
最近の文庫本としてはさほど分厚くはないのだが、非常に濃厚だった。 -
21世紀半ば、火星で唯一の精神病院に赴任した主人公。人手も薬も不足する中で奮闘しながら、病院に隠された自分の過去の秘密を探ります。精神医療の暗部がテーマになっており、巻末にたくさんの参考資料が列記され、作者の力の入れ方が感じられます。
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2020/10/25購入
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物資のない火星に里帰り的に赴任する精神科医という設定は面白かったが、なんかあんまり入り込めなかった。