盤上の夜 (創元SF文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488747015

作品紹介・あらすじ

第33回日本SF大賞受賞作。第1回創元SF短編賞で山田正紀賞を贈られた表題作にはじまる全6編。囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋……対局の果てに、人知を超えたものが現出する。2010年代を牽引する新しい波。解説=冲方丁

感想・レビュー・書評

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  • 盤上遊戯が、世界を、歴史を、人を変える。見たことない世界を見せてもらった。
    個人的ベストは「人間の王」
    半世紀の間無敗のチェッカー王者、ティンズリーは機械に敗れたとき、そしてチェッカーが滅ぶとき、何を思うのか。
    次いで「象を飛ばした王子」、「千年の虚空」などなど。前作とも素晴らしかった。

  • 碁・将棋等のボードゲームを題材とした連作。
    盤を通して肉体が拡張され、神と対話し、時間を超えて過去に未来につながり、そしてまた、現実世界へと広がっていく。
    初読では、麻雀の専門用語がわからず雰囲気で読んだけど、再読では深く読みこめてより面白かった。

  •  囲碁、将棋などの盤上・卓上のゲームをめぐって起こった奇跡が語られる短編を6編収録。

     SF的なガジェットはいくつか出てきますが、そこまでSF色というものは強くなく、ゲームを通して人間の可能性を描いている作品が多い印象を受けました。

     ゲームというのは極限まで人間の集中力を高めるものだと思います。将棋での名人戦なんかの映像を見ていると、「この二人の世界では今自分がいる世界とはまったく違う世界が見えているのだろうな」と思う時があります。この小説はそんな世界の一端を凡人である自分にも、ほんの少しそれに似たものを覗かさせてくれたような気がします。

     そしてこの小説はその世界のさらにその先を暗示しているようにも思います。表題作『盤上の夜』では四肢を失った女性棋士が登場します。彼女は囲碁に打ち込むことになるにつれ囲碁盤を感覚器のように感じ始めます。そしてその先の彼女がたどり着いた世界は、凡人には想像もつかない世界だったと思うのですが、そこにたどり着くことのできるヒトの可能性についても思わされました。

     人とゲームの関係や惹かれる理由についても思うところがいろいろと出てくる本です『人間の王』は天才チェッカーとコンピュータの対決をテーマとした話なのですが、最強チェッカーの孤独や虚無をチェッカーというゲームの終焉と絡めて描かれていて非常に読みごたえがありました。短編ながらなんと濃密なのでしょうか……

    『像を飛ばした王子』では古代インドを舞台に盤上ゲームの起源が語られます。

     どこまでが史実かは分からないのですが、宗教の教えと盤上ゲームに一つの共通点を見出している点が非常に興味深かったです。そして同じ共通点があってもそれの向かう方向性が違う、と主人公が悟る点が印象的でした。

    『千年の虚空』では一人の悪女とも呼べる女性が登場。歴史の完全解、ゲームを終わらせるゲームという大きなテーマに挑みながらも、最後に一人の女性に収束していくのが、なんとも印象深く思いました。

     最終話では『盤上の夜』の登場人物が再び登場。大局の場面は自分の頭の中で違う世界がぐるぐる回っているような不思議な印象を受けました。

     この本のすべてを読み取れた、とは正直思えません。たぶんこれから先、何度か読みなおしてもそう思えることはないと思います。ただこの『像を飛ばした王子』の中で盤上ゲームについて「簡単で、時間とともに規則も変わり、そして奥深くなければならない」と書かれています。この本も読みやすさ、再読した時の印象の違い、そして奥深さを兼ね備えた、作中の最初の盤上ゲームのようなこれから自分の中で形を変えていく本だと思いました。

     また、この本を読んで改めて人の想像力のすごさを感じました。宇宙船が飛び、クローン技術やインターネットの登場と、時代は進み科学技術も進歩し続けています。それでも、人の、そして文学の想像力は、まだまだその先の世界を見せてくれるということをこの本は証明してくれたと思います。新しい時代の文学として、この本はますます注目されていくのではないか、そんな予感も持ちました。

    第1回創元SF短編賞山田正紀賞受賞作『盤上の夜』収録
    第33回日本SF大賞
    2013年版このミステリーがすごい!10位

  • これまで数々の将棋小説に手を出しておきながら、灯台下暗し、なぜこの一冊を見逃していたのだろう……。

    囲碁、チェッカー、麻雀、チャトランガ、将棋。
    ボードゲームと哀しき天才の掛け合わせが、ドラマを生む。

    個人的に「象を飛ばした王子」が良かった。
    釈迦の息子、ラーフラ〈蝕〉の物語なのだけど、釈迦のようにはなれない自分、という劣等感の中にいても、自分の民に対する最適解を考え続ける、誠実さがグッとくる。
    そして、人の好戦的な感情を、ゲームの中に押し込めようとした、その着眼点も良いと思う。

    人間を超える機械と、人間のイマジナリーの力がぶつかりながら、ゲームが解かれていく様子は、なんだか恐ろしい。

    そして「完全解を見つけられては困る」と思う人々の気持ちも、分からないではない。
    単なる遊戯に、これほどの「名誉」が生まれるのは、それもまた人間の限界を試すものの一つであるからなのかもしれない。

  • 「ボードゲーム×SF」ということで、一体どんな話なんだろう、と気になっていた一冊。文庫版が出たということで読んでみた。

    「ボードゲーム×SF」といえば「人間×コンピュータ」という構図が思い浮かぶけれど、この作中でもそれは度々現れる。
    現実世界ではそれは「人間VS人工知能」とか「有機物VS無機物」とか、「ヒトの作りしものがどこまでヒトに迫れるのか」とか「ヒトは自らの生み出したものに対してどこまで矜持を保てるのか」とか、そういう構図で描かれているのではないか、と個人的には思ったりする。
    けれどこの作中では、それが「創造主VS被造物」という構図にまで拡大されているのだ、と思った。

    ある一編ではゲームが生まれる瞬間を描き、ある一編ではゲームが滅びる瞬間を描き、またある一編では神憑りの絡繰りを暴き、またある一編では人の生きざまを力強く指し示したりする。
    解説にもあるけれど、「神」的なものの視座、または存在をはっきりと意識する読書経験だった。
    読み終えてみると、ルポルタージュ的な書き方で、語り手が観察と記録に徹しているのも効果的だと納得した。小説的に言う「神の視点」ではないけれど、その言葉以上にその意味を体現しているのではないかと思った。

    盤を挟んで繰り広げられる戦いはとても静かで、極めて思考的だ。

    SFは想像の文学であり、神は常に静かで、そして思考的だ。

    よくよく考えれば、SFとボードゲームは、実は極めて相性が良いのかもしれない。

  • 2012年の第33回SF大賞受賞作品ではあるが、内容は一般的なSFとは少し異質な印象。このような作品でもジャンルの作品として受け入れ、評価できるのがSFの強み。

  • 盤上ゲームをテーマにした短編集

    収録は6編
    ・盤上の夜(囲碁)
    ・人間の王(チェッカー)
    ・清められた卓(麻雀)
    ・象を飛ばした王子(チャトランガ)
    ・千年の虚空(将棋)
    ・原爆の局(囲碁)

    四肢を失った女性
    生涯ほぼ負けなしのマリオン・ティンズリー。
    宗教団体教祖の女性、プロ雀士、サヴァン症候群の少年、一人の女性を追いかける医師
    父親に捨てられた王子
    将棋で現実世界に影響を与えようとする弟、ゲームを殺すゲームを作ろうとする兄、二人の人生に大きく関わる女性
    広島に原爆が投下されるまで打たれていた一局


    ・盤上の夜
    四肢を失う経緯がちょっと……
    ただ、解説でも書かれてある通り、不幸そうではないというギャップが物語の雰囲気を魅惑的なものにしている
    棋譜と自身の感覚器と言語を結びつける発想はとてもユニーク

    ま、言葉が先にあるのか、物事が先にあるのかというのは物によるんじゃなかろうか
    基本的には現象が先ですけど、先に言葉が存在する社会では順番が逆になるケースもありますからね

    将棋の読みは、マンガではハチワンダイバー、3月のライオンのように「潜る」と表現される事が多いけど、氷壁を登るという比喩もなかなかしっくりくる
    登るルートは複数ある中で正解を探すという行為を極限状態の中で繰り返す行為のようですものね

    ちなみに、私の囲碁に関しての知識は「ヒカルの碁」に影響されて基本的なルールを知ってるくらい
    当時は将棋人気を抑えた盛り上がりをみせたものですけど、あれ以来ぱっとしないですね


    ・人間の王
    読んでいくうちに、「架空のキャラじゃなくね?」という思いと「この勝率は非現実的過ぎだろ」というツッコミを入れたくなったものの
    後で調べてみたら作中の設定は勝率も含めてほぼ実話
    この人、マジで最適解が見えていた人なんじゃねーの?と思ってしまう

    ちなみにチェッカーはなんとなくのルールを知ってて、これを読んだ後にちゃんと調べてみた
    確かに他の二人零和有限確定完全情報ゲームよりはプレイヤーの選択肢は多くはないけどさ
    だからといって人がそこまで読み切れるものなのか?


    コンピュータによるゲームの解析と、人との対戦という意味ではチェスでカスパロフがディープブルーに負けたあたりが一つの転換期でしたね
    チェスに限らず将棋にしても、評価値の精度が上がったので知識のない観戦者でも容易にどちらが優勢かを知ることができるようになったのは良いことだと思う
    加藤一二三が言っていたように、人のサポートとしてのコンピュータとしてプロが研究に使えるようになったのも面白い
    また、コンピュータ同士でも1年前のソフトでは勝率が落ちるという、今でも完全解明には至っていないというあたりにもまだ人の入り込む余地がある気がする


    ・清められた卓
    他の話に対して、麻雀だけが運の要素がルールの時点で含まれている
    そして手札が明らかにされない事により、心理的な読み合いも含めて描けるのは創作の題材としてはやりやすいでしょうね
    実際、麻雀マンガって面白いですしね

    ランダムなものでも、むしろ完全にランダムなものだからこそ「流れ」に相当する連続で同じ目が出続ける現象は起こる事は証明されているわけで
    ツキというものもあるのはわかる
    ただ、それは連続の試行の末、結果的に「ここかそうだったんだね」と言えるものなわけで、今その流れになっているかどうかは現在進行系ではわからないんですけどね
    その偶然性にストーリーをもたせる手腕は評価したい


    ・象を飛ばした王子
    チャトランガというチェスや将棋の起源とされるゲームの架空の発祥のお話

    ブッダの息子、ラーフラ
    「聖☆おにいさん」のイメージが強く思い出されてしまって、物語に没入できなかった(笑)


    ・千年の虚空
    壮絶な生い立ちの三人
    兄はゲームを終わらせるゲームで世界を変えようとし
    弟は将棋で現実に影響を与えようとする

    歴史研究の新たな方法の設定が面白かった
    ただ、実際にやろうとしても、統計的な観点から数の暴力で結果がブレる気がする
    結局、事実は一つでも真実は人それぞれですからねぇ


    ・原爆の局
    戦時中、戦後の囲碁の歴史の一部
    厳しい情勢下でも続けた人たちがいるからこその現在なんだと思う

    果たして、囲碁は二人零和有限確定完全情報ゲームなのか?
    打った石が生きるかどうかは理論上は可能だとしてもそれを計算できるわけではないので、現実問題として運の要素はあるのかもね

    そして最後のセリフがとてもよい





    総括として、それぞれの話に直接の繋がりはないが、全て合わせて一つの流れになっていると思った
    人の可能性、コンピュータの存在意義、ゲームの神秘性、ゲームによる現実への影響力など、他の話と複合的なものが描かれている

    あと、「失ったものと得たもの」というのもテーマにあるかも
    ゲームの一手にしても、何かを失うながらも何かを得るという選択の積み重ねの上に成り立っているという事なんじゃないかとも思った

    ってか、解説で冲方丁が語っている以上の事は言えないかな
    あの解説で十分なんじゃなかろうか?

  • 不思議な感覚。昭和の古臭い劇画タッチの漫画を読んでいるような気分になる。

  • 創元SF短編賞 山田正紀賞、日本SF大賞受賞作を表題作とする短編集。
    収録作はどれも囲碁、将棋、麻雀など、『盤上』で行うゲームを共通軸としている。特にルールを知らなくても読むのに不自由はしない。
    ジャンルとしてはSFではあるが、非常に『創元らしい』SFだと感じた。

  • 囲碁、将棋、チェス、麻雀などのボードゲームを題材にしたSF短編集なのですが、史実に基づいた描写も多く、いわゆる「SF要素」が薄めな作品も多いです。

    ただこの「史実」と「フィクション」の織り交ぜ方や、独自の解釈が非常に読ませる作者さんで、ゲームのルーツや歴史についても飽きずに読めます。

    人間プレイヤーVSコンピューターの視点はやはり、現代の観点からボードゲームを見るに当たっては、避けられない話題なのでしょうか。

    麻雀を題材にした「清められた卓」なんかは麻雀のルールを知らずとも引き込まれてしまったし、「三角関係」という表現では生ぬるい、倒錯した性関係・愛情関係がもつれる「千年の虚空」も良かったです。

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著者プロフィール

1979年生まれ。小説家。著書に『盤上の夜』『ヨハネルブルグの天使たち』など多数。

「2020年 『最初のテロリスト カラコーゾフ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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