ドラゴン・ヴォランの部屋 (レ・ファニュ傑作選) (創元推理文庫)
- 東京創元社 (2017年1月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488506025
作品紹介・あらすじ
ナポレオン戦争直後、パリへの途上で謎めいた美貌の伯爵夫人と出会った英国人青年が奇怪な犯罪と冒険に巻き込まれていく過程が、息もつかせぬサスペンスの連続のうちに語られる中篇「ドラゴン・ヴォランの部屋」。悪魔と取引した男の凄惨な最期を迫真の筆で描く「ロバート・アーダ卿の運命」ほか全5篇を収録。M・R・ジェイムズ、セイヤーズが絶賛する〈謎と恐怖の巨匠〉レ・ファニュの傑作選。
感想・レビュー・書評
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素晴らしい。静かでいてひそやかにしっかりと怪奇、不思議が土地の伝承を交えて描かれる。5篇あり、最後の中篇のみ怪奇を利用した悪党が出現するミステリーの表題作。これも悪くないが、自分は短編がとても好き。書かれたのは1800年代でジャンル分けなどなく、いきいきと作者が物語を特別なものとしてではなく、友人のような、身近で親しみ安く、自分の心を癒す大切な物として捉えている雰囲気がはまるー。表紙の感じからして期待薄で読み始めたが、素直にファンだ、また読みたい、と思わせる貴重な作品。
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表題作がスリリングで面白かった。
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初めて読んだレ・ファニュ。これらが書かれた時代としては画期的な物語だったのだろうか。表題作が時代を感じさせ面白かった。
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ゴシックホラーだけでなく、トリッキーなミステリーっぽい作品もあって楽しめた。くどいくらいの背景描写がレファニュらしくていい。
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「吸血鬼カーミラ」を書いた作家レ・ファニュの短編集。
「吸血鬼カーミラ」をはじめ、この作家の作品を読んだことがないのではじめて読むには短編は入りやすい。
五篇の作品のうち表題作「ドラゴン・ヴォランの部屋」はやや長めの作品で、それ以外は極短い作品だった。
多くの作品は、怪奇や幻想的といった表現の似合う作品で、謎めいている。
幽霊なのか何かよくわからないものによって、翻弄されたり生命を落としたりする。ヨーロッパという長い歴史のある地域だからこそ漂う雰囲気があり、物語を効果的に彩っている。
明らかに恐ろしいものに対して恐怖に震えるという直截なものではなく、心にジワリと染みる見えない何かよくわからないものに対する恐ろしさ、心細さという作品は、日本人には馴染みやすいのではないだろうか。
古い建物の使われない暗い部屋だとか、壁に浮き出る不気味なシミ、風で建物が軋んだり扉が不意に開いたり、こういう実際には怖くもなんともない経年劣化や建物の構造上の問題だったりが恐怖を煽る。なんかよくわからないけど怖い、というヤツだ。
ドラゴン・ヴォランの部屋
パリに向かう英国人青年の身に起きた出来事を語る形の物語。
偶然出会った美しい伯爵夫人に心惹かれた青年は、夫人と近づきたいがために同じ宿に泊まる。そこで人違いされたことをきっかけに親切な侯爵と知り合う。侯爵の計らいで仮面舞踏会に出向いた青年は、そこで中国風の預言者から伯爵夫人が自分を想っていることを聞かされ歓喜する。
この作品だけが本書の中では唯一、幽霊や怪奇といったものではなくサスペンスやミステリーといった趣になっている。
わたしはこちらが一番面白く、映画などにしても見応え十分になりそうだと思った。
英国人青年と伯爵夫人の秘めた恋物語のように見せかけて、おかしなことに巻き込まれていっていることが読者にも予想出来るため先が気になってしまう。
英国人青年が語っているわけなので、最悪の事態にはなっていないこと、登場人物が多くないので、何が誰によって起きるのかも推測出来てしまうのだが、それでも愉しめる。
どの作品も面白く読めたため、次は有名な「吸血鬼カーミラ」を読んでみたい。 -
『吸血鬼カーミラ』しか読んだことなかったレ・ファニュの短編集。悪魔に魂を売ったと思われる男の「ロバート・アーダ卿の運命」、お金持ちのお城みたいな古いお屋敷に嫁いだ女性が知る秘密「ティローン州のある名家の物語」はレベッカやジェインエア系、ご先祖にかけられた呪いに滅ぼされる一族「ウルトー・ド・レイシー」など基本的にはゴシックホラー。「ローラ・シルヴァー・ベル」は、邪悪な妖精の花嫁になった美少女の悲劇で、唯一土着的というかいかにもアイルランドの民間伝承系。
表題作「ドラゴン・ヴォランの部屋」は1冊の半分くらいあるそこそこ長編で、こちらは幽霊も悪魔も妖精も出てこない一種の推理小説。タイトルになってるドラゴン・ヴォランは主人公の英国青年が泊まっている宿屋の名前。その一室から謎の失踪をとげた人物が3人もいるというのが謎のひとつなのだけど、ちゃんとトリックもあるし犯人もいるのでホラー感は希薄。にも関わらず、美しい伯爵夫人、不釣り合いなその夫の伯爵、怪異な容貌の大佐、仮面舞踏会、中国風占い師などの道具立てがゴシックなので、意外と現実的な結末まではドキドキワクワクできる。
ロバート・アーダ卿の運命/ティローン州のある名家の物語/ウルトー・ド・レイシー/ローラ・シルヴァー・ベル/ドラゴン・ヴォランの部屋 -
レ・ファニュ傑作選。邦訳では矢張り『吸血鬼カーミラ』が圧倒的に有名だろうか。
表題作である中編『ドラゴン・ヴォランの部屋』の他、短編を4編収録。
読み応えがあるのは『ドラゴン・ヴォランの部屋』だが、個人的に好きなのは『ティローン州のある名家の物語』。怪奇小説としてはオーソドックスな分、細部の描写をじっくりと読むことが出来る。