ドラゴン・ヴォランの部屋 (レ・ファニュ傑作選) (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488506025

作品紹介・あらすじ

ナポレオン戦争直後、パリへの途上で謎めいた美貌の伯爵夫人と出会った英国人青年が奇怪な犯罪と冒険に巻き込まれていく過程が、息もつかせぬサスペンスの連続のうちに語られる中篇「ドラゴン・ヴォランの部屋」。悪魔と取引した男の凄惨な最期を迫真の筆で描く「ロバート・アーダ卿の運命」ほか全5篇を収録。M・R・ジェイムズ、セイヤーズが絶賛する〈謎と恐怖の巨匠〉レ・ファニュの傑作選。

感想・レビュー・書評

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  • センセーショナルな旅〜レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋』他(執筆者:ストラングル・成田) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート(2017.02.28)
    https://honyakumystery.jp/1488239032

    ドラゴン・ヴォランの部屋 レ・ファニュ傑作選 - J・S・レ・ファニュ/千葉康樹 訳|東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488506025

  • 素晴らしい。静かでいてひそやかにしっかりと怪奇、不思議が土地の伝承を交えて描かれる。5篇あり、最後の中篇のみ怪奇を利用した悪党が出現するミステリーの表題作。これも悪くないが、自分は短編がとても好き。書かれたのは1800年代でジャンル分けなどなく、いきいきと作者が物語を特別なものとしてではなく、友人のような、身近で親しみ安く、自分の心を癒す大切な物として捉えている雰囲気がはまるー。表紙の感じからして期待薄で読み始めたが、素直にファンだ、また読みたい、と思わせる貴重な作品。

  • 表題作がスリリングで面白かった。

  • 短編3つと表題作の中編ひとつの構成。中編はなかなかの読み応え。たくさん張られた伏線が回収されていくのは快感。チェスタトン風でもある。

  • 初めて読んだレ・ファニュ。これらが書かれた時代としては画期的な物語だったのだろうか。表題作が時代を感じさせ面白かった。

  • ゴシックホラーだけでなく、トリッキーなミステリーっぽい作品もあって楽しめた。くどいくらいの背景描写がレファニュらしくていい。

  • ・J・S・レ・ファニュ「ドラゴン・ヴォランの部屋 レ・ファニュ傑作選」(創元推理文庫)を 読んだ。久しぶりのレ・ファニュである。レ・ファニュは怪奇小説作家だと私は思つてゐるから、最後で少し驚いた。実際、訳者千葉康樹による「訳者あとがき」にも、「後年『レ・ファニュ=怪奇作家』という通念ができてしまった」(363頁)とある。私が読んだレ・ファニュはすべて怪奇小説であつたはずで、 私がさう思つてきたのは当然であらう。しかし、実はさうではなかつた。「レ・ファニュは怪奇と超自然だけの作家ではなく、同時代にはむしろ流行のセンセーション・ノベルの一派とも目されていた」(同前)らしい。このセンセーション・ノベル、世の中をあつといわせる事柄や事件を扱つた小説をいふのであらう。 表題作「ドラゴン・ヴォランの部屋」がこれである。これは確かに怪奇小説ではない。サスペンスなのであらうか。ナポレオン直後のフランスを旅行してゐる主人公の一種の冒険譚である。冒険譚といつても、そんなに立派なものではない。危機に陥つて絶体絶命の所で助けられた主人公の物語である。いかにもその時代を感じさせる物語で、私の知るレ・ファニュとはずいぶん趣が違ふが、それでもおもしろい。ただ、最後は急転直下に事件は解決しといふ感じで、いささかあつけない。それまでの伏線やら種明かしやらで、事件そのものは簡潔にといふことであらうか。本書のほぼ半分を占める190頁の作品ながら、事件の解決に当てられた頁は少ない。その過程がおもしろいのだと言へばそれまでで、実際、そこに至るまでの物語がこの作品の眼目かもしれない。かういふのが本来のレ・ファ ニュといふことであるとすれば、それゆゑにこそ忘れられたのではないかとも言へさうな気がする。かういふ作品は現代には合はないと思ふ。レ・ファニュ作としてたまに読むからおもしろいのであつて、かういふのがいくつも並んでしまへば、もしかしたら同工異曲、飽きられてしまひさうである。そんなわけで、怪奇でないレ・ファニュを初めて読んだのであつた。
    ・本書は他に4編を収める。私の知るレ・ファニュらしい短篇である。怪奇作家の面目躍如といふところであらう。その中で最も短い「ローラ・シルヴァー・ベ ル」は民話風の佳品、妖精譚である。典拠等不明だが、こんな作品は何らかの民話、民間伝承によつてゐるはずである。ある時、妖精の王子に気に入られた少女が姿を消す。しばらくして、何物かから呼ばれた産婆の婆がその少女の産んだ子をみると「それはまったくの小鬼でした!」(169頁)。少女は妖精に、それもフェアリーではなく、コボルトとかゴブリンの類にさらはれてゐたのであつた。この作品はいかにも民話風、なかなか良い雰囲気である。怪奇小説ではないが、これもこの時代にふさはしい作品である。極端なことを言へば、この2作だけでも十分に本書を読む価値がある。私のあまり知らないレ・ファニュの世界を楽しむことができる。久しぶりに出たレ・ファニュの嬉しい作品集と言へる。ただし、残りがおもしろくないとは言はない。やはりレ・ファニュである。有名作 のやうな見事な怪奇趣味は持たぬまでも、謎に包まれた世界を見せてくれる。「ロバート・アーダ卿の運命」の悪魔に魂を売つた男、「ティローン州のある名家の物語」の妻のある男とそこに嫁いだ娘、これらも時代を感じさせる物語である。そして、それらしい題名である。ただ、個人的には、いささか冗漫な気がする。巻頭作「アーダ卿」にはそんな感じが強い。しかし、これが約半世紀ぶりのレ・ファニュの作品集である。これだけでも喜ぶべきであらう。

  • 「吸血鬼カーミラ」を書いた作家レ・ファニュの短編集。
    「吸血鬼カーミラ」をはじめ、この作家の作品を読んだことがないのではじめて読むには短編は入りやすい。

    五篇の作品のうち表題作「ドラゴン・ヴォランの部屋」はやや長めの作品で、それ以外は極短い作品だった。

    多くの作品は、怪奇や幻想的といった表現の似合う作品で、謎めいている。
    幽霊なのか何かよくわからないものによって、翻弄されたり生命を落としたりする。ヨーロッパという長い歴史のある地域だからこそ漂う雰囲気があり、物語を効果的に彩っている。

    明らかに恐ろしいものに対して恐怖に震えるという直截なものではなく、心にジワリと染みる見えない何かよくわからないものに対する恐ろしさ、心細さという作品は、日本人には馴染みやすいのではないだろうか。
    古い建物の使われない暗い部屋だとか、壁に浮き出る不気味なシミ、風で建物が軋んだり扉が不意に開いたり、こういう実際には怖くもなんともない経年劣化や建物の構造上の問題だったりが恐怖を煽る。なんかよくわからないけど怖い、というヤツだ。

    ドラゴン・ヴォランの部屋
    パリに向かう英国人青年の身に起きた出来事を語る形の物語。
    偶然出会った美しい伯爵夫人に心惹かれた青年は、夫人と近づきたいがために同じ宿に泊まる。そこで人違いされたことをきっかけに親切な侯爵と知り合う。侯爵の計らいで仮面舞踏会に出向いた青年は、そこで中国風の預言者から伯爵夫人が自分を想っていることを聞かされ歓喜する。

    この作品だけが本書の中では唯一、幽霊や怪奇といったものではなくサスペンスやミステリーといった趣になっている。

    わたしはこちらが一番面白く、映画などにしても見応え十分になりそうだと思った。
    英国人青年と伯爵夫人の秘めた恋物語のように見せかけて、おかしなことに巻き込まれていっていることが読者にも予想出来るため先が気になってしまう。

    英国人青年が語っているわけなので、最悪の事態にはなっていないこと、登場人物が多くないので、何が誰によって起きるのかも推測出来てしまうのだが、それでも愉しめる。

    どの作品も面白く読めたため、次は有名な「吸血鬼カーミラ」を読んでみたい。

  • 『吸血鬼カーミラ』しか読んだことなかったレ・ファニュの短編集。悪魔に魂を売ったと思われる男の「ロバート・アーダ卿の運命」、お金持ちのお城みたいな古いお屋敷に嫁いだ女性が知る秘密「ティローン州のある名家の物語」はレベッカやジェインエア系、ご先祖にかけられた呪いに滅ぼされる一族「ウルトー・ド・レイシー」など基本的にはゴシックホラー。「ローラ・シルヴァー・ベル」は、邪悪な妖精の花嫁になった美少女の悲劇で、唯一土着的というかいかにもアイルランドの民間伝承系。

    表題作「ドラゴン・ヴォランの部屋」は1冊の半分くらいあるそこそこ長編で、こちらは幽霊も悪魔も妖精も出てこない一種の推理小説。タイトルになってるドラゴン・ヴォランは主人公の英国青年が泊まっている宿屋の名前。その一室から謎の失踪をとげた人物が3人もいるというのが謎のひとつなのだけど、ちゃんとトリックもあるし犯人もいるのでホラー感は希薄。にも関わらず、美しい伯爵夫人、不釣り合いなその夫の伯爵、怪異な容貌の大佐、仮面舞踏会、中国風占い師などの道具立てがゴシックなので、意外と現実的な結末まではドキドキワクワクできる。

    ロバート・アーダ卿の運命/ティローン州のある名家の物語/ウルトー・ド・レイシー/ローラ・シルヴァー・ベル/ドラゴン・ヴォランの部屋

  • レ・ファニュ傑作選。邦訳では矢張り『吸血鬼カーミラ』が圧倒的に有名だろうか。
    表題作である中編『ドラゴン・ヴォランの部屋』の他、短編を4編収録。
    読み応えがあるのは『ドラゴン・ヴォランの部屋』だが、個人的に好きなのは『ティローン州のある名家の物語』。怪奇小説としてはオーソドックスな分、細部の描写をじっくりと読むことが出来る。

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