戦場のコックたち (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 2010
感想 : 150
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488453121

作品紹介・あらすじ

1944年6月6日、ノルマンディーが僕らの初陣だった。コックでも銃は持つが、主な武器はナイフとフライパンだ――料理人だった祖母の影響でコック兵となったティム。冷静沈着なリーダーのエド、陽気で気の置けないディエゴ、口の悪い衛生兵スパークなど、個性豊かな仲間たちとともに、過酷な戦場の片隅に小さな「謎」をみつけることを心の慰めとしていたが……『ベルリンは晴れているか』で話題の気鋭による初長編が待望の文庫化。直木賞・本屋大賞候補作。

*第2位『このミステリーがすごい!2016年版』国内編ベスト10
*第2位「ミステリが読みたい!2016年版」国内篇
*第3位〈週刊文春〉2015年ミステリーベスト10/国内部門
*第154回直木賞候補

感想・レビュー・書評

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  • 戦場の恐ろしさは、今、世界中を恐怖に陥れている、新型コロナウィルス以上だと思いました。
    でも、食べ物は、人を元気にする力がありますね。
    2020年、世界は新型コロナウィルスと戦っていますが、やっぱり食べ物は人や世界を元気にしてくれのではないかと思いました。


    以下、第5章とエピローグが完全にネタバレしていますので、これから読まれる方はご注意ください。

    第1章 ノルマンディー降下作戦
    第二次世界大戦での合衆国軍のコック兵たちの物語。
    コック兵は、僕ことティム、エド、ディエゴ、マッコーリーなど数人います。
    この回は金髪碧眼の衛生兵のライナスが、みんなのパラシュートを集めているのはなぜかというお話でした。
    民家でもらったゆで玉子、1個の貴重なおいしさが伝わってきました。

    第2章 軍隊は胃袋で行進する
    ヨーロッパ戦線の真っただ中のこと。
    科学の力で卵を噴霧乾燥させると、ただの黄色い粉になり、これに水を足せば、普通の卵と変わらない粉末卵というものがあったそうです。これが、一気に600箱消えるという事件が起こります。

    第3章 ミソサザイと鷲
    合衆国兵の滞在を快く許し家族を紹介してくれたオランダのおもちゃ屋経営者のヤンセン夫妻が銃で自殺しているのがみつかりました。
    なぜ、戦場で自殺したのか。
    意味不明の手紙とともに残された8歳の娘ロッテと弟のテオ。
    そしてティムの仲間たちもどんどん死んでいきます。

    第4章 幽霊たち
    冬のベルギー戦。
    クリスマス・イブの日。
    皆、タコツボを雪の中に掘って戦っています。
    そんな中ディエゴが「夜中、タコツボにいたら妙な音を聞いた。自分が殺した敵が化けて出たんじゃないか」と言い出します。
    そして、ティムも榴弾が着弾し半月以上眠りますが、目覚めました。

    第5章 戦いの終わり
    途中から紛れ込んできた、負傷兵のダンヒルは、クラウス・ゾマーという元敵国兵でした。
    ダンヒルにはスパイの容疑がかかっていて隠せばティムも同罪で連行されてしまいます。
    ティムは衛生兵のスパークらとダンヒルを逃がす作戦を立て見事にダンヒルを逃がします。
    そして、戦争も終わり、ティムは家族の元に帰り、その晩、一緒に戦った親友たちの夢をみます。

    エピローグ
    1989年12月。
    ベルリンのマクドナルドでの再会。
    ”キッド”と呼ばれていた、ティムは64歳の老人。
    やってくるスパーク。
    ライナス。
    そして、ゾナーが現れてエドの遺品であるめがねをティムに返してくれます。
    そして、これが、今生の皆との最後の別れとなりました。

    • やまさん
      まことさん♪こんばんは。

      きょうは、散歩がてらJRのターミナル駅まで行って来ましたが、人が多いヨドバシカメラへは行きませんでした。
      ...
      まことさん♪こんばんは。

      きょうは、散歩がてらJRのターミナル駅まで行って来ましたが、人が多いヨドバシカメラへは行きませんでした。
      Kindleについては、1度実物を見てから判断をしょうと思っています。
      このため、いまの状況ではKindleについては、少し先になると思います。
      御心配をかけて申し訳ありません。

      やま
      2020/04/06
    • えりりんさん
      私もこれ読みましたー!!
      こんな風にまとめられたらどんなにいいか♡
      私もこれ読みましたー!!
      こんな風にまとめられたらどんなにいいか♡
      2020/04/17
    • まことさん
      えりりんさん♪こんにちは!

      えりりんさんも、読まれたのですね!
      えりりんさんのレビューは、いつも丁寧で、ご自分の意見も入っていて、と...
      えりりんさん♪こんにちは!

      えりりんさんも、読まれたのですね!
      えりりんさんのレビューは、いつも丁寧で、ご自分の意見も入っていて、とても素敵ですよ(*^^*)
      こちらこそ、真似したいです。
      2020/04/17
  • 「よし、こいつはもう一人前になったし、俺たちの仲間入りだぞ、と確信した瞬間、せっかく育った新米の頭が爆弾を食らって吹っ飛ぶ」

    タイトル通り、戦場でコック兵として戦うティモシー・コール(ティム)たちの話。
    序盤は戦場にありながらもいくつかのプチ事件の謎解きがメインで物語が進む。でも、戦況がどんどん悪化して、ティムたちもその中に巻き込まれていく。登場人物がとっても魅力的だから余計に、物語が進むにつれて彼らが傷ついていくのがつらかったし、何度も涙が出てきた。

    登場人物みんな好きなんだけど、特に衛生兵のスパークが好きかな。
    「ほらキッド、めげてる場合じゃねえ。生きている人間を助けるぞ」
    「あれだけ看取ったんだ、それ以上に誕生の瞬間を見せてもらわにゃつり合わねえだろう」
    乱暴な感じがあるんだけど、衛生兵として怪我をした兵士の治療にあたっている。ギャップ・・・
    ほかにも作家志望のワインバーガーも可愛い。
    「僕を現実世界に戻しやがってありがとうですよ、キッド」
    エドも冷静でとてもかっこいい。
    「ティム、『悪気はなかった』は誰にでも言える。ただその屈託と恐怖心をどうするかだ。克服するもしないも、お前自身が決めなければならない。いつ死んでも後悔しないように」
    「もし俺を心配してくれるなら、外の世界でがんばってくれ。もうこんなことが起こらないように。俺たちが戦場へ行かなくて済むように」
    やっぱり登場人物が魅力的って大事!

    舞台が第二次世界大戦中のヨーロッパだから、『ベルリンは晴れているか』と同じようにユダヤ人迫害についても描かれている。
    ティムは幼い頃、近所の悪ガキに唆されて橋に人種差別を思わせる落書きをしてしまう。
    「お前自身はどうなんだコール、お前が橋に落書きしたチンパンジーと、ユダヤの星はどこが違う?」
    この台詞は怖いね。しかも、お祖母ちゃんに怒られてティムが橋の落書きを元通りに消したあとのお祖母ちゃんの言葉、
    「元どおりになるものなんてないのよ」も。これを子どものころに言われたらかなり残ると思う。
    ティムのお祖母ちゃん、すごく素敵な人だなと思った。
    「あんたと悲しみを分かちあえる人間は、残念だけどこの家族にはいないでしょうね。でもここはあんたの帰る場所で、あんたの出発点なのよ。いつだってね」
    この、戦場から帰ってきたティムにかけた言葉もすごくあたたかいなと。戦場を見てきたティムが故郷に戻ってきて平和に暮らしている人々を見たときに感じた疎外感、自分が異質なものになってしまったという感覚を、お祖母ちゃんはちゃんとわかってくれているんだな。

    「さて、どうやって生きる?これだけ巨大な動乱が起きた後、世界はどこへ転がっていくのか?日々の平凡な暮らしに戻っていけるのだろうか?」
    このまえ広島で原爆ドームや被爆直後の広島の写真を見て、この状態から今の広島に戻るまでにどれだけの人の、どれだけの力があったのか想像できないなと思ったばかりだったので、この言葉は印象に残った。

    また読み直したいな。良い本に出会えて良かった。


    「――俺のメガネなんて取っておかなくても、お前はしっかり生きていける」

  • 第二次世界大戦中のヨーロッパ、合衆国陸軍の特技兵(コック)のティモシー(ティム)は、ノルマンディー降下作戦で初陣を果たし、戦闘と炊事をこなしながら、仲間とともに戦地でのささやかな謎を解き明かし、心の慰めとする……。

    ストーリー紹介だけ見ると、様々なミステリ賞にランクインしていたこともあり、戦地という非日常の中での日常の謎を描くミステリなのかと感じますが、実際読み始めてみると戦争小説の側面が非常に強いです。
    序盤は戦況や物資などにもまだ余裕がありますが、章が進むごとに戦況は悪化し、さっきまで共に軽口をたたきあい、共に戦っていた仲間がどんどんと怪我を負い、心を病み、あるいは戦死して失われていく。
    主要人物たちはフィクションなのですが、参考文献の多さからも分かる通り、しっかりとした下調べに裏打ちされたディティールの細かさは、まるで実際に戦場に出ていた方から話を聞いているようなリアリティがあり、とにかく情緒をぐちゃぐちゃにされます。物語に感情移入してしまう方なので、胸が潰されそうに辛かった。
    けれど、昨今のこの情勢だからこそ、読んでよかったとも思えます。
    人は忘れてしまう生き物ですが、二度とこの惨劇を繰り返さないように。

    登場人物も多いですがそれぞれ個性があるので、混乱などは少なかったように思います。また、日本の小説ですが言葉選びなどには翻訳小説のような趣があり、比較的厚めの本にも関わらずぐいぐい読ませてしまう筆力にも感嘆です。

  • 私は料理に凝る性分がなく、極めて雑なものしか作りません。
    野菜の切り方も乱雑だし、味付けは繊細さのかけらもない。
    そんな私が”コック”を冠する小説を読んだのは、この本が、いろんなところで紹介されていたからです。
    それも、翻訳小説の文脈で見かけることが多かった。
    その紹介のされ方にちょっとした興味を抱いて、読んでみました。

    なかなか、おもしろかったです。
    そして、たしかに読んだ味わいは、日本の小説というよりも翻訳小説。
    どこがどうとはうまく言いにくいのですが、
    日本の小説にあるような(悪い言い方をすると)”箱庭感”が希薄。
    ”箱庭感”とは、たぶん、”みんな同じことを感じてるよね”というような共通の日常関心をベースに、ちょっと奇異な出来事をちりばめて好奇心をくすぐって、登場人物みんな「この世の終わりだ」みたいなことを煽っておきながら実はなんにも変わってなくて、で、最後は手垢のついたお説教めいたエピソードにつなげて、元の日常に戻ってみんな安心ね、というような感じ。

    それに対して、この小説はむしろ、日常を相対化して揺り動かしてくれました。
    この小説の中では、驚天動地の“大事件”が起こってえらいことになる、というようなことはほとんど起こりません(いや、戦場なんで大変なことは起こるのですが、それは「戦場だから起こるよね」という感覚で描かれます)。
    むしろ、お話の中で登場人物たちは、目の前のありがちな事件に、普通の感覚で淡々と対処していくだけです。
    しかし実は、その大前提である“普通の感覚”は、現代日本の我々とはずいぶんと異なっている。そのことが、読んでいるうちにだんだんと立ち上ってくる。
    そのことによって、私の日常感が揺り動かされる。
    そして、自分の“あたりまえ”が相対化され、次に、「自分はどう生きるのか?」という問いに直面させられるのです。たぶん。
    だからでしょうか、私はこの小説を読み終わったときに思ったのは、
    どんな状況下にあっても、自分の背筋を伸ばして、少しずつ焦らずにひとつひとつ対処していこうということでした。

    なんだか私のこの感想文が、説教じみて終わってるのが、なんだか箱庭感満載でかっこわるいですね・・・【2020年4月25日読了】

  • 第二次世界大戦、ヨーロッパ戦線に従軍した若いアメリカ特技兵(コック)達が戦地で遭遇した日常の謎を解くミステリー作品。

    捕虜・敵国民間人への攻撃に対する逡巡や人種差別への後悔など、主人公の葛藤が丁寧に描かれており、この世界情勢下で出会えたのは本当にタイムリーだった。

    著者の方のTwitter垢はフォローさせていただいて反差別的な主張には一方的に信頼感を持っているが、著書もさすがに理知的な内容だった。

  • この小説は凄いです。

    1942年に志願兵として米軍に入隊した主人公のティムは、19歳でノルマンディー降下作戦に参加し、ドイツ降伏までの戦下での日々が描かれた戦争物語です。

    軍では料理好きの祖母の影響もあって特技兵(コック)を志願し、自ら戦いながら兵士たちのお腹も満たす。明日命を失うかもしれない環境での友情、軍の中で起こる不思議な出来事を解明する小気味良いミステリーの要素もあり。

    戦闘シーンの描写は、まるでつい先日の出来事を親友が話して聞かせてくれるほどに克明でリアリティーがあり魅き込まれる。本当に作者は日本人なのだろうか、翻訳小説ではないのかという感覚になるほどアメリカ人青年の視点に徹しているように感じる。
    時代も国も異なる世界のことをどうしてこんなにも当事者感をもって描けるのだろうと感動したりする。

    一方で、平和で穏やかな幸せの象徴である祖母の料理姿の描写となると、料理の匂いや音が聞こえてきそうなほどに五感に訴えてくる。

    『もしあの時少し早く仕事をしていたら』、『もしあの時自分がよろめかなければ』、そういうほんの少しの違いが生死を分けてしまうのが戦地なのだと知る。きっと気づかないだけで、私達の平穏な生活も同じなんだと思った。

    参考文献の多さにも驚かされる。

    東西南北が苦手な私は、当時のヨーロッパの地図をプリントして、侵攻方向や場所や背景を確認しながら、理解のためにその他色々検索もしながら、先を読みたい誘惑と戦いつつ、それこそ『遅読』にて約3日かけて読みました。

  • 戦争物でもあまり取り上げられることのない特技兵(コック)を中心とした日常系ミステリー。しかしながら戦場は日常からかけ離れた世界であり、、、前作「オーブランの少女」で見せた、そういった非日常の世界を目の前に現出させる筆力が十分に生かされている。過酷な戦場での重い話を、どうでも良い(失礼)謎解きが推進力となってグイグイと読み進めていく。面白い組み合わせだ。

    戦時下の裏切り、報復、処刑、慰安婦、強姦と言った暗部はドライに書きあらわされるのだが、人種差別については丁寧に語られており、作者のこだわりが感じられた。

  • 深緑野分『戦場のコックたち』読了。第二次世界大戦下の米軍コック兵が主人公とあって、戦場における〈日常の謎〉ものかと思いきや、主人公同様に読者もまた戦争の美化されない本質に嫌が応にも向き合わさせる。

  • 第二次世界大戦の戦場における、

    ノルマンディー降下作戦で使われたパラシュートの白い絹の生地をひっそり集めていた兵士がいたのはなぜか?
    忽然と消えた600箱の粉末卵はどこへ?
    オランダの民家で起きた夫婦の奇妙な自殺はなぜ起こったのか?
    塹壕戦の最中に聞こえる気味の悪い怪音の正体とは?

    といった日常の謎。
    個々の事件は独立しているが戦況は進行しているというダイナミックな構成。
    キャラクターたちが好きになる。
    皆川博子を連想したが、たぶんホームズとワトソンあたりが源流なのだろう。
    語り手のティム(キッド)がいい子で、彼がやさぐれていくのが辛いくらい。
    いい小説。

    ■プロローグ
    ■第一章 ノルマンディー降下作戦
    ■第二章 軍隊は胃袋で行進する
    ■第三章 ミソサザイと鷲
    ■第四章 幽霊たち
    ■第五章 戦いの終わり
    ■エピローグ
    ◇主要参考文献ほか
    ◇解説=杉江松恋

  • 第2次世界大戦のヨーロッパ戦線。アメリカ人の青年ティムは戦闘に参加しながら、軍の食事を調理する「コック兵」として従軍していた。料理には慣れていたが、銃を撃ち、敵を殺し、味方が殺されることには慣れていない。そんな新米の青年兵が上司や仲間と戦闘を乗り越えるごとに成長していく青春グラフティ。そして、転戦する戦場にはささいな違和感があり、それをティムたちが解決するミステリー作品でもある。

    探偵役はティムの先輩コック兵、エド。彼は常に冷静沈着で何かを考えている。それは今起こっている違和感のことだったり、自分の将来や過去のこと、仲間のことだったり。さらに、エドが何者で、どんな過去を背負っているのか。それもまた、本作の謎の1つ。

    料理をしていると、気分転換になり、無心になれる。戦争という生死が隣り合う極限状態の中で、料理に没頭することは兵士の精神上、意外に良いことかもしれない。ティムやエドが他人へおせっかいを焼いたり、ささいな出来事に首を突っ込むのもコック兵ならではの視点だ。

    生命の大事さ、殺し合いの虚しさ、仲間との友情など、戦争小説定番のテーマも描かれているが、それよりも戦場で戦闘のことを考えない時間のすばらしさをの方を感じる作品。

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著者プロフィール

深緑野分(ふかみどり・のわき)
1983年神奈川県生まれ。2010年、「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。15年刊行の長編『戦場のコックたち』で第154回直木賞候補、16年本屋大賞ノミネート、第18回大藪春彦賞候補。18年刊行の『ベルリンは晴れているか』で第9回Twitter文学賞国内編第1位、19年本屋大賞ノミネート、第160回直木賞候補、第21回大藪春彦賞候補。19年刊行の『この本を盗む者は』で、21年本屋大賞ノミネート、「キノベス!2021」第3位となった。その他の著書に『分かれ道ノストラダムス』『カミサマはそういない』がある。

「2022年 『ベルリンは晴れているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

深緑野分の作品

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