龍の耳を君に: デフ・ヴォイス (創元推理文庫 M ま 3-1)

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 791
感想 : 81
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488422219

作品紹介・あらすじ

手話通訳士の荒井尚人は、コミュニティ通訳のほか、法廷や警察で事件の被疑者となったろう者の通訳をする生活の中、場面緘黙症の少年に手話を教えることになった。めきめきと上達した少年はある日、殺人事件について手話で話し始める――。NPO職員が殺害された現場は、少年の自宅の目の前だった。果たして少年の手話での証言は認められるのか? ろう者と聴者の間で苦悩する手話通訳士を描いた『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(文春文庫)に続くシリーズ第2弾、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • この作品は丸山正樹さんのデビュー作の『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』の続編です。

    第一作で主人公の荒井尚人は警察に勤める安斉みゆきと恋人同士でしたが、この作品ではみゆきの職業柄、結婚はしていませんが、荒井はみゆきと娘の小学二年生の美和と一緒に暮らすようになりました。

    荒井はろう者の親から生まれた聴こえる子のコーダであり、ろう者ののために通訳や法廷・警察での手話通訳の仕事をしています。

    まず、同居を始めた荒木と荒木を「アラチャン」と呼んで慕う美和とのやりとりが自然でとてもいいと思いました。美和は手話を覚えていきますが、みゆきは手話が覚えられず、二人のやりとりにイライラしてしまう場面もありますが。

    そして荒木は美和の友だちの英知からも慕われます。英知は場面かく黙症ですが、とても愛らしい気質をそなえていて、天性のいいものを持っています。

    第3話がメインのストーリーですが、最後の謎解きは読んでいるうちに大体わかってしまいましたが、それも読者に花を持たせる作者の意図かと思いました。
    読み終わって清々しさが残りました。


    以下途中までのストーリー。

    第1話 弁護側の証人
    荒井が法廷での手話通訳をしたとある事件。
    林部学という40代のろう者の強盗事件の弁護人の片貝の手話通訳を引き受けます。
    林部は無罪を主張しています。

    第2話 風の記憶
    五歳の時に聴力を失った新開浩二が同じ視聴覚障害者ばかり狙った事件を何件も起こしました。
    刑事の津村は「なんで聴覚障碍者ばかりを狙うんだ。仲間だろう」と質問します。

    第3話 龍の耳を君に
    美和の同級生で仲の良い場面かく黙症(言葉を話したり理解する能力は正常なのに、特定の状況では話すことができない)の少年漆原英知に荒井は手話を教え、時々面倒をみています。そして英知が殺人事件の現場を目撃しているのに荒井は気づきます。
    英知の母親の漆原真紀子が容疑者として逮捕されてしまいます。
    英知の目撃証言で、母親を助けることはできるのか。

  • デフヴォイスシリーズ第二作。
    個人的にはスピンオフの何森刑事シリーズの方が好きなのだが、この本編も考えさせられる。
    実はこの作品で一番心に残っているのは、『聾』という漢字の成り立ち。龍の退化した耳がタツノオトシゴというのも興味深い。

    この作品には緘黙症の少年が登場する。母親すら抱き締めることが出来ないデリケートな面がある一方で一度見たものは細かなところまで覚えているという驚異的な記憶力もある。
    特性を掴むまで大変だが、その特性に合わせた対応が出来れば彼の能力を存分に伸ばすことが出来そうだ。
    だがそれは他人であるから簡単に言えることかも知れない。

    このシリーズを読んでいると障害とは何ぞやという疑問にも突き当たりそうだ。誰しも何かしら抱えているものがあるし、そこを社会生活と何とか折り合いを付けている。しかし折り合いの付け方が分からない人もいて、そこが過剰になるとトラブルが起こったり本作のような事件に発展したりもする。

    聴者と聾者の壁を越えるのは手話だけなのか。美和が手話を覚えた結果、みゆきが疎外感を感じてしまう皮肉が描かれるように、誰かが疎外感を感じることのない何かが出来ないものか。これ程さまざまな技術革新が起きている中で、いまだにそうした技術が進まないのは歯痒い気がする。

    荒井とみゆき母子の物語はまだ続く。正直荒井とみゆきのキャラクターよりも美和の明るさと聡明さに惹かれる。
    美和こそが二人を繋ぐかけはしになっているし、二人の希望になっている。

  • 「デフ・ヴォイス」の続編。
    表紙を開いた後のページにあった短い紹介文に『手話を教えている場面緘黙症の少年が殺人事件を目撃したと伝えてきた』とあり、その少年の話が最初からずっと出てくるので一つの長編のように思って読んでいたが、3つの話からなる連作短編だったということに作者のあとがきを読んで気が付かされた…。

    第一話、荒井が司法通訳を依頼された、強盗容疑で逮捕されたろう者の裁判。
    そこで証言される、ろう学校や家庭における「聴覚口話法」の教育の、なんとまあ壮絶なこと。
    それでも喋ることが出来るようにはならず、「普通」でないことを改めて思い知らされるだけというのはあまりにも酷。

    第二話、被疑者の取り調べ通訳を依頼された、ろう者がろう者に対して詐欺行為を行った事件。
    色んな人が諫めてくれるのに、相変わらず人のことになると通訳の職域を超えて一生懸命になる荒井にやきもき。

    第三話、場面緘黙症の少年が、向かいの家であった殺人事件について手話で話し出す。
    同じく紹介文に『話せない少年の手話は、果たして証言として認められるのか!?』あったので、これはと思っていたが、意外とあっさり収束していった…。
    色々あった出来事と犯人の結び付きに荒井がやや鈍いのではないかということもあって、謎解きとしてはちょっと薄味。

    緘黙症に関連して発達障害や接触過敏、聴覚過敏まで語られ、「通級学級」に触れては『そういうことが、特別じゃなくなればいいのに』と書かれているが、本当にそう思う。

  • フォロワーの皆様の感想を読み、直ぐにAmazonでポチったものの、積読になっていた本。

    この頃老眼が進行し、小さい文字が若干苦手に。。。
    この本は私には少々文字が小さかった^^;


    いやしかし、読み始めたらページを捲る手が止まらない。

    前回作の何倍も面白い。
    ストーリーもさることながら、手話や聾者の世界は勿論、場面緘黙症などの発達障害等、自分が全く知らなかった世界を知ることが出来る。

    本作は一冊の中にボリュームぎっしり。両耳が聞こえない作曲家として活動していた佐村河内守や、森友学園を彷彿させるような社会的な問題にも触れつつも、本編のストーリーがとても興味深く、結末までワクワク感が続いた。

    ミステリー要素も多分にあり、ミステリー好きにも好まれそうな一冊。自信を持っておすすめ出来る良書でした!

  • 2作目です。
    最近のイチオシです。

    今回は、ろうだけでなく
    自閉症、緘黙についても取り上げられていた。

    緘黙については詳しく知らないので、
    そうなんかなぁーって思うだけだったけれど

    ろう学校での教育や、
    ろう者への取り調べについての部分は
    人権無視のあまりに酷い有様で、
    本当にこんなんなのか知らないけれど、
    きっとそうだと思えてしまう、
    なんて理不尽で不当な扱いを受けてしまうのだという憤り、
    そういう事態を知らないことへの罪悪感を抱いた。

    といっても私ができることも何もないかもだけれど、
    巻末にあったセリフ
    「特性はあっても、社会を生きるのに困難な状況がなくなれば、障害は障害ではない」
    といった趣旨のもの。
    これが目指すべき社会なんだな。
    本当のバリアフリー。
    だれもが生きやすく、
    だれもが安心できる社会。

    今日、久しぶりに特急列車に乗って、
    都会に行って、思った。
    見えない、聞こえない、があったら、
    ものすごく怖い。
    見えていて、聞こえていても、
    ものすごく不安なのに。

    普段の田舎での生活でだって、
    想像するだけで、ものすごく困難で
    大変なことがいっぱいあると思う。

    視覚や聴覚を失うこと、
    歩行能力を失うこと、
    何かしらの障害を負うこと。
    いつどこで誰に起こるかも分からない。
    決して他人事ではない。

    安心、安全な社会をつくるには、
    どうしたらよいか。

  • 丸山正樹『龍の耳を君に デフ・ヴォイス』創元推理文庫。

    傑作『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』の続編。

    龍の耳と書いて聾という字になる。龍の耳を持つことは……「僕は、龍の耳を持っている」……涙が出るような小さな少年の振り絞った勇気あふれる言葉だ。

    デフ・ヴォイスとは、ろう者の発する明瞭でない声、何を言っているか判然としない言葉のこと。コーダとは、ろう者の両親から産まれた聴者のこと。著者は一般の人が全く知らない聴覚障害者について誤解することが無いよう非常に気を使ってその実態を極めて詳しく、正確に描いていることが良く解る。こうした聴覚障害者の世界で展開される感動のミステリー。前作にも増して本作も面白かった。本当に良い作品を読んだ。

    ろう者の両親と子供時代を過ごした『コーダ』の新井尚人は警察事務官を辞め、手話通訳士を本業に聴覚障害者のコミュニティ通訳と法廷や警察で事件の被疑者となったろう者の通訳を行っていた。ある時、新井尚人は同居女性の娘に頼まれ、場面緘黙症の少年に手話を教えるが、手話を覚えた少年はNPO職員の殺人事件について語り始める……

    本体価格780円
    ★★★★★

  • タイトルの意味も分からず読んで、のめり込んでしまった前作。ミステリー仕立てなのに、現代社会における聴覚障害の方たちへの認識不足を思い知らされた。
    今回はさらに、支援学級にまでテーマが広がっており、読後は自分の見解が深くなるのを実感する小説だった。

  • 解説の頭木さんいうところの障害や難病を『ミステリの味付けに使う』話や感涙を売りにする話を私は好きでない。がそんな心配はいらず、手話にまつわる知識と端正なミステリと感動をぎゅっと詰めた優しい物語だった。面白い!シリーズ読破したい。

  • ムク助さんの本棚で見つけ図書館予約

    ご同様に前作『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』から読めばよかったと後悔

    でも面白かった
    というか興味深かった

    「ろう」について
    なーんにも知らなかったといことを知った

    「手話」を一くくりにしていたが、違うんですね!
    通訳士についても。技量が問われるんだろうなあと。

    聞こえないという様々な不自由さの上に、偏見・誤解

    また発達障害や緘黙症、なども織り込まれ一気に読んだ

    ≪ 音のない 世界を生きる 龍の耳 ≫

    • ムク助さん
      わぁ、ありがとうございます。
      とても嬉しいです(o^^o)

      私もとても興味深く読みました。
      知らない世界を覗くことができるので面白いですよ...
      わぁ、ありがとうございます。
      とても嬉しいです(o^^o)

      私もとても興味深く読みました。
      知らない世界を覗くことができるので面白いですよね。
      デフ・ヴォイスも是非!
      2022/05/14
    • はまだかよこさん
      ムク助さんへ
      コメントありがとうございます。

      知らないことを知っていく
      読書の醍醐味ですね。

      ムク助さんより30歳年上ですが...
      ムク助さんへ
      コメントありがとうございます。

      知らないことを知っていく
      読書の醍醐味ですね。

      ムク助さんより30歳年上ですが
      知らないことばかりに驚かされる毎日です。

      これからもよろしくお願いいたします。
      2022/05/14
    • ムク助さん
      はまだかよこさん

      はい、こちらこそよろしくお願いします^ ^
      はまだかよこさん

      はい、こちらこそよろしくお願いします^ ^
      2022/05/14
  • 年末のドラマで涙し、ようやく続編を手に取れた。

    今作は連作短編という形になっていて、どの話ものめり込むように読んだ。
    よりろう者の世界に触れることができ、場面緘黙症などはじめて知る事もあり、家族・家庭についても考えさせられた。
    そして、特に第二話から自分の中にある先入観や無意識の偏見に気付き、この世の中心は聴者、多数派で、それが当たり前なことに苦しくなった。

    その中で美和と英知くんの存在と友情が沢山の希望と勇気をくれる。主人公の荒井の人と向き合う姿勢も胸が熱くなる。
    韓国映画にもなるらしい。楽しみだ。

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著者プロフィール

京都大学大学院理学研究科教授。

「2004年 『代数幾何学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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