- Amazon.co.jp ・本 (503ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488291068
作品紹介・あらすじ
殺人から窃盗に至るまで、さながら犯罪見本市と化した一月のデントン市。おなじみフロスト警部は無能な部下に手を焼きつつ、先の見えない捜査にあたる。大人気警察小説第五弾。
感想・レビュー・書評
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フロスト警部、第5弾。
今回は1月です~いつも冬なので、タイトルが区別しにくいけど。
猥雑だけどあったかい、テンポのいい展開は、安心して読めます。
楽しみにしていました。
いつも同じよれよれのレインコートにえび茶色のマフラーという格好のフロスト警部。
だらしなくて下品なジョークばかり飛ばし、年中サボリたがっているが、いったん事件となれば被害者にも加害者にも(ダメ警官にも!)人間らしい目を向ける。
頼りになる叩き上げの人情警官なのだ。
アレン警部の留守に代理となっているリズ・モード警部代行は、若くて美人、まだ捜査は新米だが仕事熱心な野心家。
万年巡査部長のウェルズとはいがみ合う関係。
フロストが「張り切り嬢ちゃん」と呼ぶリズは捜査の指揮を執りたがっていて、フロストはいつでも喜んで仕事を譲り渡そうとしているから争いにはならない。リズはある事情を抱えていて‥
気取り屋の署長マレットは現場のことはわからず、会議に出ては上層部にいい顔をして人員を回してしまう。
おかげで、デントン署は圧倒的に人手が足りない。
行方不明の少女の事件は解決しないまま、娼婦殺しは連続事件の様相にと事態はかなり深刻。
怪盗枕カヴァーというふざけた事件に、ショットガンを振り回して自分も撃ったらしい強盗。酔ったフーリガンの一団を他署の依頼で署長が受け入れてしまったために、署を占拠する有様になったり。
部下のモーガンはおそろしく無能で、辞めさせたほうがいいのではと思うほど。憎めないキャラだけど、あちこちで彼のミスがとんでもないことに‥
事件は絡み合って、ひょんなことから解決したりするので、何が幸いするか、まだわからない!
フロストの采配は?
下巻も楽しみです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
上下巻まとめて。
久々の新刊です。やっぱりおもしろい!でもデントン署にフロスト警部一人ってちょっと人員少なすぎでしょう。そりゃあいろいろ手が回らなくても仕方ない。仕方ないけど世論は行方不明の少女誘拐事件や娼婦連続殺害事件の解決を今か今かと待っている。事件解決は早くて当たり前で早すぎるということはなく、被害者が出た時点で遅すぎるのだから警察官というのは難儀な仕事だなあと思います。
今回はうるさ型の理解のない、実に利己的で鼻持ちならない上司に加えてことごとく足を引っ張る部下まで追加されてそれでなくても大変なフロスト警部さらに大変な事態に。おまけに自殺まで出ちゃうし。でもフロスト警部が見せるわかりやすい正義感と被害者と犯罪者に同様に向けられるシンパシーというかいたわりの感情にぐっとくるのです。こういう警部なら本音を話せるのかもしれない。間違っても犯罪を犯して露見した際、マレットさんには担当していただきたくないですが。(まあマレットさんなら露見しないかもしれませんが)
最後はりきりお姉ちゃんの私生活も少しうまくいきそうでよかったかな?続きも楽しみですが…最後の一冊になるかと思うと寂しいです。 -
フロストを読むのは実に久しぶり。何を隠そう17年ぶりにこのシリーズの中二作をすっ飛ばして最新翻訳作品に卑しくも手を伸ばしてしまったのだ。そしてこのシリーズの凄みに、まるで今初めて出会ったばかりのように、ぼくは改めて驚愕するのだ。そしてこのシリーズへの評価を新たにする。そしてその手応えの確かさに酔い痴れる。
このシリーズ、いちいち分厚い翻訳小説である。この厚みと丁寧な翻訳の手仕事こそが、フロストシリーズの翻訳を難航させているのだろうなあ。何しろ、この作品だって、イギリスで刊行されて14年目にして日本にその翻訳の成果が披露されるわけだから。今時の14年と言えば決して短くはなかろう。携帯電話だってコンピュータだって、自動車だって、輸送機関だって、もしかしたら紛争地帯の国境だって、その頃と今ではまるで違ったものに変わっていやしないだろうか? 警察小説ということで言うならば、捜査技術そのものだって変貌を遂げているかもしれないのだ。CSIみたいに科学捜査技術が最前線で活躍する、というような。
そういう意味で言えば、このシリーズはある意味古き良き時代の警察小説であるのかもしれない。そんな時代背景の中で今と決して変わらないものを読み、発見することができるから、今と同じ面白さやスリルやぶつかり合いを見ることができるから、このシリーズは人気を博してやまないのかもしれない。
確かに犯罪者が犯罪に来る心理や、犯罪を構成する世の中の仕組みであったり、警察官が有する犯罪を憎む心情といったものは、時代を超えた普遍のものであるかもしれない。フロストは殺人事件の被害者の惨状に眼を背けず、犯人を憎む気持ちに拍車をかけて、疲れた体に鞭を打ち続ける。誰かがやらねばならないのだ。犯人の手首にお縄をかける仕事を。冬の真夜中の寒さの中だろうと、寝不足が連続する状況の中であろうと、人は足りず、警察組織は検挙率表を手にフロストの背に迫ってくるのだ。
そんな辛い過酷な状況を笑い飛ばすかのようにして、下品でユーモラス極まなりない、マイペース刑事部長フロストの活躍は、休むことなく続く。事件は次々とデントンの街に沸き起こり、フロストの行動は止むことを知らない。スラップスティックのブラックな味わいで全体を明るく進行させながら、様々な人間模様を、同時多発的複数事件の捜査を通して描き切るこの作家の筆力を今さら語る必要もあるまい。放送作家としてならした途切れのない娯楽作品作りのコツを有しているとしか言い様がない。
今回も、モジュラー型小説と言われる多様な捜査描写が凄い。少女連続誘拐事件、売春婦連続殺害事件、ショットガン強盗、フーリガンの一団、怪盗<枕カバー>、等々。毎日のように死体発見現場に向かい、翌朝は必ずのように検死解剖に立ち合い、マレット署長の小言から逃れ、交通費の割増請求をやりくりし、若い無能なスタッフを庇いつつ、署内捜査スタッフを切り盛りする手練の腕前がとにかく凄い。まさにジャック・フロストではなくては務まらない、奮闘ぶりに喝采である。
ちなみにデントンはシェフィールド、リーズ、リバプールで描く三角形の丁度真ん中に位置するロンドンよりはだいぶ北部の街。ウィングフィールドは2007年に世を去っているが、残り一作の未訳が残され、これも過去作品同様に日本の読者に期待されている。本シリーズは『フロスト警部』の名でTVドラマ化されており、日本ではスカパーなどのミステリチャンネルで放映されてきた様であり、ぼくはこれを見る機会に浴していない。 -
大好きすぎて読むのがもったいなく手を付けていませんでしたが、ついに読んでしまった。
あいかわらずのデントン署。事件を掛け持ちしまくっているフロスト警部に、猿眼鏡のマレット署長、万年巡査部長お茶くみビル・ウェルズ、そして芋兄ちゃんモーガン刑事。
人手不足はいつものこと、今回はマレット署長の見得のせいで人員を貸し出すことになってさらに...。水戸黄門並みの安定感ですが全く退屈させません。
読んでいて常々思うこと、それは「フロスト警部の部下として一緒に働きたい!」。あくせく働きながらも、警部のくだらなくて下品なギャグにニタニタ笑っていたい。たまにはビル・ウェルズの愚痴に付き合いましょうか。そしてマレットの催促を適当にかわして警部のお尻を叩き...。いいなあ。
よし下巻に挑もうか。 -
待ちに待った新作。
著者はすでに逝去しているため、これがラスト2。
翻訳されるのが遅いので、
次にいつラストの作品を読めるのか分からないため
1行1句、大切に読んだ。
相変わらずの、下品なジョークが本気か分からず人を煙に巻くフロスト。
今回も未解決事件を抱え込み、マレットの監視下にて
なかなか眠れず、捜査に追われる。
>「いい知らせだぞ。ジャック」
「マレットが家に帰ったのか?」
「いや、そこまでよくないけどな。」
>「さしずめ、天に代わりてコールドウェルの不義を討とうした爺婆版ボニーとクライドってとこだな。世の中に正義ってもんが存在するなら、あの爺さんも婆さんもパクられることなんてなかっただろうに」 -
2018年の12月に読んだようです。
「ああ、もうすぐフロストシリーズを読破してしまう」と思ったら涙が止まらないのに、読むのも止まらない。
そんな葛藤にココロを千々に乱されながら、でもフロストを読む快楽があるから目が回りそうな労働をなんとか乗り切れる、そんな切なく寒い季節に読んでいました。
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「冬のフロスト」(上・下)R.D.ウィングフィールド、芹澤恵訳。創元推理文庫。原書は1999年。
相変わらず「全て忘れてしまっているけれど、最高に面白かった」というだけなのですが、
たしかこの作品から、フロストの部下としてとんでもない若い刑事が配置されていたはず。
その若い刑事というのが、実に感動的に無能。それも厄介なのは、一見まじめだし、キレイゴトだし、普通だし。
やる気もモラルもありそうで、それなりのプライドもあって、なのに、無能。
衝撃的なまでにフロストの足を引っ張る。引っ張られるフロストが、罵倒しつつ、罵倒仕切らない。
呆然と立ちすくみながら、どこか愛がある。
思い起こせば足を引っ張って罵られ落ち込んだ季節もあって。
そんな季節なんかなかったふりができる歳ごろに、そういう部下がやってきて。
いやこれが、泣けます。晴れ渡りすぎた青空のような眩しすぎるような爆笑とともに、泣けます。 -
フロストもの第5作。フロスト警部率いる捜査チームは相変わらずのドタバタぶり。複数の事件が同時並行に勃発してただでさえ人数の少ないデントン署員は右往左往。頼みのフロストはお下劣な冗談を連発しつつヤマ勘のおもむくところ見当違いの容疑者をしょっ引いてきてはドツボにはまり、時間は経ち経費は嵩めど捜査は一向に進展しない。まあマンネリといえばこれほどマンネリのシリーズもないかも。だけどこれは警察小説ではあるけれど純粋ミステリというわけではなく、結果よりプロセスを楽しむべきものだとすれば、これでいいのだ。安心して読めて期待を裏切らない。本作ではフロストの相棒にモーガンという若い刑事が登場してその輪をかけたドジぶりとフロストとのやりとりが新たな読みどころとなっている。
一見手がかりも見込みも皆無の難事件たちがいずれも最後にはきれいに解決してしまうので、結末はかなり無理やりっぽいのはしかたがない。今回は最後に息詰まる捜索劇を配して盛り上げるサービスもこらされているし、ただだらだらと長いわけでもない。もう少しストーリーを整理すればとも思うが、整理されていないところがフロストものらしさなのだ。犯人の意外性もあり、ドタバタして気づきにくいがきちんと伏線も張られていて、一応ミステリの体裁も整っている。年末休みにのんびり楽しむにはまさに恰好というべきだろう。さてフロストものも残すところあと一作か。名残り惜しい気もするけれどそんなもので十分な気もする。