苦悩する男 上 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488209216

作品紹介・あらすじ

刑事クルト・ヴァランダー59歳、娘のリンダも、同じ刑事の道を歩んでいる。そのリンダに子供が生まれた。リンダのパートナー、ハンスの父親のホーカンは退役した海軍司令官、母親のルイースは元教師で、気持ちのよい人たちだ。だが、ホーカンが誕生パーティの三ヶ月後に姿を消してしまう。ルイースもハンスも原因に心当たりはない。だがヴァランダーは、ホーカンの様子に違和感を覚えていた。北欧ミステリの金字塔シリーズ最終巻。

感想・レビュー・書評

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  • ヘニング・マンケル『苦悩する男 上』創元推理文庫。

    北欧ミステリーの最高峰クルト・ヴァランダー・シリーズ第11作の上巻。

    リーダビリティーあふれる警察小説。失踪事件の真相は国際的な軍事衝突なのか。

    父親と娘の暖かい家族の物語から始まるが、事件の影はヴァランダーの背後に静かに忍び寄る。

    60歳を目前にヴァランダーは海の見える中古住宅を手に入れる。引退への道を静かに歩むヴァランダーだったが、ある夜レストランに拳銃を置き忘れたことから内部調査の結果が出るまで休暇を命ぜられる。挙げ句、休暇中に転倒して腕を骨折したり、夜間に路上で3人の若者に襲われるなど何かとご難続きのヴァランダーだった。

    一方、ヴァランダーの娘・リンダも刑事となり、パートナーとの間に子供が産まれた。リンダのパートナーのハンスの父親・ホーカンは元海軍司令官で、自身の75歳の誕生パーティーを開いた3ヶ月後に突然姿を消す。ホーカンの失踪理由は全く不明で、良からぬ事態に巻き込まれたことを感じたヴァランダーは独自に調査を進める。しかし、ホーカンの妻・ルイースまで失踪し……

    本体価格1,200円
    ★★★★★

  • いよいよ最後の一冊、と思ったら、訳者解説を読んだらあと一冊シリーズ関係本がありただいま訳出中とのこと。とはいえそれは時系列的にはこの本の前の設定で、かつ短編か中編とヴァランダーの年表的な内容らしいので、やはりこの作品がシリーズの完結編であることに変わりはないようです。内容的にも、事件のあらましや捜査と同等かそれよりも多いくらい、ヴァランダーが自身の人生を振り返ったり老後の過ごし方を考えたり、大切な女性たち(モナ、リンダ、バイバ)のことを想ったりするモノローグの読み応えがありました。かつて署随一の刑事として捜査会議を仕切り捜査活動の先頭に立っていたヴァランダーですが、この作品では第一線を退きマーティンソンがその後継者になっているし、ヴァランダーの長年の夢だった郊外の一軒家に引っ越し犬を飼うという夢も叶っていて、シリーズを読み通す醍醐味が味わえて感慨深かったです。事件については、潜水艦のあれこれの情報にまったくついていけず迷子になりそうでしたが、そのあたりは追いかけずにわからないまま読んでいって、人間ドラマの方に集中して読了。いろいろとほろ苦さの残る読後感でしたが、フィクションでありながら現実よりも現実感がある、読み応えたっぷりのシリーズの静かな終わり方にしみじみとしました。もう一冊まだ読めるのはお年玉のような感じで楽しみにとっておこうと思います。大変満足して読了。

  •  恥ずかしながら、ヴァランダー・シリーズを読むのは初である。終わってしまうシリーズの最後の一作と知れているところから手をつけるというのもどうだろうと思われたが、それもまた一興、と運を天に任せて読み始める。そもそもこのシリーズはドラマ化されたものをWOWOWで見ており、心惹かれる印象があった。いつか読まねばならないシリーズの一つとして常に宿題となっていたのだ。現在ではAMAZON PRIMEでの視聴もできるので、シリーズ全作の読書に取り組んだ後、ドラマで追体験してみるのもよいかと思う。この一作を読み終えた今、その思いはむしろ強まったと言える。

     スウェーデンの得意とする北欧ミステリの底力を、マルティン・ベック10作で十分に味わったぼくが、その後、ヘニング・マンケルや『ミレニアム』のスティーグ・ラーソンなどの王道を味わうことなく来てしまったのは何故だろう? いずれにせよ『イタリアン・シューズ』という普通小説でこの作家の筆力に唸らされて以来、マンケルへの食指が改めて動き始めてしまった。それにしても創元推理文庫の翻訳の遅さは毎度のことながら驚嘆させられる。王道の作家でありながら未だにシリーズ完訳が成っていなかったとは。しかしそのおかげでこの作品を手に取っているのだ。深謝すべきかもしれない。

     本作は、思いのほかスケールの大きな国際冒険小説を思わせる意味深なプロローグに始まる。しかし、その後の描写は、ヴァランダーという個人の行動、思考、体感、心理などを描くことに費やされる。ヴァランダーという刑事を、まるで普通小説の一個の人間のように読者は追跡することになる。家族のこと、過去とのこと、不穏な未来のこと、彼の体や心に起こっている奇妙なこと。微々たるように思えるが異常な、ことのほか重要と考えねばならないのかもしれない出来事などなど。

     休職中のヴァランダーの娘婿の親の失踪という、極めてヴァランダーにとって近い事件が発生。通常の警察小説というより、私立探偵小説に近いものを感じさせる全体なのに、違和感さえ感じさせる冷戦時代のロシア潜水艦にまつわる謎。グローバルで歴史に関わるスケールを持つ大掛かりな事件と、今現在ヴァランダーが追跡する親類縁者の失踪事件は、どのような関わりを持つのか?

     本作では、『イタリアン・シューズ』でも見せてくれた自然描写も、もう一つの魅力を見せる。島々や礁に満ちたフィヨルドを疾駆するボート。農場や大地を走り抜ける車。ヴァランダーはめくるめく多種多様な人々に出会う。それぞれの風土の差を、肌で感じる。出会いと対話と別れ。中には過去からやってきた女性との悲しき再会が語られる。心を抉られる時間。厳しくも美しい自然の中で。天と地のはざまで。

     『いままでの人生に満足している。(中略)現在私の体は一日二時間だけ機能する。その二時間を私は執筆に当てている』とは、がんで余命いくばくもない自分を知ったヘニング・マンケル自身の言葉だが、本書のヴァランダーも、自らの体や心に起きている極めて不安な事象と闘いながら、真相に迫る日々を刻一刻と生き抜いてゆく。初老というには早すぎる60歳という刑事の年齢を64歳のぼくは複雑な想いで追跡する。

     命。自然。心。家族。時間。そうした極めて重たい要素をぎっしりと詰め込んだシリーズ最後の高密度な作品の中、ミステリー的要素は少し重心から外れて見える。しかし、最もミステリアスに見えてくるものは、人間たちそれぞれの関わり方であり、彼らの距離感、信頼、不信、沈黙、その他諸々の感情、ふるまい、表情等々である。

     終わったところから、始まってしまったヴァランダーへの興味。ぼくは新たにヴァランダーの過去へとこのシリーズを遡行してみようと決意している。そうさせる何かがこの作品には十分に込められて見えたからだ。

  • 刑事クルト・ヴァランダー59歳、娘のリンダも、同じ刑事の道を歩んでいる。そのリンダに子供が生まれた。リンダのパートナー、ハンスの父親のホーカンは退役した海軍司令官、母親のルイースは元教師で、気持ちのよい人たちだ。だが、ホーカンが誕生パーティの三ヶ月後に姿を消してしまう。ルイースもハンスも原因に心当たりはない。だがヴァランダーは、ホーカンの様子に違和感を覚えていた。

    シリーズ第11作。例によってスケールの大きな展開。下巻に続く。

  • 待望のヴァランダーシリーズだけれど、著者のヘニング・マケルはもうこの世にはいない人なのだと思い、感慨深く本に沈み込むように読み始める。
    娘のリンダのパートナーの父親の失踪、そして続いての母親もまた。
    「死ぬことも生きることのうち」と語るヴァランダーは一歩一歩老域に近づいてることを本人もそして読者も感じずにはいられない。

    続きは『下』の感想へ。

  •  クルト・ヴァランダーもの最終巻。前作は娘のリンダが主人公で、ヴァランダーはあまり出てこないのが不満だったが、今回はまさにヴァランダー物語だ。上流市民であるリンダのパートナーの父母があいついで謎の失踪を遂げ、そのうち母親は変死体で発見される。事件はストックホルム警察の管轄だが、個人的なかかわりあいからヴァランダーが休暇を利用して独自の捜査を進めるというもの。父親が元国防軍の重役だったことから、当時くすぶっていたロシアのスパイ事件など国際的な陰謀との関連で、事件は意外な方向へと展開する。まあそういう筋書きは筋書きとして、何よりの読みどころはヴァランダーの個人的な生活や言動だ。人間的で失敗を繰り返し、自問自答しながらいくつもの難事件を独力で解決してきたヴァランダーも60歳。退職後の生活を考える齢になった。郊外の一軒家に転居して犬と暮らし、初孫のクラーラが誕生する。老いと体の不調が目立つようになり、何より突然の記憶欠落は彼をおののかせる。たどりついた事件の真相は予想した通りだが、それよりヴァランダーの体調が気にかかる。そして駆け寄るクラーラとの哀切なラストシーン。ああこれでヴァランダーものはほんとにお終いなんだ。悲しくて残念でやりきれない。

  • ラストに衝撃

  • 感想は下巻で。

  • 自分のモットーとしてすべて出たとこ勝負で生きてきた。
    まさに!それで解決しちゃうけど許せる面白さだよな。このシリーズ。

  • ヴァランダー・シリーズ最終巻。ストーリーの合間に何気なく挿されたエピソードにドキッとさせられる。えっ、もしかしてアルツハイマー?

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