夢宮殿 (創元ライブラリ)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488070700

作品紹介・あらすじ

そこには、選別室、解釈室、筆生室、監禁室、文書保存所等が扉を閉ざして並んでいた。国民の見た夢を分類し、解釈し、国家の存亡に関わる夢を選び出すこの機関に職を得た青年は、その歯車に組み込まれていく。国家が個人の無意識の世界にまで管理の手をのばす怖るべき世界を描いた、幻想と寓意に満ちた傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 静かにじわ〜っと恐怖が込み上げてくる小説です。夢という無意識までを国家に管理支配されてしまうですから。多少の違和感を抱きながらも一族の血を見てさえも保身ゆえ躊躇いなくとんとんと出世する主人公(ヨーゼフ・Kを彷彿させるキャラ!)は異様なようで実にありがちな人間像です。全体主義への寓意と読み解くのが定石でしょうが、今の時代と照らし合わせれば我々は更に救いのない世界を生きていることを思い知らされるのです。おそろしいことです。

  • 作者のイスマイル・カダレはアルバニアの作家だそうで、まず「アルバニアってどこらへんだっけ?」というところから入りました(苦笑)。なるほど、バルカン半島。ギリシャのご近所。いわゆる東欧よりのイメージでいいのかな?

    一見SF的な設定で近未来かと思いきや、舞台になっているのは1800年代オスマントルコ支配下の時代。しかし架空の機構を描いた、一種のディストピア小説と言ってもいいんじゃないかと思います。

    <夢宮殿>というのは、人々からまるで税金のように「夢」を蒐集してそれを<選別><解析>し、それらの夢の中から選ばれた(つまり有効な予知夢とみなされた)夢を<親夢>として皇帝に差し出すための国家機関。まるで迷路のような建物で、ここに配属された主人公はしばしば宮殿の中で迷子になります。

    それだけですでに悪夢的なのに、支離滅裂な他人の夢に日々まみれて仕事する主人公の混乱っぷりったるや同情に値します・・・。結局それでも彼は、由緒正しい家柄のおかげもあって順調に出世を重ねていくのだけれど、やがて歪められた<夢宮殿>の真の役割ともいうべき政治的側面に翻弄され・・・。読後感は「1984年」や「華氏451度」に通じるものがありました。

    余談ですが、主人公の一族キョプリュリュ家の名前の由来というのが、かつて建築された橋の人柱に立ったということらしいのですが、個人的には人柱というとどうしても日本昔話の「キジも鳴かずば」を思い出すので(人柱には罪人が立てられました)、それが英雄視されることに微妙な違和感を感じました。国によって色々違うんですね。

  • オスマントルコ帝国と思われる管理国家が舞台。
    帝国の運命を左右するアラーの教えが、神により無作為に投げ落とされ、数千万の帝国臣民の夢に投影される、と信じられている世界。夢宮殿とは、帝国中から申告される夢を受理し、選別し、解釈する国家機関である。

    東欧作家による全体主義に警鐘を鳴らした小説はよく読む。それらには被弾圧者の魂の叫びがあり、葛藤がある。敗者にも闘争する者が放つ光が見えることが多い。

    比較して個性的なのは、本書の主人公の没個性。カフカの主人公が持つのは「匿名性」だとして、本書の主人公マルクは貴族であり万人を投影する存在ではない。

    ただ単純に個が失われている。そんなつまらない存在が祭り上げられてゆく様は無様である。魂の発露もなければ悲劇的でもなく、ただ何となく流されてゆく緩慢な在り様がここにある。「われわれ(支配者)にとって好都合」であることが夢宮殿で採用された理由であるが、支配者と被支配者との間で利害が一致する鍵になるのが「没個性」、つまらぬ人物であるということ。
    そこが面白い。

  • 物語の舞台が全く見えない始まりから、
    狂気に満ちた数々の「夢」を潜り抜け、
    妙にリアルで静かな終わりへ辿り着く。
    火薬庫バルカン半島のアルバニアの地を
    感じさせながら、世界を見つめる眼差し。
    他の作品も非常に読みたくなりました。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「火薬庫バルカン半島のアルバニアの地を」
      鎖国しているアルバニアについて全く知らないのですが、ユーゴも分裂してバルカン半島は益々ややこしくな...
      「火薬庫バルカン半島のアルバニアの地を」
      鎖国しているアルバニアについて全く知らないのですが、ユーゴも分裂してバルカン半島は益々ややこしくなりました。
      カダレの作品は土臭い幻想性がとっても素晴しいのに、流通しているのは、この「夢宮殿」と松籟社東欧の想像力「死者の軍隊の将軍」だけなのが残念です。白水社の「誰がドルンチナを連れ戻したか」「砕かれた四月」がUブックスにならないかと念じています。
      2012/08/24
    • aglaonemaさん
      「土臭い幻想性」
      まさに!だと思います。他の作品について、コメントいただいた通りの状況に対する思い、全く同感です。白水社にむけて、一緒に念じ...
      「土臭い幻想性」
      まさに!だと思います。他の作品について、コメントいただいた通りの状況に対する思い、全く同感です。白水社にむけて、一緒に念じようと思います。
      2012/08/27
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「白水社にむけて、一緒に念じようと思います」
      宜しくお願いします。
      ついでに「現代東欧幻想小説」も、、、
      話は変わるのですが、 テア・オブレ...
      「白水社にむけて、一緒に念じようと思います」
      宜しくお願いします。
      ついでに「現代東欧幻想小説」も、、、
      話は変わるのですが、 テア・オブレヒトの「タイガーズ・ワイフ」(新潮クレスト・ブックス)が面白そうです。。。
      2012/08/30
  • 祝復刊!
    アルバニアの作家イスマイル・カダレ。今は品切れが多くて読めない作品が多いですが、こんな風に復刊されると嬉しい!!

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    「迷宮のような建物〈夢宮殿〉、そこには、選別室、解釈室、筆生室、監禁室、文書保存所等が扉を閉ざして並んでいた。国民の見た夢を分類し、解釈し、国家の存亡に関わる夢を選び出す、この機関に職を得た名門出の青年マルク・アレムは、次第にその歯車に組み込まれていく。国家が個人の無意識の世界にまで管理の手をのばす、不条理で不気味な怖るべき物語。バルカン半島の国アルバニア発の幻想と寓意に満ちた傑作。訳者あとがき=村上光彦/解説=沼野充義」

  • 夢宮殿と呼ばれる、国民の夢を収集、解釈する官庁で働くことになった名家出身の青年の物語。夢宮殿の延々と続く暗い廊下とか、意義不明な業務内容とか(後半になると一転、あーーこういうことね、となる)、カフカっぽい。仕事進めなきゃいけないけど、進まなくて、でも上司の前では順調なフリとか、残業何時までやる?同僚より早く上がるのも微妙とか、結構リアル(笑)。
    カフカっぽいんだけど、オスマン・トルコ時代の話だから、ついついカフカの世界のイメージで読み進めていくと、あれ?となる。
    なお後半は、やや急ぎ足の政治批判的な展開。

    とりあえず、どこの世界でもお仕事はめんどいよね。

  • アルバニア

  • もっとファンタジーかと思ったら、全く違うかった。独裁的な雰囲気と、理解が及ばない組織の不気味さがなんとも言えない作品。

  • 夢ツアーの一環。再読。
    これが初カダレだった。『誰がドルンチナを連れ戻したか』も気になってる。

    国民が眠りのうちに見た夢を報告させ、選別・解釈する。オスマン・トルコ支配下のアルバニアを舞台に、個人の無意識を管理する機構<タビル・サライ>を幻視して綴る夢と現実の脅威の物語。
    淡々と乾いているかと思えば、時にじわじわと蝕むような湿度と熱で迫ってくる描写が巧み。迷宮のような<タビル・サライ>の庁舎に始まり、杳として知れないその機構、夢の解釈への躊躇、錯乱夢、一族と国家の関係。緊迫、焦燥、混乱……真綿で首を絞めるような。劇的な起伏はないのだけど、どうなってしまうのか、何が起きているのか(あるいは起きていないのか)が気になって、気づけばぐいぐい頁を繰っている。悪夢のとめどなさのような面白さ。
    (国家にとっては)無事<タビル・サライ>の中枢に取り込まれたマルク=アレムが自分の末路を思うラストシーンが哀しく美しくてお気に入り。

  • 2012-3-9

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著者プロフィール

アルバニアの作家・詩人。1936年、同国南部のジロカスタルに生まれる。
ティラナ大学卒業後、モスクワに留学するが、アルバニアとソ連の関係悪化をうけて帰国した。その後ジャーナリストとして活動しながら、詩や小説を発表。1963年の小説『死者の軍隊の将軍』が国際的に注目され、作家としての地位を確立する。労働党の一党体制下で制限を受けながら執筆を続けていたが、1990年にフランスへ亡命。翌年、複数政党制となった母国に帰国、現在も旺盛な執筆活動を続けている。
代表作に本書のほか、『大いなる冬』(1977)など。日本語訳は『夢宮殿』(東京創元社)、『砕かれた四月』(白水社)等が刊行されている。第1回「国際ブッカー賞」受賞。

「2009年 『死者の軍隊の将軍』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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