慟哭は聴こえない (デフ・ヴォイス)

著者 :
  • 東京創元社
4.15
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本棚登録 : 508
感想 : 79
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488027971

作品紹介・あらすじ

『龍の耳を君に』の事件を経て、みゆきと再婚した荒井。警察勤めのみゆきにかわり、主夫業に加えて手話通訳士を細々と続けていた。そんなある日、ろうの妊婦からの病院通訳を依頼される。通常は女性通訳が派遣されるのだが、慣れない医療通訳で、妊婦家族は不信感を持ったようだった――。110番や119番の通報の問題のほか、きょうだい児、有名ろう者の在り方、地域手話など、手話通訳士・荒井尚人を通して描いた連作ミステリ。静かな感動を呼ぶ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』『龍の耳を君に デフ・ヴォイス新章』に続く、シリーズ最新作。

感想・レビュー・書評

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  • もし生まれた子供が聴こえない子だったら。

    自分なら迷わず人工内耳の手術を受けさせるだろうな。
    少しでも聴こえるようになる可能性があるのなら、
    多少のリスクを負ってでも、と思う。

    今回もまた、とても興味深く読んだ。
    人工内耳の事はもちろん、手話にも喃語や方言のようなものが存在するというのも新しく知った。

  • デフ・ヴォイスの三作目の短編集です。

    荒井がみゆきと入籍してみゆきと美和が家族になり、みゆきは荒井との約束通り出産し、瞳美が生まれます。
    瞳美は「聴こえない子ども」でした。
    みゆきは、瞳美に人口内耳をつける手術をすべきか悩みます。「親が勝手に(手術)をしないという選択をしていいのか。瞳美がその選択をできる年齢になった時にはもう遅い」とみゆきは言いますが、「人口内耳を付けても『聴こえる子』にはならない」と荒井は言います。

    第1話 慟哭は聴こえない

    第2話 クール・サイレント
    聴こえないモデルのHALが登場し、ドラマにろう者役で出ることになりますが、スタッフとのトラブルによって「自分は浅はかだった」と言って仕事を辞めます。
    「でも、第二、第三のHALが現れる。そう信じたかった」という荒井の言葉がありますが、私の知っている限り、現在そういう方は現実に活躍されていないですね。

    第3話 静かな男
    ホームレスのろう者が亡くなった事件です。
    これは、ストーリーが一番秀逸だと思いました。
    亡くなったろう者の身元がわからず捜そうとします。
    ろう者は、よくローカルテレビ局の撮影現場にやってきてカメラに映りたがる人物だったということがわかります。
    荒井は最初、被害者の手話らしきビデオを見ても、手話でなんと言っているのかわかりませんが、ある地域にだけに伝わる手話だったということが判明します。
    この話は泣けました。

    第4話 法廷のさざめき
    障害者雇用の問題が法廷で争われます。
    ろう者の進学・就労についてです。
    お金のかからない障害者(通訳などの経費が必要ない)だから採用したという企業には腹が立ちました。
    現実にはこのようなことが、行われていないことを祈ります。

  • 今回は荒井とまゆみの間に生まれた「聴こえない子」瞳美ちゃんを加えた家族の成長というか変化を中心とした短編集

    美和ちゃんが子どもなりのいろいろな葛藤を抱えつつ優しくまっすぐに成長していってるのがなんかもう嬉しかった
    たぶん荒井と同じ気持ちになってるよ

  • 「デフ・ヴォイス」「龍の耳を君に デフ・ヴォイス新章」に続く、3作目。
    コーダ(ろう者の両親をもつ聴者の子のこと)の法廷通訳人、荒井尚人が主人公のシリーズだ。

    1作目を読んだ時、同じ日本という国にいながら、聴覚障がい者について、その方たちが置かれていた過去や今なお続く現状について、本当に全く触れたこともなく、知ろうともしていなかったことに気付き、愕然とした。

    3作目では、荒井は人生の新たな一歩を踏み出し、みゆきと結婚して美和の父親になる…今までためらっていた家族を築くのだ。そして、みゆきとの間に女の子が生まれ、瞳美と名付けるが、その子には聴覚障がいがあった。

    4つの短編からなり、一つは荒井の目線ではなく、前作で登場した刑事の何森の目線で書かれている。
    荒井が家族を持ち、父親となることで今までとはまた違った角度で考えるようになっている。
    聴者と聴覚障がい者の間に立つ、コーダである荒井を通して自分もその世界を疑似体験することができる。

    著者の丸山さんは、様々な人に取材し、またご自身も手話を勉強されているそうだ。あとがきでは、色々な方の協力があってこの作品ができていると書かれていた。
    美化することなく、事実を捉えた小説だと思う。
    2020.1.27

  • 初めて読む作家さん。
    読み初めて知ったのだが、これは手話通訳士を主人公にしたシリーズ物の第三作になるらしい。
    なので前の物語を念頭にした表現やエピソードも時折出てくるのだが、この作品だけでも楽しむことは出来た。
    タイトルのデフ・ヴォイスとはろう者の発する声を指すらしい。

    主人公・荒井尚人について説明すると、彼は自分以外の家族全員がろう者だが彼自身は聴者(コーダというらしい)で、現在は刑事のみゆきと結婚し、みゆきの連れ子である美和と三人暮らし。作品中に荒井とみゆきの間に娘が生まれ、その子がろう者であることが分かることから二人はある選択について悩むことになる。

    作品中にに描かれている事件は4つ。
    第一話はろうの妊婦、しかも初産の彼女とその夫に産婦人科での手話通訳を頼まれる。
    この顛末は辛かった。もっと早く救急車を呼べたら…でも呼べないのだ。
    これほど様々な技術が発達しているのに何とかならないのか。だが、どんな素晴らしい技術も使うのは人間、その人間が変わらなければ活かせない。

    第二話はろう者モデルがドラマの準主役に抜擢される。
    昔、ろう者を相手にした恋愛ドラマがあったのを取り上げられていたが、あれは結局『聴こえる者』に向けたドラマであり、使われていた手話はろう者に通じるものですらなかったというのは衝撃だった。
    私は該当ドラマは見ていないが、改めて虚像の世界の現実を見た気がする。
    ただろう者への感心を集めたという意味では罪ばかりとは言えない。

    第三話はろう者のホームレス男性の遺体が発見される。
    手話にも各地特有の方言のようなものがあるだろうことは何となく想像していたが、ここまで独特な手話があるのは知らなかった。また標準語手話も一通りではなく、いくつか種類があったり、ミックスされていたり、それもきちんと学校などで習ったものや独学や何となくで覚えたりと様々あることを知った。
    そしてたまにテレビ番組の中継に写りこむ人がいるが、そこにこんな切実な事情のある人もいるとは切なかった。
    だがこのケーブル局のディレクターの配慮には感心した。どこにでも素敵な人がいる。

    第四話は障害者雇用枠で雇用されたろう者女性が会社の不当な扱いについて裁判を起こす。
    こうした問題はどこにでもありそうだ。最近は配慮配慮とうるさいくらいだが、これは必要な配慮だ。
    結局はこのくらい良いだろうが積み重なった結果なので、小さなうちにきちんと話し合うべきだった。

    事件以外のシリーズとしての部分、例えば荒井の甥である司の苦しみや、荒井とみゆきの間に娘・瞳美が産まれたことによる連れ子の美和の変化や、瞳美に人工内耳をつける手術を受けさせるかどうかの選択など、気になって仕方なかった。
    荒井は聴こえない家族に囲まれ育ちつつも自らは聴こえる者だけに、聴こえない者の真の心は分からない。だが逆に聴こえない者も聴こえる者の心は分からない。
    聴こえようが聴こえまいが、どちらにとってもストレスなく生きられる社会になるのが理想だが、その第一歩である互いの歩み寄りが何より難しい。

    日頃気付かないことを突き付けられた、非常に興味深い作品だった。ただ全体的に重く、主人公のキャラクターも妻のみゆきも魅力が薄い。
    第一作から読むにはかなり気合いが要りそうだ。

  • 手話通訳士の荒井を通して語られる聴者の世界の中での聾者の苦しみ、そして互いの世界への歩み寄りの難しさが丁寧に描かれる4つの短編。産婦人科受診や救急通報でのシステム上の問題に対する問いかけや会社からの不当な扱いに立ち上がる話、世間とのイメージの乖離の苦しみ等今回も聴者として持つある意味での傲慢さにも気付かされぐさぐさくる。今回は荒井とみゆきが結婚し娘が産まれ、皆が成長していく中で起きる様々な問題にもじっくり視点が当たっていて読み応えあった。そうだよなー。美幸ちゃんもいい子のままではいられないよな。最終話の色々なあの人は今!が豪華で嬉しい。皆頑張って欲しい。

  • デフ・ヴォイス第三作。今回は聴覚障害者の生活面での困難を描いていました。
    ろう者は119番を呼べない。日常生活はなんとかなっても、緊急時にはなすすべもなくなってしまう。今まで気づかなかった世界を教えてくれました。
    誰しも色んな特性を持って生まれてきて、それらによって幸福を感じることもあれば苦悩を抱くこともある。ネット119など、困った人を支える仕組みがもっと増えるといいな、と思いました。また、そういうことに気づける人間になりたい。

  • シリーズ3作目と知らず、装丁が可愛くて手に取った。
    とても良かった。
    これは1から読まないと!

    昔は耳の聞こえない人をろうあ者と呼んでいたけど、
    今はそうじゃないことを知る。
    とにかく作中でいろんな「知らない」を知った。
    読みながら、知らないということに無頓着過ぎる…と反省。
    どうしても今の時代、自分から遠いものに対しては
    近寄らない、歩み寄らない、
    気にはなるけど知らんぷり、ということが増えがちだけど、もう少し心に余裕を持って
    一歩踏み込むことも必要だと感じた。
    悲しい思いをする人が少しでも減ってほしい。

  • 四つのお話にそれぞれテーマがあってそれらに考えさせられつつ、一冊を通しても荒井さんの新しい家族の成長を見守っている気持ちになれるお話でした。

    ミステリー要素は既出の2冊より薄めですが、ミステリーに縛られてしまうと、このシリーズの醍醐味であり真骨頂でもある「手話通訳士の荒井から見たろう者の世界」を描くのが難しくなってしまう気がします。今回のお話は荒井さんの手話通訳士としての立場の他に、父親の立場から、叔父さんの立場からと新たな視点からの葛藤も見え、そこが魅力的でした。
    もし続編が出るのなら(気が早い(笑))そのお話もミステリーに縛られ過ぎないで描いていってほしいです。

    個人的には、出所した新開さんと成長した英知君に会えて嬉しかったです(*^^*)

    「水久保手話(宮窪手話)」のような交流は私の理想。日本手話でそうなれたら……と思います。

  • シリーズ3作目。
    前作までの間に、みゆきと結婚し、刑事課で働くみゆきの代わりに主夫をしながら、細々と手話通訳を続けていた荒井。
    1章目は耳の聴こえない妊婦さんの話。
    耳が聴こえないことが、救急車を呼ぶことへの障害もあるとは考えたこともなかった。
    2章目以降では、みゆきとの間に生まれた娘・瞳美の話が描かれる。
    子供を授かることに消極的だった荒井の心配は当たってしまい、生まれた瞳美は耳の聴こえない子だった。
    ショックを受ける荒井だったが、みゆきも、みゆきの連れ子である美和もその現実を受け止める姿がとても印象的。
    これまではミステリーの要素も絡めていたが、今作はミステリーの要素は少な目で、聴覚障害を様々な視点から描いている印象を受ける。
    先日最終回を迎えた視覚障碍者のドラマもそうだが、普通に暮らしているだけでは分からない世界を、こうして表現してくれることで少しだけど理解出来るのは有難い。

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