平台がおまちかね (創元クライム・クラブ)

著者 :
  • 東京創元社
3.62
  • (84)
  • (197)
  • (215)
  • (23)
  • (7)
本棚登録 : 1012
感想 : 237
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488025281

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 明林書房で新人営業マンとして働く井辻智紀の話で短編集。他社営業マンとの関わりや書店員とのやりとりが面白かった。

    日常の何気ない会話、言葉から問題が生じていく。約束の為に言った言葉が足枷となって仲違いになったり、たまたま聞いた会話を勘違いして傷ついたり、悪意に満ちた言葉で人を傷つけたり、と言葉には魔力みたいな物がある。一回発せられた言葉はもう戻せない。そういう困った状況を解決に導いていくのが井辻くん。井辻くんの奮闘がとてもいい。井辻くんとセットで登場するのが、佐伯書店の営業マンの真柴司。この真柴がすごくいい味を出している。

    あと好きなのが、違うシリーズの成風堂書店事件メモの「ようこそ授賞式の夕べ」にも出てきた"マドンナの笑顔を守る会"のメンバーたち。イカつい男性ばかりで、集まるとギャーギャーうるさい。でもこのメンバー、細川、岩淵、海道、真柴、井辻が結束すると無敵になる。他社の営業マンだから均衡が取れてていいのかも。同じ会社の営業マンだと歪み合って結束する事はたぶんないと思う。

    最後の話が良かったな。なんだか加納朋子さんとコラボしてるみたいだった。淡ーい初恋の話が私には、ジーンときた。成風堂書店員事件メモシリーズの登場人物もちらりと出てきたし、楽しかった。

    井辻くんの先輩の吉野に会ってみたい。男前で仕事ができ、人望もある。私もそんな営業マンがきたら、心が弾んでしまうかも。

  • 久しぶりの再読。

    大崎さんの書店員シリーズがお好きな方なら楽しめる。書店員シリーズとも微かながらリンクがある。

    主人公は『老舗ながらもかろうじて中くらいといえる程度の』明林書房の営業マン。
    そんな彼が遭遇する数々の事件を解いていく。
    自社本をキャンペーンまでしてたくさん売ってくれた書店を訪ねると意外な対応をされたり、新人賞の贈呈式で受賞者が現れず、各出版社の営業マンたちの間でマドンナと言われる書店員が中傷されたり、小さな書店の店主が閉店直前に謎の言葉を漏らしたり、ポップコンテストの舞台となった平台である特定の本が動いたり。

    謎解きそのものは捻り回したり弄り過ぎたものではなく、割りとシンプル。
    それでもその奥にある何故という部分やドラマの部分で読ませてくれる。この辺は書店員シリーズと共通しているかも知れない。

    新人営業マンの井辻が様々な曲者営業マンや書店員さんたちに揉まれながらも、決してスレることなく真っ直ぐに謎解きに立ち向かう様は好感が持てる。
    とは言え、この作品が出版された2008年の時点でも業界の事情は厳しい。
    小さな書店は廃業してしまうところもあるし、営業していても何とか踏みとどまっているという状態。
    そんな中でライバル社同士が協力しあって業界を盛り立てようとしていたり、地方でも頑張っている書店に感激したり、デビューが不安になった新人にエールをおくったり、実情はともかく井辻の周囲は厳しくも温かい。

    また井辻の一つの本にのめり込みすぎるという特性も面白い。
    『十角館』や『斜め屋敷』のジオラマはぜひ見てみたい。

  • 私が初めてアルバイトをしたのは本屋さんだった。以来、本に携わる仕事につきたいと思いながらも叶わずにいる。この本の主人公は中堅(より少し下)出版社の新米営業さん。自社の本を売るために奮闘して、それが売り上げに繋がった時の喜びはひとしおだろうなぁと出版社の営業に対する憧れ(実際は大変だろうが…)も強くなった。ちょっとした謎解きも面白く、少し泣ける話もあり。悪者がいない、不幸にならない所も良かった。本に関係する話で不幸になったりするのは切ないもんね。

    それにしても、最近の書店事情は厳しい。私が初めてアルバイトをした本屋も閉店し、駅前の小さいながらも品揃えが抜群だった本屋も閉店。この本の中にも町の小さな本屋さんが出てくる。私も子供の頃通った小さい本屋があった。お父さんから図書券を貰う度、それを握りしめてルパンシリーズを買いに行ったものだ。大型書店も良いが、家の近所で気軽に立ち寄れる本屋さんが閉店してしまうのは本当に切ない。人々の書籍離れもあり、インターネットで注文や読む事もできる便利な世の中で、このまま本屋さんがどんどんなくなってしまうのかなぁ。

  •  出版社の若手営業マン井辻くんの奮闘を描いたお仕事ミステリー。5話からなる。

         * * * * *

     出版社の営業はかなりキツイと聞いているので、明林書房のような自己裁量権の大きなところが本当にあるならいいなあと思いました。

     一方で、個人書店や中規模書店の厳しい状況はわりときちんと描かれていて、自分の住む町の最寄り駅周辺に4軒あった書店が全て潰れたのを見ているだけに暗澹とした気持ちになりました。

     ライトミステリー仕立てで、読みやすく退屈させない作りはよかったと思います。少し軽すぎる気がしないでもないですが、お伽噺的な感じで捉えるとおもしろい作品でした。(余談ながら、懐かしい絵本が出てきたのが何か嬉しかった。)

  • 通院のためにひっつかんだ第2弾。
    本関連続きなので、この辺で当たり障りのない?推理小説を挟むか迷って、やはり開いてしまった。
    気になるから。
    個人書店の本(早川義夫さんの)の記憶が新しいので、本屋さんってたいへんだよね、の気持ちのまま、今度は出版社の営業さん視線での本。

    旧担当者の吉野さん人気に凹みながらも書店をまわる入社3年目営業マンの井辻くん。
    営業先で出会うささやかなミステリに「あれ?」と足をとめ、鮮やかに解決。
    明林書房の本をプッシュしてくれているのに、井辻くんに急につめたくなった店主の謎。「平台がおまちかね」
    素敵な品揃えの本棚をつくる、営業のマドンナ的存在の女性店員から突然笑顔がなくなった。「マドンナの憂鬱な棚」
    新人賞受賞者の失踪事件。「贈呈式で会いましょう」
    仙台の個人書店が閉店。この書店前に佇む青年とは?「絵本の神様」
    とある書店で各出版者の営業がポップを競うことになる。飾りつけられた台の上で本の山が移動する。「ときめきのポップスター」

    解決は鮮やかなのに、女性を誘うことを考えたり、愛称で呼ぶことを思ったりしただけではにかんでしまう、井辻くん。
    そして「なんて罪作りな男だろう。いや、お客さんである女子高生さんにちょっかいを出すことからして許せない。心温まるやさしい読み口の本を紹介するなんて、ほとんど犯罪だ。」なんて憤ることもある。
    そんな井辻くんに絡んでくる他出版社の営業さん方がまた個性派、曲者揃い。本屋さんで営業さんを探してしまいそう。
    謎はちょっと切ないものもあるけれど、最後は笑顔になれる。ホカホカするミステリ。

    本屋さんが舞台なだけに数々の本が登場し、それがまた懐かしかったり、読んでみたくなったり。
    ずっと迷ってた「ななつのこ」シリーズ、やはり読もうかな。
    ジョン・ダニングの続編かあ。気になるけどなあ。

    「少ないお客さんを奪い合ってどちらが潰れるのではなく、お客さんをなんとして増やして、両方とも生き残っていこうって。きれいごとや理想論じゃないです。小さいところが潰れて大きいところだけ残っても、その大きいところはもっと大きなところ相手に、いずれ立ち行かなくなります。そして残るのは大きな街の大きなチェーン店のみ。本屋は、そこに足を運ぶ人たちだけのものになる。それはあんまりじゃないですか」
    チビちゃんたちがお小遣いを握って走って行ける、そんな本屋さんたちがんばれ!

  • 出版社の営業がどんな仕事をするのかよくわかるし、軽い謎解きしながら小話ずつ話が進むので読みやすい。漫画の響も出版社の話で面白かったけど、出版社も営業と編集でずいぶん仕事が違うもんだと思った。成風堂と話が繋がってるのも嬉しかった。ポップで出てきた本も読みたくなったし、本が好きな人なら普通に面白く読める本だと思う。

  • 謎が難しすぎて、いやいやそのヒントだけでは絶対わからんやろ!と突っ込みたくなりますが、ひつじくんならぬ井辻くんはなんとも鮮やかに謎を解いてくれます。ライバルかつ仲間である他出版社の営業さんも強烈。本好き、本屋好きにはたまらない舞台裏描写がいっぱいで、本屋さんに行くのが楽しみになります。

  • 出版社の営業という、わかるようなわからないような仕事でありつつ本好きな人がうっとりしちゃうようなお仕事世界のおはなし。

    出版社の営業。
    本が好きな人って、欲しい本の在庫がなくても取り寄せて買ったりするからあまり営業の必要ないんじゃない?って思っていたときもある。

    でも、街の本屋さんが次々に姿を消し、売れ筋商品ばかりを大量に陳列している本屋さんが増えてきている今、営業さん頑張れよって思う。
    まだ知られていない面白い本を、ガンガン本屋さんに売り込んでって。

    去年の集英社の夏の100冊。
    イメージキャラクターは今を時めくAKBだったのに、売り上げは芳しくなかったらしい。
    でも、次男が働いている道東の本屋では突出して売れたらしい。
    集英社の営業さんがそう言っていたと、次男から聞いた。
    そんな田舎にも営業さんって行くんだと、その時思った。

    さて、肝心の本書だが、ミステリとしての謎は弱いように思った。
    思った通りの展開で、意外性はあまりない。
    文章ももう少し推敲して、指示代名詞や会話の主体がわかりやすい文章を心がけてほしいと思う。

    けれど、読んで楽しいんだよね。
    この本がこんなふうに使われている、とか、うんうんわかる、とか、この本読んでみたい、とか。
    私も本に関わる仕事をしたかったぜ!

    特に四話目の「絵本の神さま」
    紹介されていた絵本は全部うちにある。
    学校の授業で絵本の勉強もしたけれど、今うちにある絵本のほとんどは自分が母になってから買ったもの。
    当時近所にあった本屋さんが、ロングセラーの絵本のほかに、新しくて面白い絵本もたくさん置いていてくれたから。

    本屋さんに「この本はどうですか?」と本を紹介したり、フェアの提案をしたりして、本屋さんと私たち読者をつないでくれる。
    地方の本屋さんに、他店の情報や業界の裏話など、生の情報を伝えてくれる。
    そんな目立たなくて手間のかかる仕事を、主人公井辻君のような営業さんが日々こなしてくれているんだなあ。

    私たち読者が直接接することはないけれど、営業さん、これからもいい本をたくさんよろしくお願いします。

  • このシリーズがあるのは知っていたけれど、成風堂シリーズを読み終わってから…と思っていたら「ようこそ授賞式の夕べに」で井辻くんが絡みまくっているではありませんかΣ(-∀-;)読むの中断して急いで図書館へ井辻シリーズを借りに行きましたよ(;^_^A でも借りてきて良かった!井辻くんの好青年ぶりと謎解きに、すっかりハマった(^o^)そして今では真柴さんと同じく「ひつじくん」と呼んでいます♪

  • 出版社勤務に憧れる(*´`)♡

全237件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

大崎梢
東京都生まれ。書店勤務を経て、二〇〇六年『配達あかずきん』でデビュー。主な著書に『片耳うさぎ』『夏のくじら』『スノーフレーク』『プリティが多すぎる』『クローバー・レイン』『めぐりんと私。』『バスクル新宿』など。また編著書に『大崎梢リクエスト! 本屋さんのアンソロジー』がある。

「2022年 『ここだけのお金の使いかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大崎梢の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×