夜明け遠き街よ

著者 :
  • 東京創元社
3.30
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488024970

作品紹介・あらすじ

クラブ経営を夢見るホステスが巻き込まれた奇妙な事件、地上げ騒動の陰に暗躍する女、望むものはすべて手に入れられる実業家のとてつもない浪費の顛末、そしてその莫大な金に群がる政治がらみの男たち-。1980年代、空前の好景気に沸く札幌ススキノ。東京以北最大の歓楽街で繰り広げられる、男と女の群像劇。

感想・レビュー・書評

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  •  出来過ぎではない、そういう時代だったと思える、説得力を持っている文章。

  • 2015.9 すすきのに今度行ったら、街をよく眺めてみようと思う。バブルの頃を思い出しながら。

  •  すすきのという北の不夜城は、ハードボイルドを展開させるのに決して向いていない街じゃない。常々ぼくはそう思ってきたし、東直己という作家も頑張ってそのことにこだわった作品作りを重ねてきてくれた。最近は同氏の『探偵はバーにいる』はシリーズとして二本も映画化されるに至り、このままシリーズ化されても当たるのではないかとの期待が入るくらい、フィルム・コミッションでも優れた価値を見出されているすすきのである。

     でありながら、本格ハードボイルドの息づくすすきの小説としての決定打はなかなかなかったように思う。だからこそ、本書の価値はすすきのを舞台として信じてきたぼくのようなこだわり読者にはこの手の作品の価値がたまらなく高く感じられるのである。

     高城高。釧路や仙台をそして札幌をハードボイルドの舞台として書いてきた、元道新のブンヤであった書き手。記者人生の後にふたたび戻ってきてくれた作家として日本ハードボイルドの読み手たちが手を拱いて見守っているこの注目すべき作家が、証明してくれたのである。すすきのがハードボイルドの街であることを。否、かつてそうであったことを、だろうか。

     かつてバブルたけなわであった時代のすすきのを舞台に黒服として生きた男の、ストイックでたまらない人生の方式をきっちりと描ききってくれたのがこの小説。特にミステリーやハードボイルドの体裁を取っていない連作短編型式の小説群とは言え、一冊の長編として、次々に主人公の前に迫る様々な障害を彼なりの一流の流儀で解決してゆく有様は、他の凡百なドラマでは決して味わうことのできないビター・ストレートである。

     ぼくが札幌に暮らし始めたとほぼ同時に、バブルははじけた。某大手金融機関が倒産し、少なからぬ影響が周囲にも出た。犠牲者も。それを弔う悲しい家族や関係者の姿も目撃した。バブルが遠くなる頃に使ったタクシー・チケットを見て運転手が懐かしいなあ、今時チケットも使われなくなったけれど、バブルの頃は誰も彼もがチケットを束ごと持っていた、と話すのを聞いた。

     ぼくの知らないバブルのすすきのを再現してくれたのが本書である。その頃夜の街を通り過ぎていたいくつものの札束と、高級酒と、きらびやかな電飾に、美しい女たち。その裏側で対立する組織や警察の暗闘。経済の冷たい戦争。

     当時の街を再現したかった、と作者があとがきで語る以上のことをこの小説はやっているような気がする。ぼくの知らなかった街と時代とを、この小説はそこらを歩いている若者たち以上に生き生きと魅力的な人間たちを再現することで、まるごと復活させているようにしか見えないのである。

  • 主人公が出来すぎかな。

  • (収録作品)引き屋の街角/預金残高一億一千万円也/フィリピン・パブの女/百万円の花籠/マンション・コレクター/赤ヘネと札束の日々/夜明け遠き街

  • 20130124 久しぶりにクールな本に会った。最後までレベルがキープされていて楽しめた。

  • ススキノの黒服、黒頭のスマートなタフさとどこか不器用なところが魅力。連作短編7編で、物語が進んでいくが、最後まだまだ続きが読みたくなる。

  • こうじょう こう。
    全く知らなかったが朝日書評で、この作家のことを知る。
    バブル絶頂期の札幌ススキノ、何て最高な設定なのだ!
    飲み代一回400万をポンと払う、居酒屋経営の社長。
    彼のデパートでの買い物は一回で1000万。
    この社長朝原が絡んでくる話、わいろばらまきでホテルのベッドに札束を敷き詰めるとこなどの描写が、リアルなバブル。

    そして、語り口と展開がリアルなハードボイルド。
    ススキノと言えば、東直己のシリーズもあるが、こちらの抑えたトーンも味わいがある。
    一つ一つの描写が、ススキノ知っている人ならば分かるはず。
    ”ススキノ交番のタクシー乗り場には、長い列が出来ているはずだった”が
    はるか遠い昔に感じるな。
    「私はススキノのこの今の時間が一番好きだわ。夜がずっと続くような時間を感じているときが」
    東京では味わえない、ススキノの感じがよく表れている一言です。

  • ハードボイルド,というものだろうけど,嫌な印象は全くなく,私が言うのもなんだが良質なんだろうなと思う。ただハードボイルドって男の理想というか願望なんじゃない?と言いたくなる。実際はもっと汚いものなんじゃないのか。あと東野圭吾が「時代小説」って言ってたけど,これもそれに近いんだろうな。

  • すすきの、ニュータイガー。黒服

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著者プロフィール

1931年1月17日、北海道生まれ。本名・乳井洋一。幼少時に宮城県仙台市へ移住し、以降は宮城県在住。進駐軍や米軍人、英語教師だった父から入手したペーパーバックで海外小説を読み漁り、特にハードボイルド小説を愛読した。東北大学文学部英文科在学中に執筆した「X橋附近」は江戸川乱歩に絶賛され、55年に『増刊宝石』へ掲載されている。57年に北海道新聞社へ入社してからも兼業作家として短編を書き続け、70年で断筆するが、2007年から再び創作活動を再開した。主な著書に『微かなる弔鐘』(光文社)、『墓標なき墓場』 (光風社)、『函館水上警察』(東京創元社)、『眠りなき夜明け』(寿郎社)など。

「2022年 『フェンシング・マエストロ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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