刀と傘 (明治京洛推理帖) (ミステリ・フロンティア)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488020064

作品紹介・あらすじ

慶応三年、新政府と尊皇攘夷派の対立に揺れる幕末の京都で、若き尾張藩士・鹿野師光は一人の男と邂逅する。姓は江藤、名は新平――後に初代司法卿となり、近代日本の司法制度の礎を築く人物である。二人の前には、時代の転換点がゆえに起きる事件が数々と待ち受ける。維新志士の怪死、密室状況で発見される斬殺体、処刑直前に毒殺された囚人――第十二回ミステリーズ!新人賞受賞作「監獄舎の殺人」を含む、幕末から明治初頭にかけての日本の動乱期を活写した連作時代本格推理、堂々登場。

感想・レビュー・書評

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  • 鹿野師光と江藤新平。
    信念を持って生きた男たちが、それぞれ立場を変えながら、かかわっていく。

    ふたりの心情と時代背景がえがかれ、幕末から明治を舞台にした時代小説として、まずおもしろかった。

    そこに加えられるのが、隠れ家や密室での死。
    ミステリ要素は少なめだけど、話の中で不自然にならず、うまくまとまっていた。

    『このミステリーがすごい! 2020年度版』国内5位。

  • ミステリーというべきか、エンタメというべきか。
    幕末から明治維新直後を舞台にした、事件の謎解き物。
    探偵役が、佐賀の乱を起こした江藤新平なのだから興味深い。

    「佐賀から来た男」…信頼出来る仲間にしか扉を開けない男が自室で殺されている。殺したのは限られた関係者の中の誰なのか。
    「弾正台切腹事件」…室内から心張り棒で閉じられた密室状態で発見された刺殺体。犯人はどうやって殺したのか。
    「監獄者の殺人」…処刑を控えた投獄人が獄舎内で毒殺された。間もなく死ぬ人間をなぜ殺す必要があったのか。
    「桜」…囲われ者の女が主人と女中を殺し、縁のある男の仕業に見せかけた。女はなぜ彼らを殺したのか。
    「そして、佐賀の乱」…下野途中に京に寄った江藤は嵌められて殺人事件の容疑をかけられる。自分以外アリバイがある中で、江藤は身の潔白を証明出来るのか。


    誰が、どうやって、何のために…など、本格ミステリーの謎解き要素を盛り込みつつ、幕末から明治にかけての時代の変遷と殺伐とした社会の空気と政局の転変とを描いている。
    いずれも武士の時代から西洋化へ、封建社会から法の社会へ、攘夷から開国へと移り変わって行く中で、一気に変わるわけではなく、行きつ戻りつ、或いは変わる人間もいれば変われない人間もいるという、そういう混沌とした社会や時代ならではの事件で、なかなか興味深かった。
    江藤新平とコンビを組む尾張藩士の鹿野師光もなかなかの曲者であり、出来物でもあり、彼らのような人物がどう新しい日本を形作っていくのか、もっと見たかったように思う。

    この時代は次々とヒーローが現れては消えていき、また新しい人物が現れるという状況で、あの人が殺されなければ、もっと生きていてくれれば、という人物も数多い。
    これだけ時代や価値観や思想が変化する中で、己の信念や正義を貫き通すというのは簡単なことではないだろうし、そのためには少々、いや多くの汚れた部分も背負わなければならなかっただろうなとも思うと、現代よりもっともっと強固な覚悟と実行力を持つ必要があったのだろうし、実際そういう人が多くいたのだろう。

    一つ、「桜」の事件は江藤がそこまでして犯人を捕まえる必要があったのかと疑問。犯人が捕まろうが、犯人が絵を描いた通りに事件を収拾しようが同じようにも思えるのだが、そこは法を遵守することを理想とした江藤には許せなかったのか。

  • 「黒牢城」を読んで歴史ミステリに興味がでてきたので。
    切れ味の鋭い本格ミステリ短編集。新人賞受賞作「監獄舎の殺人」がいちばん面白かった。最終話の「そして、佐賀の乱」は読むのが辛くなるほどに心に迫る話だった。しかし、主人公だけ台詞の方言があるのはなにか理由があるのだろうか? いっそ全員方言なしでもいい気がして不思議。

  • 幕末から明治にかけての激動の時代の京都を舞台に起きた殺人事件を尾張藩士公用人·鹿野師光と佐賀藩士·江藤新平が解き明かす短篇集。時代背景もあるけど密室の成立が甘いかな、と思っていたらそれを逆手に予想外の締め方に持っていかれる。内側から閉ざされた部屋の中で介錯を受けた切腹死体が見つかる「弾正台切腹事件」処刑当日に監獄の中で目の中で毒殺される囚人「監獄舎の殺人」の展開が特に。また時代が進むに従って二人の立場が変わっていき、それぞれの信念の違いが産み出す未来は重く切ない。これがまた上手くミステリ部分に絡んでいて唸る。江藤は史実の人物だけど詳しくは知らなかったので背景把握していたらより楽しめたのかも。

  • 大政奉還の頃、名古屋出身の武家、鹿野師光は手足が短く背も低い。しかし、腕は立つし、頭も回る男である。攘夷と開国に分かれて色々な思惑や動きがあるなか、開国を主張していた有力な五丁森が殺害される。残された状況から犯人が推理されていく。たまたまそこに来ることになっていた、佐賀藩の江藤新平が推理に加わる。
    主に江藤と師光ふたりの関わりと、時代が移り変わり、二人の立場が変わりながら事件が起こって、頭の切れる二人が推理していく(立場により積極的だったり、隠蔽したり色々)。史実と合致しながら展開していき、なかなか面白く読んだ。しかし!佐賀の乱の江藤が主役の一人である時点で結末がハッピーじゃないんだよね…。架空設定で良いから、こういう推理物でスカッとするのが読みたかったです。
    ちょっと難しいから高校位からかな。歴史好きなら中学から。殺人シーンあり。

  •  幕末から明治初期にかけて、激動の時代に生きた者たちを題材とする、時代ミステリ短編集。
     新政府にて、初代司法卿となる江藤新平と、旧尾張藩出身の官吏である鹿野師光。
     型の異なる二人の探偵役が、時に協力し、あるいは対峙する中で、維新前後の世情を反映する、不可解な事件の謎を解いてゆく。
     二人の出逢いと決別を主軸に、時代背景が産み落とした、多くの蟠りや翳りを掬い取る。
     無残に散った志、権力闘争の篩い落とし、敗者の鬱屈、新時代の矛盾。
     動乱期における、人間のエゴの露悪と、やりきれない収束が哀しい。
     連作形式で積み重ねる構成の妙は読み応えはあるが、終盤はやや駆け足の感があるのが、少々残念なところ。

  • 明治を舞台に本格ミステリ。
    すごくしっかりとしたミステリで、とくに「佐賀から来た男」の明治という時代性から来る動機と事件の様相や「監獄舎の殺人」ロジックから見えるグロテスクさ。
    最後の幕切れも含めて面白かった。
    そして山田風太郎の明治ものに通じる目線を感じた。

  • 3年前、短編「監獄舎の殺人」を読んだ時、時代ミステリとして実に良く出来ていて衝撃を受けた。この新刊はその短編を含む5作の連作集。いづれも面白く、あの1作が偶然の産物じゃ無かった事が何より喜ばしい。
    激動の時代と言われる明治維新の頃に起きた不可解な事件。実在した人物や歴史上の出来事を踏まえながら、全くのフィクションを創り出す著者の文才に恐れ入る。それが破綻の無い本格ミステリにもなっているのだから、ただもう凄いとしか言えない。傑作。

  • 「監獄舎の殺人」で第十二回ミステリーズ!新人賞を受賞し、本作は新たに連作短編集として再編された時代本格ミステリです。

    主役の二人は佐賀藩士の江藤新平と尾張藩士の鹿野師光。江藤新平は言わずもがな佐賀の十傑とも謳われる明治維新の政治家ですが、鹿野は作者オリジナルの架空人物のようです。江藤がホームズばりの推理を披露する役割ならば、鹿野はワトソン役で、時に暴走気味の江藤を上手くコントロールする役割でしょうか。しかしながら、ホームズ&ワトソンのような相思相愛の相棒関係とはいかず、各々の信じる正義の違いにより不協和音が生じるようになります。事件のトリックそのものは本格の部類に入るとは言え、さほど難しいものではないですが、事件の動機はその時の時代背景や二人の正義のすれ違いによるものが強く出ていました。
    時代考証も上手く、ミステリと歴史の両方を十分に楽しめましたが、もう少し二人のすれ違いの過程を丁寧に描いてほしかったかな。江藤と鹿野のコンビ感が悪くなかっただけに、せめてあと2,3話、この二人で読みたかったかも。史実上、江藤の結末は決まっているだけに仕方ない面もあるけれど、ちょっと勿体ないし、物足りなさも感じてしまった。シリーズ化は無理だとしても、また別の時代ミステリでお目に掛かりたい作家さんだと思いました。

  • 20代のデビュー作とは思えない貫禄の出来。情念滲む物語と人工的・倒錯的なホワイのコントラストは、時代性もあいまって連城三紀彦の花葬シリーズを思わせる。

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著者プロフィール

ミステリ作家。1991年、愛知県生まれ。同志社大学ミステリ研究会出身。「監獄舎の殺人」でミステリーズ!新人賞を最年少受賞。2018年に同作を収録した『刀と傘 明治京洛推理帖』(東京創元社)で単行本デビューし、翌年に本格ミステリ大賞を受賞した。このほか著作に、『刀と傘』の前日譚となる『雨と短銃』(東京創元社)、『幻月と探偵』(KADOKAWA)がある。

「2022年 『京都陰陽寮謎解き滅妖帖』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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