ルピナス探偵団の憂愁 (創元クライム・クラブ)

著者 :
  • 東京創元社
3.66
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本棚登録 : 224
感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488012250

感想・レビュー・書評

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  • まんまとしてやられました! 作者、津原泰水さんに。
    こんなに美しい、心に沁みる騙し方があるなんて。
    この本を読んでしまうと、☆4つしかつけなかった前作『ルピナス探偵団の当惑』に
    今からでもこっそり、☆を5つ付け直したくなってしまいます。
    「購入代金を送ってもいいから読んでほしい!」と薦めてくださったブクログ仲間さんに
    ルピナス学園の生徒よろしく、感謝の祈りを捧げなくては!

    前作の登場人物紹介ページで、並み居る「〇〇にたけた少年少女」に混じって
    ただひとり、「さして取り柄のない美少女」と紹介された、摩耶。
    「さして取り柄がなくたって、少女の前に『美』ってつくだけいいじゃない」
    なんて羨ましがりながら読んだのだけれど。。。

    取り柄がないどころか、白塗りしただけで聖母像と見紛うような美貌は
    単なる天からの授かりものではなく、卑怯さから少しでも遠ざかろう、
    透き通った心で生きようという決意から滲み出た美しさだったのだと知り
    うれしくて、せつなくて、胸が熱くなるのです。

    市立公園として寄贈した土地に、なぜ摩耶は曲がりくねった舗装路を造らせたのか。
    物語を秘めたアンティークに目がない教授の庭で吠える、ハチ公の子孫との触れ込みの犬。
    主人公彩子が遭遇した初めての密室事件の犯人の息子との、まさかの再会。
    そして、彩子たちの卒業式を延期させた、ルピナス学園ならではの哀しい殺人事件。

    『ルピナス探偵団の憂愁』は、学園を卒業して7年後から時を遡りながら
    4つの事件を通して、「ほんとうの摩耶」を再発見していく物語なのです。
    そして、ほんとうの摩耶の言葉で語られるルピナス探偵団の仲間たち、
    彩子、祀島、キリエの、なんと輝きに満ちていることか。
    3体の聖母像に見守られ、軽口をたたき合った日々は戻らない。
    煙となって空に昇っていったひとも、二度と戻らない。
    でも、培った友情と温かな記憶は、生きていく彩子たちのこれからを
    きっと、揺るぎなく支えるのです。

    ラストに近づくにつれ、「終わらないで!」と叶わぬ願いを噛みしめましたが
    私たち読者は、「最期なる睡りののち」ではなくても
    また最初の頁を捲れば、ルピナス探偵団のなつかしいみんなに逢える。
    心も姿もとびきり美しかった摩耶を喪って
    何十年後かの再会を夢見る彩子たちには、なんだか申し訳ないけれど
    何度でも時間を巻き戻して、また彼女たちに逢うために
    ずっと手もとに置いておきたい本です。

    • kwosaさん
      まろんさん!
      なんだ、会えたんじゃん。

      なんて馴れ馴れしいあいさつ、失礼しました。
      でも、お忙しいなか旅先の書店でまで本を探してくださった...
      まろんさん!
      なんだ、会えたんじゃん。

      なんて馴れ馴れしいあいさつ、失礼しました。
      でも、お忙しいなか旅先の書店でまで本を探してくださったり、そこまでして読んでくださったまろんさんに、キリエ風に言ってみたかったのです。

      まろんさんの素晴らしいレビューに胸が熱くなっています。
      そして一読した時には気づかなかったさまざまなことに思いを馳せ、せつなさが蘇ってきました。

      >また最初の頁を捲れば、ルピナス探偵団のなつかしいみんなに逢える。

      第一話のあのキーアイテムはまさにその象徴だったんだな、とあらためて気づきました。
      百合樹のもとにルピナス探偵団が集結し、摩耶が封じ込めていた時間がふたたび動き出す。
      津原泰水さんのミステリの謎解きにとどまらない小説のマジックに心揺さぶられます。

      >何度でも時間を巻き戻して、また彼女たちに逢うために
      ずっと手もとに置いておきたい本です。

      いま、ルピナス探偵団の誓いの言葉が頭のなかでリフレインしています。
      この本を読んでくださった、そして僕にこの本を読むきっかけを与えてくださったまろんさんに、こちらこそ感謝の祈りを捧げなくては!
      2013/07/11
    • まろんさん
      kwosaさん!

      馴れ馴れしいだなんて。最高に素敵なご挨拶です!
      あの、照れ隠しで言いたいことを究極まで削り取ったような、
      キリエ独特のぶ...
      kwosaさん!

      馴れ馴れしいだなんて。最高に素敵なご挨拶です!
      あの、照れ隠しで言いたいことを究極まで削り取ったような、
      キリエ独特のぶっきらぼうなひと言、心に沁みますよね。
      まだ作家になってもいないたったひとりの誰かさんのために編集者を目指すあたりも含め
      今回はキリエの情の深さに何度も泣かされました。

      第一話のキーアイテムの扱い方、kwosaさんがおっしゃる通り、すばらしいですよね!
      読んでいて、あの樹と、そこに小さな手を伸ばす摩耶が目の前に浮かぶようで。
      ルピナス探偵団によって解き明かされた摩耶のけなげな秘密は
      摩耶のうつくしさを再発見した彼らの心を動かし、時間も動かし、
      そして彼らによって、あの場所で大切に守られていくんですよね。
      その秘密に、秘密を守っていく彼らの想いに、
      私たち読者は、時間を巻き戻して何度でも触れることができる。
      なんてうれしいことでしょう!

      2作目を読んで、1作目の評価を付け直したいと思ったのは
      辻村深月さんの『名前探しの放課後』以来です。
      kwosaさんが一緒に読みませんか、と薦めてくださったこと、けっして忘れません。
      いつもすばらしい本との出会いを作ってくださって、ほんとうにありがとうございます。
      実はkwosaさんのレビューのおかげで巡り会えて、感動に震えている本が
      今、もう一冊あるのですが、好きすぎてなかなかレビューを書けずにいる私です。
      2013/07/13
    • まろんさん
      gumi-gumiさん☆

      わあ! こちらこそ、ありがとうございます!
      大好きな本を、同じように好きだと言ってくださる方と出逢いたくてブクロ...
      gumi-gumiさん☆

      わあ! こちらこそ、ありがとうございます!
      大好きな本を、同じように好きだと言ってくださる方と出逢いたくてブクログを始めたので
      そんなふうに言っていただけて、夏バテもどこかに吹っ飛んでいってしまいそうです。
      特にルピナス探偵団については、語り合えるひとが極端に少なかったので
      gumi-gumiさんが「とてもとても」と、二度も重ねてくださったこと、うれしくてたまりません。
      津原さん、このテイストの作品をもっと書いてくださるといいですよね!
      2013/08/17
  • 前作に衝撃的な感銘を受け、即図書館予約し読了。瑞々しくも切ない少年少女たちの探偵物語、泣けた。


    第1話「百合の木陰」彼等が高校を卒業し7年が経過、メンバーの一人京野摩耶が難病で命を落とす。彼女が死の直前に作らせた小路の謎に彼等は挑む。最初からメンバーの死によりルピナス探偵団の崩壊が読者に突きつけられる。ここから時間は遡る。

    第2話「犬には歓迎されざる」彩子と祀島クンが通う大学の人気講義の教授をめぐる傷害事件、祀島クンと教授のやりとりがよい。

    第3話「初めての密室」彩子が初めて解明した密室殺人事件の終わっていなかったその後を描く。1話で故人となった摩耶の活躍に胸躍る。

    第4羽「慈悲の花園」卒業を目前に控えた彼等の母校ルピナス学園で起こった殺人事件、そして解決後卒業とともに彼等の立てた「誓い」が第1話に戻って大きな余韻となって読者を襲う。煌きと絶望の交叉するありきたりの物語(殺人事件は除く)に落涙を禁じえない。

    ミステリとしては前作の流れを踏襲しており、「なぜ?」の解明が謎解きの主眼である。しかしながら軽妙洒脱な会話、笑いに加え、家族、友人との絆までもが背景に描き込まれており、3話4話での摩耶の活躍から故人となった彼女の人生を浮き上がらせていく物語という見方もできる。

    そして2話以降、謎の解明はされるがその後の解決は語られない。社会に出ている彼等ルピナス探偵団メンバーの成功も挫折も語られない。彩子と祀島クンの恋の行く末も語られない。その語られない物語を想像する時、読者は自ずと己の歩んできた道をも振り返り、また涙するのだ。

    この歳になるとこういうのに弱いな…

    • kwosaさん
      しろさん!

      >そして解決後卒業とともに彼等の立てた「誓い」が第1話に戻って大きな余韻となって読者を襲う。

      本当にそうでしたね。
      普通であ...
      しろさん!

      >そして解決後卒業とともに彼等の立てた「誓い」が第1話に戻って大きな余韻となって読者を襲う。

      本当にそうでしたね。
      普通であれば清々しいエンディング。
      確かに読後感は爽やかなのですが、その爽やかさ故に、あとからじわじわと切なさが増幅してくるというのが憎い。

      ミステリとしても「なぜ?」に主眼を置くことによって人物の姿が克明に描かれる。それによって物語がまた豊かになるのでしょうね。

      >この歳になるとこういうのに弱いな…

      まったく同感です。
      2013/06/05
    • しろコシオさん
      kwosaさん
      コメントありがとうございます、ホントなんだか瑞々しいのに弱くなってきちゃいますね(笑)
      津原泰水は最近また1冊読みまし...
      kwosaさん
      コメントありがとうございます、ホントなんだか瑞々しいのに弱くなってきちゃいますね(笑)
      津原泰水は最近また1冊読みました「蘆屋家の崩壊」です、ルピナスとは全くカラーが違いますがなかなか面白かったですよ!
      2013/06/05
  • 冒頭、衝撃的な〈彼女〉の死から始まり、高校の卒業生まで逆回しにすすむ彼女達の季節。
    この逆回しの順番は、〈彼女〉や学園生活の輝きは永遠に戻らないことが強調されるようで、ひどくさびしい。
    でも〈彼女〉の清冽な心に触れ、力強く前を向いて生きてゆける、そんな気がしました。

    津原さんの作品は、とぼけた笑いに満ち、独特の間合いで人の気持ちに迫るオフビートな映画を観ているようでたまらなく好みなんですが、このお話は、深いところで人の悲しみに触れることができた気がして、悲しかったけれどすごく良かったです。

    個人的には、15年前から読んでいるこのシリーズの登場人物と一緒に大人への道を歩んできたような気がして、感慨深いです。
    作中でもこんな感傷を「少女趣味だ」と言わせてるけど、でもそれでいい。少女趣味でいいと思います。

  • ミステリーとしては物足りないんだけど、このシリーズのファンとしてはルピナスの面々に会えたことが楽しい。
    毎回そんなに目立つ活躍もなかった彼女が主人公。
    でも、本を通してずっとメインな訳でないんだけど、でも確かに主人公。
    さだまさしの歌が頭を回った。
    彼女がどんな、思いで生きていたのか、時間をさかのぼることでジンワリとわかってくる。
    上手い!

    前作、今作とずっとシジマくんに違和感を持ち続けたけど、最後に良い奴だったんだとようやく思った。

    • kwosaさん
      shuwachoさん!

      僕もシリーズの大ファンでルピナス探偵団の面々に会えただけですごく嬉しい、なのに切ない。
      でも読後感はとても爽やかで...
      shuwachoさん!

      僕もシリーズの大ファンでルピナス探偵団の面々に会えただけですごく嬉しい、なのに切ない。
      でも読後感はとても爽やかで、その爽やかさが、またあとから切なさをじわじわと増幅させるというのがなんとも憎い。

      shuwachoさんのレビューを拝読して、読後の余韻がよみがえってきました。
      2013/06/05
  • 1作目よりすごく良かった。4つの短編集。主要メンバーの一人をいきなり亡き者にするとは。そして最後の2編ではその摩耶が大活躍なのだ。1作目でとりえがないなどと紹介してたのも伏線ではなかったのかと思ってしまう。時代順じゃない並べ方がほんと絶妙。大学時代、仕事に就いてから。最後に高校の卒業式なんて。何かすごく透明というか、静謐な感じ。青春なんだけど熱さがないというか、清らかな感じというか。最後の祀島君の言葉がほんとに秀逸。女子がみんな泣いたのが分かる。こっちも泣きそうになった。すごくいい終わり方だった。

    我ら四人このルピナスの苑にて
    互いを思いやり互いに献身し
    病めるときも健やかなるときも
    ほかの最良のしもべたらんことを
    そしてまた
    たとえ死が我らを分かつとも
    三度の別離と
    最後なる睡りののちの
    心愉しき再会を
    すなわち永遠の友情を
    固く誓い合う


    2015.12.21
    再読。ほんとにこの本は大好きだ。最後で泣いたと思ってたのに、『泣きそう』だけだったのか??しかし、それ以外にも泣きポイントがいっぱい。最初の摩耶が死んだ時の話。摩耶の夫がキリエの目がずっと怖かったと言ったとこ、摩耶が父に言われたことを守ろうとしたと気付いたキリエの言葉。そしてそこから卒業式まで遡る話の配置。普通なら時系列におくところ、いきなり摩耶を死なしちゃうから、その前の事件が摩耶のためのものに思える。犬の話には出てこないか。最後は覚悟していたけど、それ以上に号泣。涙で文字が見えないなんて。

  • 少女小説家の頃から知っているので(エイリアンシリーズ大好きでした。作者が男性だと知った時の衝撃は今も忘れられません)、「いいもん書くようになったじゃないの」と失礼にも上から目線で見てしまいました。ごめんなさい。

    とても素晴らしい作品でした。
    静謐な文章と軽快な会話とうっすらと積もる哀しみ。
    前作があるようなのでぜひ読んでみたいと思います。

  •  ミステリとしては…かもしれないけど、青春小説としての出来はピカ一。ビデオテープを巻き戻していくかのように時間を遡って行く構成もお見事。ラストシーン、彼女たちの行く末に何が待っているのか判っているだけに、胸が締め付けられるかのように痛くて切なかった(涙)。 「ルピナス探偵団」って人生における黄金時代の物語だったのねえ。作者自らがこんな風に、自らの生み出したキャラクタシリーズに幕を下ろすとは、なんと潔いことだろう。前作も読み返したくなった。

  • 【感想】
    ・ミステリとしてはどこか曖昧な感じなのだけど奇妙なズレ感が面白いシリーズ。
    ・会話が楽しい。
    ・とはいえ、摩耶が亡くなっていることがわかっているだけにどこか哀しみが覆っている。

    【一行目】
     煙が上がっていく。

    【内容】
    ・いきなり摩耶が死んでいる。前の巻から七~八年後だと思われる。生前の彼女の、らしくない振る舞いは彼女の残したメッセージなのか。彩子はそれを受け取ることができるのか。以降の話は摩耶の生前に起こった事件。
    ・名物教授に祀島と彩子が招かれた夕食会の直後に起こった事件。
    ・二重の密室が発生した事件を彩子があっさり解決した数年後、その推理自体に間違いはなかったが新たな展開になった。摩耶が活躍。
    ・理事長が殺害され、彩子たちの卒業式が延期になった。

    ▼ルピナス探偵団についての簡単なメモ

    【吾魚彩子/あうお・さいこ】→彩子
    【吾魚姉妹の両親】父は自動車メーカーの輸出部門所属でブリュッセルに三年間の赴任中。母もついていった。
    【吾魚不二子/あうお・ふじこ】→不二子
    【阿保野/あおの】ルピナス学園のシスター。通い。生徒に厳しい。特に陰険なタイプ。
    【明子】少女時代の野原鹿子と区別ができないくらいそっくりと全国的に話題になったことがある孤児。
    【アルケオプテリクス】喫茶店。都市化石研究会のたまり場。店名の意味は「始祖鳥」。
    【伊勢崎静子/いせざき・しずこ】詩人だが最近は仕事をしていない。おかっぱで年齢不詳。老女のようにも見えるが二十七歳。雪で迷い込んだ館で出会った。天竺桂雅(たぶのきみやび)の友人。なかなかいいキャラクタなので準レギュラーくらいにしたい。化粧を落とすとかなり可愛らしい。
    【磯貝章次/いそがい・しょうじ】フリーの編集者。岩下瑞穂の恋人にして死体の第一発見者。色男で編集センスも抜群。勤野麻衣子(ゆめのまいこ)の高校の同級生で元恋人。嫌味な人物だろうと思っていたらけっこういい人。
    【岩下瑞穂/いわした・みずほ】殺されたエッセイスト。
    【ウド】→庚午宗一郎
    【カスミの社員】音楽関係の商品を手広く扱っている会社の社員。日野家に防音ユニットを納入し日野杏子と不倫関係にあった。ケイリー・グラントにそっくりでモテモテ。恋人はグレイス・ケリーにそっくり。
    【蒲郡要/かまごおり・かなめ】小説家。
    【城崎/きざき】ルピナス学園のシスター。通い。生徒に厳しい。もっとも質が悪く冷酷という人もいる。彩子は意外に好感を抱いている。
    【京野摩耶/きょうの・まや】→摩耶
    【キリエ】桐江泉/きりえ・いずみ。彩子の友人。少年っぽくちょっと乱暴。苗字が名前のようなので「キリエ」と呼ばれている。摩耶とは幼馴染み。頭の廻転は速く行動力もあるが熱しやすく冷めやすいのでなにをやっても中途半端。下級生の女子生徒にモテる。大雑把で行き当たりばったりな推理を平気で開陳する。ただ、現実にはそれが正解という場合も発生することもあるだろう。後に編集者。国立大の理系だったのに彩子の小説を出版するために。
    【久世真佐男/くぜ・まさお】喫茶店「アルケオプテリクス(始祖鳥)」のマスターで都市化石研究会の会員。フッフールという名の犬を飼っている。学生の頃のニックネームは「マーシー」。特徴らしい特徴がなく他所で会ったらそこの人かと思って挨拶するだろうと思われる。
    【熊本柊/くまもと・ひいらぎ】女優。
    【黒須】ルピナス学園のシスター。修道院に住み込み。大柄で男性的。世話好きでよく笑う。
    【庚午宗一郎/こうご・そういちろう】南吉祥寺署で不二子の後輩で上司でキャリア組。見習いだが肩書きは警部補。長身で彩子たちには「ウド」と呼ばれなめられている。キリエ命名のようだ。「憂愁」では警視、役職は刑事官。複数の課の統括役だとか。
    【彩子】吾魚彩子。主人公。探偵役。ルピナス学園生徒。目を閉じたときの闇すら怖い怖がり。ドジでトロくて知識もないが推理力あるいは他の者が気づかないことに気づける視点を持ち、なんとなくで真相がわかってしまう。後に小説家を目指す。
    【茶堂/さどう】ルピナス学園のシスター。修道院に住み込み。他のシスターたちより遥かに若い。凛とした美人。学園から外に出たがらないフシがある。
    【サンジュウ】蒲郡の犬。鉄網のフェンスに口を突っ込んで自ら口輪をはめた状態になりつつ吠えようとすることを繰り返すアホな犬。忠犬ハチ公の子孫という触れ込み。
    【祀島龍彦/しじま・たつひこ】彩子が告白しようとした。博覧強記、雑学オタク。都市化石研究会に入っている。《探求という行為がゲーム性を帯びてしまうのは仕方ないんだ》p.69。《どうも人よりその周囲に目が行ってしまう。》p.71。探偵としては論理的に推理する。森博嗣の犀川先生の劣化版みたいな感じ。ただし最後の決め手にちょっと欠けるところがある。大学は彼のレベルからするとちよっと落ちる大学、彩子と同じ大学に入る。図書館がいいからだとか。その後いろいろ優秀な逸話を残しつつ現在はアリゾナ州立博物館の学芸員。
    【シスター】いちおうミッションスクールだったルピナス学園にはシスターなるものが生き残っていて生活指導に厳しい目を光らせているらしい。六人おり、ミッションスクールの中でも多い方。修道院に住み込み優しくユーモラスなところもある白洲校長、黒須、茶堂、通いで生徒に厳しい阿保野、百瀬、城崎。
    【ジャージ】ルピナス学園のジャージにはセーラー衿がついている。男子のも?
    【石神井玲/しゃくじい・ほまれ】彩子と祀島龍彦が通っている大学の歴史学の教授。英国紳士という感じの人。ニックネームは「シャーロック氏」。年代もののミニ・クーパーを駆る。家の中に家があるような不思議なつくりの屋敷に住んでいる。作家、蒲郡要の隣人。正確には石神井が蒲郡の大家。「不思議の国のアリス」のドードー鳥の講義をしてくれた。胡散臭い品のコレクター。
    【白洲/しらす】ルピナス学園のシスター。修道院に住み込み。自称「名ばかりの校長」。高齢だが動作や口調が少女めいて可愛らしい。
    【杉迫青児/すぎさこ・せいじ】天竺桂邸(たぶのきてい)で出会った二十歳を少し出たくらいの都会的な青年。自称「書生」で天竺桂雅のアシスタント兼ハウスキーパーのような役割らしい。
    【椙村/すぎむら】捜査第一課の女刑事。不二子は「ギス村」と呼ぶ。
    【聖母像】ルピナス学園には聖母像が(見えるところには)三体ある。礼拝堂の副祭壇に古い彩色木像はオランダから寄贈されたもの、運動場の塀の上に白御影石で仏師が彫ったらしい通称「マリア観音」、理事長が就任したときイタリアから持ち込んだ大理石製の「白聖母」。白聖母がやってくるまではマリア観音が前庭の正門のすぐそばにいた。白聖母は以前マリア観音があった場所よりかなり奥まった位置にある。
    【妹尾亮/せのお・あきら】画家。摩耶の実父。殺人を犯した。
    【高幡】飯田橋署の警部補。庚午の同期。長身美形だが女には興味がない。
    【多々良翠/たたら・みどり】ルピナス学園理事長。亡くなっているが後任は決まっていないのでいまだ名義上は理事長。いちおうクリスチャンだが根っからの実業家。男女共学を決めたのはこの人。
    【多津瀬奈緒/たつせ・なお】野原鹿子の付人をしていわ若い女性。遺体がなくなっているのに気づき、その後発見した人物。
    【天竺桂邸/たぶのきてい(仮称)】雪で迷い込んだ館。北と南に二棟並んでいて東西を二階建ての通廊が結んでいるロの字形をしている。中庭は雅の仕事部屋でありそこが「内」、邸全体がむしろ外。近隣では「雪屋敷」と呼ばれている。
    【天竺桂聖/たぶのき・ひじり】雪で迷い込んだ館で出会った十八、九歳の白いイメージの青年(少年)。雅の弟。性格が悪そうだがいちおう一堂を邸に入れてくれたし面倒も見てくれた。
    【天竺桂雅/たぶのき・みやび】超有名作詞家。二十八歳。無名だった学生の頃、品紺社(ひんこんしゃ)という零細出版社から『青薔薇苑』という詩集(曲のない歌詞集)を出版したことがあるらしい。
    【血まみれ伯爵夫人】彩子たちの数学教師。
    【D本R子】日野尋子をストーキングしていたと思われる女子学生。堂本諒子が本名で例によって庚午がうっかり口を滑らせてバラしてしまった。
    【富田林】キリエの知人。大学時代はロボット部。彩子も面識はあるらしい。今は鎌倉技研で介護ロボットの開発にいそしむ。
    【謎の老人】都市化石研究会のメンバー。本名不明。通称「ナゾノさん」。映画に詳しい。そっち系の人だった?
    【野原鹿子/のはら・かのこ】女優。「瑠璃玉の耳輪」の舞台の最中に死んだが遺体が行方不明になり、発見されたときには右手が切断されていた。かつて「手套の麗人/しゅとうのれいじん」と呼ばれていた。喫茶店「アルケオプテリクス」のマスターの遠縁。
    【登別風雲】妹尾亮の先輩格の画家だったが妹尾が怪我をして絵を描けない隙に作風を模倣し似たような作品を矢継ぎ早に発表、妹尾の方が真似をしたような雰囲気になっていた。
    【日影忠治/ひかげ・ちゅうじ】摩耶と結婚した男性。摩耶おは似合わない冴えないおっさん。
    【日野杏子/ひの・きょうこ】娘を殺した。ジンジャー・ロジャースそっくり。
    【日野K太/ひの・けいた】正しくは慶太くん。合コンで一緒になった青年。とある事件の犯人の息子。
    【日野尋子/ひの・ひろこ】実の母親、杏子に殺された。チェロをやってる音大生だった。若い頃のジンジャー・ロジャースそっくり。
    【プール号】不二子の愛車。真っ青で直線的なボルボのステーションワゴンでまるでプールのような見た目。たぶん240かな。
    【フッフール】久世の喫茶店にいる犬。犬種はアイリッシュ・ウルフハウンド。デカい。フッフールという名は『はてしない物語』に出てくる竜から。
    【不二子】吾魚不二子。彩子の姉で九歳~十歳くらい上のようだ。赤々と塗られた唇、ソバージュヘアのお水風なねーちゃん。南吉祥寺署の巡査。「私はほら、逮捕できれば誰でもいいの」p.50
    【ポチ】ダルメシアン。天竺桂邸(たぶのきてい)で出会った。
    【枕崎】野原鹿子のマネージャー。
    【マスター】→久世
    【松代稲子/まつしろ・いなこ】岩下瑞穂の元アシスタント。副業でモデルもやっている長身の女性。
    【松本潔/まつもと・きよし】都市化石研究会会長。パーカー姿の若者だった。薬屋ではない。
    【摩耶】京野摩耶。結婚後は日影姓となり川越の名家で暮らしていた。彩子の友人。お嬢さんタイプ。実際にお嬢様だが。家にベヒシュタインのアップライトピアノがある。「ミス・ルピナス」と呼ばれ男子にモテモテだがちょっと付き合ったらすぐ別れる。キリエとは幼馴染みで合わそうとしていつもひどい目に。けっこう意地っ張り。気持ち悪いことや怖いことがあるとすぐ吐く。それすらカワイイ? 「憂愁」ではいきなり死んでいる。死因は難病フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病。
    【百瀬】ルピナス学園のシスター。通い。生徒に厳しい。阿保野に盲従している。
    【勤野麻衣子/ゆめの・まいこ】教創書房編集者。エッセイスト岩下瑞穂殺害事件の犯人。殺したあと何故か被害者の机の上にあった冷えたピザを食べていった。この事件の謎はそこ。
    【ルピナス学園】ミッションスクール。有名校ではない。元女学校だったが今は男女共学で全体の三割が男子生徒。女子は茶色いセーラー服。
    【瑠璃玉の耳輪】作中で野原鹿子が出演した劇。昭和初頭の探偵もの。リアルで存在する小説。尾崎翠作。

  • ルピナス探偵団が高校卒業後に出会った事件。探偵団のうちの一人が遺した謎の答えは。
    特に話が繋がっているわけではないが、高校卒業へと遡っていくので、切なさを感じさせ、それぞれの台詞を意味深で、輝かせる秀逸な構成。最後の誓いも、青臭くて眩しい。登場人物紹介も相変わらずわざとらしすぎず、振るっている。
    しかし、探偵役は彩子だと思っていたが、いつの間にか完全に祀島君にお株を奪われているな。

  • 前作と違って不二子ちゃんの暴走シーンが少なかったのが残念。少年少女が探偵役を務める作品は結論が独善的になる傾向が。本作では摩耶の犯人への説得がそう思えた。彩子が作家になるのに苦労している状況は、津原さんが経験したことなのかな?

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著者プロフィール

1964年広島市生まれ。青山学院大学卒業。“津原やすみ”名義での活動を経て、97年“津原泰水”名義で『妖都』を発表。著書に『蘆屋家の崩壊』『ブラバン』『バレエ・メカニック』『11』(Twitter文学賞)他多数。

「2023年 『五色の舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

津原泰水の作品

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