あの図書館の彼女たち

  • 東京創元社
3.98
  • (40)
  • (47)
  • (31)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 873
感想 : 56
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488011130

作品紹介・あらすじ

1939年パリ。オディールはアメリカ図書館の司書に採用された。文学を愛する彼女は熱心に仕事に取り組むが、ついにドイツと開戦。図書館は戦地の兵士に本を送るプロジェクトを始める。だがドイツ軍がパリ市内に入り、ユダヤ人の利用者に危機が訪れる。利用者のために図書館員が考え出した方策とは――。戦下のパリと1980年代のアメリカを舞台に、オディールの波瀾万丈の人生と、ナチス占領下の図書館員たちの勇気を描く感動作!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「わたしが本書を書いた目的は、第二次世界大戦の歴史の中の、このほとんど知られていない章を読者と分け合い、登録者を助けるためにナチスに抵抗した勇気ある司書たちの声を記録し、文学への愛を共有するためだった。」
    ー著者の覚書より

    本書は、第二次世界大戦中、オーディルという女性がパリのアメリカ図書館で仕事に奔走し、恋をし、友情を育み、罪を犯し、引っ越した先のアメリカのモンタナ州で、1980年代に中学生の小さな友達・リリーに出会い、過去を回顧しながらリリーと共に時を進む物語を、史実をもとに描いたフィクションだ。
    本への熱意、愛情、それ以上に友人へそそいだ愛情、けれど自身の罪により引き裂かれた友情。
    波瀾万丈というのが似合いの人生を、オーディルは生きてきた。
    主にオーディルとリリーの視点から描かれる構成で、本書が何を伝えたいか、読み進めるにつれて引き込まれながら分かってくる。
    "愛はやってきては去り、また来るものよ。本当の友人ができたら、大切にしなさい。手放してはだめ"
    という本書の言葉が印象に残る。

    それにしても、フランスもまた第二次世界大戦中はナチスに占領され困窮していたことは知らなかった。無知です、はい。
    食料も配給制になり、市民は痩せ、困窮するごとに、友人や隣人に嫉妬の念を抱き、恐ろしい行動に走ってしまう人間の悲しい部分も描かれている。
    これはまだ戦争は起こっていないけれど、コロナ禍の名残(私はまだコロナ禍中にあると思っているが)や物価高に喘ぎ苦しむ今の日本にとっても、他人事ではないと感じた。凶悪な事件が毎日絶えない。
    嫉妬の念に、負の感情に支配された時、そういった感情は誰にでも宿ることを、そしてそんな時にはどうすればいいのか、本書は伝えてくれる。
    ぜひ読んでみてほしい。

  • Janet Skeslien Charles
    https://www.jskesliencharles.com/

    あの図書館の彼女たち - ジャネット・スケスリン・チャールズ/高山祥子 訳|東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488011130

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      本がつないだ絆 戦時下の希望 [評]本山聖子(作家)
      <書評>あの図書館の彼女たち:北海道新聞 どうしん電子版
      https://www....
      本がつないだ絆 戦時下の希望 [評]本山聖子(作家)
      <書評>あの図書館の彼女たち:北海道新聞 どうしん電子版
      https://www.hokkaido-np.co.jp/article/698393?rct=s_books
      2022/06/28
  • 物語は1940年から1944年の間、ナチスドイツの占領下にあったパリのアメリカ図書館ALPで司書として働くオディールの恋愛、友情、裏切りの日々と、1983年、モンタナの小さな田舎町に住むオディールと隣家のリリーというティーンエイジャーの交流の日々が並行して描かれる。
    オディールの双子の兄のレミー、その婚約者で児童書担当の司書ビッツィ、英国大使館随行員の妻としてパリで暮らすイギリス人のマーガレット、オディールの求婚者で警察官のポール、占領下という極限の状況で展開する家族や友人、恋人との波瀾の日々。そして彼女がモンタナに住むに至った経緯が終盤にリリーに明かされる。
    とても良い本でした。

    いくつかの心に響いた言葉
    リリーの母親の死後
    「悲しみは自分自身の涙でできた海だ。塩からい大波が渦巻いている暗い深みを、自分のペースで泳いでいかなければならない。 元気を出すには時間がかかる。 両腕で水をかいていくと、物事が大丈夫なように感じられて、海岸は遠くないように思える日もある。 そこでふと何かの思い出が蘇り一瞬にして溺れそうになり、また振り出しに戻って、疲れ果て、自分自身の悲しみに沈みこみながら、波間に顔をあげていようとあがくことになる。」
    “Grief is a sea made of your own tears. Salty swells cover the dark depths you must swim at your own pace. It takes time to build stamina. Some days, my arms sliced through the water, and I felt things would be okay, the shore wasn’t so far off. Then one memory, one moment would nearly drown me, and I’d be back to the beginning, fighting to stay above the waves, exhausted, sinking in my own sorrow.

    リリーがオディールの過去を疑いオディールから絶交され、教会で神父に尋ねる場面
    「どうして謝ることさえ、させてくれないのでしょう?」
    「ときに、辛い時期を経験したり、裏切られたりしたとき、傷つけた人間を切り離すことがその後を生きるための唯一の手段になる場合がある」
    “Sometimes, when people have gone through tough times, or been betrayed, the only way for them to survive is to cut off the person who hurt them.”

    高校の卒業式でのリリーのスピーチ
    「相手を恨まないように努力する、心の中のことはわからないから。 ひととちがうことを恐れない。自分の主張を守る。辛い時期には、永遠に続くものは何もないということを思い出す。ひとを自分が望むようにではなく、そのひとのままに受け入れる。ひとの立場に立ってみる。あるいは友人のオディールなら、“ひとの身になってみる”と言うでしょう」
    “Try not to hold that against them; you never know what’s in their heart. Don’t be afraid to be different. Stand your ground. During bad times, remember that nothing lasts forever. Accept people for who they are, not for who you want them to be. Try to put yourself in their shoes. Or, as my friend Odile would say, ‘in their skin.’ “

  •  第二次大戦下のパリ。実在するアメリカ図書館と勤務する館長・司書の実話をベースにした物語。
     ナチス占領下にあっても、可能な限り開館し続け、戦地の兵士や病院の負傷兵へ本を届け、更には迫害されるユダヤ人宅へも本を届ける活動を行なっていたことに感銘する。それは、職員が「本の力」を信じていたからに他ならない。
     しかし、この登場人物たちも戦時の激動に飲み込まれていき…。四十数年の時を経て、主人公オディールの心が救済され、新たな希望を灯してくれる終末に感動の余韻が残った。

  • 戦時下のパリでアメリカ図書館の司書として働きながら青春時代を過ごし、本当に戦争に翻弄されて、現代のアメリカで寡婦として過ごす主人公の波瀾万丈の人生を、回想と、アメリカでの隣家の少女の視点から描いた話です。
    戦争は何もかも台無しにしてしまう。これまでに読んだ他の作品でも、この時代が描かれていて、それぞれにやるせない想いがしましたが、今回はなかなかキツかったです。
    主人公の切なさが辛すぎて、小説は良かったのだけど、何か百点満点の評価にできなかった。…って思わされるくらい描ききってるから、満点なのかなあ?(モヤァ)

  • パリにあるアメリカ図書館。
    フランスにおいて英語で書かれた書物を所蔵し、アメリカやその他の国々からきた人たちにとって憩いの場になっている。

    この図書館は第二次大戦中、フランスがナチスドイツに占領されていた時も、閉館することなくサービスを提供し続けた。
    そして、外出や施設の利用を制限されていたユダヤ人の人々に対して、密かに蔵書の貸し出しなども行うという抵抗もしていたという。
    そんな実在する図書館と、記録に残されている実際に起きた出来事をもとに、フィクションの登場人物と実際に図書館で働いていた実在の人物を入り混じらせながら、戦争中に憧れのアメリカ図書館で働くことになった女性、オディール。
    そして、1980年代のアメリカオクラホマ州の街を舞台に、高校生の女性リリーと、その隣人であり、年老いたオディール。二つの時代のオディールと、リリーの二人によって語られる物語。

    そこには大人の世界、自立への憧れがあり、恋があり、友情がある。そして、嫉妬があり、裏切りがあり、悪意もある。
    ナチスドイツは悪の典型として描かれるが、占領期に様々な理由で、かつての友人や気に食わない人たちを「密告」したフランスの人たち。ナチスドイツが敗れたあと、今度はそのナチスに協力して人たちや、ドイツ兵と親しくした女性を売春婦と呼び、髪を刈り晒し者にしたフランスの人たちも描かれる。

    もう一つの時代をレーガン大統領のいた80年代にしたのも、ソ連を極端に敵視していた時代と重ね合わせることで見えてくるものがあるからだろう。

    歴史物として読める事ももちろんだが、リリーの、そして若き日のオディールの、若さゆえの過ちの多い青春物語としても楽しめる。

  • タイトルや帯の文句からすると、ナチス占領下と言う苦しい時にそれでもなんとか図書館を頑張って運営した事が中心に書かれた本と言うイメージを持つけど、
    個人的には勿論それもあるけど、
    より心に残ったのは過去にナチス占領下の中図書館を運営しながらも生まれた図書館員同士の友情だと感じた。
    戦争と言う大きな圧力の中正しい判断力を持つ事の難しさ。
    歪な事がさも正しい事のようにまかり通る。
    そんな中で取り返しのつかない過ちを犯して友情を壊してしまった図書館員のオディール。

    何もかもを捨ててアメリカに逃げてきたそんな彼女の心を救ったのが歳の離れた隣の家に住む学生の少女との出会い。
    少しずつ打ち解け、過去を回想し、友情を育む中でオディールの心も救われていく過程が印象的だった。
    オディールが学生の少女と出会う寸前まで何を思っていたのか。
    初めて出会った時どんな心境だったのかが最後の方に明らかになるあの話の運びは思わずぐっときた。
    いくつになっても人生ではプロローグが始まる事がある。
    その展開がとても素敵だと思った。

  • パリのアメリカ図書館で司書になったオディールと同僚、家族、恋人とのお話。ナチス・ドイツとの戦争が始まって図書館員たちは負傷者に本を届けるという実話に基づいたお話。

    主人公オディールの本に対する熱意がすごい。
    いろんな作品の題名が会話などに出てくるので、お話についていくのに時間がかかりました。
    デューイ十進分類法について知らなかったので勉強になりました。

    思いのほか読み進めるのにかなり時間がかかってしまいました。

  • パリのアメリカ図書館に採用されたオディールは、館長のミス・リーダーら仲間と司書として働きはじめる。時代は、第二次世界大戦中でナチスがパリを侵略しつつあった。ユダヤ人であることから利用すらできなくなったり、ドイツの敵国人だということでゲシュタポにマークされたりしていた。そんな時代のオディールと、1983年のアメリカに住む12歳のリリーの日々が描かれていく。リリーの隣人オディールは、なぜ戦争花嫁と言われいるのか。リリーの母親の死と父親の再婚という変化の中、リリーはフランス語を教えてくれるオディールに支えられ、またオディールがアメリカへ来た訳を知る。

    実際にパリのアメリカ図書館での事実を元にしたフィクション。戦争状態が日常となった日々の中での正義とは、自分は正しいと思っていた事は誰にとっても正しいとは限らない。やるせない思いだ。

    リリーとの関わりなどは、オディールの体験と別にしてほしかった。

  • 最初の4分の1までは表現が独特で、状況も掴みづらく感じて読みにくかったけれどその後は引きずり込まれました。ナチスに見つからないようにユダヤ人教授の元に本を届けるシーン。戦争のもたらす困窮や憎しみが友人関係を乱す様。一気読みでした。

全56件中 1 - 10件を表示

ジャネット・スケスリン・チャールズの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
アントニオ・G・...
辻村 深月
凪良 ゆう
ヨシタケシンスケ
伊与原 新
伊坂 幸太郎
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×